第十五話 探検隊VS探検隊
俺は思いっきりの驚きの声を上げる。
遠征はそろそろやるんじゃないかってのは、ソーワとかから聞いてたけど......。
新弟子はメンバー候補には入れないって話じゃ......。
――って、ん?何だ?今の声。
〜☆〜
「誰だ!?出て来い!!」
いや、もう犯人誰か解かってたけど......。
って、あいつ、逃げようとしてやがる!?
あ、俺、聴力良いから、それぐらいは解かるんだ。
「もう解かってるから出て来い!!ミル!!」
「え......えへへ......」
満面の笑みで出てくるミル。
お前って奴は......。
「ミル......お前......」
「な、何?」
何か威圧感を放っているので、怒られる事は悟るミル。
恐らく盗み聞きの事を......。
「何こんな時間まで起きてるんだ!?」
(そっちー!?)
ミルはてっきり、盗み聞きの事を怒られるかと思った。
が、現実は違う。
狙ってやった、とも言えるラルドのずっこけ発言に、ミルは転びかけた。
「盗み聞きしたのを怒るんじゃないの!?」
「は!?そんな事はどうでもいい!お前は寝起きが平均九時なんだぞ!?」
「夜の?」
「朝に決まっているだろうが!!」
「は、ははは......」
ミルはこの状況を誤魔化そうと、苦笑いをする。
だが、ラルドには通用しない。
「とりあえず、早く寝ろ」
「だってー、眠たくないんだもん......」
「じゃあ、寝させてあげようか?」
そういうラルドの手には十万ボルトの電撃が......。
「寝ます!お休みなさい!!」
ミルは電光石火の勢いで、急いで自分達の部屋へと戻って行った。
全く......こんな時間まで起きやがって......。
ん?何か落としてる?
「えーと、レイ......チェル?何だこれ」
レイチェル......何でミルがこんな物を......。
確か、ミルの本名はミル・フィーア......。
繋げたら、ミル・フィーア・レイチェル......。
何だ?妙な違和感を......?
「あっ!ラルド!!」
「へっ!?」
後ろからの声に驚き、恐る恐る後ろを見る。
すると、ミルがいた。
「ねぇ、ここに落ちてるはずの紙、知らない?」
「え?紙?」
俺は焦る、尋常じゃないくらいに。
だが、一つの解決策を思いついた。
この紙をコソっと落として......。
「ん?コレじゃないのか?」
俺はわざとらしく紙を拾い上げる。
ばれてないかな......。
と、必死にばれない様に神頼みをする。
が、俺はミルの天然を、甘く見ていた。
「あ!ありがと♪ラルド」
「え?あ、ああ......うん」
ミルの天然は、もう常人の域を超えていた。
......悪い意味でな。
「じゃあ、お休み。ラルド」
「ああ、早く寝て、明日は早く起きて五回ぐらいに依頼するぞ」
「えっ......じゃ、じゃあ」
あの顔......遅くまで起きるつもりだな。
ま、無理だが。
でも......あの顔、なんか焦ってたな......。
気になるな......。
「まぁ、早く寝よ」
ラルドはあまり深く考えずに、明日物知りなフィリアに聞こうと思って、部屋に向かう。
が、それは叶わなかった。
〜☆〜
「う〜ん......ここは......?」
「ん?起きたのか?ミル」
「え?ラルド......?」
「ああ、日の出を見てたんだ。綺麗だぞ?」
「へぇ〜、私も見る!!」
ミルは上機嫌でこちらへ来る。
恐らく早起きをしたのが嬉しかったのだろう。
いや、でも......。
何か、嫌な予感がする......。
何も起こらなかったらいいけど......。
「なぁ、大広間に行こうぜ。俺達が先にいたら、皆ビックリするかもな」
「そう言えばそうかもね!じゃあ行こう♪」
「ああ」
全く......行動が早いな......。
――大広間――
「凄い!誰もいない!!」
「お前にとっては新鮮だろうな......」
「うん!早起きっていいね♪」
「はは......今更?」
やっぱり、ミルにはこんな事は珍しいのだろう。
でも、こんなにはしゃぐか......?
「はぁ......ちょっと疲れた」
「どうしたの?」
「何か......頭を使いすぎた。ちょっと最近、考え事が多くて......」
「じゃあ、今日は休んで良いよ。ラルド、最近頑張りすぎてるんだよ。今日は、副リーダーの私に任せて!」
「有り難うな。でも良いよ」
最近、ミルが頼もしくなったな......。
やっぱり、探検の成果だろうか。
「お?ラルドとミルか?ミルが早起きとは......珍しいな」
「むぅ〜、私だって早起きするんだもん!」
「ペルーか......何だ?」
「もう少しで朝礼だからな。私はいつも、この時間に来るんだ」
「遅いな......」
実は偶々だと言う事を、ペルーは知らなかった。
「きゃー!ラルドとミルですわ!早起きですわね!」
「本当、特にミルはね」
「ソーワ!フウ!失礼だよ?」
ミルは口を尖らして、後ろにいた――チリーンのフウと、キマワリのソーワにそういった。
「そろそろ、あの子達も来る頃ですわ!」
「あの子達?」
「あいつ達か......」
すると、いかにも無愛想なリオルと、上品気なツタージャが来る。
シルガとフィリアだ。
「よう。へっぽこシルガ」
「今日は早いな。雑魚ラルド」
「君達、会って早々喧嘩しないの」
「本当、仲良いね......」
「「良くない!!!」」
見事に息がピッタリだ。
本当、打ち合わせしてるんじゃないかな......。
「おっ、ミルとラルドか。珍しいな」
「おはようございます。ラルドさん。ミルさん」
「ああ、おはよう。ディル、ボイノ」
「ヘイヘイ!今日は早いな!」
「今度はガオンか。結構、この時間帯に皆来るんだな」
しかも、何か昨日ペルーが重要な事を知らせるって言ってたな......。
恐らく、昨日プリルが言ってた遠征の事だろう。
このことに関しては、ミルも知っている。
「今日はビーグやドツキも起こしてきたからな。もう直来るだろう」
「そういえば、サーイ、だっけ?あのダグトリオはどこで寝てるんだ?」
「ん?あいつはサメハダ岩で寝てるぞ?」
(おいっ!?)
何だよ、このギルドは......。
ギルドで寝ろよ、全く......。
「ふぁ〜あ、おはようでゲス......」
「ぐへへ、おはよう......」
「おお!おはよう皆!」
「一気に来たな......」
普通に皆が出てくる場所からドツキとビーグ、地面からサーイが出てくる。
サーイ......普通の場所から出でこいよ......。
「じゃ、皆揃った事だし、朝礼始めるよ♪」
「ああ、早くしてくれ」
「じゃ、まずは.....親方は出掛けてるから、あれだ。重要なお知らせだ」
「何ですの!?一体!!」
ハイテンションすぎる!!テンション高すぎるよ!?ソーワさん!!
「一週間後......遠征をする事となった」
「ほ、本当か!?」
「ヘイヘイ!!本当だな!?」
「きゃー!!久々の遠征ですわーー!!」
テンション高っ!?毎年こうなの!?
――って、毎年は無いか。
「ちなみに、新弟子はいつもは候補に入れないのだが......エンジェルも、候補に入れる事にした」
「きゃー!!本当ですか!?」
「ほう、ライバルが増えたな!面白くなってきたな!!」
あれ?意外に受け止めてくれた......?
何か、文句言われるかと思ったけど......。
「じゃあ、今日も張り切っていくよ!!......と言っても、まだ仕事するには早いから、休んでおいてくれ」
「おっ、ペルーが何時に無く優しいな」
「うるさいぞ!!」
そして俺達は、いつも通りの生活を送るために、体を休める。
が、今日は少し違った。
それが何なのかを、俺達はまだ知らない――。
〜☆〜
「ふぅ、そろそろ行くか」
「あ、僕とシルガは買出しに行ってくるよ。君達じゃ、喧嘩するしね」
「当たり前だろ?」
「いや、だから......」
何だろう、こいつ達が最近、面白くなってきた。
世に言う夫婦漫才って奴?
「じゃ、僕達は行くよ。ほら、シルガ」
「ああ、じゃあな。雑魚ラルド」
「買う物を間違えるなよ?へっぽこシルガ」
「ラルド!シルガ!」
ミルの制止で、俺達はやっと止まる。
やっぱり、こいつは気に食わねぇ......。
「じゃ、ミル。俺達も行こうぜ」
「うん!」
そして、俺達は掲示板に向かう。
だが、今日は一味違う。
――地下一階――
「さて!今日も依頼をこなそう......って、あれ?掲示板の前に誰かいる......?」
俺達は依頼を選ぼうと掲示板へ向かったが、その前に誰かいた。
誰だ......?
「ん?お前達は......?」
「げっ!?あの時の!?」
「ん?お前達は......?」
「あ!もしかして、あの時の......」
ミルはあの時の事を思い出す。
そして......。
「あ!もしや、あの時の毒風船と蝙蝠!!」
「イングとバルンだ!!」
ズバットが出しゃばるとは......。
ドガース涙目になるぞ?
「俺達初心者に負けたお前達が、一体何の用?」
「ふん!聞いて驚け、俺達は探検隊、ドクローズだ!!」
「「......」」
ミルとラルドは少しだけ呆れた。
いや、俺は結構呆れた。
「いや、お前達......。馬鹿じゃねぇの?いきなり探検隊って......」
「いやいや!?本当だぞ!?」
「仮にそうしても、あの時の一般人の俺達に負ける探検隊って......。信じられないな」
「あ、あの時は兄貴がいなかったからだ!!」
兄貴頼りかよ......。
全く、どっちにしろ根性無しじゃ無いか。
「って、ん?何だ?この鼻を突く様な臭い......」
と、俺が本気で呆れていると、何というか、変な臭いが漂ってくる。
これは......?
「どけっ!!」
「なっ......!?」
俺はいきなりの衝撃に、受身も取れずに、吹き飛ばされる。
「ふん!出しゃばるんじゃねぇ!!」
「なっ......!?この......種族は......スカタンク?」
そう、ラルドを吹き飛ばしたのは、紫と白の色のポケモン――スカタンクだった。
「お前も、こいつみたいになりたくなかったら、早く退け!!」
「うぅ......」
ミルは恐怖に駆られ、退くしかなかった。
「ふん、雑魚が」
「さすが兄貴!!」
「そこに痺れる憧れるー!!」
「プクリンのギルドも、こんなカスをシルバーランクにするなんて......墜ちたな」
「特に、このイーブイは、ですね!」
瞬間、ラルドの体に電気が奔る。
「はははっ!!そうだn」
瞬間、スカタンクの体は、吹き飛んでいた。
少しの電気を帯びて。
「な、なんだ!!?」
「ミルの悪口を言うな......」
「あ!?」
「ミルの悪口を言うな!!」
「っ!?」
スカタンクは、ラルドの迫力に少し後ずさる。
「あいつは......臆病だけど、それでもここまで必死に頑張ってきたんだ!!それを......お前達みたいな集団でしか威張り散らせない奴等が、馬鹿にする資格なんて無い!!」
「何を......」
「その通りだ」
「な、何だ!?」
スカタンクは声のした方――後ろを向く。
すると、右手に波動を集中させたリオルがそこにいた。
「今回ばかりは、賛成だな」
「頑張ってね。君が負けると、ミルが可哀想だ」
「解かってる......」
「ククク、なら、表へでろ!!決着をつけてやる!!」
「望む所だ!!」
そして、少しずつ、俺達の日常は変わっていく――。
次回「誇りを賭けろ」