ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜空を包みし翼〜












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第九章 覚悟せし救世主
第七十二話 それが俺の大事な物だから
ミル最強の攻撃と、解放時の俺の最強の攻撃が急所に当たる。それでも倒れないディアルガに俺達は――?





〜☆〜

……終わりだ。
目の前に不気味に立つディアルガを見て、そう思った。
……攻撃が通らない、一番の攻撃だった。急所にも当たっている……なのに、立っている。
攻撃回数が少ないから、なんて理屈にならないぐらい、あいつは硬いんだ。俺達の攻撃じゃあいつには通らない。

「どうすればいいんだよ……こんなの、反則だろ……!」

「……どうすれば、勝てるの? こんなのって無いよ……」

絶望色、それは凄かった。
どんな色でも、どんな奴でも、それは一瞬で絶望色に染め上げる。混ざり合うんじゃない、染めるんだ。
そして俺達も、白から絶望に染め上げられる、もう終わりだ。逃げる事もできない。

「……畜生」

動けなくなるまで戦うんじゃなかったのか? 死ぬまで戦うんじゃなかったのか?

「あいつには、無理だ……なにをしたって、無理だ……!」

「グルルルゥゥ、ガアアアァァァ!!」

ふと前を見ると、青紫の弾が出来上がっていくのが見えた。
さっき、俺達を瀕死に追いやった技だ。守るや雷のバリアでもいとも容易く破った、最強の技。

「ラルド……どうしよう」

「俺にだって、解かるもんか」

次第に弾は大きくなっていき、さっきよりも大きくなる。俺達を合わせたらあれぐらいになるか?

「グオオオォォォオオ!!」

……考えてる暇は無い、この攻撃を防がなければ。
……なんで? なんで防がなきゃいけない?
それは、世界を救うため……。
救う? 無理だね、さっき絶望してたじゃないか。それに、誰一人守れない奴が世界を救うなんて、笑わせてくれるじゃないか。

「五月蝿い……」

現実をみなよ、君に期待してる奴なんて一人もいやしない……いや、居たね。馬鹿げた希望を持つイーブイが。

「やめろ」

それも一瞬で消えるんだよ? この技で。

「やめろっ」

ほら、もう放たれる。時間なんて残されていない、直に消し飛ぶよ。

「やめろッ」

やめろ、って言われても僕にはどうする事もできない。君は精々苦しみながら生きるといいよ。神子――。

「やめろッ!!」

「ら、ラルド……?」

「グオオオオオオ!!」

俺が叫び、ミルが守るを発動し、ディアルガが技を放ったのは――ほぼ同時だった。

「きゃあああぁぁぁ!」

「……あ゛ぁ゛」

ごめん、皆……。



世界、救えそうにも無いよ――。



〜☆〜



……ここは?
真っ白で、なにもない空間……遂に死んだのかな、俺。
風も、光も、立ってると言う感触も、生気すらも感じない。黄泉の国に来たんだろうな。俺。
思えば何もできなかったなぁ、皆が託してくれた思いも無駄にして、ミルも守るといったのに守れず、世界を救えず……。

――あんたに大仕事は、やっぱり似合わないのよ――

レイン……? そうか、俺が死んだならお前も……。

――はぁ? 私は死なないわよ、実体を見つけるまでは――

なら、どうして俺に話しかけれるんだ、俺は死んだんじゃ……ないのか?

――まだ死んでないわ……ま、いずれ死ぬけど♪――

いつにも増して上機嫌な奴だな、死ぬのが怖くないのか?

――ええ、私は生き地獄を味わってきたもの――

生き地獄……?

――……あんたに話があるの――

話? いいぜ、どうせ死ぬ命だ。後の時間は好きに使う。……さぁ、言えよ。

――解かった。今からあんたに話すのは、真実と――

言い終わる直前、急に辺りが眩しくなり――気がつくとそこは灰色のなにかで埋め尽くされた所だった。

そして、目の前には。

「現実への覚悟よ」

半透明で、目を見ても相当怒っていると解かる――ピカチュウ、レインだった。

「真実……現実への覚悟……?」

「そう、まずは真実を話しましょうか」

! 気がつくと俺の体があった、レインの半透明ではなく、本物の。

「そうね、まずは……あなたも疑問に思ったでしょう? 高が自然災害如きで時間に何故干渉できたのかと」

「あ、ああ」

「……まず、私とあなたが何故一体化……もとい、私の精神があなたに入り込んだのか?」

「どうなんだ、教えてくれ!」

「まま、焦らない焦らない。……私はその時、雷に直撃したの」

雷に直撃――人間の体でそんなの喰らえば、待っているのは死しかない。

「いいえ、幸運な事に死にはしなかったわ。でも、私の体は体の緊急事態を察した」

「それで……?」

「……時空とは物凄いエネルギーを常に発生させているわ、時空乱流なんかもあるわね、で、何が言いたいかと言うと……あなたが人からポケモンになったように私も特別な何かによって“肉体と精神が離れ離れ”になった、ってこと」

「肉体と精神が、離れ離れ……?」

ありえるのか? 本来、肉体と精神が一つになって初めて人となる。
精神が無かったら……入れ物だけだと、動く事もままならない。

「今あなたが考えてる通り、私の体はある場所に落ちているわ。体はあなたと同じポケモンになってるけど♪」

「そんな事が……って、待て! じゃあシルガはどうなんだよ!?」

「あー、あいつ? あいつなら中途半端に攻撃受けて、後はあなたと同じ様になったんでしょ。それ以外なら攻撃受けて絶望した以外有りえないけど」

「……ちょっと待て、さっきから攻撃って、まさか俺達は――」

「気付かなかった? あいつは気付いてたようだけど……そうよ、私達は何者かに攻撃されたのよ。夜にあんたの体を借りて話した結果、そうとしか考えられないわ」

なんで、なんでそんな事を……ッ!!

「まぁまぁ、落ち着きなさい。死んじゃいないんだから」

「あ、ああ」

落ち着け、俺。
流れとしては俺達が時空ホールに入ってから、攻撃を受けて、レインの精神が肉体から離れて、俺とレインの体がポケモンになって……ん?

「じゃあ、なんで俺の中にお前が入ってきたんだ?」

「それは決まってるじゃない、あんたが私を庇おうとしたからよ。攻撃の嵐によって手とてを繋ぎ有って、あんたが諦めかけていた所を私がやられそうになり、それを本当に中途半端に助けた! ……後は解かる?」

「丁度近くに居た俺の肉体に、お前の精神が間違って入ってきた?」

「ビンゴ! ま、あんたには悪い事したと思うわ。精神が二つもあるせいで体に負担かけちゃったみたいだし」

「ふ、負担……?」

「んー……例えば、一つの容器に何かが入ってたとします」

何を言い出すんだ何を……。

「そこに別の何かを入れたとしたら、どう? 何かと何かのスペーズが圧迫されるでしょ?」

「混ざり合う可能性もあるだろ」

「だから! 混ざり合わなかったらの話! ……じゃあ、一つのベッドに二人で寝たら、どう?」

「苦しい」

「それよ! それと同じ原理、混ざり合わないからスペースが無くなり、常時苦しみを感じる。私が言いたいのはそれよ」

「そう、か」

肉体が常に疲労している、スタミナの減少が早くなっているって所か。寝てるときでも疲れるって、おい。

「ちなみに発電速度も圧迫してたせいであなたは本来より相当弱体化してたわね」

「……じゃ、じゃあ本気を出せば――」

「それでも、ディアルガには絶対に勝てないけどね」

……え?

「あんたが幾ら本気を出そうと、相手は神。解放は体のリミッターをはずしたり、その者の力を倍増させるけど。それでも勝てないわ」

「じゃあ、どうすれば!」

「だから言ったでしょ、私が語るもう一つの事」

レインはハァ、と溜息をつくと、俺を睨みつけ。

「現実への覚悟よ」

こう言ったんだ。

「現実への覚悟……?」

「そうね、まずあなたが思う事……世界を救う、救わなきゃいけないとか言ってたね」

「そうだ」

「ハッキリ言って無理。あんたが世界を救う? 無理無理」

「なっ……やってみなきゃ」

「やってみた、でも無理だった」

……ぐっ、そ、それは!

「解かる? あなたが幾ら本気を出そうと、幾ら頑張ろうと、世界なんて救えないのよ」

「で、でも――」

「ああもう、ごちゃごちゃ五月蝿い! 男の癖に女々しいわよ!! 女一人も守れない奴が世界を救うなんて出来る訳ないでしょ!?」

……何も、言えなかった。
全部本当のことで、全部経験して、全部、体験済みで……。
守るといった人に守られ、今現在守るといった人も倒れている、ここでは時間がたつのが遅いとか言ってたがどうなっているか解からない。

「あんたは昔からそう! 出来ない癖に出しゃばって、皆に迷惑かけて、大体は私達が尻拭い。解かる? 私達の気持ち。こんなに苦労させてんのに親友と言ってくれたリードに感謝しなさいよ!」

「……っ」

「シルガにしてもそう、ずっと不眠不休だったあいつの目的はあんたを見守る事! 襲われないかなんて言い訳してるけど、皆があんたの事、心配してんのよ!」

「そ、そんな……ッ?」

「フィリアもあんたを信頼して残った、あの子も私達がどうなるかシルガから聞いていてた、それでもずっとあんたに着いていった、絶望する事は無かった! ……ミルは」

「!」

やめろ、やめてくれ、訊きたく……!?

「あの子は! ずっとアンタを心配して、ずっと信頼してた! 人一倍アンタを気遣ってくれてるの!! 人一倍臆病で、人一倍勇気が無いのに、それでもここまでアンタに着いてきた、解かる!? アンタにミルの気持ちが、解かる!? アンタに皆の気持ちが!!」

「ッ!!!」

……薄々だけど、本当に薄々だけど、そんな気はしてた。
でも俺は、そんな期待が重すぎて、壊れそうで……無意識に気付かないふりをしてた。
そして今、遂に――壊れた。

「そのアンタが! なんで勝てないってだけで簡単に絶望するの!? この……」

「……さい」

「最低野郎!!」

「五月蝿いッ!!」

遂に、啖呵を切った。

「お前に俺の何が解かる! 勝てなくて、叶わなくて、それでも死ぬまで向かおうとした!」

「なら……」

「それでも無理なんだ! いくら頑張っても、いくら戦おうと、無理な物は無理なんだよッ!! 現実はどうやっても覆せない、神様に勝つなんて無理だったんだよ!!」

「……あなたの言い分は解かったわ、直訳すると、あなたが“本当の最低野郎”ってことね」

! コイツ……ッ!!

「いいわ、あんたには心底呆れた。でも、ここまで言ったお礼に見せてあげる」

「何を……!」

言うが早いか、辺りが真っ暗になる。
そして、目の前に大きな映像が広がる。そこに映っていたのは……。

「ミ、ル……?」

他でもない、傷だらけになったミルだった。

「これを見て、あんたが一番大事だと思う事を言いなさい……さぁ」

『ラルド、大丈夫……?』

ミルが倒れて動けない俺に喋りかける、そんな事をしても俺はここにいるから無駄だ。

「っ!」

それでも動揺してしまう、ミル達の思いを裏切ったのだから当然か。……どうせ目が覚めるまで俺は動けない、静かに眺めとくか。

『ラルド……動かないや、守るの外に居たからかな』

あの時、守るで多少衝撃が弱くなっていただろうが、俺は後ろで、しかも外にいた。直撃したのに死んでないことに喜ぶべきか。

『息はしてるよね……でぃ、ディアルガは?』

どうやらディアルガは反動で動けないらしい、だが直に動くだろう。
その間、どうしたものかとミルは悩む。動けないのにまだ希望を捨てていない。

『えっと……オレンの実を食べてっと……モグ』

どうやらまずは回復らしい、動けないほどの傷だったから、正しいだろう。

『他には……そういえば!』

何か思いついたらしい、バッグの中身を探っている。

『あった、ワープの種――』

『グオオォォォ!!』

『ひゃっ!?』

ワープの種を取り出したと同時にディアルガの行動が再開する、タイミングはバッチリだったと言える。

『は、早くしなきゃ……ほら、食べてラルド』

ミルはワープの種を俺に食べさせ――!?

「なんでだ!? なんで自分で食べない!? なんで逃げないんだ!!」

「それがあの子とあなたの違いよ、あの子は敵であろうと、その底なしの優しさを向ける。あんたとは違ってね」

「……ッ!」

なんでだ? 自分が助かると思う最善の手段を潰すなんて、ありえない。
ミルは俺がワープするのを確認すると、自身も立ち上がる。

『ギャオオォォォン!!』

「ひっ、で、“電光石火”!」

放たれる幾つもの竜の波動を電光石火で避ける、そうじゃないとあたってしまうからだ。
……もう無理だ、これ以上誰かが傷つくのは見たくない、傷つくのは俺だけでいいんだ。

「逃げろミル! 戦わなくていい、やられるのは俺だけでいいんだ!」

『きゃっ……こ、こんなの、ラルドが受けた苦しみに比べたら……』

……なんだって? ……俺が受けた、苦しみ……?

「馬鹿だな、俺なんかと比べるなよ、俺は異常なんだ。他のポケモンとは違う能力や力を持つんだ」

『解放をしてても、これよりはもっとつらかったはずだよね……それに比べれば、どうって事……!』

「やめろ、俺と比べるな。傷つくな」

『避けるだけじゃ意味が――キャアッ!?』

『グギュアァ!!』

ミルがこけた一瞬。
その一瞬を狙って、ディアルガから高速で放たれた“竜の波動”が――ミルに直撃する。

「あ……やめ……逃げろ……」

『痛い……けど、こんなの、ラルドに比べれば……!』

俺と比べる、ミルは本心でそう思ってるはずだ。
だけど……俺は否定した、絶対に嫌なんだ。

「もう嫌だ、見たくない。誰かが傷つく姿なんて!!」

「……それが、あなたが思う事?」

「ああ! 俺が原因で相手が死んでしまったらどうしようかって、心の奥で思ってた!!」

「……残念、それは私も知ってる。私はあなたが一番、私も知ろうとしても知りえない深層心理で思ってる大事な事を訊いてるの、だからそれは違うわね」

「これが大事な訳あるか……!」

レインに若干、憎しみを抱くが、直に映像に映る。

『ラルドが起きたら……ディアルガなんて、やっつけちゃうんだから……それまで持ちこたえなきゃ!』

「違う、俺は弱いんだ、強いって思い込んでただけなんだ……」

ミルの純粋さに、心が痛む。俺が強がっているだけとミルは気付いているのか? ……気付いているわけ無いか。

『い、いくよ……“シャドーロアー”!!』

『ギャオゥン!?』

「やめろ! やめるんだ……やめてくれ」

俺は所詮、ディアルガにも勝てると夢見た、ただの一般ポケモンに過ぎないんだ。なんで俺がここに来た、なんで俺が……!!

「モウ嫌ダ、俺ハ誰モ守レナインダヨ……!!」

(ッ! 予想外に暴走が早い、やっぱりあの時点で目覚めかけて……!)

『……』

俺は、何かに包まれるような気がした。
黒い何かに包まれて、正気を保っていられなくなる、闇のディアルガと同じ様になる……そんな感じ。

「ハハッ、ドウセ俺ハ……俺ハ……」

『違うよ』

! 今、確かにミルの声が……。

『ラルドは確かに闇のディアルガと比べれば弱いよ? でも……私達の中じゃ一番強い、一番信頼できる』

なんで、ミルが俺に話しかけれるんだ……?

『私が一番信頼できるのはラルド。絆が一番深いのもラルド。……私はそう思ってる』

「あ、ああ。俺もだ……! 俺も信頼できるし、絆も深いと思ってる。でも、ディアルガには……!」

『それでいいよ』

「え……!?」

『ラルドと私が一生懸命頑張っても、それでも阻止できなかったら誰も責めはしない。したとしても私が言い返してあげるよ。「ならあなた達はどうなんですか?」ってね』

あ……あ……ッ!!

『でも今のラルドはダメ、希望を見失っちゃダメ。じゃないとここに来た意味が無くなっちゃう、それに皆が託してくれた思いが報われなくなっちゃう。私はそんなの嫌』

「俺は……俺は」

『世界で一番、信頼してるよ、ラルド』

パリンッ、と、何かが崩れ去ると同時に、何かが新しく構築されていったような気がする。
ああ、俺はなんて馬鹿なんだ、いや、馬鹿だったんだ。
皆が信じてくれている、素晴らしいじゃないか、信頼してくれて嬉しい事じゃないか。

「……漫画かよ」

ほんの少し、ほんの少しだが笑みが出来た。
本当に漫画のような展開だなぁ、ありがち過ぎるよ。でも、有り難うな、皆……そして、ミル。

「レイン、俺の大事な物は最初から側にあったよ」

「へぇ、で?」

「俺は最初から無理だったんだ、世界を救うなんて大偉業……しかも、誰一人守れない」

「それで?」

「でも、今度は……絶対に守ってみせる――ミルを!!」

今度こそ、守らなきゃいけない。
だから。

「……♪」

「無理だよ、確かに今の俺だったら無理だ。でも、そんな俺でもミルは信じてくれてる。なら……その期待に応えなきゃいけない! 今度こそミルを絶対に守る!! だって、それが――」

こう、答えてやるんだ。

「それが俺の大事な物だから」

「合格、期待以上だわ。じゃ、行ってらっしゃい。あなたの大事な物の為に」

「ああ、有り難うな、レイン」

「礼はミルに言いなさい。それと体力は回復させといたから――行ってらっしゃい」

俺は頷くだけで、応えなかった。
だけど、レインのあの温かそうな顔だけは――忘れない。

「さぁ、行くぜディアルガ」

辺り一面が光に包まれ、そして――

「決着をつけてやる!!」

――俺の中から、現実へと戻ってくるのだった。



次回「全解放」

ものずき ( 2012/12/23(日) 11:48 )