第七十話 絶望振り撒く闇の神
遂に時限の塔へ到着し世界を救う後一歩の所だった時、闇に囚われ暴走した時の神ディアルガが姿を見せて――?
〜☆〜
「闇の……ディアルガ」
「な、なんで、もう直で……時の歯車を納めれたのに」
……状況は、最悪の一言しか浮かばない。
ここにいつものメンバーが揃っていれば多少は軽減される不安、絶望感も倍増しているようだった。
威圧感、凶暴さ、強さ……全てが他の敵より圧倒的に強く、凄かった。
ミルも意気込んではいた物の、ディアルガを見た瞬間に、余裕が一瞬にして消えたらしい。ガクガクと震えていた。
未来世界では何とか逃げ切れた、だが今は違う、守ってもらう立場じゃなくて守らなきゃいけない立ち番なんだ。逃げるなんて出来ない。
俺達が……必ず!
「……ミル、怖いか?」
「う、うん……怖い、怖いよ……」
「だよな、でも訊いてくれ。俺達は戦わなきゃいけない、世界の命運を託してくれた皆に顔向けできるように。その為にミル、お前は必要だ……どうする?」
怯えるミルに、俺は問いかける。実物は見ていて少し耐性があったとしてもこれは怖いだろう、俺も必死に感情を殺しているがそれでも少し震えている。
「……解かった、出来る限りやってみるよ」
「よし……今のディアルガは闇に染まっている、だが未来世界ほどじゃない。後は解かるな?」
「正気に戻る可能性はあるって事?」
「当たりだ、少なくとも一%はあると思う。そこで、だ」
「グルルル……」と唸るディアルガの方へ向き、言った。
「本来は時の歯車をはめる、ディアルガが現れたら気を逸らしている間に後ろへ行く。だったが、作戦変更だ! こいつ相手に出し抜こうなんて多分無理だ、だから……俺達で、二人でディアルガを倒す!!」
「えぇ!? で、でも相手は神様だよ? 勝てるの?」
「神様だろうが仏様だろうが、俺達と同じポケモンだ。世界を創ったならまだしも時間を操る、しかも絶賛狂いかけだ。時間をうまく操って攻撃なんて早々してこない」
「な、なるほど……でも、攻撃は通るかな?」
「地道に努力すればいつかは、そうでなくとも解放がある!」
「出来るの?」
……あ゛。
「……出来る、かな?」
「疑問をもたれても……私は知らないよ」
自由にコントロール……確か、感情が爆発したときとかに出来たよな、感情と一緒に爆発して解放! みたいな?
「兎にも角にも、まずは……“超帯電≪ボルテックス≫”」
最大限まで充電した電力を、帯電する事で静電気と一緒に内側に秘める。
電力は使うだけ使い、無意識に発散される電気全てを内側にとどめる事で電気量が大幅にアップするという技だ。
デメリットは使いすぎると体に危険で、実際に帯電だけでも体が爆発するとかなんとかあったような気がする、これは人間がまだ居た頃の記録らしい。
「いくぞ……“電撃連波”!」
「グ……オオオォォォ!!」
五つの電撃波は寸分狂わずディアルガに向かう――が、ディアルガが咆哮する事によって掻き消される。
「う、五月蝿いよッ!?」
「こんなにも大きい声なんて、防ぎようないじゃねぇか……ッ!」
必死に耳を押さえる俺達、それには当然動きが止まるわけで……そこを狙われた。
「グオオオォォォ!!」
「「!?」」
口に輝く銀色の光が集まり、それが俺の身長ぐらいの大きさまで膨れ上がると……一気に発射した。
これは“ラスターカノン”という技で、鋼タイプでも強力で、当たると特防が下がるという技だ。ラルドは電気タイプなので効果はいまひとつだが、ミルは普通に効くので直撃は不味い。
「ッ! させるかァッ!!」
こちらへ高速で放たれたラスターカノンに向かって、俺は“雷”を撃つ。
鋼球と雷撃はぶつかりあい、雷撃が打ち勝つ。
「そのままいけェ!!」
依然としてその威力を失わない雷は、闇のディアルガへ直撃し――何も無かったかの様に打ち消された。
「なっ!?」
「そ、そんな!? ラルドの雷が効かない!!?」
威力は少し落ちていたかもしれないがそれでも高威力だったはず、それが完全に打ち消された?
当たったたのはいいが、ダメージが通らなければ意味が無い。どれだけ攻撃しても、少し通っていたとしてもエネルギーが持たない。
そんなの……認めるか。
「……ラルド、最大級の攻撃を撃ってみて」
「でもアイツには効かないぞ!?」
「焦りは禁物だよ……まだ、可能性はあるんだから」
「……解かったよ」
賭けだ、これに失敗すれば後は無くなる。
失敗=攻撃が通らない、こんな事にはさせない!
「“暴雷”!!」
「“シャドーロアー”!!」
二つの雷撃弾と、一筋の黒き光線が一直線に闇のディアルガに向かう。
幾ら雷を通さないとは言えど、これだけの攻撃を喰らえば、絶対に倒れる!
――だが、現実は非情だった。
「グオオオォォオ!!」
二つの技を、最大級の攻撃を、闇のディアルガは、ユーレが使っていた衝撃波で“跳ね返した”。
「しまっ――」
やられる! と、思ったときだった。
ミルが目の前に出て、守るで自身らの攻撃を防いだ。当然、後ずさったりダメージも少しは通ったものの防ぎきる。
「み、ミル……」
「困ったときはお互い様だよ、ラルド」
「有り難う……畜生」
ああ、俺は……守られてばかりだ。
なんで、なんで俺はこんなに弱い? なんでこんなに無能なんだ? ミルの方が役に立っている。
弱い、無能、役立たず、全てが当てはまる。
こんな役立たずは……必要ないだろ、おい。
「解放……なんで出来ないんだよ」
力が無いから? 覚悟が出来てないから? 解放にばかり頼るなってか?
……なぁ、レイン、聞こえてんだろ。教えてくれよ、なぁ!!
――力が欲しいか?
ああ、欲しいよ。
――汝が弱いからか?
そうだ、俺が弱いからだ。
――いや、違う。
なにがだよ、大して実力も無いのに粋がってるだけだよ、俺は!
――ならば問おう、汝は本当に弱いと思っているのか?
なにが言いたいんだよ?
――足掻け、喚け、這い蹲れ、汝の思うとおりにしろ。それが条件だ、現実を見ろ、我と同じ力を持つ者よ。
同じ力……? 口調はレインじゃない、なら……お前は一体誰だ!?
――何も教えない、それが決まりだ……もう我は干渉しない、力は既に開花している。後は……汝次第だ。
教えてくれよ! お前は一体――
「……力が、漲ってくる」
「ラルド、どうしたの?」
「ミル、ちょっと離れてくれ」
「え、う、うん。解かった」
力が漲ってくる、解放か?
……いや、違うな。いつも身に纏うオーラがない、という事は?
俺自身の……力!
「ハハハハハ!!」
「グオオオォォォォ!!」
笑いながら向かってくる俺に、赤黒いエネルギーを纏った爪を、闇のディアルガは横なぎに振るう。
だが、俺はそれを跳んで避け……顔に思い切り、拳を叩きつける。
「“ボルストレート”!」
「ギャオウッ!?」
初めての痛み、しかも顔に入ったのだ、痛みはより深まる。
傍から見ても怒っているのが解かるぐらい怒りを滲ませていた、でも俺は気にしない。
ただ、ただ壊れるまで殴り続ける、地に落ちたら脚を殴り続ける。
「うおぉぉッ!!」
「ガアアァァァ!!」
そんな俺に遂に切れたのか、オレンジ色の巨大な光線を足元に撃つ、それが破壊光線だとは解からなかったが、危険な物だとは認識できた。
それでも殴り続ける、狂ったように、鬼の様に。
「ラルド、危ない!!」
「そんな物でッ、“暴雷”!!」
破壊光線と言う、強力で凶悪な技、だが威力的には暴雷の方が強い。案の定こちらのほうが強く、打ち破る。
「ギャオッ!?」
またもや顔にくる衝撃、今まで無かった自分に攻撃してくる者。
その者に対して……星を壊せるほどの怒りを表す。
「グルルル……グオッ!」
天高く顔を挙げ、咆哮する。あまりの声にミルは勿論ラルドも耳を塞ぐ。
その間にディアルガから衝撃波が発生し、さらに口元に青紫のエネルギーが集まる。
「……なんだ、これは?」
「周りの時間が、巻き戻ってる……?」
さっき破壊光線により壊れた場所が少しずつ戻っていき、なにより景色が巻き戻したかのようになっていた。
「時間を歪ませる程の攻撃って事か?」
「多分そうだよ、早く逃げないと!!」
「どうやって、どこにも逃げ道はないぞ?」
「そ、それは……」
こうしている間にも段々と時間を巻き戻すほどの力を持つ技が完成していく、このままでは危ない。
「“守る”しか道はなさそうだな、ミル、守るを使ってくれ」
「でもあの攻撃じゃ……すぐに破られるよ?」
「守るだけじゃ不安だからな、外側も内側も電気のバリアで一応上乗せしておく」
「う、うん。解かったよ、ラルドが言うなら……」
「防ぎきれるかは解からない、でも今の俺なら……絶対に防いでやる」
「……ラルド」
ミルは心配そう、いや確実に心配してこちらを見ている。今の俺は力を手に入れたことで少し狂っていただろう、でも気付いていなかった。
「グオオオォォォォ!!」
少しの間できた沈黙を破るように、ディアルガは自身が持つ最強の技――“時の咆哮”を放った!
「今だ!」
「“守る”!」
雷のバリア、守る、雷のバリア、と重ねていく。あまり厚さはないが並大抵の攻撃だと普通に防げる。
だがこの技は違う、恐らくトレジャータウンを消滅させれるだろう、それぐらいはある。
「ぐっ!?」
「きゃぁッ!!」
――第一層、雷のバリアが破られる。
――第二層、守るのバリアが破られる。
「な……んだと?」
「そんな、これでも防げないなんて……!」
――最後の三層目、突破。
「う――」
「あ――」
悲鳴も上げられずに吹き飛ばされる、その威力は俺達を再起不能にさせるのは造作も無かった。
ボロボロになった哀れなピカチュウとイーブイを見ると、ディアルガは天に向かって勝利の雄叫びを上げた、それは二人にとって絶望の雄叫びでしかなかった――。
次回「積み重なる絶望」