第六十八話 決着、そして別れ
ぶつかり合う両者最強の攻撃、黒い波動“悪の波動”と雷の突進“ボルテッカー”果たして立っているのは――?
〜☆〜
「ぐ……っ」
「ア……ぁ」
両者共に――立っていた。
だが、体力はギリギリで今も手を付いて立っている、恐らく技でもない普通の突きで気絶するレベルだ。
「……は、反動が、き、きついから……使いたくなかったんだけどな、はぁ」
「ぐ……き……私が負けるなど、あ、有り得な……」
と、幾ら強がろうとユーレに勝算はない。
ラルドの他にもフィリアがまだいるのだ、この体力では十中八九倒されるだろう。
ミルやリードも起きるかもしれない、そうなったら……0%に等しい。
「これで……皆は先に行けるよな……それにしても痛いなぁ」
「ぐっ……ち、治癒を……!」
「ヨノワールは自己回復出来ないだろ? ……一緒にここで倒れとこうぜ」
「出来ない……? ふっ、は、はははは!」
「なにが可笑しいんだよ……この野郎が」
異常、そう表すのが最も適切だろう。
狂ったように笑うユーレ、その姿は最早恐怖でしかないが――疑問が生じた。
何故、ユーレはこんなに笑い続けれるんだ?
俺と同じまでに体力を消耗、もしくは近い所まで減っていた、としてもだ。
俺は喋るのも精一杯、ましてや動くなんて無理だ。なのにこいつは笑えているんだ。
「なにが、どうなって……」
「ああ……最後の力を振り絞って、体を直したよ。残念だったな、英雄気取りの探検隊よ」
「な……に!?」
驚くのも無理はない、あれだけの力を使った癖にまだ体を治すだけの力を持っている。
「ははっ……更に!」
「「「「ウィイイイィイ!!」」」」
ヤミラミが復活していた。
信じたくはない、だが現実だ、黒い爪をこちらに向けている。
「ふふふ……形勢逆転だ!」
「くそっ……フィリア、フィリアはどこにいるんだ……」
あいつはまだ倒れていない、体力も消耗していないはず。
……どこかにいるのは解かってるんだが……体が動かない、これもボルテッカーの反動だろうな。
「詰んでるじゃないか……どうしろっていうんだよ」
「さぁ、ヤミラミ達よ! 一斉に罪人に向かって“シャドークロー”だ!!」
「「「「ウィィィィイイ!!」」」」
終わった……ここまで、なのか……?
「ち、畜生ッ!!」
最後らしく、力を振り絞って声を張り上げてみた。俺らしい最後だったかもな……。
「そこで諦めるのか? 根性なしのヘタレが」
「え――?」
刹那、ヤミラミが全員吹き飛んだ。
蒼い波動、緑の斬撃、緑のビーム、そして……紫の咆哮。
「ここまで耐えれたのだから、役には立ったな」
「そうだね。よく頑張ったよ、戦えなくなっても時間を稼いでくれてありがとう、ラルド」
「素直に褒めてやれ……良くやったな、ラルド」
「皆の言うとおり、私達を守ってくれて、ありがとね! ラルド!」
見慣れた青い体に、そのムカつく口調は――シルガ。
緑の体、そしてまるでこの事態を予測していたかのような笑みを浮かべる――フィリア。
同じく緑の体、そしてこの中では最も強いであろう俺の親友――リード。
そして、記憶を失った俺を探検隊に誘い、ここまで成長してみせた、元臆病であり弱虫の――ミル。
「ああ……有り難うな、助けてくれて」
本当に、ありがとう。
「礼なら終わってから言ってよ、はいオボンの実」
「ああ……体力回復ッ!!」
「食べた瞬間効き目が現れる木の実はないよ、ラルド」
「ふっ……こうして揃ったわけだな」
「ユーレ、どうやら勝利の女神はこちらに微笑んでくれたらしいな?」
たった五人、でもこの世界で俺が最も信頼できる五人組。
その五人が揃った今、俺は……。
「絶対に負けねぇぞ……ユーレ!!」
負けない!
「……よかろう、そこまでいうのなら……私の本気を見せてやる!!」
ユーレはヤミラミ達を押しのけ、前へ出る。
「後悔しても、もう遅い……はぁァッ!!」
そう叫ぶと共にユーレのお腹が開き、黒い塊が出来る。
「あれは……シャドーボール?」
「いや、もっと強力で凶悪だ。直撃したならば昇天するぞ」
「遠回りに言わないでよ! ……でも、どんどん大きくなってくよ?」
ミルの言うとおり、巨大な黒い塊はどんどん大きくなってきている、ユーレの身長ぐらいあるんじゃないか?
「フィリア、なにかいい案はないのか?」
「あるにあるけど……危険だよ」
「危険なのは元より承知、というかここで死ぬよりマシだ」
「なら……伝えるよ、あの塊を押し返すんだ」
……は?
その作戦の意図が解からない俺とミルは頭に?マークが浮かんでいただろう……え? 浮かんでいなかっただって? ……放っておいてくれ。
「誰でも外側から攻められれば痛いけど耐えれる、でも内側は?」
「……そっか、内側ならどんな弱い攻撃でも痛いし、自分の弱点でしかも強かったら……耐えられない!」
「そう、しかも今の会話は塊が肥大化する音で聞こえていない……チャンスは一回だ」
コクッ、と頷くと全員黒い塊の方へと体を向かせる。
「どうした、死ぬ覚悟が付いたのか!? ……なら死ねぇッ!!!」
今まで戦ってきたどんな敵より、絶対に強いであろう技が――こちらに向かってくる。
だがただで黙ってやられるわけにはいかない、それ相応の足掻きは見せる!
「これが俺達の……足掻きだぁぁあああ!!」
「「「「いっけぇぇぇぇ!!!」」」」
ドンッ! という音とともに、黒い塊は跳ね返されユーレの方へと向かっていく!
「な、なに!? そ、そんな馬鹿な――ぐぁぁぁああ!!」
大きな爆発音がなると同時に、それは俺達の勝利のゴングとなった――。
〜☆〜
……ドサッ、という音がなると同時に、ユーレが地に伏せる。
俺のボルテッカーを受けたときよりは体力の消耗とかは大丈夫だろう……だが、体力云々より先に痛いという感情の方が強いだろう、現に激痛で動けない様子だし。
「お、終わった……のか?」
「そ、そうみたい……」
ユーレは動く事もできないし、ヤミラミたちも……。
「ひっ、ユーレ様がやられるなんて……そんな!」
「俺達でやっちまおうか?」
「い、いや無理だろ。全員で向かっても倒されるだけ……」
「なにをコソコソと話して居るんだ? お前たちのリーダーはやられた、勝ち目はないぞ?」
取り乱している所にリードが喋りかける、というよりほとんど脅しのような形だ。
当然その言葉はヤミラミ達にとっては効果抜群で……一目散に時空ホールのほうへ向き。
「「「「に、逃げろ〜!!!!」」」」
未来へ逃げていった。
「……ぐ」
「起きたのか、ユーレ……手下どもは逃げていったぞ。随分リーダー思いだったな」
「く……な、なに……」
「……ミル、遺跡の欠片を頂上へ行ってはめてきてくれないかい? 僕達で対処しておくよ」
「わ、解かったよ、フィリア」
後ろでフィリアがミルに遺跡の欠片をはめるように指示していた、だがあまり気にはならない。
「お、お前たちは……お前たちはこれでいいのか?」
「世界を救うんだ、それなら別に……」
「そんな英雄じみた事ではない、自分達が……自分達が」
ミルが、階段を上って下の会話が聞こえなくなったその時だった。
「“自分達が消えて”しまってもいいのか?」
「は……? 自分達が消える……? なに言ってんだ、なぁシルガ」
「……」
「お、おい。シルガ、なんとか言えよ! そ、そうだリード! これは嘘だよな?」
「残念だが、現実だ。過去を変えれば未来も変わる、俺達の未来は――無かった事になる」
……え?
おい、おい、嘘だと言ってくれよ、なんだよそれ。まだやりたい事はあるんだ、ギルドの皆にはどうするんだよ。
なんで……今更言うんだよ!
「すまない……言おうとは思ったんだがな……元々、俺達はこの事に関しての覚悟はあった。だが今のお前は違う、記憶を失っていないシルガやレインと比べお前は記憶を失っている、更にミルや弟子達との別れ、様々な壊れる要素があるからな……本当にすまない」
「……ああ」
受け入れられない、受け入れたくない。
でも、受け入れなければ世界を救えない。
「受け入れなければ世界は救えない……そう思っているのだろう?」
! ……シルガか、毎度毎度の事だがこいつはあくまで波動を感じるだけであって感情を読み取る事はできないはず……いや、こいつは微妙な心情の変化を捉えれるのに長けているのだろう。益々バケモノじゃないか。
「そうだ……けど、なんか文句あるのか?」
「いいや? 別にない……レイン、リード、お前、そして俺……決して多くはないメンバーだったが、ここまで来れたのは俺達が歴史上初めてだ――といってもそんな活動が始まった時は俺が丁度十歳の時なんだがな」
こいつは一体何歳でそんな活動に参加したのだろう、気になってしょうがない。
「まぁ、それは置いておく。今は早くミルが来ないか見るだけだ、少しの遅れも取らせはしない」
「やる気だな……賛成だけど」
そう、ユーレでこんなに手間取ってしまったのだ。残る時の歯車を時限の塔へはめる作業が遅れている。
早くしなければ時が崩壊してしまう、そうなれば一番初めに被害を受けるのはここだろう。
ある意味タイムリミット=時限の塔崩壊なんだな……危ない。
「早く来てくれよ、ミル」
愚痴を零し、完璧に油断していたその時だった。
「歴史改変など……させてたまるかぁッ!!」
――完璧なる“不意打ち”が見事、俺に決まった。
「痛っ――う゛」
か、体が……体が動かない!?
なんでだ? こんな事、今まで……まさか解放の副作用とかの類か!!?
「歴史は……変えさせんッ!!」
「う、うわあああぁぁぁぁあ!!」
幾ら体力が回復しているからとはいえこの状態でシャドーパンチは不味い。
最悪、死も免れ――。
「「待てッ!」」
「え?」
俺の前へ、俺を庇うようにして立っていたのはリード、そして信じられない人物。
シルガだった。
「ぐっ!」
「ッ!?」
シルガの方は堪えるでなんとか耐え切り、すぐさま後方へ跳んでいったがリードは違う。吹きとび、俺の目の前まで来たのだ。
「が……はぁ」
「お前が代わりに受けたか、リード。丁度良い、お前から始末してやる!!」
ユーレが大きく手を振りかぶる!
「う……おおおおぉぉぉ!!!」
「なにを無駄な事をぉ!?」
誰もが相手を倒した後には気が抜ける、それと同じ様な現象がユーレは勝つ前に起きたのだ。その隙を狙ってリードはユーレへ跳びかかる。
「り、リード貴様ァ、どうするつもりだ!」
「決まっているだろう……今すぐお前を未来へ帰らせる! ……俺とともにな」
「リード!? お前自分が何言ってるのか解かってるのか!?」
「ああ、ラルド……俺はこいつと共に未来へ帰る」
何言ってるんだ、折角ここまで来たのに! あいつがこの中では一番苦労して、やっと時の歯車を手に入れてここまでやってきたのに……あいつの苦労が水の泡じゃねぇか!
「待てよ! それなら俺が代わりに……」
「ラルド、お前がいなくなってどうする! お前はリーダーなんだ、皆を率いり、統率する。お前はそれが出来る!」
「でも……でも!」
「皆、お待たせ……て、えぇ!? なにこの状況!!?」
「ミル、それがリードがユーレと一緒に未来へ帰るって言ってるんだ!」
「ほ、本当に?」
それを訊いてミルはマメパトが豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、直に元に戻る、一瞬で元に戻るとはどれだけ情報処理が早いのか。
「そんな、行かないでよ! ここまでやっと来れたんだよ? それなのに……それなのに」
ミルも止めようと必死だ、当然だ。これが普通の反応だろう。
「ミルか……これを」
リードの体から碧い歯車が飛び出す。
それは正しく、今まで集めてきた――時の歯車だ。
「や、やめろ! 離せぇ!!」
「後もう少しだ、我慢しろ! ……じゃあなラルド、今まで楽しかったぞ。別れは辛いが……後は頼んだぞ!!」
「リード、やめ――」
「さぁユーレ。一緒に未来へ帰ろうじゃないか?」
「は、離せェェエエエエ!!!」
そして、そのまま……時空ホールへ入っていった。
「リードォオオ!!」
時空ホールはリード達が入っていったが最後――ヒュン、と閉じてしまった。
「……なんで、リードが……」
「辛かったよね、最後、別れは辛いって言ってたもんね……うぅ」
……いや、それだけはない。
確かにそう聞こえるかもしれない、でも違う。あれは、何れ来る俺とミルの別れの事だ。
ミルの事だ、絶対に悲しんで、泣いて、何日も泣き続けると思う。そうなって欲しいと思うか? 俺は思わない。
「……最後まで優しい奴だったな……リード」
呟く俺の横に、シルガが降り立つ。
「そうだな、あいつは恐らく今、自分が一番役に立たないと思ったのだろう……お前とミルのコンビネーションは目を見張る物がある、フィリアの思考能力も凄いと言えるだろう。俺は……あいつが知っているはず、ないか」
「お前は随分、分析して喋ってるんだな。なんでだよ?」
「……感情があるというのは良いものだ、泣く事も笑う事もでき、希望を感じ取れる」
なにが言いたいんだ? 感情なんて生きてれば持つだろ……。
「決して俺の様にはなるな、希望が絶望に変わる直前まで足掻け……最も、最初から絶望かもしれんがな」
「なにが……」
シルガはこう呟くと同時に、意識を失った。
「リタイアだ」
この一言で、今、世界を救える見込みがまた一つ無くなっていったのは、言うまでもなかった――。
次回「時と闇」