第六十七話 リベレーション
零距離シャドーロアー、雷を纏う高速の拳、不意打ちの斬撃を喰らおうと立ち上がるユーレ、そんな中シルガは――?
〜☆〜
「“リベレーション……モルフォス”!!」
ドォオン、という爆発音と共に小爆発が起きる。
と、いっても爆発と言ってもいいぐらいの勢いだったのだが。
「ふ……フハハハハッ、倒したぞ! これで歴史改変も無理になった!!」
ユーレは狂ったように顔や手を空へむけ、笑い続ける。
「フハハハハッ!!」
「笑うな、五月蝿い」
――が、突如現れた先程自分が倒したはずのリオルによって中断せざる終えなくなる。
「は……な、なんだと!? 何故貴様が……倒したはずじゃ!」
「解放≪リベレーション≫の発生時のエネルギーは使用者によっては神をも超える……それを活用したまで、溜めておく事は得意でな」
「貴様……“シャドーパンチ”!」
「僕がいる事忘れてないかい?」
そんなリオル、シルガに向けて放った“シャドーパンチ”は緑色の斬撃――リーフブレードにより真っ二つに切断された。
「フィリアか、今まで物陰に隠れていたが……怖気づいたか?」
「まさか。行動を見ていたんだよ……今までの行動は全て暗記した、でもそれ以外の行動なら対処できない……いいかい?」
「ああ、今のあいつは状態が状態だ。狂っている」
シルガの言葉も、強ち間違っては居ない。
四方八方無差別に襲い掛かるシャドーボール……をユーレはしている。
当然のことながら全て避けたり相殺したりしているも、少し厄介だ。
「そうだ。シルガ、君に遠距離技はないかい?」
「……あるといえばあるが、どう撃つ?」
「どう撃つ……? 詳しく説明してもらえるかい?」
質問の投げ合い、だが一度聞けば分かるのがこの二人だ。ある意味天才はシルガにも当てはまるかもしれない。
「……ふむ、成程。なら……で」
「承知した……十秒だぞ」
「解かってるよ!」
フィリアは高速でユーレへと向かう。
まずシャドーボールが飛来、それを避けると次はシャドーパンチ。この距離なら必中じゃなくても当たるだろう、相殺する。
「すぅ……“拘束の種”!」
「!」
フィリアを中心にばら撒かれた種が、ユーレの回りの土に入り込む。
すると蔓が地中から顔を出し、情け無用にユーレを捕縛する。その力はさしものユーレでも解けない。
「今だよ!」
「ああ……“モルフォス”!!」
後ろでは慣れない技……いや武器を持ったシルガがこちらに照準を向けて溜めている。
その武器とは弦を引き、矢の速度、威力を最大まで上げて放つ武器――弓だ。
しかもただの弓ではない、蒼い波動で形成され、その実体は揺ら揺らと揺れている。
そして弦を引き絞っても矢はない。代わりに本来矢を放つ所に丸い波動の塊があるだけだ。
「“波動弓モルフォス直線型”」
そして、シルガが手を離した瞬間――蒼い光線が弓から発射される。
「ぐぉ……ごぁあああ!!」
その蒼い光はユーレを包み込み、床に打つかって爆発を起こす。更には砂埃を巻き起こした。
「これはもう終わっただろうね」
「油断するな、姿を見るまでは……な」
弓を消してない辺り、本当に警戒しているようだ。
鋭く冷たい視線はずっと砂埃を捉えている。
「貴様ァッ!!」
やはり倒れてくれなかったようで、しかも完全に狂いきっている。とてもまともに喋れる状態じゃない。
「凄く面倒だね……ん?」
「どうした?」
「いや、少し引っ掛かる事があったような……ね」
「まぁいい、予定通りにいくぞ。お前の作戦を信じるほかないからな」
「はいはい、解かったよ」
ミル、ラルド、リード……三匹の犠牲(気絶しただけ)を払いつつも、今、最終決戦が始まろうとしていた。
「行くよ……“蔓のムチ”!」
「!?」
まずフィリアの作戦とは幾多の方法がある。
まずは――体力を一定まで減らす事だ、その為に両腕を“蔓のムチ”で縛る。
「ッ!!」
「や、やはり力は強いか……シルガ、早くしてくれないかい!」
「ああ、準備完了だ……ハァッ!!」
シルガは準備が出来ると……二つの蔓の上に乗った。
「早く!」
「吹き飛べ!」
「ガァア!?」
対象――ユーレの前に着くと、両手を顔の方へ素早く前へ突き出し……。
「“波動纏装解放弾≪バーストショット≫”!!」
「――ッ!!!!」
蒼い光がユーレを包み込む、それだけで威力が高いのだが両手が縛られているため吹き飛べず、衝撃を全て受け止める。
「おまけ程度に、それッ!」
「ぐ!」
そして蔓のムチを上空へと上げる、そんな動きをすれば両手が縛られているためユーレも上空へ上げられ……思い切り叩きつけられる。
「がはっ」
「シルガ!!」
「止めだ……“波動掌”」
更に上空には真空波で空に昇り、波動で掌を纏ったシルガがいた。
そして下へと下降していき……倒れているユーレに思い切り全力全開の波動掌を叩き込む!
「負……けるかァッ!!」
だがユーレも負けじと衝撃波を繰り出す、恐らく威力は今までより高い。
当然、空中で衝撃波に直撃するなんて思ってもなかっただろう、いとも簡単に吹き飛ぶ。
「なっ……ぐふっ!?」
地面に激突し、肺の空気を全て吐き出す。
それと同時に赤い液体が吐き出される――そう、血だ。
「はぁ、はぁ……コレデ終ワリダ」
(こ、ここで終わるのか……俺は……悪いなレイン、食い止める事が出来なくて……)
今、振り下ろされるようとしている大きな拳を見て、最後を悟る。
そして、黒いエネルギーを纏った拳――“シャドーパンチ”が振り下ろされる!
「へっ、諦めるなんて、お前らしくないぜ?」
「……ふっ、遅いぞ」
ドンッ、という音が鳴り響く。
その音はシルガを叩き潰した音ではなく、紛れもないユーレの拳を受け止めた音だった。
「――ラルド」
〜☆〜
あ、危なかった……まさかシルガがあそこまで追い詰められるなんて。
解放は体に負担かけるからな……俺はちょっと楽な方だったと思うけど。
「よくも……お前、許さねぇぞ」
「……私ヲ倒セルトデモ?」
「未来世界でミカルゲと戦ったときみたいな感じかな……その喋り方」
因みに今は解放状態だ……この事も後できっちりシルガに問い詰めなきゃな。
でも……。
「今は……お前を倒す! ユーレ!」
「掛カッテ来イ、我ヲ倒セルト思ウナラナ」
「お望みどおり……行ってやらぁッ!!」
まず高速移動ですぐ近くまで移動する、接近戦に持ち込めば勝てる見込みがあるからな!
「“ボルストレート”!!」
「“シャドーパンチ”」
雷のストレートと影の拳が衝突する――が、雷の拳は押し負けた。
「のわぁ!?」
やはりディアルガの加護とユーレ自身の全力が掛け合わさり、相当な威力になっている。
解放状態なのに押し負けたので十分強いことは解った、直撃すれば命はないだろう。
「なら……“超帯電≪ボルテックス≫”!!」
体から一切の電気の漏れを許さず、且つ体内で通常の充電の約二倍の速度で溜め続ける……一歩間違えれば危険な技、超帯電≪ボルテックス≫。
これを使うと体が碧白く光り、身体能力も上がる……解放時に使えばより強力になる。
「はぁ……行くぞッ!!」
「来イ」
狂ったポケモンは皆、こういう喋り方なのか……?
そんな未来にさせないために、俺は……目の前のこいつを倒す!
「うおおぉぉぉお!!」
拳から血が出るまで握りしめ、岩をも砕く一撃を連続で高速に撃つ。
が、相手も黙ってやられるはずがない。
「無駄ダ!」
俺の攻撃中に僅かに開いた隙を狙って――炎のパンチで吹き飛ばす。
「う゛っ……」
完全に油断している所に入った一撃は重かった、血を吐き出しそうにもなる。だが……吐き出さない。
「らぁあああぁぁ!!」
「ウォオオオ!!」
高速の連続雷パンチとそれと同じスピードにシャドーパンチが相殺しあう。
雷パンチで殴るもシャドーパンチは必中、結構な距離を離れてなければ絶対に当たる。
「――ぐぅッ!」
「! ここだぁー!!」
一瞬、ほんの一瞬の隙をラルドは逃さなかった。
口の中から生臭い鉄の味がするものが噴出しそうになる、だが我慢する。
そして――。
「らぁあッ!!」
「が……はっ」
溝に思い切り、全力全開の“雷パンチ”を叩き込んだ。
「はぁ、はぁ……疲れた……」
終わった、そう思って口に溜めていた血を吐き出す。
苦しい、痛い、辛い……だが、戦いはまだ終わっていない。
「アァアアア!!」
「え……?」
突如、発狂したように叫ぶユーレ。いきなりの事に加え体が疲労しているので着いていけない、思考もまともに動かない。
「……正真正銘、最後の一撃って事か……いいぜ、受けてやる!」
「ら、ラルド!?」
「フィリアか、言っておくけど止めんなよ。これは一対一での勝負だ……俺がやられたら後はよろしくな」
そう言い残すと素早く後ろへ跳躍し……体に電気を纏う。
「ぐ……“暴雷”」
「危険だ! そんな事は早急にやめるんだ、ラルド!!」
「手出しはするな……俺がやられてもいいけど、お前たちは先へ進めよ……ぐっ」
表面上では強がっているも、暴雷はまともに食らえば使用者である俺でも焼き鼠になる。
つまる所電熱が凄いのだ、今も毛が焦げてきている。
「ハァ、ハァ……これが最後の一撃だ、ユーレェエ!!」
「“悪ノ波動”」
この遺跡を吹き飛ばせるんじゃないかってぐらいの大きさの“悪の波動”を放つ。
でも……俺も負けられない!
「“ボルテッカー”!!」
電気タイプの技では雷をも超える最強の電気技……“ボルテッカー”で迎え撃つ。
「行っけぇえええ!!」
「死ネェ!!」
雷の突撃と、黒い波動が今――直撃した。
次回「決着、そして別れ」