第六十六話 古代遺跡――VSユーレ 後編
順調に幻の大地を進み、遂に奥にある古代遺跡へと足を踏み込んだ俺達だったが、突如“ユーレ・ディアレイ”が現れて――?
〜☆〜
「ちょっ、押すなよ!」
「押さないで! 転んじゃうよ!」
「……まさか、ここまで来るなんてね」
「予想外だった……」
「幻の大地へ着いた時から油断してしまっていた……!」
今の状況はこうだ。
八匹のヤミラミが周囲で逃げないように囲みながら歩き、ユーレが先頭にいる。
しかも階段を下りているので落ちる危険性もあるし、なによりヤミラミが押してくるので辛い!
「って、危険な状況なのになに考えてんだよ。俺は……」
“暴雷”でこの状況を打破できない訳でも無い。
ただ、一撃で倒れてくれる相手じゃないのは確かで、もしかするとやられてしまうかもしれない。
そんな事態は避けたいので、まだ大人しく従っている。
「……! 時空ホール……」
階段を降りた先には広いスペースの場所があった。
その奥に……“時空ホール”があった。
「さぁ、処刑場まで来てもらうぞ」
「「「「ウイィィィィ!!!!」」」」
ユーレの命令で、ヤミラミ達が俺達を取り押さえるように近づいてくる。
だが、素直に俺達捕まるなんて当然有り得ない。
「ふん……お前達!」
「言われなくても……おりゃあッ!!」
迫り来るヤミラミ達を攻撃で弾き返し、すぐさま戦闘体勢になる。
「ほう、刃向かうとはいい度胸だな……だが、私を倒せるとでも思っているのか?」
「流石にこの人数でなら、倒せると思うんだけど?」
「ふ……ハハハハッ!! 笑わせてくれる! ならば戦ってみるか? この……」
瞬間、ユーレを中心に衝撃が発生し、風圧で少し後ずさる。
「ディアルガ様のお力を借りた、この私に!」
……フィリアの言葉に納得していたが、前言撤回だ。
この戦い、相当な覚悟で挑まなきゃ……死ぬ!
「速攻で終わらせてやるよ、“放電”!!」
まずは周囲のヤミラミを倒していく、ユーレだけでも厄介だろう。
ディアルガの力がどれほどの物なのかは知らないが、時の神と呼ばれるあたり、並みのポケモンじゃ軽く殺される程の力は持っているだろ。
それに、“放電”を使ったのもなるべく消費電気を減らすため……“暴雷”を使うと十万ボルトを撃てるかどうかぐらいの電気しか残らないからな。
「この程度……ふんっ!!」
……どうやら威力不足だったらしい。
ユーレから放たれた黒い波動のようなものが、俺の放電を完全に打ち消した。
あれでも絶対に手加減してるんだろうな……さて、どうしようか。
「なにか策はないのか……?」
「ラルド、焦りは判断を鈍らせるよ」
いきなり後ろから聞こえてきた声に、聞き覚えはあるし仲間だと解っていながらもこんな状況なので警戒心を緩める事はない。
「フィリアか、脅かすなよ」
「僕自身も焦っているよ。放電をいくら手加減しているとはいえ向こうも手加減で打ち消すなんて」
「……これもディアルガの力か」
一体、どれほど恐ろしく、強い相手なのだろうか。
「まぁ、今はユーレを倒す事だけを最優先しよう……“ソーラービーム”!!」
どうやら話している間にソーラービームのチャージをしていたらしく、話し終えると同時に緑色の光線を放つ。
高威力なのでヤミラミを一人倒す事に成功した……が、大して変わりはしない。
「どうした、その程度なのか!?」
「うるせぇよッ!!」
むかつく言葉を放ったユーレに、容赦なく“電撃連波”を放つ、のだがこれも衝撃波で掻き消される。
「……これでもダメなのかい」
「しょうがない、ミル! “シャドーロアー”を撃ってくれ!」
「え!? で、でもさっきみたいになっちゃったら……力の無駄使いだよ!!」
「良いから早く!」
俺が考えついた可能性にかけてみよう。
唯一心配なのは……俺の実力!
「いくよ……“シャドーロアー”!!」
ミルは口から幾多のシャドーボールを練り合わせ、光線状で放つオリジナル技――“シャドーロアー”を撃った。
やはりグラードン戦より威力も上がっている、ミル自身の経験が上がっているからだろうか。
……っと、こんな事してる暇はなかったな。
「正直、冷や汗かいてんだけど……一か八か!!」
「何を小ざかしい事を、邪魔だ!」
ユーレはまた衝撃波を周囲に発生させ、打ち消すつもりなのだろう。
だが、そんな事は百も承知だ!!
「うおおぉぉぉ!!!」
「なにッ!?」
俺はすぐさまシャドーロアーの前に飛び出すと……両手を出す。
「目には目を……歯に歯を……衝撃には衝撃を、だ!!」
両手に電磁波が発生し、電気、電撃……と強力なものになっていく。
「“衝撃電流最大火力≪インパルスフルファイア≫”ァッ!!!」
強力な衝撃同士が打ち消しあい、更にラルドは反動でシャドーロアーの上へ行くように調整したため無傷だ。
「上乗せだ!」
上乗せで電磁波を纏わせ、シャドーロアーはそのまま遮られずにユーレに向かっていく。
「くっ――」
結果――直撃した。
「や、やったよ!」
「当たった……」
「へっ、こ、これが今の俺の実力だぜ」
見栄を張るものの疲労は多大で、腕の骨が折れるとまでは行かなくても痺れは多少あった。それが当たり前だ。
「ぐ……ら、ラルド。貴様……!!」
シャドーロアーの直撃を受けていたはずだが、そんなにダメージを与えれた様子には見えない、恐らくディアルガの力だろう……厄介だな。
しかも電磁波を一応纏わせておいたが麻痺していないという事は微弱すぎたか……それともユーレが異常なのか。
「今なら思考が信じられないほどに動くな……」
もしかすると、衝撃で頭が可笑しくなったのか?
「貴様ら……万死に値するぞ!!」
「「「「ウイイイィィィ!!!」」」」
ユーレが怒りの声を挙げると、七匹のヤミラミは動きが活発化する。
なにか秘密があるのかは知らない……が、より厄介になったのは火を見るより明らか。
「ちっ、ヤミラミ達を先に片付けないと不味いぞ」
「なら……“真空翠斬”!」
真空切りとリーフブレードの複合技を体の回りに現し、全方向に向けて飛ばす。
「ウイイィィ!?」
一匹目。
「うぃ、ウィイイイ!!」
二匹目。
「「ウィイイィィ!!」」
四匹、と着実に数を減らしていく。
「俺も……充電」
せめて痺れて動けない今この時間に、充電をしておく。
体が痺れて動かないのは確かだが十万ボルトなどの特殊技は放てる、物理は無理なのだが。
「――“シャドーセリエス”!!」
「“ソーラーブレード”!」
シャドーボールの連弾シャドーセリエス”と、ソーラービームとリーフブレードの複合技である“ソーラーブレード”で全てのヤミラミを一瞬で倒す。
手順はシャドーボールの雨とも呼べる攻撃で怯んだ後、横なぎにソーラーブレードで斬る。たったそれだけの事だ。
「はぁ、はぁ」
「大丈夫かい? ミル」
「だ、大丈夫だよ……ちょっと疲れただけ」
無論、この事態をラルドは見ていない、だがミルはエネルギーの減りなどが蓄積し、疲弊しているのは目に見えて明らか。
「ピーピーマックスを飲むかい?」
「ま、まだ後一回シャドーロアーを撃てるだけの力はあるから……大丈夫」
もし、この事を見ていたらあんな事になるなんてなかったかも知れなかったというのに。
〜☆〜
疲れた、この戦いが始まって最初に思いついたのはその言葉。
実際、戦いが始まって十分も経っていないか、丁度経った所だと思う。けどそんな短い時間でこんなに疲労するという事はかなりの激戦を想像できる。
「「紫翠跳弾!」」
「“シャドーパンチ”」
グラードン戦で思いつき、使用したシャドーボールとエナジーボールを何発も撃ち、そこら中の壁にぶつかり、反射させて最後に目標へ到達すればこの技は初めて成功する……のだが、速度が少し遅くなってくる、コツを掴まなければ実質不可能なデメリットが多い技なのだ。
「なら……“電光石火”!」
「“影うち”!」
ユーレは自らの影で攻撃する“影うち”で攻撃するも、電光石火で避けられ失敗する。
「“噛み付く”」
「ぉお!?」
まさか噛み付いてくるとは思わないだろう、怯んだような声を上げる……いや、実際に怯んだのだ。
噛み付くの追加効果は“怯み”その効果が発揮されたのだ。
「ハフォーホハァー!!」
そして、そのまま零距離からの……言い方は緊張感を壊して思わず噴出しそうになったミル最大の“シャドーロアー”を撃つ。
「や、やめ――」
零距離、効果抜群、二つも有利な条件が揃っているのダメージは期待できる。
だが……不利な条件もまた揃っていた。
「かっ……こ、この小娘……!」
「な、なんで……倒れてないの!?」
策自体は良かったはず……ならなんで!?
「“悪の波動”」
「ッ、キャァァアアア!!」
「み、ミル!!!」
ヨノワールの特徴の防御力と、タイプ不一致による少しの威力不足。
もし、ミルがゴーストタイプで、タイプが一致していたら間違いなく決定打になっていたはずだったが――ミルにそんな事が解るはずもなく、呆気なく吹き飛ばされて気を失ったのは言うまでもない。
〜☆〜
……ミルがやられた。
これで残りは後四人……なんて考えれる余裕があるだけまだマシだな。
また、守りたいものが守れなかった……気を失ってるだけとはいえ、リーダーをして失態だ。
「ユーレ……この野郎!」
「ふん、中々良くやったと褒めてやろう。そのイーブイ、私に傷を与えれたのだからな! ……最も、ディアルガ様の力を使えば傷も直に治るので、無駄に気絶しただけに過ぎん」
……じゃあ、ミルの頑張りは無駄になるって事かよ。ディアルガの力で。
そんなの……許せるはずねぇ!!
「ユーレェッ!!」
「貴様、五月蝿い……なに?」
「切っ掛けになったか……」
シルガが小さくつぶやくが誰にも聞こえない。寧ろ大声で叫ばれようと今のラルドは反応しないだろう。
「あれは……“解放”じゃないか」
グラードン戦で最初に覚醒し、リード戦では不完全ながらも目覚め、そしてここで……また目覚める。
「お前だけは……絶対ぇに倒す!! 覚悟しろ、ユーレ!!」
解放、ラルド最強の能力にして、最大の謎の力。
黄色いオーラを纏っていて、俺はそれらを右手に収束し……。
「行くぞ!」
思いっきり殴りつけた。
「“シャドーパンチ”」
高速で繰り出される影の拳で相殺を図るも、やはり今までの事から手加減していたらしい。
対するラルドの方は思いっきり、更にオーラが纏っていて解放で力が引き出されるためにシャドーパンチをいとも簡単に――撃ちかえした。
「ぬお!?」
「うぉおおおお!!!」
困惑するユーレを気にもせず、俺はただ殴る、殴り続ける。
雷を纏ったパンチなので威力やスピードは今までよりも速く、防御はされるもダメージは与えているはず。
「もっと……もっと速く!」
スピードを上げ、視認すら難しいほどの速さで殴りつける。
耐久力はわかっている……だから、耐久など意味をなさない程に殴りつける。
「私から……退けぇ!!」
「ぐ……ぁァ!!」
いくらオリジナルの十分の一の力しか持たぬコピーのグラードンでも、大地を割る一撃を止めて見せたはずの力を……受けきった。
「……ハァ、ハァ。な、なんでこんなに疲れるんだよ、俺」
「ラルド、お前は一度休憩しろ」
「し、シルガ、手前どこ行ってやがった」
「後ろでお前達の戦いを見ていた。アイツの動きを観察していたが……良くやったな」
「なら、なんでミルを見殺しにした?」
「耳長ウサギは良くやった。勇気がないなんて事はないな。
ただ……致命的なダメージを与えられなかった事で困惑し、その隙に倒されたのだろうな」
へ、平然と……こいつ……っ!?
「なんで平然と喋れるんだよ、仲間がやられたんだぞ?」
「あいつは役目を終えたまでだ、実際お前よりは役に立った……それに、条件もわかった」
「なんのだよ!?」
「現実逃避君には……一生解らないだろうな」
この冷たくて、なにかの感情を押し殺したような声に俺は疑問を持った。
が、直に俺に起きた異変によって思考が中断する。
「……う゛ッ!!」
バシャ、という音とともに赤くドロドロとした鉄臭い液体……つまり血が俺の口から吐き出される。
「ちっ、強制だ。休め」
口の中に何かを入れられたのを確認すると俺は――眠りについていた。
〜☆〜
やっと心配事が一つなくなった……と同時に一つ新たにできてしまった。
戦力が減った、今いるのはミルとラルド、リーダー副リーダーを除く全員だ。
全く、リーダーを名乗るならもう少しちゃんとした実力をつけておけ。
「……リード」
「ああ、解っている」
俺はリードを呼びかけ、合図をする。
奴の行動パターンから分析した作戦の開始だ。
「貴様らで最後か」
「こっちもお前で最後だよ」
後ろでは隠れた場所でフィリアが見ている、そういう知らんがな。
まず作戦手順その一――撹乱。
「“神速”」
「“シャドーパンチ”!」
まずは神速で撹乱する。
シャドーパンチは必中だが、神速はそれを上回る。呼んで字の如く神の速さだ、いくら必中といえど追尾≪ホーミング≫性能まであるわけではない。
「スイッチまで解った事だ、今回の戦いは最悪であり最良だな」
「なにをほざいている!」
……やはりいつものユーレではないな、残虐非道、冷静を保ち、分析し、相手の行動を呼んで戦う奴だ。
ディアルガの力の影響か、こいつの理性は崩壊しかけている。運が悪ければダンジョンのモンスターを同じになる。
「もう少し冷静になれ……“見破る”」
「無意味な事を!」
俺のこの隙を突くつもりらしい、悪の波動だ。
だがそんなのは予想済み、本来の波動というものを見せてやろう。
「“波動纏装……解放≪バースト≫”」
波動を身に纏い、一気に全ての波動を放つ……この世界でもトップクラスの一撃だ。
案の定波動同士は打ち消しあい、二人の間にはなにもなくなる。
「“リーフブレード”」
「がはぁッ!!」
隙にリードの“リーフブレード”で後ろから斬る。
そちらの方には警戒なんてしていなかったため、完全なる不意打ちだ。
「が……か……」
「自分と同レベルのポケモンの攻撃はどうだ? ユーレ」
「はぁ、がふっ」
「お前を撹乱し、リードが後ろから切りつけるという初歩的な作戦だったんだが、今の場かなお前にはお似合いだぞ」
「Sかお前は」
「どうでもいい事だ……フッ、こいつも“シャドーロアー”の零距離直撃、回復する隙も与えないラルドの怒涛の高速連続攻撃、そして高威力の不意打ち“リーフブレード”……耐久が高くとも耐えれうるはずがない」
俺はユーレを見下し、乗せた足を思い切り振り……蹴った。
「二度と立てないような体にしてやろうか?」
「お前はやはりそっち系か……」
横でリードが油断しまくっているが気にした事ではない。
世界改変の為に、その為に邪魔な危険因子は……潰しておかなければ。
「“波動掌”」
波動を纏ったはっけい、“波動掌”がユーレに当たる、一秒にも満たない時間の中――衝撃波が発生する。
近くに居たシルガは勿論、リードまでもが吹き飛ばされて大ダメージを負う。
二人はそのまま吹き飛び、遺跡の壁に激突する。
「かはっ!」
その際には肺の中にある空気が全て飛び出し、体全体が動かなくなる。
と、それはリードの場合だ。俺は違う、実は俺は最後まで油断はしていなかった。だから波動纏装を薄く纏っていたおかげで助かった。
「こいつ……!」
「私は……私は最強の賢者だ! 賢く、強く、最凶であり続ける!!」
あれだけ喰らってもまだ立ち上がる力が残っているのか、そう思うほどユーレの体は傷だらけで、息切れが……ない、だと!?
一体どうやって? 回復なんていつの間に……まさか、衝撃波で俺達が吹き飛ばされている時から今にかけての間か!?
「死ね……消えろ!」
「ちぃっ」
俺は舌打ちするのだが、それだけでどうにかなるとは思っていない。
……しょうがない、試してみるか。
この状況――黒い大きな塊が俺とリードに向けて溜められている――をまずなんとかしないと、勝つ事がなど出来ない、ではどうするか? ……相殺する。
「解放……いや、“解放≪リベレーション≫”!!」
俺が解放が出来るようになる条件、それは恐らくあの時の言葉に反する事態だろう。
『俺の一生の中で、何時如何なる時も、俺が絶望と感じる物を――拒否しよう』
唯一ある絶望、恐らくこのまま行くと必ず生まれる絶望、それは……星の停止。
「……フッ、準備は整った」
「消えろ!」
残りは俺とフィリアのみ、そのフィリアも出てこない……実質一人だという事だ。
だがさっきまでの俺と違う、今の俺なら……絶対に!
「“モルフォス”!!」
シルガの叫び声も、爆音に掻き消され誰かに耳にも届くことなく、後の残ったのは黒い煙だけだった――。
次回「リベレーション」