第六十五話 古代遺跡――VSユーレ 前編
遂に幻の大地へと俺達エンジェルに加えリード、様々な思いを胸に足を踏み出し――?
〜☆〜
ここは幻の大地、幻の大地は強力なポケモンが住まうダンジョンだが今はダンジョンの前なので安心して準備などができる。
「ライラ、あそこに浮いているのが……“時限の塔”なのか?」
「はい、そうです」
どこに“時限の塔”が……?
あ、あそこか。なんか時限の塔周辺の大地が浮いてるみたいなんだけど……元々浮いているものなのか?
「どうやってあそこに?」
「奥までいくと“虹の石舟”と言う物がありますので、それに乗って行くのです」
「虹の石舟……? なにそれ、どういう風なものなの?」
「行ってみれば分かります……ですが悠長に喋っていて宜しいのですか? 時間は刻一刻と減っていきますよ?」
「あ……そっか、皆、準備が出来次第に行こ!」
言われなくてもやってるよ……終わった。
「俺は終わったぜ」
「僕も出来たよ」
「……元から出来ている」
「右に同じく、俺も元からだ」
「じゃあ早く行こうよ、時間がなくなったらここまで来た苦労が全部水の泡になっちゃう」
「ミルがそんな言葉を知ってたなんて……僕は嬉しいよ」
「どういう意味!?」
ちゃんとしろよ、三人の心の中はそれだけしかなかった。
結局時間が勿体無いと言っていた時から一分の遅れをとり、俺たちはダンジョンへと足を踏み入れた。
〜☆〜
ダンジョンの内部は古から荒らされた形式がなく、恐らく何年も前から形をそのままにしてきたのだろう、見たことの無い植物で一杯だ。
更にはオボンの実や特大リンゴまで落ちていたので、フィリアは特大リンゴ片手に歩いている。
「珍しい木の実ばっかだな……オボンの実とかも普通に落ちてるし」
「その分、敵ポケモンは強いよ? ガブリアスやブーバーンに……トリデプスもいたよね」
「ブニャットやユキノオーもいたよ、ラムパルドもね」
「その他はカイリューにライボルト、トロピウス……元々の能力が高いだけに苦戦は必至だな」
そう、敵の種類の元々の強さが違う。
今までは確かに強いが倒せるか倒せないかと言ったら普通に倒せた、だが幻の大地ではレベルも高く能力も高く、既にオレンの実を五つも使ってしまった。
更に言うと入ってからの時間経過は多分五、六分程度……一分に一つという計算だ。
「でも、敵ポケモンとあんまり遭遇しないよね……」
「そうだね、でもその分どこから来るか気をつけておけば直に対応できるよ?」
「皆みたいな瞬発力はないよ、私には」
「視力だけが取り柄だからな」
「シルガは黙ってて」
この二人は要注意だな、喧嘩回数が多くなってきてる。
……フィリアが考えている事だな、絶対に。
「まだ中間地点に着かないの?」
「まだ五分しか経ってないよ、いくら早くても十分はかかるだろうね」
「つ、疲れたよ……」
「……休憩している時間は無いぞ」
見るとそこには、カイリューとガブリアスが一匹ずつ……ドラゴンタイプは能力が高いポケモンが多いんだが、この二匹はドラゴンの中でもトップクラス……ってのを聞いたことがある。
更にガブリアスには地面タイプも入っており、俺の電気技は効かない。逆にカイリューは飛行が入っているせいなのか本来ほとんど通らないはずの電気技も少しは通るようになる……と、さっきシルガから訊いたんだけど、難しすぎて良く分からない。
「とりあえず、“電撃連波”!」
「“波動連弾”」
合計十つのエネルギー弾がカイリュー達を襲う!
……だが、やはり体力が高い。耐えられた。
「これでも倒れないのかよ!?」
「電撃波と波動弾……威力は高くともまだ俺達の経験不足だ、実力の差がここに来て相当埋まっている」
「……ならば経験者の技を見せてやろう……“リーフブレード”!!」
リードは笑みを浮かべると、横薙ぎに一瞬でリーフブレードを放つ。
その威力は相当な物らしく、いくら体力が減っているとはいえ二匹が同時に倒れる。
「す、水晶の洞窟じゃ本気をだしてなかったのか?」
「当たり前だ、最後は殺さない程度に手加減した……が、今のは違うぞ。本気で殺しのかかっている目だ」
「こ、殺しに……かかるって」
「怖いよぉ……フィリア」
「大丈夫だよ、こっちから仕掛けない限りあちらから仕掛けるなんて事ありえないから」
まず仲間なんだから……あいつも利害が一致するから〜、みたいな事は言わないだろう。シルガじゃあるまいし。
「お前、この俺に失礼な事を思っただろう」
「思いましたが、なにか問題でもありますか?」
「喧嘩しないでよ、こんな所で……」
「寧ろこんな時に喧嘩できる君達って一体そうなっているんだい?」
癪に障る……って、使い方あってるのか?
最近、シルガが言っているのを真似しただけ……もとい借りさせてもらっただけだからな。
「もう疲れたよ、早く休みたい〜!」
「駄々を捏ねるな、嫌と言うほど今の現実を理解しなければ本気にはなれないぞ? ……最も、目的達成の手伝いをさせてください、と頼み込んで雇用が“自身の意識が入っていないのなら”即帰ってもらうがな」
「う……わ、私は自分の意思でここにいるんだもん。帰るなんて有り得ないよ」
「なら歩け、中間地点にはもう直で付くだろう……その前に目の前の敵を倒さなければいけないが」
見ると、ライボルトやラムパルドにトロピウスが集まっている、後ろにはカイリューもいるので、苦戦は当たり前……なのだが。
「リード、ライボルトのみを倒せ。ラルド、その内に充電しろ」
「解った」
「はいはい、解りましたよ。……充電」
リードがライボルトに向かうと同時にラルドの周りに漂う静電気が強くなり、バチバチという音さえ聞こえてくる。
その間に既にライボルトはリードにより倒され、のびている。
「後は指示がなくても解かるだろう?」
「解かってるよ……“暴雷”」
雷を球状に纏め、電磁波で包み……それを二つ作り出すと左右からぶつけ合う。
するとぶつかり合った雷撃は相反し、小規模な雷の爆発を作り出す。こうする事で一気に倒す事ができた……のだがこの技、電気の消費量が激しいため縛りの玉等をなるべく温存しておきたい今の状態などでしか使う事がない。
「成功するか解からなかったんだけど……したみたいだな。それにしてもシルガ、お前この技を知ってたのか?」
「知るわけないだろう、放電をすると思ったんだが……威力不足か」
「そうだな、俺もここで初めて使ったわけだし」
暴雷、雷を電磁波で包むという行為自体が難しすぎる域なのだが、これを独自で生み出したNとSの電磁波で解決する。
Nの電磁波で包むのはSの雷、Sの電磁波で包むのはNの雷……訊いてみると簡単そうに聞こえるが実際は高難度で、そもそも磁石に見立てた電磁波自体出せるポケモンはそういない。
技の組み立てなどに関しては異常という言葉があうだろう、このポケモンには。
(威力は凄まじい、だが決め技、又は対処できないほどの量の敵に囲まれた時だけだな、この技の賢い使いどころは)
シルガは冷静に分析する、その目は相変わらず目的だけに動くためだけの目。
この目標を達成するためならば、命さえ安いいとでも思っている目だ。
「さ、行くぞ」
「……あ、ああ」
それは、ラルドのみぞ知る。
〜☆〜
中間地点、それは多くの探検家が休憩の場として活用するだろう。
更にこの中間地点と呼ばれる場所には敵ポケモンが来ない、正に憩いの場だ。
そして、誰も入った事がないもはや御伽噺とまでされていたダンジョン、“幻の大地”にある中間地点にいる。
「自然が一杯だね……綺麗」
「見とれているのはいいが、気を抜くな。緊張を解すのはいいが気まで抜けたら即座に対応でないからな、気をつけろ」
「ありがとね、リード。でも私なら大丈夫、気を付けても攻撃されちゃうんだもん」
「なっ……?」
「リード、諦めろ、こいつは防御の後に攻撃か奇襲作戦が似合っている。まぁ防御の後って言っても守るでしっかり防御だけどな」
「痛いんだもん!」
本来、イーブイという種族はずば抜けて凄い能力などがないため、防御も低いのだ。
知っている中では確かラルドは……防御や特防、攻撃が低い変わりに特攻や素早さの能力が高いと訊いた事がある。
が、所詮能力の話なので防御力が高いイーブイも一応居るにはいる。
攻撃主体のピカチュウだっているし、シルガなんかは攻撃と防御を組み合わせているから強い。
私? 私は……とりあえず守るでつくった隙に攻撃する、って感じかな。フィリアは得意の柔軟性でありえないような回避方法をとることだってあるしね。
「そろそろ行くか」
「まだ完全には回復しきってないけど……いいか」
「私、まだ足が痛いよ……未来世界じゃこの倍は歩いたはずなのに」
「ミル、幻の大地の足場は少し凹凸になってるんだ、しかもそれに加えて敵の強さ、守るが壊れないように踏ん張るときの力も相当な物になってくるはずだよ」
なんでそんな詳しい事まで解かっちゃうのかなぁ、フィリアは。
やっぱり世間一般で言う天才なのかな、フィリアって。
「……考えても無駄かな、今そんな事を考えても無意味だよね」
そして、そんなミルの呟きなど誰にも聞こえることはなく。
「ミル、もう行くらしいぜ。十分に休めたか?」
「うん。もう大丈夫だよ!」
今、自分に出来る事、皆に心配をかけさせない事をミルは無意識のうちでやっている。それが自分にできる精一杯の事だと思っているから。
「でも、まだ休憩したいかも……」
無意識と言う事なので、本人は自覚していないだろうが。
〜☆〜
遂に幻の大地も終盤に差し掛かり、出口への道と思われるポケモンがいない場所へと俺たちはたどり着いた。
そこには様々な壁画があり、珍しいポケモンが描かれていた。
「うわぁ、珍しいね」
「……そんなのを見ている暇があるのならさっさと歩け」
「でも君も見てみなよ、ミュウやグラードン、カイオーガ……伝説のポケモンが中心に書かれてるよ」
「……あ! これ……もしかして」
「どうした?」
ミルが何かを見つけたようで、俺はそれを見る。
するとそこには……俺達の目標の最難関の壁、ディアルガと対になるようにピンクと白のポケモンが描かれていた。
「……未来で見たのは、どっちかって言うと紫と赤だったけど……こっちは青と水色なんだな」
「暴走した影響なのかな、体色まで変えちゃうなんて、怖いね」
「それほど凶悪になったと考えていいだろうね……と、出口が見えてきたよ」
前を見ると確かに光が漏れている、それが出口なのは明らかだ。
当然の様にミルが「やっと抜けられる!」と言って走る、フィリアが「待ってよミル!」と言って同じ様に追いかける、シルガとリードはそのまま歩く。
当然、俺は……。
「歩いた方が楽だよな」
楽な方を選んでいた。
「おーい! なにしてるのさ、早く行こうよ!!」
「ミル、静かにしないと……」
「誰もいないし、邪魔なんてはいらないだろ……全く」
その時、何かの物音が聞こえてきたのは気のせいだろう。
「こ、ここが……幻の大地の最奥部?」
「ど、どう見ても遺跡だね……ミルが遺跡の欠片って名づけたのは、偶然じゃないかもね……」
「階段も長いな、ギルドと同じぐらいだぜ」
「……善は急げ、だ。早く行くぞ」
急かすようにシルガは言う。
その時のシルガの顔が嬉しそうな顔に見えたのは、きっと見間違いじゃなく、本当の感情なんだろうなと思った。
そしてフィリアやミルも階段を上り、頂上へやっと着く。昇りだけで二分はかかっただろう、それほど長い。
「へぇ……ここはこうなっているのかい、興味深いね」
遺跡の頂上は四角形のような形になっており、それぞれ端に六つの穴が開いた六角形のなにかが四つあり、真ん中から上の方には石版、真下に遺跡の欠片に描かれた紋章が書かれており中央に抉り取られたような窪みがあった。
「……あそこにある石版、なにか書いてるぞ?」
「見せてみろ」
リードは石版に書かれている文字を読む。
「……これは“アンノーン文字”だな」
「あ、“アンノーン”?」
アンノーン文字……なんか引っ掛かるな、この文字……。
って、その前にこれ、どう読むのか意味不明なんだが、リードは読めるのか?
「リード、アンノーン文字は僕もあまり読めないのだけれど……君は読めるのかい?」
「ああ、未来世界で調べてきたからな。これくらいはどうという事はない……ふむ」
一通り読み終わると、何か解かったのか急に立ち上がる。
「解かったぞ、ミル。遺跡の欠片をその中央にある窪みにはめてくれ。そうすれば虹の石舟が起動すると書いてある」
「えぇ!? じゃ、じゃあ……これ自体が虹の石舟って事?」
「ああ、そうなる」
「そうなんだ……解かった、ここにはめるんだよね? ……やってみる」
ミルはバッグから遺跡の欠片を取りだし、中央の窪みにはめようとした――
――瞬間!
「――きゃあッ!!」
いきなり黒い球状の物がミルのすぐ近くの場所にぶつかり、小規模な爆発が起きてミルはその衝撃で吹き飛ぶ。
「ぐっ……なにがおきた!?」
「今の技は“シャドーボール”……まさか!?」
「フハハハハ、その通りだ!」
煙の中から姿を現したのは、他でもない、俺達を処刑しようと未来世界に送り込んだ張本人――“ユーレ・ディアレイ”だった。
「「「「ウィイイイ!!!!」」」」
「! ヤミラミまで!?」
他にも八匹のヤミラミが取り囲むように左右の階段から四匹ずつ現れる。
そう、完全に取り囲まれたのだ。
「な、なんでここにユーレやヤミラミ達がいるの!?」
「ディアルガ様のお力をお借りしたまでだ! 過去の幻の大地へ送ってもらい、お前達を待ち伏せれば良いだけだからな!!」
「ちぃッ!!」
いきなりすぎてうまく思考が回らない、ペルーがやられた時と同じだ。
だが、ユーレのこの言葉だけはハッキリと聞き取れた。
「さぁ、もう一度未来まで来てもらおうか!!」
と――。
次回「古代遺跡――VSユーレ 後編」