ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜空を包みし翼〜












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第八章 幻と謳われし大地
第六十四話 暴走と到着
突如現れた三人のポケモンが、いきなり襲い掛かってきて、私達を庇ったペルーが大変な事に――?





〜☆〜

……現実を、理解できていない。
この生臭い鉄のような臭いがする赤い液体が大量に肌に触れるのは二回目、グラードンとの戦いの時にラルドがやられちゃった時だ。
でも、まだその時は耐えれた。ラルドなら大丈夫って――でも、今回は違う。
完璧な奇襲、そして防御体制もとれぬままに切り裂かれ、激流を浴びせられた。

「あ……う……」

言葉を発せない、発する言葉が頭に出ない、真っ白に染まってしまった頭にはなにも無い。

「なんでこうなるの……?」

やっと絞り出して出した声がそれだった。
もう嫌だ、私のすぐ近くは鮮血に染まり、ふと横目でラルドを見ると俯いたままなにやら呟いている、私より血が一杯付いているはずなのに、感情が消えたかのように立ち尽くしている。

「フィリア……シルガ……どうしよう」

このままじゃやられちゃう。そう思った瞬間。

「――……の神子、活動……開始」

「え……?」

今、何か聞こえた……?

「ら、ラルド。大丈夫……?」

なんだろう、確実な事は言えないけど……なにか

――嫌な感じがする。

「……距離の間合い、完璧。零距離不意打ちで放つには……十分」

可笑しい、今のラルドに最も似合う言葉だ。
普段のラルドならこう言う局面ならば怒りに我を忘れて自身の全力の雷で敵を倒しているはずだ。それが間合いや零距離でしかも不意打ちの事など考えているはずが無い。

明らかに今のラルドは可笑しいと断言できるくらいだ、ショックにより狂ってしまったのだろうか?

「“高速移動”」

「えっ?」

そして、最大の違う点は……実力だろう。
普段のラルドならばこんな速さで移動できなかったはずだ、いくら高速移動を使っているからと言っても“私が見えないぐらい速い”行動なんて無理だったはず、いや本気を出せば解らないのだが。

「零距離発射、問題点なし。“雷”」

「なにをッ――!?」

カブトプス達が驚いたのも束の間、ラルド最強の攻撃技で雷系の技でもトップクラスの雷が、三人に直撃する。

「「「ぎゃああッ!!」」」

三人の悲鳴が同じタイミングで重なり、恐ろしく聞こえてくる。

「……体に支障を確認、治癒開始」

「なにを……?」

治癒という言葉を口にすると同時に少し焦げていた右手が元の黄色に戻る。
このラルドは毛の色や見た目にあまり変わりは無い、ただ“目の色が真っ白”という事だけを除けば。

「しかも、なんか……無の方の白に見える……」

何も無い、虚無の目に見えた私は異常だろうか? 否、正しいはずだ。

「がはっ……こ、この小僧が!!」

「「“Wハイドロポンプ”!!」」

「“切り裂く”!」

二つのハイドロポンプの一つが鎌に纏い、一つは鎌の速度を押し上げている……だからザクッ、とバシャッ、なのか。

「……“高速移動”」

だがどんなに速くともラルドの高速移動は通常のソレを超えていたため掠る事すらない。

「ひっ!」

「ば、化け物だ、コイツは!」

「どうなってやがるんだ!!」

そう叫びたくなるのも無理は無い、こんな感情の無い無表情な顔で、両手に凄い電圧の雷を纏わせながら来られたら恐怖しか感じない。

「……“十万ボルト”」

「「「ぎゃ、ぎゃああああ!!!!」」」

両手を重ね合わせ、強力な雷光が辺りを包み込んだ瞬間――突如、雷光が止んだ。

「ひぇ……」

「な、なにが起こったの?」

一体何が……と、ラルドの方を見てみる。するとそこには……シルガがいた。

「し、シルガ!?」

「ちっ……まさか暴走するとはな、レインの奴は何をしてたんだ」

「な、なにを言ってるの?」

「話は後だ……それよりも」

シルガはすっかり怯えている三匹を見る、その眼差しを一言で現すとするなら“畏怖”だろう。

「「「ひ、ひいいぃぃぃ!!!」」」

見事に動きも三人揃って横のほうへ逃げていく、シルガの目は余程怖いのだろう……か?

「……っ」

「ん、起きるとはな……早いな」

「ら、ラルド、大丈夫?」

やっぱり私に恐怖が残っているのだろう、少し怯えながらも私は喋る。

「……ミル? それにシルガ……どうしたんだ?」

記憶は無いのかな……あんなに恐怖に満ちていた顔も今じゃいつもの顔に戻ったし、この性格も追い詰められて変わったって言ってたし、もしかしたらそんな感じかな……?

「あれ、あの三匹は……と言うよりペルーは!?」

「そ、そうだ! ペルーは大丈夫なの!?」

「……ああ、今オレンの実を食べさせて――」

シルガがトレジャーバッグに手を伸ばしたときだった。

「――ペルー!!」

この中の誰よりも子供っぽい声で、この中の誰よりも威厳を持った言葉で現れたのは……親方“プリル・クリム”と。

「すまなかったな、遅れてしまって」

時の歯車を集める担当だったリード本人だった。





〜☆〜

やっと来たか、リード。
レインが暴走を止めなくて暴れだした時は最悪だったが、今は最高だ。
“幻の大地”への道の前で、更に時の歯車が全集合したのだから、終わり良ければ全てよしとは良く言ったものだ。

「遅いぞ」

「すまない、色々あってな……で、何故ラルドは倒れているんだ? しかもそこのペラップも何故血だらけになっているんだ?」

「そ、それは……途中でポケモンに襲われちゃったんだよ。いきなりだったから反応できなくて、ペルーがやられちゃったの。じゃあラルドが可笑しくなって……」

「可笑しく……? 訳は解らんが急ぐぞ。幻の大地へ」

ああそうだ、一刻も早く幻の大地へ行かなければならない。世界の為に……!

「ま、待ってよ! ペルーはどうするの!?」

「ミル、ペルーは僕がなんとかするよ……丁度皆も来たし」

「へ?」

波動を感じていなかったから気配でしか感知していなかったが……来たか。

「お、親方様!?」

「それにリードも、なんで!?」

「一緒に居る云々は後で説明されるよ、それより……大丈夫なのかい?」

「ああ、ペルーが!!」

全員の視線がペルーに注目する、血は溢れんばかりに噴き出していたさっきより体の状態はましだろう。
周りに真っ赤な鮮血が辺りに飛び散っていたり染み込んでいるのは少し恐怖だ。

「……オレンの実、又はオボンの実を食べさせて。傷に関してはシップじゃ激痛を伴うからとりあえず体力回復、三十分は持つぐらいにして。後は病院に連れて行ってくれないかな?」

「うん」

流石、と言うべきか的確な判断を下すフィリア。
知識は常人以上、下手をすれば医学者にも到達できるかもしれないぐらい頭は良くできているのは解る。
ただそれをもっと有効活用してくれないと意味が無いがな。

「終わったか? 早く行くぞ、リード」

「ああ、お前達、行くぞ」

「え、あ……うん」

「お、おう」

「早く行こうか、時間が無い」

今、冷静な対処をしているのは恐らくシルガとリードだけだ。しかもリードは少し心が動いている、ミルやラルドは表情で解るとおりに、フィリアも冷静を装っているが内心は心配の二文字で埋めつくされている。
だがシルガは違う、今のなお冷徹でいる。感情が無い訳では無いが冷静すぎる。

(やっとだ……やっと念願の目的が達成される!)

その心は、未来の為ならどんな犠牲を払っても目的を達成する、そんな思いで一杯だった。





〜☆〜

……何故だろう、今回のシルガは少し変な気がする。
急に険しい顔になったかと思えば“神速”で奥へと向かっていき、そして後から来てみるとペルーが重症を負っていたり、後から聞くとミルがシルガがレインがどうのこうのと言っていたらしい。

レイン……か、姿形はどうなんだろう、少し気になる。

「……できる事ならもう少し考える時間が欲しかったよ」

こんな事を言っても後の祭り、だ。無い物ねだりはよくない。
ラルドのことも解放と言う興味深い研究対象も大体は解ってきた、身体があんなに向上するのが気になってたけど……。

「あれ、今……波の音がしなかった?」

「波の音? ああ、もうすぐってことだね」

「言っているうちに……見えてきたぞ、遺跡の欠片と全く同じ紋章が」

奥らしき場所へ着き、色々周りを見ていると紋章が見えた。
ミルの持っている遺跡の欠片と同じ紋章が。

「壁に書かれてるんだ……」

「で、どうすればいいんだ? 俺は知らないぞ、これからどうするかなんて」

「わ、私も解らないよ!」

「とりあえず、紋章に遺跡の欠片を近づけてみたら? 案外小説とかならありそうだよ」

今、小説や漫画の話を持ち込みだすのはどうかと自分でも思うが、解らないのだから仕方が無い、最も漫画や小説はこの世界では紙が貴重なためどうしても入手困難になるからという事でお金持ちの人しか買えないからね……そのうち解決しそうだけど。

「う、うん。解った……えい!」

意を決して(それほどでもないが)欠片を紋章に近づけるミル、すると……紋章が蒼く光りだした。

「ふぇっ!? な、なにコレ!!?」

「驚きすぎだな、只光ってるだけだろ」

「そ、それでも急に光ったら驚いちゃうよぉ!」

「臆病者が」

「うぅ……真実だから言い返せない」

夫婦漫才の如く笑える事をここでしないでくれるかな、雰囲気が壊れちゃうよ。

「あれ、光が一層強まった……気がする」

「間違ってないね、多分……ッ!?」

いきなり強く発光しだしたと思ったら、今度は蒼い光線のようなものが海へと放たれる、と言うより危ないじゃないか!

「……? 向こうからなにかが……来るぞ」

「本当……だ、青くて、甲羅みたいなのがあるよ」

「お前の目はどうなってるんだと毎回思うよ。それより、段々と近づいてきてるぞ」

「あれは……ラプラス?」

そう、僕達の目の前に姿を現したのはラプラスというポケモンだった。
別名のりものポケモン、名の通りポケモンを乗せるのが大好きである話では死ぬまで降ろさなかったというのもある。

「皆さん初めまして、僕は“ライラ・モレノル”と申します、以後お見知りおきを」

しっかりした挨拶と自己紹介だな……違和感を感じなかったよ。

「どうも、俺は“エメラルド”。ラルドって呼んでくれ」

「私は“ミル・フィーア”だよ」

「“フィリア・レヴェリハート”よろしくお願いしますね」

「“シルガ・ルウス”だ……」

「リードだ、よろしく願う」

軽く自己紹介を済ませ、僕達は今不思議の思っている事を口に出す。

「で、なんで君がここに? 確か……“ライラ・モレノル”さん」

「それは……僕が幻の大地への道だからです」

「み、道? あなたが?」

「はい、正確には道にたどり着くための乗り物ですけどね」

のりものポケモンと呼ばれるだけあって、背中の甲羅は僕達を乗せるには十分だろう。多少狭くても我慢はできるぐらいだろうしね。

「つまり、この光に導かれてここへ来たと」

「そうなりますね、でもそんな事は後で話しますので、早く僕の上に乗ってください。時間がなくなりますよ?」

「そうだな……早く行くぞ」

「う、うん」

「落ちないのか……?」

様々な不安や思いを胸に、僕達エンジェルは幻の大地へと向かった――。



〜☆〜



……一方その頃、プクリンのギルドでは。
なんとかペルーを病院へ連れて行き、病状が回復するのを祈っていた所だった。

「……ヘイ、そういえば親方。俺達が磯の洞窟を探検しているときなにをしてたんですか?」

「俺も気になるな、何してたんだ? 親方」

「……そうだね、話さなきゃいけないよね。……以前僕とペルーが磯の洞窟で襲われたのは知ってるよね?」

あの三匹、カブトプスとオムスター二匹の三兄弟の事だ、あれはいくら熟練の探検隊でも隙を突かれるのは仕方がないだろう。

「で、どうしたんですの?」

「その時もペルーは重症で、今ほどではないけど血も一杯出てた。で、どうしようかと途方に暮れていたとき……ラプラス、“ライラ・モレノル”に出会ったんだ」

「ら、ライラ・モノレル? 誰だそりゃ……」

「君達には解らないだろうけど……その時は非常に焦っていたからね、助けを求めたよ。『どうかペルーを助けてください』ってね、土下座までした」

「「「「ど、土下座!?」」」」

皆、今の親方が土下座をするなんて思っても見なかったのだろう、それだけ迫られていたのが解る。

「それでライラは助けてくれて、海岸にまで送り届けてくれたんだけど……こう言われたんだ、『あなた方が欲望にまみれた悪い者達なのか、正義の者なのかは解りません。ですがあそこで見た紋章の事を探求するのはしないでくれませんか?』勿論言わなかったよ、まぁそうも居られない事態になったから、全てを聞いてきたんだけどね」

親方様とペルーの間にそんな事があったなんて……弟子達は全員そんなことを思っただろう。

「それで、何を聞いたんでゲスか?」

「うんとね……皆が知らないようなことだったら、遺跡の欠片の事なんだけど……遺跡の欠片は持ち主を自分が選ぶんだ」

「「「「ええぇぇ!!?」」」」

持ち主を自分で選ぶ!? 遺跡の欠片が!!?
と、弟子達の頭の中はこうなっています。

「ミルは手に入れたいって思って遺跡の欠片を手に入れたわけじゃないし、遺跡の欠片は清い心を持つポケモンにしか近づかないそうだよ」

「清い心……ミルだから手に入れたんでしょうね」

「そうでゲスね……」

同時刻、この話と全く同じ話をこことは違う場所でして居たのは言うまでも無い。



〜☆〜



……う、ん。
今は……何時だろう、明るいので朝なのは確かだ。
あの後、僕達はプリルとなにをしていたのかを聞いたり、プリルの過去を聞いたり……プリルも苦労しているんだな、と僕は思った。
最年少でギルドマスターランクに上り詰めた実力でも、奇襲はされるんだな……上からだったら解りにくいか。

「ん? 起きたのか」

「リード……ずっと起きてたのかい?」

「いや、一時間前に起きたばかりだ」

い、一時間前から!? ……いや、長い逃亡生活の中で就寝中は最も危険だ。だから必然的に早く起きるという習慣がついているのか。

「どこまで行っても海……だね」

「もうすぐ着くだろうが……まだ三人は寝ているのか?」

「シルガは寝たふりだろうね、勘でわかるよ」

「……ちっ」

ばれたのが不愉快だったのか、聞こえるような音で舌打ちをするシルガ。それにしてもいつから起きていたのだろう、気になる。

「んっ……あれ? もぉ朝?」

「あ、ミル。おはよう」

珍しいね、ミルがこんなに早く起きるなんて。
ラルドはまだ寝てるみたいだけど……余程疲れたのだろうか。

「皆さん、もう直ですよ」

「うん、じゃあラルドを起こさないとね」

「ミルがこんな短時間で目が覚めるなんて……凄ごい」

「フィリアは私をなんだと思ってるのさ!」

「全員が寝坊する視力だけが取り柄の五月蝿い耳長ウサギとしか思ってないだろ」

「シルガには聞いてない!!」

地味に口を挟んでミルを怒らせないでよ、シルガ。

「う……五月蝿いぞミル……ふあぁ」

「あ、起きた」

「五月蝿いウサギだからな」

「黙ってくれないかな、シルガ」

「ミルが怒ったよ……」

「お前達、緊張感と言う物を少しでも持て」

リラックスしすぎているが、寝起きはいつもこうなので仕方がない。
寧ろ起きて直に緊迫した状況になった事など片手で数える程度も無い。

「……着きました」

「ここが……? どうみても只の海のど真ん中だけど」

「いや、下を見てみろ」

シルガが言った通りに僕達は下を見る、すると驚くことに“ライラが浮いていた”のだ。

「ら、ライラが浮いてる!?」

「いや違う! 時の海を泳いでるんだ!!」

「と、時の海!?」

「幻の大地へ通ずる道のことです……捕まってください、突破しますよ!」

更に泳ぐスピードが高速化した瞬間――光と共に違う場所へと来た。

「こ、ここは!?」

「前を見ろ……あそこに、あそこにあるのが“幻の大地”!!」

(……ん? 赤黒い雲が上空に渦巻いている……なんだ?)

遂に着いた“幻の大地”、色々な感情が交差する中、幻の大地へ着陸する。

――世界を救う時まで、あと少し。



次回「古代遺跡――VSユーレ 前編」

ものずき ( 2012/11/21(水) 22:55 )