第六十三話 幻への道は残酷で
時の歯車集めが順調だと言うリードの手紙を見て、俺達はいよいよ幻への道と思われる“磯の洞窟”へと――?
〜☆〜
――朝。
世界を救う使命を持つ探検隊とは思えない程、平和そうに寝ているエンジェル。
フィリアは自分のベッドから少しはみ出すも、静かに寝ている。
シルガは一ミリもはみ出さず、呼吸も整って寝ている。
ラルドとミルは……例の如く、ミルがラルドの上だけに綺麗に乗るため、ラルドは寝苦しさで起きる羽目になり……?
「いい加減にしろぉッ!! 今日が最後の就寝になるかしれないんだぞ!?」
「むにゃぁ……ラルド面白いぃ〜」
どんな夢を見ているのかは知らないが、この寝言が火に油を注ぐ行為だという事は誰が見ても解かった。
「……縛りの刑に処す」
当然フィリアはぐっすり眠っており、シルガはというと起きているも「馬鹿め……」と思いつつ安眠を妨害したラルドを後でどうしようか考えているので、止める人はいない。
「う、動けないよぉ!!」
起きたときには、すっかり縛られていたミルであった。
「さて、皆。準備は出来たか?」
「「「「おぉー!!」」」」
最後の準備をして、俺達は磯の洞窟へ向かった。
朝の朝礼ではまずチームを決める事になった、効率を上げるために。
一チーム三人で、四チームある。
一チーム目はボイノ、ドツキ、ディルで二チーム目はフウ、ソーワ、ガオン、三チーム目はビーグ、シルガ、フィリアだ。
「私、フィリアとラルドだけでクリア出来そうなくらいのダンジョンだと思うんだけど……」
「相性がいいからな。でも油断はするな、俺たちのチームには……」
「ラルド、ミル。お前達は私とチームなんだ。くれぐれも足を引っ張らないように」
焼き鳥ことペルーがいる。
こいつは雑務的には親方的立ち位置だが、実力は解からない――が副親方になっている当たり相性を抜けば俺より強いだろう。
(良く考えたら……本気でギルドメンバーと戦った事って一回もないよな……いや、普通はないか)
全員が束になってかかってきたらいくら四人揃っていても辛いだろう、更にギルドマスターであるプリルもいる。
勝てる気なんて元からなかったよ……。
「……ミル、気を引き締めて行こうな」
「うん!」
今回ばかりは、力を抜くなんてこと出来っこないよな!
〜☆〜
私達は他の弟子達やペルーと一緒に“磯の洞窟”に来ていた。
緊張するのは仕方がない、何せ世界を救うという前代未聞の事なのだ、それぐらいの緊張はしなければならない。
「……足が震えてきた」
武者震いなんかとは違う、恐怖でもない、ただ世界と言う重圧≪プレッシャー≫に怯えている。
本来泣き虫で臆病なミルだ、ここまで知ったから自分もできる限りの事をしなければという優しさが仇となり、責任感に駆られてこうなってしまっている。
「ミル、大丈夫か?」
「大丈夫だよ、これくらいなんとも無いよ」
「ならいいけど……お前は優しすぎるからな、逃げたかったら逃げていいんだぞ? 寧ろここまで成長したんだし」
「皆を放っては置けないよ……」
こういう所が優しすぎだと言うのだが、本人は自覚が無い。
まず十四歳の少女がここまで重要な役割を持つ事自体が前例が無い、過去にこの世界に隕石が衝突する、と言われていたのをとある“救助隊”と呼ばれるその名の通り救助専門のチームが救ったと言われているが本当か定かではない。
「皆、なにか質問はないか? ここの事は一応知っているんだ、なにか知りたい事があるのなら訊いてくれ」
「じゃあ早速質問させてもらうよ。プリルが“磯の洞窟”の事を言った時、ペルーは不味いって感じの顔してたけど……なにかあるのかい?」
確かに、今思い出してみたらそういう風な顔してたかも。
「……実はこの洞窟の最奥部の後少しの所で、私と親方様は襲われたのだ」
「「「「えぇッ!?」」」」
は、初耳だよ!? そんな事はもうちょっと早く言ってくれればよかったのに……!
「でだ、ペルーはその時どんな感じだったのだ?」
「うーん……よく覚えてないんだが、ドバァッ、って感じとザクッ、って感じだったと思うんだが……」
「という事は水タイプか、我々はあまり出会いたくないな」
「僕も……会いたくないです」
ディルやサーイにとって、水タイプは天敵だからね……私も水は苦手だな。
それにしてもザクッ、ってことは……斬られたのかな?
「じゃあ、張り切って行くよ!!」
「「「「おぉー!!」」」」
そして私達は、幻への鍵となりし“磯の洞窟”に足を踏み入れた――。
その後ろで、如何にも悪そうな三匹が居た事は誰も知らなかった。
〜☆〜
磯の洞窟内部は前にラルドと初めての依頼で行った湿った岩場よりも湿っていた。
当然そんな所は蒸し暑く、イーブイという種族上毛が多い私は……ダウン寸前だった。
「あ、暑いぃ〜……よぉ」
「……大丈夫なのか?」
「全く、早速足を引っ張らないでくれ!」
ペルーは暑くないのかな……?
「蒸し焼き鳥になりたいのか?」
「ならないよ! ……それより、敵が来たよ」
敵、その言葉を聞くとラルドはすぐさま構える、私も一歩遅れて構える。
「キングラーにヒトデマンに……ハクリューか」
「ペルーは大丈夫なのかな?」
「舐めるんじゃないよ! お前達よりはできるよ!!」
ラルドの挑発的な発言でペルーが怒りだす、というかやめようよ……敵が目の前に居るのに。
……あれ、なんで私も批判されてるの?
「じゃ、お手並み拝見だな」
「驚くんじゃないよ……“乱れ突き”!!」
ペルーは素早くハクリューの前に出ると、嘴で連続の突きを繰り出す。
若干、名前の通り乱れてるんだけど……気にしないでおこうかな。
「ふん、どんなもんだい」
「凄い……もう倒した」
ハクリューは元々弱いポケモンではない、寧ろ強い方だ。
なのに一撃(?)で倒すとは……やはり副親方なだけはある。
「じゃ、こっちも……“雷”!!」
ラルドも負けてられないのか、普段愛用している“十万ボルト”ではなく更に強力な電撃、“雷”でキングラーとヒトデマンを一気に倒した。
――凄い、これなら私、要らないんじゃ……。
「中々やるじゃん。ペルー」
「当たり前だ、まぁお前は相性が良いからな、ふんっ」
ツンツンしすぎだよ……。
「後どれぐらい歩けば付くかな?」
「そうだな……もう直だろ」
その言葉から丁度十秒で、ダンジョンの中間地点に着いた。
中間地点は何故かあまりダンジョンの影響を受けていないのだが、それでも蒸し暑かった。
「ふぅ……もうすぐ、かな?」
「そうだな……暑すぎる」
「さぁ、誰もここまで来ていないようだ。早く行くよ!」
休憩も終わり、私が立ち上がった瞬間
――いきなり後ろから衝撃を加えられた。
「きゃぁッ!?」
「ミル!?」
「ど、どうしたんだい!?」
あまりにも急すぎる展開にラルドもペルーも、勿論私も着いていけない。
その時、今回の冒険で一番必要な物が落ちたのに三人は気付けなかった。
悪戯にしては強すぎる……ッ! 一体誰なの!?
「クククッ、警戒心が足りないんじゃないのか?」
「ケッ、同じ手に二度も引っ掛かるとはな」
「へへっ、チョロすぎるな!」
聞き慣れていた声が聞こえてくる、この声はまさか……。
「お前達は……“ドクローズ”!!?」
「な、何故……何故あなた様達がここに!?」
二人は同じタイミングで驚くも、驚く理由はどうやら違うようだ。
そうだろう、ペルーは真実を知らないのだから。
「あ?」
「遠征の時にいなくなってからずっと心配していたのですが……今までどこに行っていたのですか!?」
「クククッ……クハハハッ!!」
「ペルー! あいつらは悪い奴なの、遠征の時も私達の邪魔をして、あまつさえ小さい子供の物を盗んだんだから!!」
「な、なんだって!?」
子供の物を盗むのは最低だし……邪魔もして来たし!
「ん〜? おっと、なにか落ちてるなぁ?」
「え? あ、それは!」
と、イングはわざとらしく遺跡の欠片を拾う。
そう、今回の冒険は遺跡の欠片と同じ模様が描かれているのを探しに来たのだ、その遺跡の欠片が無くなったらここまで来た意味が無い。
「ちょ、ちょっと返してよ!」
「嫌だね!!」
「クククッ、行くぞお前達」
「ま、待てッ!!」
ラルドが制止するも、バルンとイングが振り払い、先へと進んでいってしまった。
「畜生、逃がしたか!」
「ら、ラルド。落ち着いて!」
良く見れば手に雷を纏っていたのが解かる、雷は協力なので電熱もある、それに耐えれずに少し焦げているのだ。
「あ、あいつらー! 私を騙したのか!!」
「騙されてたお前も大概だけどな……」
「地の果てまで追ってやるー!!」
「ぺ、ペルー!!」
ペルーも走っていっちゃったよ、ドクローズは危険なのに……。
ラルドは一応冷静を保ってるみたい、良かったよかった。
「俺達も急ぐぞ!!」
「うん!」
遺跡の欠片を取り戻すため、私達は奥へと向かっていく――。
〜☆〜
あれから大分歩き、大分敵を倒して奥へと近づいている俺達。
ただ、なんか悪い予感がするんだよな……なるべく早く行くか。
「随分奥へと来たと思うんだけど……まだかな?」
「俺に聞くなよ」
「じゃあ誰に聞けばいいのさ!?」
「五月蝿い」
ミルはまだまだ子供だな……五月蝿すぎるだろ。
プリル程ではないけどな。
「それにしても、より一層暑くなってきたな……蒸し暑い」
「そうだね」
「一周通り越して冷静になったのか……?」
「違うよ、なんか聞こえるの……呻き声見たいなのが」
う、呻き声!?
「もしや……急ごう!!」
「う、うん!」
ペルーかもしれないってことかよ……副親方の癖に単独行動、挙句の果てには弟子に心配されるなんて……。
「帰ったら、死ぬほど説教してやる!」
ただ、それが絶対に叶わない事なんて、今のラルドに知る由も無かった。
「はぁ、確かに、聞こえてきたな」
「多分、もうすぐだと思うんだけど……!」
ミルが目を細め、更に遠くを見つめた瞬間、足を止める。
それと同時に、俺も若干遅れながらも足を止める。一体何があったんだ……?
「ら、ラルド……あそこ、見て!」
「え……な、なんだと?」
ゆっくりと歩み寄った場所には、青い体でまるで蝙蝠のようなポケモン、紫の丸い体をしてガスを常時出しているポケモン、そして紫色の毛を纏うポケモンがそこにはいた。
――ドクローズ、だ。
「ど、“ドクローズ”!?」
そう、左にズバットのイング、右にドガースのバルン、真ん中にリーダーであるスカタンクのクロドが倒れている。しかも傷だらけだ。
一体誰にやられた? 少なくともこんなに傷だらけになるぐらい弱くは無いはずだ。
という事は……ペルーが言っていたポケモンか?
「切り傷もある……確実にそうだな」
「だ、大丈夫なの?」
「……ぐっ」
! 今確かに声が……小さくなっていっているけど、確かに聞こえる。
この洞窟は声を反射するので、先程聞こえてきた声はそのせいだろう。
「ぐふっ……ちっ、不意打ちされちまったな……こいつらにも追いつかれたしな……」
「へへっ……教えてくれればよかったのにな……」
「ケッ……って、教えてもらえるわけないか……」
「しゃ、喋らないでよ! 傷に障っちゃうよ!」
ちっ、応急処置もできる道具があまりない、オレンの実を食べさせる事ぐらいしか……オボンの実があるけど、一つしかない。
「クククッ……何故俺達の心配をする? 俺達はお前らに色々と悪戯したんだぞ?」
「悪戯ってレベルじゃないけど……いくら悪戯されたからって、傷ついてる人を見捨てる理由にはならないよ!」
「けっ、うぜぇ……」
うぜぇ、ってこいつ……瀕死の重傷の癖に何言ってやがる!
「早くこれ食え!」
そういって俺はオレンの実を三つ差し出す、だがクロドはそれを払いのけた。
「な、なにを」
「こんなモン、いらねぇよ……クククッ」
不意に、クロドの体から奪われた“遺跡の欠片”が転がる。
「おーっと、油断して落としちまった……クククッ、これじゃあエンジェルに取られちまうなぁ」
「く、クロド……」
早くしないと……不味いぞ、これは。
「クククッ、そんな事よりペルーの心配をしたらどうだ?」
「そ、そうだッ! ペルーはどこにいるの!?」
「俺達が倒れているのを見たら散々悪口言って、奥に行ったよ……あの野郎のお陰でここまで意識を保てたのかもしれねぇけどな……ごふっ」
「……行こうラルド。ペルーの所に」
……ちっ、後から誰かが助けてくれるのを願うぜ!
「行くぞミル!」
「うん!」
そして二人はドクローズを残し、“電光石火”の如き速さで奥へと向かっていった。
言っておくが技のほうではない。
「クククッ、行ったか……」
「へへっ……最後の兄貴、格好よかったですぜ……ガクッ」
「けっ……本当、格好良かったですね……ガクッ」
「五月蝿ぇよ……ガクッ」
そんな会話を最後に、三人は全身の緊張を解き、気を失った――。
〜☆〜
今俺達がいるのは“磯の洞窟最深部”だ。
ただここまで走ってきたので体は火照り、ここの蒸し暑さと重なりもの凄く暑くなっている。
ミルより毛皮が薄い俺でも真夏の様に暑く感じるのだからミルはどれぐらいの暑さを感じているのだろう、物凄く気になる。
周りを良く見て、ペルーが居ない事を確認してふと前を見たとき。
そこにペルーはいた。
「ぺ、ペルー!!」
「ん? お前達か……気をつけろ、さっき奴らを見かけた」
「や、奴らって……ペルーがやられたポケモン達のこと?」
「ああ、三匹一緒に居たな……だがここで見失ってしまったのだ」
三匹……横には水があるので隠れるのは容易い、恐らく相手は水タイプ、水に隠れる時間は何分でもいけるはずだ。
「奇襲攻撃……どこから来るんだ?」
俺は下も見てみるがなにもない、穴を掘るなどで地面に隠れているのもあるだろうが肝心の穴が見当たらないのでないと思う。
ならばどこに……ッ?
もしこの時、もっと俺が冷静であればもう一つの可能性に気付いただろう。
(……奴らは昔、親方様と来たときどうやって奇襲してきた? 親方様は気配を感じるのは一流だ、ならばどこから……ッ!!)
ペルーの中でなにか弾けたような感覚を覚えた。
「確か、あの時は……」
ペルーは上を見上げる、するとそこには……
「「「……」」」
天井に張り付いている、三匹のポケモンがいた。
一匹はカブトプスという種族のポケモン、このポケモンは両手の鎌をさして天井にいた。もう二匹は同じ種族でオムスター、得意の足の吸盤で張り付いていたのだ。
「どうしたペルー、上なんか見上げて……ッ!?」
瞬間、三匹がこちらのほうへ降りてくる、背後に明確な殺意を滲ませて。
「「「我らはカブトプスとオムスター三兄弟!」」」
いきなりなんだ……と、思考は回ってもいきなりすぎて体が動かない、まるで金縛りにあったかのように。
「我々の縄張りを荒らした罰、覚悟!!」
「きゃ、きゃぁあああ!!!」
「うわぁあああ!!」
オムスターは水を出し、カブトプスは得意の鎌を振り上げる。
終わったのか……ここで、終わるのか……!
目を瞑り、最後を覚悟したその時!
――ザクッ、という音とバシャッ、という音が“目の前”でした。
「は……?」
「え……?」
なんだ? 理解できない、目の前にペルーが立っていて、生暖かいものが顔にある、赤い、血? 良く見ればそこら中に飛び散っている。
「え……ぁ……」
やめろ! やめてくれ……なにかの間違いだ、こんなの……!!
「あれ? 兄貴こいつ確か前どこかで……」
「こいつ、前に来た奴じゃなかったッスかね? やられ方も同じですよ」
「ハハハッ! 傑作だな、前と同じ状態でやられるとは!!」
やめろ……ヤメロ……頭、アタマガ割レル……アアッ!!
――その時俺は、体の中でなにかが砕け散るのと同時に構築されていったのが解かった。
「――……の神子、活動……開始」
次回「暴走と到着」