第六十二話 最後の一ピース
幻の大地へのキーアイテムは俺とミルとの出会いのきっかけとなった遺跡の欠片だと言う事がコート老人により明かされて――?
〜☆〜
「この……遺跡の欠片が?」
「何度でも言おう、本当じゃ」
あれから数分が経ち、ミルや周りの弟子の興奮も収まってきたころ……ミルがもう一度訊ねる。
何回訊いても本当だって言ってるのに、現実を信じろよ全く……最近全くが口癖になってきているような気がしてきたな。
「……この模様、まさか……」
「どうしたの、プリル?」
「うん? ちょっとね……ペルー」
「親方様……そうですね、解りました」
なにやら意味深なやり取りだな……この模様を前に見たとか? そうならもう決まりだな、まぁそうだったら、だけど――。
「私と親方様は前にこの模様を見たことがある」
ほらやっぱり、そんな事あるわけ……え?
「ほ、本当、なの?」
「ああ、“磯の洞窟”という海水が至る所に浸水している洞窟だ」
「“磯の洞窟”か……訊いた事がないけど、あまり知られていないところなのかい?」
「うん、その洞窟の奥でこの模様を見たんだ」
磯の洞窟、か……海に近いのなら俺かフィリアが有利だな。
水タイプでも有名なのは結構いるが、そんなに強いポケモンはいないだろう。
「で、ですが親方様。この洞窟は……」
「大丈夫だって。それより……僕は用事があるから、行けないよ」
「「「「ええええぇぇぇぇ!?」」」」
皆が皆、驚愕の声を上げる。と言うより不満なのか……?
俺としては十分な事をしてくれたらそれでいいんだけどな。
「……じゃ、じゃあ明日は私が親方様の代理ですね! 皆、明日は私の指示に従ってもらうよ!!」
「「「「……」」」」
「な、なんだい!? なにか問題があるのかい!?」
いや……親方が行けないって言うのはいいんだけど……。
「ペルーが仕切るのは……ちょっと……」
「でもいつも指揮してるのはペルーだから変わりないよね」
「それを言ったらプリルが居なくても変わりないみたいじゃないか」
「実際そうだけどな」
プリルは実力はあるんだろうけど、真剣になった所は一度も見たことがない。
実際最上級ランクである“ギルドマスター”なんだからな。
「じゃあ、明日は磯の洞窟へ行くよ! 今日は準備だ!!」
「「「「お、おぉー!!」」」」
皆がやる気なのは良いが、プリルがいないという状況の中困惑する弟子達であった――。
〜☆〜
「ほっほっほ、幻の大地に行くとは……御伽噺じゃないのかのぉ」
あの大階段は下りるのも苦労するためコート老人は若干息が荒くなっている、が直に元通りになるのは慣れているからだろうか?
「それにしても、吃驚じゃわい、まさか鍵をあのイーブイの娘が持っていたとは……うん? お主らは誰じゃ?」
さっきの出来事を思い出しつつ温泉へ向かっていると、右左前から三匹のポケモンが囲むようにやってくる、当然老人なので逃げるなんて事できるはずもなく……。
「クックック、爺さん。その話ちょいと詳しく聞かせてもらおうじゃないか」
「へへっ、話さえしてくれればなにもしねぇからよ」
「ケッ、そろそろギルドの連中が来ますよ」
「クククッ、行くぞ」
「ひ、ひえぇ〜……」
誰もいない交差点の中、柄の悪い最悪探検隊に捕まった老人は、海岸の方へと向かっていった――。
〜☆〜
「オレンの実と、縛り玉……爆裂の種や復活の種も必要以上に持っていこうか」
「爆裂の種は控えた方がいいんじゃないの、ラルド?」
無論、今のラルドにそんな言葉は聞こえていない。
……聞こえてたとしても持っていくけどな♪
「ラルド、聞こえてる!?」
「はいはい、解かったから。準備は終わったし帰るぞ」
「もー! こんな時にフィリアがいてくれたら……」
例の如くフィリアとシルガは別行動、なんでも持っていくものの整理とか……必要なさそうな事ばかり、全く少しはこっちを手伝ってくれよな。
ただその原因の約十割が自分にある事をまだラルドは知らなかった。
「……あっ、そうだラルド」
「どうした、買い忘れがあるのか?」
「違うよ、もしかしたらリードが帰って来てるかもしれないって」
「……ああ、確かにあいつは隠れ家しか行けないからな」
「人の家を勝手に隠れ家にしないでよ!」
しょうがないじゃないか、あんな秘密基地みたいな家に住んでるとか楽しそうじゃんか。
「楽しくないよ……あんまり」
「でもさ、水は湧き水があるだろ? 藁のベッドだってあるし。なにより木の実の量が凄かったじゃん?」
「それはそれ、これはこれだよ!」
……どう違うのか、疑問だな。
と言うよりさっき俺の心の中がミルに読まれてた気がする、長い時間を共にした仲間にはここまで見破られるのか……不覚。
(ラルド、顔に出てるからね……)
ミルもミルでまた考えを読み取り、更に長い時間を共にした仲間、という言葉に嬉しさを感じるもうまく表現できないもやもやがあったのもまた事実だった。
そして、隠れ家へと向かっていった俺たちであった――。
〜☆〜
前に来たときと全く変わらないミルの家、夜とかこいつ小心者なのにどうやって生活してたんだろう……? とか改めて来てみると考えてしまう、長年一緒に居るから答えがどうやっても見つからない。
はっ、もしやぬいぐるみとか……?
「ラルド、なんか失礼な事考えてるでしょ? 完璧には解からないけど」
「はい? いやいやいつ俺がそんな小心で臆病なミルがどうやって生活してたんだろう何て思って……あ」
「説教は後でね? ラルド」
最近、ミルの怒り笑顔が微笑ましいとは思う俺も居たら恐怖に身を支配される俺も居る、不思議でたまらない!
「とりあえず……なにか無い?」
「うーん……あ、こんな所に手紙が……?」
見ると宛名は書いておらず、代わりに天使の羽が書かれていた。
「記憶は戻ってないけど、大体解かるな……」
あの時、俺達のチームがエンジェルとなった理由であるあの声――エンジェルという言葉が出ていたのでもうそれが俺達が仲間であると言う目印ということしか頭に浮かばない。
内容はこうだ。
『ラルド、シルガ、ミル、フィリア、元気か? 俺は順調に時の歯車を集めれている。お前達の仲間が話をしてくれているお陰でユクシー達も理解してくれて仕事が捗ってもう三つ目なんだが、お前達はどうだ? 俺は集まったら海岸かこの隠れ家へ来ようと思う、じゃあ頑張れよ』
「……心を開いてるって感じがするね」
「そ、そうだな……」
あのリードだぞ? 冷静でシルガタイプのリードなのに……てっきり『こっちは順調、そっちは頑張れ』みたいな事を書いてるんだと……心開いてくれてるって嬉しい事だけどな。
「じゃあ、海岸へ行こうよ! リードがいるかもしれないよ」
「そうだな」
ただ、ミルと俺は見落としていた。
――リードが隠れ家と書いてあった事に。
〜☆〜
――で、来てみたわけだが。
今見たら綺麗だな、夕日……夕日の光を海が反射して幻想的な……っと、ダメだダメだ。俺がこんな考え出来る訳ない。
「結局、リードはいなかったね……」
「そんなに早く二つを集めれると思うか? 普通のポケモンだったらそれこそ半年ぐらいかかるかもしれないってのに」
「そ、そんなに!?」
「集めるのはな、どこにあるか調べようと思って、更に番人倒そうものならプリルみたいな子供の柔軟な脳のまま大人になった奴じゃなきゃ無理だろうな」
禁忌とまで言われてきた時の歯車を盗もうと考える輩はいないと思うけど……な。
「あ、そういえば……クラブ達がいないね。いつもならここで泡を吹いてるのに」
「知らない人が居たらどんな場所だよ、って突っ込みたくなるな」
「ラルドの癖に生意気だ!!」
「そのセリフ、綺麗にラッピングして返してやるよ」
「うっ、うぅ……ラルドの馬鹿!!」
ぐっ! 冷静に対処するだけでここまで胸が痛むとは……でも後々楽だな、フィリアに習おうか、冷静に対処する方法。
当のフィリアはミルにそのスルースキルを分けてよ……と思っているのはこのピカチュウには知る由もない。
「……ん? なにか……漂ってる?」
「漂流者!? ……って、見えないぞ」
「私も遠くて解からないけど……いっか。それより早くギルド帰ろうよ、お腹すいたよぉ」
「いや、今から帰っても一時間は我慢しなきゃダメだぞ?」
「そ、そんなぁッ!?」
空腹に耐えるイーブイの少女をやれやれ、と言わんばかりの表情でおんぶしながら地獄の怪談を上っていくのは、ミルの好感度を数倍に跳ね上げたと同時に自分自身の疲労が半端ないほど溜まり、晩御飯を食べたら直に寝たのは言うまでもなかった。
――夜、ジメジメとした蒸し暑い沈黙の空間に二人のポケモンが現れた。
「やぁ、久しぶりだね」
「お久しぶりです、今日はどんなご用件で?」
「いやぁ、探求するなって言われてたけど、そんな事態じゃなくなってね……教えてもらえないかな? 真実を」
一人のポケモンは覚悟を決めた瞳でもう一人のポケモンを見つめ、もう一人のポケモンも諦めたように力を落とし、そして――話し始めた。
――その会話がどうだったかは、その二人しか知らない。
次回「幻への道は残酷で」