第五十九話 ギルド、帰還
行き方さえも解からない“幻の大地”という正に幻な場所を、俺達探検隊エンジェルは探す事となって――?
〜☆〜
「で、とりあえず海にやってきた訳だ……けど」
「なんにもないね……」
「そう簡単に見つかったら苦労しないよ、ラルド」
「まず海を渡る手段とか考えないのかこの馬鹿は……!」
うん? 今シルガが小声で俺の悪口を言っていたような……まぁいいか。
……不味い、本当になにも思い浮かばない、どうすればいいんだ……あ!
「ギルドがあった……」
ギルドに帰れば五月蝿い情報通のペルーもいるし、なによりプリルも探検家。行き方を知っているかもしれないし……皆で協力したほうが早い!!
「よし! 皆、ギルドに行くぞ」
「え?」
「ギルドに? 確かに好都合だね、僕達は戻る事を前提で未来で行動してたから」
「忘れるなよ……」
よしこれで……。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「どうしたんだ? ミル」
「それって……ギルドの皆にこの話を信じてもらわなきゃいけないんじゃないの?」
「当たり前だろ? それを話した上で協力してもらうんだから」
またいつも通り弱気が発動したのか? こいつは……馬鹿だろ。
「信じてもらえるかどうかの問題じゃないぞ。世界を救わなきゃならないんだ。嘘をついてでもな……ま、嘘なんかつかないけどな」
「で、でも……こんなどこかの小説か漫画でありそうな展開……」
確かに……俺も驚いたな。それは多分、誰が聞いてもそう思うはずだ。
だから……。
「皆、吃驚するだろうな。因みに俺から言えるのはただ一つ。皆は信じると思うぜ、仲間だからな、少なくとも俺はそう信じてる」
「ら、ラルド……」
「ミル、それは僕からもいえるよ。信じなきゃダメだよ、こんな事だから不安になる気持ちも解るけどね」
「フィリア……」
「……勝手にしろ。俺からいう事は何もない」
シルガも、照れているだけだろう……絶対に断言できるのは一緒にいたからだな、やっぱり。
「じゃ、戻ろうか。“プクリンのギルド”へ!」
「……うん!!」
「そうと決まれば、早速出発! ……って言ってくれなきゃ困るよ?」
「えへへ、そうだね。出発〜!」
何日、何年、一生経っても変わらない気持ちであるように。
――願っているのは俺だけじゃないよな?
〜☆〜
ここは――プクリンのギルドの前だ。
最初に来た時は親方が恐ろしい大魔王だって噂で怖がって、それが嘘だと解っても今度は見張り穴の声が怖くて入れなくて、結局半年ぐらい経ったんだ。
でも、ラルドを見つけて……弟子入りできたんだよね。
そういえば、最近忘れてたけどこの遺跡の欠片も、少しは手助けしてくれたよね。
「……あれは」
「どうしたのシルガ? こっちを見つめて」
「いや、なんでもない」
遺跡の欠片を見てた気がするけど……思い出した、最初はこの遺跡の欠片の謎を解くのが夢だったんだ。事件が一杯あって忘れてたよ……。
「じゃ、行くぞ……」
ラルドはあんな事を言ってもやはり緊張しているのか、足が少し震えている。
武者震いでも恐怖心から来る震えでもなく、緊張からの震えだ。ラルドでは考えられない。
そして黄色く小さな足は……見張り穴に乗った。
『ポケモン発見!ポケモン発見!』
『誰の足型?誰の足型?』
『足型は……足型は……!』
『ん? おいどうしたディル? どこに行くんだ!?』
『だって……この足型は……!』
訊いた事のある声が、なにやら揉めていた。
まさか……ディル、足型だけでラルドって解ったの?
「ラルドさん!」
「お、おう。久しぶり、ディル」
最初に出迎えてくれたのはディル・グダン。思えばこんなひ弱そうな子の声で怯えていた私って……どうなんだろ。
『な……なんだって〜ッ!?』
「五月蝿ッ!?」
急に見張り穴から大声が辺りに響いた。
多分ボイノだろう、この大声はボイノじゃなきゃ出せないと思う。プリルは……生物としての枠組みから外れているよね?
「じゃあ、もうすぐ皆が……」
皆が来る、その言葉を言い終わろうとしたとき――急に門が開き、中から九人のポケモンが飛び出してきた。
「ほ、本当にいたでゲス!!」
「キャーッ!! エンジェルが帰ってきましたわー!!」
「お帰りなさいね、皆」
「ヘーイ! お帰りだぜ、ヘイヘーイ!!」
「ガハハハ! 久しぶりだな、お前達!!」
「よく帰ってきたな、四人とも」
「グヘヘヘ、帰って来てもらわなきゃ困るぜ」
と、マシンガンのように来る言葉に私達は一瞬戸惑ったものの、直に我に返って。
「ただいま」
と、言った
因みにシルガも小声で言ってたよ、耳がいいのは良いね!
「おおエンジェル、お帰り。これからもギルドの為に働いて……」
「もうペルーったら、今まで一番心配してたのペルーじゃないの?」
「わ、私が心配などするわけないだろうが! そこ、笑うな!!」
「へぇ、ありがとね。ペルー」
「お? あ、ああ。勿論だ」
「肯定してるじゃないか」
「なにを!?」
軽く漫才のような話が続く、被害者は勿論ペルーだ。
ただ、その時が長く感じたのは皆も一緒だろう、久しぶりに会ったんだもんね。
「皆、ちょっと退いてー!」
妙に子供っぽくて、でも芯が保たれた声の主、このギルドの親方“プリル・クリム”が門から現れる。
「全く、心配したんだよ?君達は僕達にとって家族みたいなもんだからね?」
「プリル……皆……有り難う」
「じゃ、もう一回言おうか。一斉のーで!」
「「「「お帰り!!」」」」
ああ、帰ってきたんだ……家族だと思われてるんだ……良かった。
「「「「ただいま」」」」
――自然と、ただいまという声が出ていたのが、エンジェルの四人全員が同じだったと知るのは誰もいなかった。
次回「真実を話して」