第五十八話 煌めく朝日、崩壊する時の塔
あれから私達は寝て、月明かりに照らされて楽にしてたら……突然目が覚めてしまって――?
〜☆〜
……非常にまずい、ラルドがいうとしたらこんな言葉だろう。
どういう状況で言うかって? とりあえずまだ日は昇ってないけど明るくなってきたと言えば解かるかな?
……解からない? まぁそれが普通だよ……答えはラルドが私の上に乗っている、でした!
「ちょ、ちょっとラルド……や、やめて……!」
やっと搾り出した声がそれだった。今まで急展開すぎてこの気持ちは無意識のうちに閉じ込めてたんだけど……未来で出てきた、この感情。
「ら、ラルドォ……」
若干だが顔が赤くなっているのにも本人は気付いていない、気付けるはずもない。
余談だがミルもこうやってラルドの上にいつも乗っているのと、ミルの被害を受けているのはラルドだけだ。
「どうしよう……あれ? なにかある……?」
枕元(枕はないが)を見ると、青い玉があった。それは正しく……不思議玉、それも“場所変え玉”だ。
場所変え玉といえば周辺に居るポケモンと自分の位置を交換する、“バトンタッチ”と言う技の不思議玉版(バージョン)だ。
(そういえば“バトンタッチ”って使えたような……まぁいいや)
私は場所変え玉を口で噛んで割ると……光が出て、私のいた場所にラルドが、ラルドのいた場所に私がいた。
「便利……明日から場所変え玉置いとこ♪」
本当に欲しいのは寧ろラルドのほうである。
「ちょっとだけ外出ようかな、珍しくラルドより早起きしたしね」
随分とご機嫌な様子で外に出て行くミル、実はいつもラルドが起きているのはミルの重さと毛で暑苦しくなっているからとも知らないで……そして最近寝不足の原因を作っているのもミルと言う事も……。
〜☆〜
「……先に起きてたか」
「ふぇ!? ……リードか、脅かさないでよぉ」
「いや……見張りをしようと思ってたんだがな。……好都合だ、お前に聞きたいことがあった」
「な、なにを……?」
私、なにか悪い事でもしたかな……?
「何故、あの危機的状況で諦めずに刃向かう事ができた? 俺でも降参するしかなかったというのに」
危機的状況……ああ、ディアルガが現れたときだっけ、あの時は怖かったなぁ。涙流してたと思うな私。
「でもそんな状況でも……私が刃向かうことができたのは、ラルドのお陰かも知れない」
「ラルドの? なんでだ」
「ラルドはね、何時も私を助けてくれた。私と出会った時だって助けてくれたし、一緒に探検隊になった時も助けてくれる。そんなラルドに私は甘えてた」
「……」
「でもラルドがもうダメだ! って状況になったとき、怖かったけど今度は私の番って思ったの。だから諦めずに刃向かった」
そう、だから私はあの時から……ううん、今はそんな場合じゃないか。
「……なるほど、お前は臆病だったとは聞いていた」
「もしかして……ラルドから?」
「いや、シルガとフィリアもだ」
やっぱり誰からの目で見ても臆病だよね……私って。
「だが……今初めて考えてみて思ったよ。お前の成長の傍らには、何時もラルドがいたんだな」
「え? ……そうかも」
「俺もそうだろう、元々あいつは大人しそうな♂なのに♀みたいな顔つきだった」
「そ、そうなの?」
今のラルドからは予想がつかない……元のラルドってどういう風だったんだろう? 一回見てみたいな。
「シルガは性格がああなったのには一種の自己防衛だって言ってたんだ。窮地に追いやられ、恐怖が頂点に達したとき、自分を守るために性格そのものを変えたってな」
「窮地……?」
「ユーレの言ってた様に俺たちはタイムスリップ中に嵐の被害を受けた、雷や暴風に吹きやられ俺とラルドとレインは離れ離れになったんだ」
「あれ? シルガは?」
「後から来る予定だったんだ。確か……二日後」
「え?」
ラルドが来た二日後に嵐なんか吹いてたっけ……まぁいいか、そんな事。
――そんな事を考えていると、東の空から暖かい光が照らす。
「あぁ……日の出だ……!」
「朝日……か」
あの暗黒の未来に居たときとは違う、煌めき輝く暖かな光を地上に居る者達に照らしてくれる太陽。ミル自身も日の出を見たのがずっと前に感じれる。
「俺は……この太陽を見て、絶対に時限の塔の崩壊を止めると再度気合を入れなおした。……ミル、お前はこの光が好きか?」
「大好きだよ! いつも暖かいからね!」
「そうか……そろそろ戻ろうか。起きているかもしれない」
「うん!」
考えを改め、この朝日を見てあの惨劇とも呼べる未来を変えようと思った二人のポケモンが、そこにいた――。
〜☆〜
「さて、準備はできたか? ひよっこピカチュウ」
「もうとっくに出来てるよ。爆裂の種も一人二十個は持ってるしね」
「ああ、準備万端!!」
「おい、この状況を可笑しいと思うのは俺だけか? いや人であったときもラルドは爆裂の種を乱用していたが」
「大丈夫だよ、初めて私と出会ったときも、ラルドは爆裂の種を有効活用してたんだもん。頭では覚えてなくても体は覚えてたって事なんだよ」
へぇ、俺って以前から爆裂の種を使ってたのか……道理であの爆発がなんか楽しく――
「ただ爆裂の種を投げていたときは狂って居たように投げていたぞ。それこそ同時に三十発なんて日常茶飯事だった」
「……洞窟でも?」
「ああ、生き埋めになることだってあった」
……使用回数減らそうかな、でも爆発系はあれしかないからな……爆発する技とかないかな?
「ひよっこは爆発好きだったからな、力もない、性格だけが取り柄のこいつなりの覚悟の印だ……」
「シルガ……!」
やっぱり人間時代からの知り合いだからか、俺のことを良く知って……まさかあの挑戦状も!?
「――間違いだったんだ、こいつはただ爆発好きの狂乱だ。何度死に掛けた事か……レインにも謝っておけ」
「ぐっ!?」
「あはは……こればっかりはどうしようもないよ」
「確かに爆発好きだもんね、リーダーに感化されやすいのかな? チームって奴は」
「違うってッ!!」
「チーム漫才か」
いつも通りに馬鹿騒ぎするエンジェル、それを冷静に突っ込むリード。リードが新しく加わっただけでいつも通りの日常だ。
そう、時の崩壊が間近に迫っていると言う事を知っていても……。
〜キザキの森〜
ここはキザキの森、木が沢山といっていいほど生え、視界が少し悪くなる森だ。
更に敵ポケモンは強く、当然最後のフロア辺りになってくると強いポケモンも出る、更に時の歯車がある場所へ行くのは複雑な道なので多くの探検家が伝説の秘法と言う噂を求めてやってきた……が突破はできない。
そんな苦労の中……五匹のポケモン達が着実に森の奥へと進んで行っていた。
「“波動掌”!」
「“リーフブレード”!」
「“放電”!!」
動きを止め、波動掌とリーフブレードで弱ったポケモン“達”を放電で止めを刺すという完璧な攻撃をしていた一行。
だが、ポケモン達の巣に入って行った事は完璧でもなんでもない。
「良かった……縛り玉が運よく割れてくれて」
「じゃなきゃラルドが拘束されて、僕達も相当苦労したと思うよ。後ろを向いてたから……シルガもシルガだよ」
「策は練って練るべし」
「粘土みたいに言うな!!」
「五月蝿いぞ」
全く、キザキの森は深いって訊いたから縛り玉を五個と敵縛り玉を三個持ってきたけど……。
「これで敵縛りだま無くなったじゃねぇか!!」
「ちなみにまだ8Fぐらいだよ」
「悩まされるよ……君達には」
「お前達は……馬鹿か」
馬鹿じゃない、寧ろシルガの野郎はなんでこう……そうだ!
(次にモンスターハウスに迷い込んだとき……見てろぉ)
俺は如何にも悪巧みを考え付いたような顔で笑う、勿論小声で。
「……ばれているに決まっているだろ」
結局それからはシルガが先頭になり、今まで俺をモンスターハウスに陥れるために有効活用した波動を通常での使い方でモンスターハウスを避けていき、ラルドの策略には嵌りませんでしたとさ。
ちなみに策とはモンスターハウスの人ごみならぬポケモンごみの中、放電の範囲まで近づいて放電の餌食にしてやろうと言うなんとも姑息な罠だった。
〜☆〜
「ここがキザキの森の奥地……?」
「暗いね……まるで」
「――時が止まっている……?」
「その通りみたいだな……急ぐぞ!」
やっと着いたと思ったら今度は時が止まっている!? ……最悪な予感しかしないな。
そして……。
「はぁ、はぁ、ここが……奥地!」
「時の歯車は……ある!? じゃあなんで時が止まっているんだい!!?」
「焦るな……リード」
「解かっている。……よっと」
ヒョイ、と跳躍して翠色に光る時の歯車を……盗った。
「な、なにをしてるの!?」
「元々、ここの時は止まっていたんだ。今更盗ってもなんの意味も無い」
「そうだね……確かに」
「些か疑問が残るだろうが、戻るぞ。この事で新たに謎ができた……ラルド」
「お、おう!」
俺は探検隊バッジを黒に染まった空へ掲げる。
ちなみに探検隊バッジは緊急時だけ許された場所指定機能がある、いつでも場所を指定できたらそれこそ犯罪で一番役に立つ。
この機能はゴールドランクにだけ許された特権なので、エンジェルは付いていた、と言うわけだ。
そして――黄色い光に五人は包まれ、西の方向へ消えていった――。
〜☆〜
戻ってから小一時間、俺達は隠れ家で一人ひとり違う考え事をしていた。
そして――俺もそろそろ情報収集に行かせた奴が戻ってくるだろうと思い、腰を上げる。
「たっだいまー! 情報を集めてきたよ!!」
的中だ、勘で波動を使わなくても解かるようになってきた。やはりあの力がポケモンになって馴染んできたという訳か。
「戻ってきたのかミル、じゃあ早速……」
「解かってるってラルド、情報でしょ? 言うから座って」
「へーい」
興奮するラルドをミルが収め、ドロンの種を使って集めた情報をミルが報告する。
何故ミルか、だって? ……本当にやらなきゃいけないとき意外は鈍間だからな、こいつ。
用は考える時間を延ばすためだな。
「状況は……はっきり言って悪いの。あれからユクシー達が元の場所に時の歯車を直したんだけど、それでも時が止まったまま、寧ろ被害が大きくなってるらしいの」
「それはまたなんで……?」
「さぁ? 皆も解からなくて困ってるみたいだけど……」
「……遂に“時限の塔”が崩れ始めた証拠だな」
やはり……か。時の歯車があるのに時間が停止してる時点で気付いていたが……確証を得なければならなかったからな。
「なんで解かるの?」
「時の中心地である時限の塔が崩れるイコール時が止まっていくという事だ。つまり着実に……あの未来へと近づいていってる」
「「ええええぇぇぇぇ!!??」」
予想通りの声を上げる二人、ちなみにフィリアは入っていない。
「じゃ、まずいんじゃ……」
「ああ、だから……二グループに別れて行動する」
「どういう意味だい?」
「俺が時の歯車回収をする、お前達は……“幻の大地”の捜索をしてくれ」
「「「“幻の大地”……?」」」
やはり「なんだそれ?」や、「なんだいそれは?」とか「なにそれ?」などの声が上がる、予想済みだがな。
「時限の塔へ行くための場所だ。ただ絶対に見つからないらしい、海にあるとか言われているが……」
「正直言ってどんな文献にも行き方については書いてなかった……だが今は甘ったれた事を言ってる場合じゃない」
「そこでだ……残りの四つの歯車を俺が集め、お前達が行き方について探す。時の歯車の場所は知っているから捜索に人手をかけるのはまず当然だ」
「だから……エンジェル集合って事か?」
「ああ、時を司る時限の塔が崩壊する前に、時の歯車をはめなければならない――それが俺達の使命だ」
……断ってもいいがな。と心の中でシルガが付け足したのは誰も知らない。
「へっ……気に食わないけど、この世界は気に入ってるしな。元人間だった俺にも失礼だし」
「頑張って成功してこないと今までの努力が水の泡、同じ草タイプとして応援するよ。もちろん加勢もね!」
「こっちは任せて、行ってらっしゃい! リード」
「……有り難う。じゃあな」
いつもの様に素っ気無い態度で出て行くリードだが……三人にはちゃんと解かっていた。
――照れくさいのを隠すためだったのと。
「こっちに任せて……そっちは頑張れよ」
「じゃ、ラルド!」
「ラルド!」
「……ラルド」
「ああ、行くぜ……探検隊エンジェル。目標を幻の大地への行き方の情報収集へとシフトする……出発!!」
「進行〜!!」
いつやったかも忘れた下らない掛け声で、世界を救うと言う最高で最強で最も難易度が高い依頼へと――進行した。
次回「ギルド、帰還」