ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜空を包みし翼〜












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第八章 幻と謳われし大地
第五十七話 過去に帰りしエンジェル
時の回廊と呼ばれる時空ホールと良く似た物へ入っていった俺達は、過去に帰って来て――?





〜☆〜

「うわぁッ!?」

「きゃッ!!」

「よっと」

「……ふん」

「おっと」

ちなみに声の順番は上から俺、ミル、フィリアにシルガ、そしてリードだ。
ただ他三人は何故か慣れており無事着地できたもの――俺とミルは顔から直撃した。

痛ぇ……って、あれ? 想像よりは痛くない……。

「ら、ラルド! ここって……」

「え? ……あぁ、ここは……」

俺達が来た日はまだ朝だったらしい、恐らく昼時だろう。真上に太陽がある。
更に海があり、波の音でそれはそれで綺麗と呼べる景色だった。
そう、ここは……。

「俺達が偶然会った“海岸”……か」

そう、必然か偶然か、どちらかは解からないが会ったのは確かだ。もしかしたら必然かもしれないが……。

「懐かしいね……そうそう、今丁度ラルドが倒れているところだったよね」

「そうだな……今となっては懐かしいよ」

あの時、あの出会いが無ければ今ここに俺はいなかっただろう、最悪餓死やダンジョンに知らず知らず入ってこの世から消えると言う事もあったかもしれない。
それでもここにいるのはやはりミルのおかげだろう、そう思うと命の恩人じゃないか。

「で、これからどうするんだ?」

「そうそう、これからどうしよ……そういやフィリア達はなんで未来にこれたの?」

「ミルとラルドが引きずり込まれた瞬間に反応したのさ、少しユーレさんを疑ってたし、シルガは予め茂みに隠れてたらしいけど」

隠密行動ならシルガが一番! ……とか言えそうだもんな、全く気付かなかった。

「……じゃあギルドに戻ろっか、あそこならベッドもあるし……」

藁のベッドか、この世界では上等なのか? ……いや、フィリアの家は普通の俺の記憶どおりのベッドがあったからな、予算が少ないのか?

余談だがフィリアの家があの大きい城と言う事をラルドはすっかり忘れていた。

「ちょっと待て。リードはどうするんだ?」

「へ?」

「ああ、この世界で俺は大怪盗なのだろう? ならばギルドに行った瞬間捕まるんじゃないのか?」

「そ、そっか……あ!」

またなんか良いアイディアを思い浮かんだらしい、ただ実行が安易にできるなら望ましいんだけど……。

「私が前に住んでいた家に行こうよ」

「え?」

「へー、ミルの家か、どこにあるんだい?」

「あそこに見えるサメハダ岩って所だよ! 着いてきて、もちろん隠れてね!」

どうやって隠れんだ……? 確かあそこに行くためにはトレジャータウンを経由しなきゃ無理だろ……あ、穴を掘るか。

「じゃあ、出発〜!」

まだ太陽が燦々と照りつける真昼の海岸の中、この世界では行方不明のエンジェル副リーダーが高らかな声をあげ、意気揚々とサメハダ岩へ向かって行った――。





〜☆〜

あれから数分、トレジャータウンの下を穴を掘るで通る、けど途中に川があったのでそこで足止めされたりで詰まった事もあった。
まぁ、結局はここまで来れたけどね……それよりもミルの家はどこだろう?

「ミル、君の家はどこにあるんだい?」

「えっと……ここだよ」

そういい近づいたのは草木生い茂る中の目立たない茂み……まさか。

「……良かった。誰にも荒らされてないや」

「隠れ家みたいだな、こういうの」

「お前が将来隠れて過ごしそうな場所だな」

「なんだとシルガ、この野郎!」

毎回喧嘩してたのを忘れてたよ、全く……ミルを見習わなきゃね。

「じゃ、入ろっか」

あの無視≪スルー≫スキルをね。



〜☆〜



「うわぁ、中は広いな」

「なるほど、サメハダ岩の口の中か……」

「ここがサメハダ岩って呼ばれる所以が全てわかったよ」

「これは隠れるのには十分すぎるな」

好印象だね、当たり前だけど。
まず湧き水がある、しかも石がくみ上げられてるから飲みたいときに飲める、更に藁のベッドも何故か六つはあるし。

「……十分すぎるな」

「今、俺が言おうとしたことを……この野郎」

「俺だって喋りたいんだ」

「じゃあ俺の言葉を奪うなよ!!」

別にいいんじゃないかな、言葉くらい……そういえば食べ物はどこにしまうんだろう?

「そろそろ……座れ」

「どうした? リード」

「話し合う、これまでの事を……な」

これまでの事……そうだね、確かに気になるよ。
一番は未来や星の停止じゃないけどね。

「そうだな、シルガ。まずお前から話せ」

「ああ、俺がポケモンになってからこいつと接触したのは水晶の洞窟でだ、時の歯車関連で脅したら着いて行くことはできた」

「脅したのかよ……しかも脅されたのかよ……」

「昔から交渉は上手かったからな、こいつは」

詐欺に適してるんだね、いいことじゃないけど。

「後はこいつが捕まってラルドが時空ホールに連れ込まれる瞬間に神速で来た。フィリアと同時だったが時空ホールは不安定だからな、落ちたのがヤミラミの集団のど真ん中だ」

「あれは死ぬかと思ったよ。いやぁ危なかった」

今なら笑顔で言えるけどあの時なら引きつってただろうね、本当に死ぬかと思ったよ。何せど真ん中だからね、軽く五十は越えてた……。

「で、最大の謎だ。俺の名前は“エメラルド”なんだな?」

「ああ、名前はな」

「苗字はどうなんだ? 無いのか?」

「さぁな……略称でラルドとなったのはレインが最初だが」

「レインが!?」

レイン……って確か四人と一緒に世界を救うためにやってきた……性別はどっちだろう。

「シルガ、レインはどこいるんだ?」

「ラルドの中に居る、気付いたのは会って直だな」

「早いな」

「波動で貴様の魂が揺らいでいるのを見たからな、異物を拒絶してたのだろう。今は少ないがな」

異物……魂宿る体に別の魂が入り込むんだから、相当負担も高いだろうし……それに。

「だったら、ラルドは本気の力を出せてないんじゃ……」

「何故そう思う?」

「体に異物が入るという事は追い出すのに力を使うし、何より体力の消耗が激しいしね」

「……ふん、そう思うのなら思っておけ。どう転ぶのか知らないがな」

そういうシルガの顔は少し真剣で、引きつっている所もあった。
という事は合っていたのだろうか? ……元が策士のような奴だから解からないのもある。

「さて、じゃあ次はこちらが教えてもらおうか……俺が居ない間を」

はぐらかされた気がするけど……いいや。



――結論は見えてきたしね。





〜☆〜

こちらの事を教えてもらう代わりに教えてもらった事。
まずはユーレの嘘混じりの演説から始まり、捕獲作戦――“封印”からの“シャドーパンチ”のコンボで捕まったことで終わる。

それを話し終わったときにはすっかり夜だった、他の奴らは満月を見ていたが……俺は違う。

「シルガァッ!!」

「“見切り”」

「ちょっとラルド! “十万ボルト”はやめてぇ!!」

「ここはダンジョンじゃないんだよ!? 人の家で暴れるってどんな教育受けてきたんだい!!」

「記憶が無いんだから知るはずも無いだろうが!!」

ラルドの攻撃なんて普通に避けれるんだがな……おっと。

「“気合パンチ”!!」

「“守る”」

守る、見切り、守る、見切り……この連鎖は止められないはずだ。

「“フェイント”!!」

「“見切り”……かはっ!」

「……馬鹿かお前達は」

「そう思うんならリードも止めてよ!!」

いつも通りこの後フィリアに睡眠の種を投げられる……もこんな時だけラルドと同じ行動で眠る事を回避する。

「カゴの実!」

「しまった、いつもなら無いから油断してた!」

「馬鹿だな、戦いは一手二手先を読む方が勝ち……ぐぅ」

「なんとなく投げてみた睡眠の種が……」

「ナイスだよ、リード!」

その後ラルドは連れて行かれ、夜のサメハダ岩に哀れなピカチュウの断末魔が響き渡った――。





――一時間後……。――

「で、これからどうする?」

「一気にラルドが本気の顔になったね……」

「それは決めてある、時の歯車を回収するんだ」

「どこにするんだ?」

時の歯車があるのは“キザキの森”“巨大岩石群”“霧の湖”、それに“地底湖”、“水晶の湖”だ。

「ここから一番近いのは地底湖だけど……」

「いや、キザキの森へ行こう」

「遠い?」

「ああ、だがその分ダンジョンは他より安易に突破できるし、なにより番人がいない」

番人が居ないと言うことはどういうことか? 一つ目は無駄な争いをしなくていい事、二つ目はばれにくいと言う事だ。

「じゃあ行くか……明日に」

「そうだね。今日はゆっくり休もうか」

「じゃ、おやすみ!」

どこからとも無く取り出した藁ベッドを引くと、ものの十秒で寝るミル、余程疲れが溜まっているのだろうか、そう考えると過酷だったと今でも思い出せるラルド。

「僕も寝るよ。おやすみ」

「ああ、さっさと寝ろ」

「君もね」

「ぐ……ぐぅ」

さすがのシルガも反応できずに眠ってしまう……というかフィリアの睡眠の種投げはプロ級だ。これにプロがあるのかどうかだが。

「じゃ、俺も寝るか……おやすみ」

瞬間、視界が黒く染まった――。



〜☆〜



……。
だめだ、全く眠れない。

「さっき寝たからか……?」

睡眠の種、恐ろしい……生活に支障をきたすのが主な原因で。

「……ラルドか?」

「この声……リードか。どうした?」

「いや、実感が湧かなくてな。時の回廊が不安定になり、嵐に巻き込まれ離れ離れになったとき、俺はどこに着いたと思う?」

「さぁ?」

「東の森だ。こことは離れているだろう?」

離れている……確かにな。キザキの森ほどではないけど。

「そしてお前がポケモンになり、レインと一つになった……不思議で仕方ないんだ」

「一つになるって変な言い方だな」

「ああ、でもこれだけは忘れるなよ。ラルド」

「なにが?」

急にシリアスになったと思ったら忠告か? 有り難いけど……違うだろうな。

「姿かたちが変わり、記憶を失っていてもお前は俺の親友だ。これだけは変わらない」

「……ああ、そうだな」

記憶が全く無いといったら嘘だが、あるといったら無いと思う。
一体、どれだけの嵐だったんだろうな……“時空に干渉できるほどの強さ”だもんな。

「あれ? 時空に災害が干渉できるか……?」

……もう無理だ、考えるのは苦手なんだし。
ふぁあ、眠たくなってきた……じゃあな、おやすみ。



次回「煌めく朝日、崩壊する時の塔」

ものずき ( 2012/10/16(火) 18:31 )