ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜空を包みし翼〜












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第七章 暗黒の未来
第五十六話 絶望に抗う者、そして……
――やっと時の回廊が見えてきたと思ったらユーレや部下のヤミラミに囲まれる始末、なんとか退けようとするも闇に染まった最強の生物、時の神“闇のディアルガ”が現れて――。





〜☆〜

「あ、あれが……“闇のディアルガ”」

俺の本能が告げる、逃げろと。
だがここで引いてはここまで来た意味がない、それにまず逃げる事もできない。
どうすればいいのだろうか? ……完全に詰んだ。

「あ……あ……」

ミルに至っては涙を薄っすらと浮かべている。当たり前だ、元々臆病なミルの事だ、今の今までの事で泣かなかったのはそれ以上にショックが大きかったからだろう。
だが、今は違う。ショックを遥かに上回る恐怖に身を震わせている。

「なっ……に……?」

「これは……不味いですよ」

解かっている、だがこの状況はどうにもならない。
目くらまし? 相手は神だ、更に暴走しているのだから殆ど本能で動いているはず、見つけられる可能性もある。

「詰んだ……ここで終わるのか? 俺の人生……」

ああ、この状況はどうやっても覆せない、真実を知った直後殺られるなんて……シルガ、後は頼んだぞ。

「……降参だ。ユーレ、この状況はどうやってもダメだ。好きにするが良い」

「リードさん!?」

「ほう、諦めるのが早いな……」

「当たり前だ……それにまだ希望もある」

「き、希望? だ、誰が希望なの?」

多分シルガやレインのことだよな……多分。
それにしてもミルはまだ泣いてるのか……ははっ、終わるって解かった瞬間妙に冷静になったな。

「ああ、さっきお前達にこの世界の現状を話したとき俺のほかにいると言っただろう?」

「……う、うん」

「俺を合わせて四人だ……それが」

四人? レインやシルガとこいつであわせて三人だぞ?

一つの言葉に疑問を覚えるラルド、四人って事はもう一人いるのか……?

「――レイン、シルガ、ラルド、その三人が俺とともに過去に行った者達の名前だ」

「……は?」

「正確に言うと“レイン・コキュート”に“シルガ・ルウス”、そして……“エメラルド”」

「ちょ、ちょっと待ってよ! ラルドはここのいるピカチュウの名前だよ!?」

「なにッ!? ……いや、違う。俺やヴィーレが知っているラルドは……“人間”だ」

え……? おい待て、それじゃもしかして……。

「フハハハ! リードよ、そこいるピカチュウはエメラルド、あだ名がラルドだったか!? そいつで合っている!」

「な、なにを……出鱈目≪でたらめ≫を!!」

「出鱈目なんかじゃないさ! そこのピカチュウが一番良く知っている! 貴様達が時の回廊を移動中に何らかの事故が起きた、無事にその時代に着いたものの記憶を失い、ポケモンになってしまった。覚えているのは自分の名前、しかも皆から呼ばれていたあだ名だ……これで解かったか?」

……それじゃ、俺は、俺は……。

「皆からいう……悪の立場なのか……?」

「違う! 大体ラルドはもっとひ弱そうだった、こんなに荒々しい性格や口調でもない!!」

「そこは帰ってから後ろのそいつに聞け……帰れたら、だが」

「後ろ……?」

つい反射的に後ろを向いてしまった、なにもいないだろう……と思い見たらそこには……リオルがいた。

「し、シルガ……?」

「帰ったら説明してやる。……ちっ、まさか時空ホールからの着地地点にヤミラミの大群がいたとはな」

他でもない、チームメイトの、一時的に勘違いで敵になった……リオルのシルガ、“シルガ・ルウス”本人だった。

「なんで……ここに」

「波動を感じながらここまで来たが……まさか“闇のディアルガ”がいるとはな」

シルガの見上げる先には闇のディアルガが俺達を上から見下していた。
何度見ても恐怖そのものだ……それにリードのいう希望通りの人数なら……絶望的だ。

「リード、ラルドだけは殺させるな」

「し、シルガ……だったのか?」

どうやらあの時点では知らなかったようだ、脅したか他のなにかだろうが……考えている暇は無い。

「何をしに来たんだよ……」

「助けに来た……と言いたい所だが計算違いだ。まさか神がいるとは思わなかった」

確かにそれは本当そうだ、現に顔には冷や汗が垂れている。

「さぁ、終われ!!」

「ちっ……終わりか」

「……皆、諦めないで!!」

「え……?」

絶望一色、そんな中少しでも抗おうと、声をかけた者が居た。

――ミルだ。

「どうしろというんだ? こんな状況の中で」

「解からない……けど、諦めちゃダメだよ!」

まさかミルがこんな事を言うとは思わなかった……ははっ、この言葉を絶対的絶望の中で聞いたのは死ぬ間際のささやかな神からのプレゼントか? ……皮肉だな。

「諦めたらここで終わっちゃう! 今までの努力はなんだったの!?」

「ぐっ……そ、それは……」

「だから……だから」

ミルはユーレのほうへ振り向くと、全く威圧感の無い、それで居てどこか威厳を持たせるような……そんな目で睨みつけた。

「ユーレさん……いや、ユーレ!」

「くくくっ……それでどうする? ここを突破できなきゃ意味は無いぞ?」

「やっぱり気付かないよね……フィリア!」

「やれやれ、やっと出番か……“エナジーボール”」

「――ッ!?」

いきなり現れ、ユーレを後ろから襲ったのは……他でもない“フィリア・レヴェリハート”だった。

「は、はぁッ!?」

「な……に?」

「全く、シルガと一緒に入ってなければ、罪も無いのにヤミラミに倒されそうだったよ……しかも着いたのが処刑場なんて、運が悪いね」

しょ、処刑場!? あいつ達がいたのか!?
……いや、あそこは暗かったから解からなかったのか、シルガもいたし作戦は練れただろうな。

「そこから君達の後を追って、あの洞窟で別れたのを見たと同時に作戦変更、先にここで待ち伏せしてたって訳……シルガがいなかったら危なかったね」

「ふん……やっと来たか」

なるほど、冷や汗を垂らしていたのはフィリアがまだ来なかったから……でも必要性あるのか?

「必要性? ……ああ、あるな」

「解かってるよ……」

「なにをしても無駄だ……くくっ」

睨みあう事数十秒、先に動き出したのは……。

「ヴィーレ、“時渡り”だ」

「なッ!?」

「え? でもディアルガがいるから直に破られるわよ?」

「いいから早くしろッ!」

「待てぇッ!!」

恐らくフィリアが何か仕掛けてくると踏んだのだろう、こちらへの反応が一瞬遅れる。

「――“時渡り”!!」

その言葉とともに、辺り一面が光に包まれた後――六人は消えていた。

「な、いない!?」

「落ち着け! ……ディアルガ様!」

時渡りは確かに便利だ、だがこちらとて策は用意してある。
恐らくそう思っているだろう、ただ……あまりにも焦り過ぎていたため、一周して逆に冷静になり……間があいた。

「グオオオオォォォォ!!!」

闇のディアルガは背中(?)についてある体の一部から赤い波動を出す。
刹那、ガラスが割れるような音が鳴り――時の回廊が青く光りながら開くのと同時に五人の姿が現れた。

「ああッ! 後少しだったのに!」

「大丈夫、もう開いてるから。あなた達は行って」

「で、でもヴィーレが……」

「大丈夫、ここで捕まっても過去に帰っても結末は変わらないし……じゃあ最後に」

「さ、最後?」

「あなた達に……私の命、預けたわよ」

言い終ると同時にミルはヴィーレに突き飛ばされ……時の回廊へと落ちていった。

「ぬぅ、おのれぇ!!」

「じゃね♪」

又もや閃光を発し、後の残ったのは――黄色い、バチバチと電気のような音を鳴らす球だけだった。



次回「過去に帰りしエンジェル」

ものずき ( 2012/10/13(土) 19:25 )