第五十五話 黒とピンクと闇の神
あれからリードについていくことを決めた俺達はリードを見失わないように後ろで談笑しながら……ただ何故かは知らないけど歩くスピードがやけに速かったな、うん。
〜☆〜
しばらく着いていくと、黒い森についた。時間が止まったせいで暗いのもあるけどそれでもなお暗いな……とか思ったり。
そういえばさっきから胸のあたりが変だな……。
「あれ? この感じどこかで……」
「やっと着いたか……」
「ねぇ、リード。ここが目的地?」
「ああ、ここの奥に……あいつがいる」
そういうリードの顔はどこか懐かしそうで、どこか会うのを躊躇っているようだった。
ただ二人がそんな事に気付くはずも無いのだが。
「準備は出来たか?」
「そりゃもう準備万端だよ! ね、ラルド」
「え? あ、ああ……準備は出来てるぞ」
「ならもう行くぞ。ヤミラミに追いつかれる」
「はーい」
ヤミラミやユーレという危険があるため二人は少し早く歩く。それは“歩く”より“小走り”の方が適切かもしれない。
だが俺は――。
(なんだ……? 奥に足を進めるたびに違和感が増してくる……待てよ? この感じは……あの時の!)
思考をフル回転していると、ある事に気付く。
――霧の湖や流砂の洞窟の時に感じた感じと同じと言う事を。
(つまり俺は……俺は)
ここを知っている……?
「――ラルド! 早く!」
「はっ」
結論に達しようとした時ミルに声をかけられる。そうだ、今はこんな事を考えている暇は無い。
「ああ、今行く!」
俺がここに来たのは、初めてじゃないのかもな……いや、初めてと信じたいな。
そして俺は、考えつつも“黒の森”というダンジョンに挑戦する。
――その後ろで見つめる黒い影に気付かないで。
〜☆〜
入って直に黒の森と呼ばれる所以が一瞬でわかった。
まず視界が狭い、ミルやリードを見るので精一杯だ、ミルはそうでもなかったらしいが……。
そのせいで“不意打ち”されたりするのはもう懲り懲りだ。
「で、もう直着くのか?」
「ああ、ここが目的の場所だ」
「ここが? さっきより視界もいいし広いけど……本当に?」
「ああ、今呼ぶから待っていろ。ヴィーレ! いるか!?」
ヴィーレ? ……ああ、目的の場所に居るポケモン、つまりタイムスリップできるポケモンか。
それにしても一体、誰がタイムスリップ出来るんだろうな……。
「……出て、来ないね」
「もう別の場所に移動したんじゃないか?」
「いや、そんな筈は……」
「もしかしたら、も捕まっちゃってたりするんじゃ……」
この言葉で全員の心に暗雲がかかる。おいおいまさか……。
『誰が捕まるですって?』
「えっ?」
? 今誰か喋った……。
「この声は……ヴィーレか!」
ヴィーレって……まさか!
その言葉に反応して、辺りを見回すと……前に光りが集まり、ピンクのセレビィ……ヴィーレと呼ばれるポケモンが現れた。
「こ、これがセレビィ?」
何せ初めてセレビィを見たのだ、ミルは初対面で失礼なこれ発言をする。
「ちょっと! そこのあなた、人をこれ呼ばわりしないでくれる!?」
「あ、ご、御免なさい……」
確かにこれは怒るな、これは……実は声には出さなかったけど俺も思ったけどな。
「まぁいいわ……だってそれって、私が想像以上に可愛かったって事でしょ?」
「え? あ……うん」
……イメージが変わった。普通のポケモンと思ってたんだけどな……テンション高くて声も高くて極め付けには自信過剰だとは、やっぱり幻とは言ってもポケモンか。
「で、どうしたんです? あなたがここに来たって事は失敗したんでしょうけど♪」
「ぐっ……すまない」
「全く、これっきりにして下さいよね。私の苦労も少しは……」
そこから少し長めの説教(?)が始まった、時間をロスすると思うんだけどな……しかもなんか笑顔だったぞ?
「ラルドも解かってないね」
「? なにが?」
「乙女の心だよ……」
そういうミルの顔は少し赤かった。やっぱり疲労が溜まってたんだろうな……ここで休ませなきゃいけないな。
この時点でもう既に解かっていない事と、ミルもミルで何故か急に秘めていた感情が表に出てきたのかは知らなかった。
「で、今回“時の回廊”を渡るのは三人ですか?」
「ああ、頼む」
終わったか……五分はいきそうだったけどな、リードが止めたのか。
「ん? そこのピカチュウ……」
「なんだ?」
「……いえ、なんでもないわ。では行きましょうか」
「どこに行くの?」
「私はね、短い時間なら自分の力だけでも時渡りは出来るんだけど……百年単位だと難しいの」
「「百年!?」」
俺とミルは同時に驚きの声を上げた、百年だとはとても思っていなかったからだ。
それにしても……何百年だろうな。
「五百年よ」
「え?」
「五百年後よ、ここは」
ヴぃ、ヴィーレか……人の心を読むなよ!
「じゃあ行きましょうか。ユーレ達に追いつかれたら元も子もないしね」
「そうだね、早く行こう」
「ああ、お前はいけるのか?」
「余計なお世話だ」
軽く話しつつも、ヴィーレ曰く“森の高台”というダンジョンに向かった――。
〜☆〜
“森の高台”と呼ばれるだけあって私達は相当苦労した。
モンスターハウスにも入ってしまい、最悪だった。
そんな苦労のなか、遂に森の高台の頂上、“時の回廊”のある場所に着いた。
「ここが……頂上?」
「ああ、そうだ」
「殺風景だね……何も無いよ」
ある物と言えば連なった大きい岩の柱だけ、正に殺風景だ。
「時の回廊は?」
「確かあそこに……」
ヴィーレの指差す方には……ヤミラミがいた。
「えぇッ!?」
「なぁッ!?」
「待ち伏せか……」
「八匹……倒せますね」
確かに私も倒せると思う、ラルドやリードにヴィーレもいるんだもんね。でもあっちには……。
「くくっ……私を忘れてはいないか?」
「忘れたかったよ!」
ユーレさんという難敵がいる限り、楽には倒せない。
「ふん、貴様とヤミラミだけでは、足止めが限界だぞ?」
「くくくっ……フハハハハ!!!」
「ッ! なにが可笑しい!!」
「くくっ……いやなに。貴様達が無様に敗れる姿を想像してな……それより私達がこんな少数でここで待ち伏せるとでも思ったか?」
「なにッ!?」
ユーレさんや八匹のヤミラミだけじゃない……? まさか増援? ヤミラミが更に増えるのかな。
「楽しみだよ、絶望に落ちる貴様達が……“ディアルガ様”!!」
“ディアルガ様”、その言葉は聞き間違いだろうか。確かリードのよると、理性を失って暴走した通常のポケモンでは叶わないであろう神と呼ばれしポケモン……通称“闇のディアルガ”!!
そんな事を考えているうちに辺りが暗くなる。必死に灯りを求めるがここは未来世界、光なんて無い。
「グルルルル……」
ふと恐怖に包まれたような声が聞こえてきた、声が聞こえてきた場所――連なった岩の上――を見ると、そこには――
――紅く、不気味な光を出しながら佇むポケモンがいた。
「グオオオオォォォォ!!!」
紺色の恐怖という二文字で現したような体に、紅く不気味に光る線を持つ神と謳われしポケモン――“闇のディアルガ”がいた。
その神の登場により、私達は絶望へと叩き落されていった……。
次回「絶望に抗う者、そして……」