第五十四話 VSミカルゲ――星の停止の真実
ミカルゲと名乗るポケモンに出会った俺達は、どうやら負けて拘束されているリードを助けるためと、流れでそのポケモンと戦う事になり――?
〜☆〜
「ミカルゲ……? 訊いた事無いな」
「その筈だよ……希少なポケモンで、あの石に封じ込められてたし……」
あの石、とはミカルゲの下にある明らかにいらないだろうとも言える罅割れた石の事だ。
それにしても封印って……どっかのファンタジーか? ゲームなのか?
「でも……いつ目覚めたんだろう」
「ここは未来だからな。俺達の過去より少しさきで目覚めたってこともある」
……それにしてもさっきから揺ら揺らと揺れていて正直鬱陶しいな。このミカルゲ。
「少し大人しく……してろッ!」
本気で鬱陶しいのでもう倒すとか倒さないの問題じゃなく、ただたんに追い払いたいだけになっているのだが……相手は本気だ。
そんな気で放った“十万ボルト”は相手の“シャドーボール”により相殺される。
……尤も、そんな気で放った“十万ボルト”でさえ本気と思われる“シャドーボール”を相殺したのだから驚くが。
『コンナ攻撃デ……我ヲ倒セルトデモ?』
「いやー、正直お前は防御は高性能だしな。俺達が普通にこの距離からやってたら無理がある」
『当タリ前ダ』
「だったらさ……至近距離だとどうなる?」
『ナニヲ……グゥッ!?』
ミカルゲは至近距離という言葉を訊き、咄嗟に後ろ向こうとする。だが、それは黒い光線により阻まれた。
「やった!」
「“シャドーロアー”……いやー穴を掘るでミルが後ろから奇襲作戦、でもこれで後一発しか撃てなくなった」
多分今の俺の顔に似合う言葉は“恐怖”だろう。実際そんな顔にしているしな。
『グ……ヒィッ!!』
「だけどもう十分だよな……十万ボル……!」
『ヒィヤァッ!!』
は? という暇も無くミカルゲはリードに纏わり付いていた紫のなにか――恐らくは体の一部――を自分の体に戻すと、石に戻り、早々に立ち去っていってしまった。
「……え?」
当然“十万ボルト”は何も無い所へ着弾し、着弾した場所は焦げる。
「……どういう事?」
あまりにも呆気ないせいかいまだに戦闘体制のままのラルド。もしかしたら奇襲などでは――?
「奇襲などは無い。あのミカルゲは元に戻っただけだ」
「り、リード!」
「おいおい大丈夫か? 大体あんな雑魚に負けやがって……」
「……“不意打ち”されたんだ。その間に鼻から入られて……」
「鼻からって……手術かよ」
実際は金縛りをより強くする為のものだろうが……それでも鼻からはちょっと……嫌だな。
「で、なんのようだ? まさか俺を信用してくれるのか?」
「うーん……五分五分かな、信じられない所もあるし……」
この状況で悪と言えるのはユーレだろう、俺達を戸惑うことなく殺そうとしたんだからな。
ただ……。
「じゃあ無理だな。俺を完璧に信用してくれる奴じゃないと無理だ。不意打ちされたら後々で困る」
「……でもなリード。なにも信じないとは言ってない。俺達は星の停止の“真実”を知ってない」
「そ、そうだよ! それを訊かなきゃ解からないよ!」
これは賭けだ、もし教えてくれなかったら尾行してでも過去に帰る。だが教えてくれた場合は……一緒に行動し、ともに過去へ帰る。これが最優先事項だしな。
「……俺のいう事は嘘かもしれないんだぞ?」
「大丈夫だよ、鵜呑みにはしない。あくまで“真実”を聞くためなんだから」
「……解かった。ついて来い、ここじゃヤミラミ達に見つかる可能性がある」
「あ、ありがとう!」
「ふん……」
案外照れ屋なのかもな、リードも。
まぁ、気が楽になっていいか。
――その後に訊く事になる真実がどれほどの物かと知らないで。
〜☆〜
私達は今、まるで大きな岩が縦に割れたような比較的死角になりやすい場所に居た。
ただ真正面から見られたら絶対に見つかるけどね。
「さて……ここならヤミラミ達にも見つからないだろう」
「ああ、そうだな。……で? 真実とやらを聞かせてくれよ」
「それが気になってたんだしね……」
ユーレさんも疑わしいけど筋が通ってる所はあるし、リードもどこか信じられるし……だから五分五分なんだよね……。
「まずは単刀直入に言う……この世界は“星の停止”の状態になっている」
「それは解かってるよ。朝も来ないしね」
「それは助かる……そしてそうなったのは他でもない“時限の塔”が崩れたからなんだ」
じ、時限の塔? ……なにそれ?
「時限の塔ってなんなんだ?」
「時限の塔というのは……時の神“ディアルガ”が司る塔だ」
「でぃ、“ディアルガ”?」
訊きなれない単語に私は首を傾げる。こういうときにフィリアがいたら……物知りだし。
「“ディアルガ”? 時の神?」
「時の神“ディアルガ”は……時限の塔に住む神と呼ばれしポケモンだ。そして星の停止が起こった理由、それは……“ディアルガ”のいる時限の塔が壊れたからなんだ」
「時限の塔が壊れた? なんで?」
「さぁな? ……だがそれは時の歯車を頂上にはめればいいんだ。だから俺は時の歯車を集めた」
「えぇ!? で、でもユーレさんから訊いたのは全く反対だよ!?」
私が驚き声を上げると、リードは「ちっ、あの野郎……」と呟いていた。じゃあユーレさんの話は……全部嘘?
「そして時限の塔が壊れ、ディアルガ……いや、“闇のディアルガ”はユーレ達を部下にして俺達を止めようとしている」
「止めようって……殺すっていう事か?」
「そういうことも有るな。で、俺達が星の停止を調査しとめる方法を見つけたんだ。それが……」
「時の歯車?」
「ああ、過去に戻り時の歯車を時限の塔へはめる……それが俺達の使命だ」
使命か……あれ? そういえばなんで……。
「なんで“闇のディアルガ”なの?」
「時限の塔が崩れた事により理性を失っているんだ。ダンジョンのポケモンの様にな」
神様なのに……理性云々の話だとそんなの関係ないのかな?
「リード、さっきから俺“達”って言ってるところを見ると複数人だったのか?」
「そうだが……そこまでいう必要は無い。こちらの事だ」
「……話を聞いてたらリード達が正義じゃないの? だったら――」
「……勘違いするなよ。俺達が悪かと聞かれたられっきとした“悪”だ。過去を変えようとしてるんだからな」
「へ?」
な、なにを言ってるの? だって星の停止を止めるんだからこっちが正義じゃ……。
「なにがあっても元々のものを根から変えるのは良くない事だ。この事件はその最終形態のようなものだ」
「つ、つまりどういうこと?」
「もし俺が悪かと問われるのならば、どう感じようと“悪”だ。意味が解かるか? 貴様らが好きな正義のヒーローは平気で人を殺せるんだ……それが正常だろうがな」
「え……?」
つまり……つまり――
――私は私の感じ方なら悪なの?
〜☆〜
今の状況は最悪だ。
ミルの感じ方からするとミルや俺は悪となる、どっちも間違っては居ないのだが……。
それにしても俺達って……誰なんだ? シルガは解かるが……一緒に行動していた+あの知っているような態度を見る限りでは恐らくそうだろう。
「……私、ユーレさんに聞いてくる」
「悩みの種が満載だぜ……って、えぇッ!?」
「真実かどうかを聞いてくるのか?」
「うん……」
おいおいちょっと待ってくれよ! 馬鹿かミルは!!
「じゃあ、後で追いつくから……」
「……本気で行く気か? ミル」
「うん、じゃないと納得できない……」
さっき自分で言った事を忘れてるなこいつ……じゃあ攻撃ならぬ口撃と行きますか。
「じゃあ死ね」
「……へ?」
「ここで死ぬ覚悟が無いのか? ユーレの所に行ったら、どういう形であれバッドエンドだぞ?」
「そ、それは……!」
どうせ自分で気付いてたんだろうな……さて、止めと行くか。
「鵜呑みにはしないって言ったのは誰だったっけ?」
「ッ!!」
「そういったのに納得できないからって死にに行く? ふざけるのもいい加減にしろ! 命をなんだと思ってやがる!!」
「そ、それは……だって……」
「今やらなきゃいけないことはなんだ? 過去に変えることだろ? 一生こんな世界で生きていけなんて無理だろ?」
多分これは正論だ。元々こんな所で住んでた奴らはともかくとして俺達は太陽の光の下に生きてきた。いきなりそれが無くなったら無理だ。
「う、うん!」
「そうそうその意気だ。元気が無かったらミルじゃないぞ」
「それ、どういう意味さ!」
「そのままの意味」
やっと元気を取り戻したか……これで後は。
「俺はもう行くぞ。着いてきたいのなら来い、着いてきたくなかったら来るな」
こんなほのぼのとした空気の中、リードは忠告をしてくる。といっても忠告とは言い難いのだが。
だがもうさっきまでのミルと違う、答えは決まっている。
「……着いていくさ、過去に帰るまで」
「ふん……好きにしろ」
多分照れ隠しだろうか、早々に立ち去ってしまった。見失う事が無いように足跡が付けられているのはあいつなりの優しさだろうか。
「じゃあ行くか、ミル」
「うん、ラルド」
好転した事態の中、二人は再度過去へ帰る約束をする。
――ただその時に言った言葉の一つが、リードが居るときだったらもっと好転したかもしれないが。
次回「黒とピンクと闇の神」