第五十話 子と母親
あれから日にちがたち、プクリンのギルドから出てもう二日目……という所で、僕は決着をつけることにした。
〜☆〜
「……入ります」
「ん? フィーちゃんですか」
「はい」
僕は今まで教えられてきたとおりの言葉使いで自らの母親と接する……が、普通はこうではない。
「ねぇ、母さん。僕は今まで母さんの言うとおりに婚約を回避したくて♂のポケモンを何人も連れてきた」
「意味が無い事をしていましたしね……」
「――そして全員母さんの提案で泊まる事になって、朝見たらいなくなっていた」
「ッ!!」
「それに加えてラルドは知らなかっただろうけど……ラルドの部屋の前で母さんはいたよね」
その言葉に、フィルスは唖然とした顔を向けていた。
「あの時、僕が来たから帰った……けど僕が来なかったら?」
「な、なにを言うのです? フィーちゃ……」
「リーフブレードの体勢で扉の前に居るなんて、可笑しいよね?」
「そ、それは……」
今の戸惑いがあった言葉で確信したで、フィルスは元々凍てついたような顔が更に凍てついた。
ああ、確信が持てたよ……あの爆発でラルドが起きなかったのもあれだけど。
「母さん……なんで? なんでこんな事……」
「――フィーちゃんの為です」
え……?
僕は意外な答えに目を大きく見開く、だが直に母さんが気に入らないからと言う事だろうと頭の中で結論を出す……だが違っていた。
「フィーちゃんの連れてくる者達は外見ばかりです。中身も良くないとダメです」
「なぜ? 別にその人と婚約する訳でも無いのに」
この言葉に、母さんは顔に曇りを見せる。恐らく我侭みたいなのだったのだろうけど……問題を変えよう。
「じゃあ、質問を変えるね……なんであいつに拘るの?」
「そ、それは……私が認めた相手だからです」
「どういう認め方? これと言ったらあれだけど、ラルドとあいつは少し似ているよね? ……ラルドは戦いになると性格変わるときあるけど」
実はラルド、バトルになるとやけに攻撃的になる事がある。
だけど本人もミルも知らないので言っていないが。
「……フィーちゃんはこの国有数のお金持ちなのですよ? それが……あんな誰かも解からない馬の骨に!」
「やっと反論か……正直言うけどね、母さん。フィーちゃんの為って言ってるけどさ……そこに“僕の意思”は入っているの?」
「そ、それは……」
「母さん。僕は幸せになりたいよ。だけど……」
僕は恐らく最大の威圧感で母さんを睨みつけ、そして言い放つ。
「押し付けられて決められた、レールを沿って歩いたような幸せは嫌いだ!!」
「ッ!! そ、そんな……」
「じゃあね母さん。もし改心したら……一年ぐらいあとに来ても良いかな」
「ふぃ、フィーちゃん!!」
「じゃあね。母さん、そして……父さん」
僕は吐き捨てるように、部屋の防犯カメラに向かって言った。
〜☆〜
……少し大変な事を訊いちゃった。
他にも確かラルドが性格変わるとか……なんだろう?
……あーもう! 考え事なんて苦手だから全く解かんない!!
とにかく、フィルスさんは眠っちゃって更に縛られの種で硬直してるし……。
「さて、ミルとラルドに至急ここから急いで出るように言おうか」
「ふぃ、フィリア……?」
「ん? ミルかい。どうしたんだい? そんなに怯えたような顔をして」
「い、いいいイヤイヤなんでもない!! それよりなにか用!?」
「ふーん……至急ここから出るから。準備して。最も持ってきたものなんてトレジャーバッグだけだろうけどね」
良かった、さっきから聞いてたことはばれてなかったみたい……どんな反応するか解からないしね。それよりももっと重要な事聞かなきゃいけないんだけど……怪しまれないように。
(けど、今は聞かないのが無難かな……?)
そして次の日の朝になると、全てではないがこういう事は忘れているため絶対に訊く事はできないようになるのを本人はまだ知らない。
「私はトレジャーバッグ持ってるし……じゃあ後はラルドだけかな?」
「それよりも僕は疲れてるんだ……探検隊バッジをここで使う事にしようか」
「なるほど、それならここからでも直に帰れるね!」
だが探検隊バッジにも限度と言う物はあるに決まっている。
流石に大陸からでては使えないらしい……だが裏を返せば大陸中どこからでもギルドに帰れるので安心する事が出来る。
「で、ラルドは?」
「確か外の風に当たってくるとか何とかで……」
外に出たんだよね。あのトレジャータウンぐらいありそうな庭に。
「へぇ、じゃあすぐに見つけようか」
「そうだね……じゃあ私は探しに行くよ」
「ああ、僕も少ししたら行くよ」
「うん! 解かった!」
その時、ミルは肝心な所に気がつかなかった。
――フィリアの顔に曇りがあったことに。
〜☆〜
「ふう、外はやっぱり空気が良いな」
病人は部屋で休むって考え方が古いと思うのは俺だけか? ……最近は傷の治りが早いけど。
傷の治りが早いといえばシルガはどうしたのだろうか? あいつはしぶといからな……そういえばジュプトルはどうしたんだ? それに……。
「ああ! 悩んでてもしょうがねぇ!! とにかく早く帰るしか道は無い!」
この広い庭の中、一人で叫ぶのは変人としか言いようが無いがそれほど悩んでるのも確かだ。
「全く、最近も悩みが多いし……」
まぁ、そんなに俺が気にする必要は無い……のか?
「じゃあ戻りますか」
外の空気はおいしい、それにここは自然でいい。そんな所に騒音などあるはずも無く……。
「ラールードォッ!!」
「早く! バッジを!!」
「待ってください!!」
「え? バッジ? 待ってください?」
聴きなれた声に俺は振り向く、するとそこには……。
「早く! 探検隊バッジで転送を!」
「ラルドのでしか無理なんだから!!」
「え? う、うわぁ!?」
キリキザンに追われているミルとフィリアの姿があった。
「ば、バッジ?」
「そう!」
「は、早く!!」
「え? いや……」
「ああ、もう!!」
二人は俺のバッジを奪い取ると、ボタンを押す。
ちなみにバッジは常備携帯してるんだ、非常時の為に。そしてそのボタンは……。
「転送!」
転送ボタン、ギルドへ戻るボタンだった。
「一体なんなんだよー!」
そして黄色い光に包まれ……俺達は消えていった。
――プクリンのギルドのある所へ。
「ぶへぇ!?」
「痛っ!」
「きゃあ!」
三人が現れたのは、ギルドの自分達の部屋……探検隊エンジェルの部屋だった。
「こ、ここは……私達の部屋?」
「良かった……あの城から抜け出せたよ」
「は、早く退け……重い」
その後、ラルドが完膚なきまで叩きのめされたのは良い思い出だ。
理由は重いといったから、ラルド自体は理不尽だ! らしいが二人にとっては相当怒り狂うらしい。
「ん? 戻ってきたのか?」
「ぺ、ペルー」
「何のようだ?」
「いや、お前達が転送で戻ってくるときはここだからな……今日は」
今日は? なんか日ごとに変わるのか? ……解かる訳ないけど。
「それで? なにかあったか?」
「い、いや……特には」
「そうか……なら明日と明後日は報酬を全てとらせてもらうからな」
「「「えぇえええ!!?」」」
久しぶりに、ギルドに活気が戻ってきた一日だった。
次回「リード捕獲と未来への道」