第四十九話 緋色と黄色のフィリア争奪戦!?――後編
あれから戦い用の部屋に行き、そこに行くと同時にヒイロと俺の二人きりで閉じ込められることとなり――?
〜☆〜
さて、俺がここに入った瞬間に閉じ込められた理由を考えよう。
ヒイロが睨みつけてくるけど、この際は無視だ……いや、理由は邪魔が入らないようにか。
至極簡単な事だけどな……いやー、この状況は嘘といって欲しいなー。
――首に剣を突き立てられているなんて。
「おい、中央まで行くぞ。不正はするなよ? ……その場で叩き斬るぞ」
「怖ぇな……」
いや、解放なんかしたらもしかしたらいけるかもしれないけど……それでも危険≪リスク≫が大きすぎる。
(こいつのタイプは炎……剣を使うと思うけど俺に不利な相手では……多分無い)
問題はどんな剣なのか、だろう。それは誰だって未知の武器と戦いたくは無い。
剣……もしかしたら炎を吹き出すとか? ……無いな。
「ついたな……じゃあ、始めるぞ!!」
「へ?」
先程の冷たい空気とは打って変わって、元の熱すぎる空気へと様変わりする。
それはまるで冬からいきなり夏になったような……?
「うりゃあッ!!」
「い、いきなり!? ……“見切り”」
剣を首に突きたてられ、いきなり剣を振り上げる。頬の電気袋から血が流れるが溜めた電気がもれる事はないので安心だ。
とにかく俺はそんな事を考えつつも、剣筋を見切り、直前で避ける。
「この野郎……“十万ボルト”!!」
「甘いな! 俺にそんな小手先の技……効かねぇ!!」
俺の体から発せられる電撃――“十万ボルト”を撃つも、赤く輝く刀身に……切り裂かれた。
「はぁッ!?」
「残念だったな! ……“龍の怒刀”!!」
「ど、ドラゴンタイプ!?」
さっきまで赤く輝いていた刀身が、今度は赤黒いエネルギーに包まれる。恐らくは“龍の怒り”で包んだのだろう……だが。
(どういうことだ? 龍の怒りを乗せたとしてもあの剣で耐えれるのか? そもそもそんな高等技術どうやって……)
今の時代、武器にエネルギーを乗せるなんて無理だった。ましてやドラゴンのエネルギーなど……なのにこの刀は龍の力を帯びている、一体どうして?
そして、長く攻防が続き、それとともに考えも深くなっていく。
「そういえば……さっきもなんか赤くなってたような……うわぁッ!?」
「余所見、または考え事をしている暇なんてあるのか!?」
「くっ――“見切り”!」
「へっ、タイミングがずれて……」
そうだ、タイミングがずれた。だがそれが狙いだ。
この前確かにどこかで見た戦法……見切りで早々に相手の動きを把握して……。
「“雷パンチ――二連”ッ!!」
「ぐほぁッ!?」
カウンターを食らわしてやる。しかも懐ががら空きなのでダメージは全て通る。
更に二連なので、普通よりは倍のダメージだ。
「ぐ……はっ……」
「あの剣がどうなってるのかは知らねぇが……俺は負けねぇぞ!!」
「かっ……い、良い答えだな……“炎の斬波”!」
炎が渦巻き中に斬撃が中に入っていた、斬撃と炎が絡み合った攻撃は俺を吹き飛ばすには十分だった。ピカチュウが体重が軽いのもあるのだが……。
「熱ッ――?」
「隙だらけだな! ……“紅蓮霊”!」
「なにが……“十万ボルト”!」
紅蓮霊と呼ばれる火の玉を、十万ボルトで軽く打ち消すと同時に後ろに下がる。
(なんだ……あの剣は……!)
あの剣は自由に発火させる事ができるらしい……だが任意で可能らしい、さっきまでの攻撃で解かった、という事は……。
「くそっ、もう少し証拠があれば……」
謎は考えれば考えるほど深まるばかり……ん?
そういえば……俺がこうだと思うのはなんでだ?
えーと、確か……! そうだ、あの時だ!!
「長い攻防の時に……あいつが遠距離攻撃を使ったときだ!」
そう、長い攻防が続いたその時、ヒイロは火炎放射を放ったのだ。
その際に赤く刀が光った……つまり炎の発生源は、『ヒイロ自身』!!
「あいつのエネルギーをどうにかしないと……でもどうやって?」
「おりゃあッ!!」
「あの調子だし……」
本当にどうにもならない……受け流しの連続? 無理無理、そんなの無理だな。じゃあどうする? ……あ。
「確か、あの時……」
『あなたはその剣の能力の炎で衝撃やらを吸収するからいいでしょうが』
それはつまり、裏返しにすれば……“必ず衝撃は炎で防御する”という事になる。
そして俺は今、気付かなかっただろうがバッグを持っている。
「確か出発前に十発は爆裂の種を入れておいたはず……これは」
バッグの中から一つだけ爆裂の種を出すと、投げつける。
「ん?」
ヒイロは俺からの攻撃が技じゃなくなったのに戸惑うが、自らの炎で衝撃を吸収する。
ちなみにフィルスさんの爆裂の種入りのエナジーボールはクイーンナイトと呼ばれる精鋭達が切ったそうな。
「これは……卑怯だけど勝てるぜ!!」
途中の一言が無かったらどんなに良い言葉か、恐らくミル達も訊いていたらそう思うだろう……いないが。
〜☆〜
あれから数十分、両者共疲れているが恐らくヒイロのほうが倍疲れているだろう。
爆裂の種でのエネルギーを減らす事も失敗に終わったが、あらゆる方向からの爆裂の種は案外苦になったらしい。
「はぁ、はぁ」
「つ、疲れただろ? ……そろそろ終わりだ」
「の、望む所じゃねぇか」
ん? あれだけの攻撃でこんなに息切れするか? ……まぁ、いいだろ。
「行くぜ……超帯電≪ボルテックス≫!!」
「ッ!?」
俺は体に負担がかかる超帯電≪ボルテックス≫を発動して、直に倒す事にした。
「ぐ、“紅蓮霊”!!」
「……そんなの、受けてやる」
俺は態と紅蓮霊を受けて立つ。その紅蓮霊と呼ばれる技は鬼火と酷似している――が威力は火炎放射並で、なのに火傷状態にはならなかった。
「っ! ……今度はこっちの番だ」
「う、うるせぇ!!」
ヒイロは剣を持つと、俺へ向かってきて……。
「“龍の怒刀”!!」
を、思いっきり振り下ろす。
だがそんな単調的な攻撃を避けれないはずも無く……呆気なくそれは避けられる。
「懐ががら空きだぜ!」
「しまっ――」
遅い、とでも言わんばかりに高速で拳に自分が持てる最大の雷を纏わせると……。
「“ボルストレート”!!」
「ごはぁッ!?」
剣ほと、ヒイロを吹き飛ばす。もちろん剣は離れるわけで……。
「や、やっと倒した……ふう」
今回は目立った外傷も無く、良かった……とはいかず、疲労は今まで以上かもしれない。
「ぐ……き……」
「え?」
「ま、負けるもん……か……!」
「ま、まだやるのか!?」
フラフラと立ち上がるヒイロを見て、一瞬言葉を失った。
なにが彼をここまで突き動かすのだろうか? ……恐らくフィリアだろうな。
今、俺には電気もない。当然ヒイロもだ。
「つまり……ここからは純粋な筋力だけだな」
「そ、そうだ……!」
そして、俺とヒイロの、殴り合いが始まった――。
〜☆〜
「いやー、はっはっは。まさか直前で手の甲に剣を刺されるなんてな」
「本当だよ。全く……」
今、私は救護部屋にいる。
ヒイロのほうは打撲だけで大概はすんでいる。だがラルドはヒイロの最後の一刺しで手の甲を突き刺されたのだ。
「血はあんまり出てないだろ?」
「出てるよ!?」
実際は出ていない……だがミルは血などあまり観た事が無いため、異常に反応する。
「おいおい……」
「大体、ラルドは……」
その後、説教は何時間まで続き、ラルドは怪我人ながら小一時間は正座するハメとなったとさ。
「ふう、ラルドとミルは五月蝿いね」
緑のポケモンはそういいながら、扉を横切る。
「さて、どうしようか……」
その瞳に、深い悩みを湛えながら……。
次回「子と母親」