第四十四話 女神が微笑んだのは?
……俺は背中に“リーフブレード”の大切り傷を負い、更に腕の骨まで折ってしまっていた。こんな状況を最悪と言わない奴はいないわけで……。
〜☆〜
大人しく目を閉じて、そのまま楽になる。それが今俺が要る状況での最善……ではないが、の策だ。俺からしたら、だけどな。
そして、目を瞑る事数秒……。衝撃はいつまで経っても来なかった。
後から聞いてみたらあの時のフィリアの状況と酷似していたらしいが……俺がゆっくり目を開けると、そこには……
――黒いエネルギーを手に纏ったヨノワール、ユーレが立って(浮かんで)いた。
「お前……は……?」
「間に合いましたかラルドさん。実はあの後エンジェル捜索なるものが始まりまして……水晶の洞窟へ行ったんじゃないかと思いましてね」
「あ……」
そういや、俺達誰にも喋ってないんだった……。
「おや? あのリオルさんは……?」
「あ、あいつなら……どっかで散歩でもしてんじゃないか? 自由奔放だし……」
いえるはずが無かった。それも、こんな新参者紛いの奴になんか、絶対に。
……そういえば消えてるな、あいつ。やっぱりそれ程あいつには重要な事なのかな……。
「でも、その前に……リ、リードを倒さないと……」
「そうですね……すいません」
「へ?」
刹那、その黒い手のよって……俺の意識も黒に消えた。
〜☆〜
大変な事が起こった。
なんと、僕が目を覚ましたと同時に……ユーレさんがラルドを気絶させた、方法は害をなさない物だったのだが……何故だろう?
僕は警戒をして、リードとユーレさんの状況を見る事にした。
「やっと……やっと見つけたぞ!」
「お前か……随分必死だな。さしずめ“時の神”からの指令だろうがな……」
時の……聞こえなかったな。時と言ったらセレビィや神レベルのディアルガだけど……そんなのに会えるのかい? 普通の人が。
「リード、貴様は……ここで捕まえるぞ」
「ああ、それが常識に考えたら妥当だろうな……常識ならな」
そういいリードは片手を挙げ……手首から刃を作り出す。
「やる気か? 私と」
「ふん……行くぞ!!」
「来い!!」
僕は頭がこんがらがって、頭の処理が追いつかなかったが……これだけは見た。
――リードが青い玉を直前で二つ割っていた所を。
(あれは……“光の玉”と“ワープの玉”!)
光の玉その名の通り閃光を発する玉、ワープの玉はどこかへテレポーテーションする不思議玉の一種。
(たしかに……あれは逃走用には非常に使える組み合わせだ)
光の玉で閃光を発し、ワープの玉でその場からワープする……なんとも便利な組み合わせだが、ワープの玉は半径五kmの間にしか飛べないので、直に探せば見つかるだろうが……。
と、ここまで考えている間にユーレさんが周りをキョロキョロ見渡している。恐らく逃げられたのだろう。
「くそっ! 折角“矛盾”を止めるチャンスだったのに……!」
矛盾? 確か……違う言葉だったら“パラドックス”だったっけ。
でも、なにが矛盾してるんだろう……? いや、これから起ころうとしているのか。
「勝利の女神はこちらに微笑んだようだな……逃がさんぞ!!」
そしてユーレさんまでもが消えて行った。
後のその場に残っていたのは……沈黙だけだった。
(さてと、どうしようか……動けないから連絡も出来ないし……)
傷自体はあの中でのリーフブレードだったからか、あまり深くは無い。今食べようとしているオレンの実でなんとかなるだろう。
え? 動かないのにどうやって食べるんだって?
……僕がこんな状態で蔓の鞭が使えるなんて驚いたよ。
「さてと、傷が治るまで寝ようか……」
その後、僕は目を閉じ――
「あッ!! あそこだぜ!!」
「本当ですわ! 見つけましたわ!!」
「早く転送を!!」
……ちょっと五月蝿いかな? 人が休もうとしているときに……まぁ、ユーレさんにばれてしまったら拙いので寝たふりをしようか。
「皆傷を負って寝てます!」
「ミルやフィリアは傷は浅いですわね……フィリアは放っておいても治りそうですわ」
「早く転送を!!」
ちなみにこの転送、転送と必死に叫んでいるのはチリーンのフウだ。全く皆は……。
「じゃあ、少し休もうか……」
僕はボソッと言うと、意識を飛ばした――。
〜☆〜
う……こ、ここは? ここはどこ?
私が目を開けると、そこには見慣れた天井があった。……なんだ、いつもの場所……か。
少しほっと胸をなでおろし、そのまま目を開けておく。
(そういえば……どうしたんだっけ。あの後)
記憶を探っていく中で、私はどんな気絶の仕方をしたのか思い出した。確か……。
――電光石火と高速移動のコンボで解かっていたのに体が動かなかって……そして気絶、と。
思えば思うほど情けない……目では寧ろ少し早いぐらいに見えたのに……目が良すぎるのもダメだなぁ。
私は今ほど自分の目を呪った事は無い。考えてみてください。いくら早い者でも見えればその速度が速いか遅いかで言えば遅い、なのだが……正直からだが反応しなかったら意味が無い。
「そういや、皆どうしたんだろう……」
寝ながらでも、私は首を横に捻って二人の安否を確認する。
良かった……二人とも無事だ。
「ん……ふぁあ。よく寝たよ」
と、もう一度休もうと寝ようとしたところに、聞きなれた声が聞こえてくる。それは……何故か大怪我を負ったはずなのに全然傷も消えていて、あまつさえ暢気に欠伸をしている……フィリアだった。
「ふぃ、フィリア? 大丈夫なの?」
「ん? ミル起きてたの。まぁ大丈夫だよ。身代わりを応用した盾で威力は少し殺したから」
ちなみに盾というのは自らの身代わりの一部分……尻尾の事だ。
「へ〜、やっぱりフィリアは凄いね。ソレと比べて私と来たら……」
それを真に受け、心底自分が情けないとネガティブモードに移行するミル。普段はポジティブなのに……。
「大丈夫だよ。ミルは強いって、僕はいざ本番になるとあまり力が出ないし」
「それであんなに強いの……?」
「い、いやだから……」
やっぱり……私は弱いんだよね……はぁ、強くなるって言って飛び出したのに……。
と、私は恒例のネガティブモード全開で負の感情一杯になる。
いつもはラルドが慰めてくれるんだけどね……どうしようかなぁ。
隣でオロオロしているフィリアを無視して、私は自分の世界に突入する。
(なんでこんなに弱いんだろう、私。こんなんじゃ皆に迷惑かけっぱなしだよ)
こんなのだったら……私……。
「探検隊になった意味あるのかなぁ?」
「ある」
「へ? ……フィリア?」
塔のフィリアは、周りが見えてないようで「どうしたらいいんだー!!」とか言って叫んでる。
全く、けが人なのに……。
じゃあ、もしかして……?
「意味は有るぞ。ミル」
「ラルド!? こんな怪我で起きたらダメだよ!!」
「シルガとの戦いの時のほうが酷かっただろ? ……ああ、ミル。お前がここにいる意味はちゃんとあるぞ」
「な、なに? こんな弱虫な私に……」
「まず弱虫は日に日に治ってきている、多分」
「多分!?」
こんな言われようなんて……やっぱり私なんか!!
「――そして、日に日に強くなってきている」
「……へ?」
「よく考えてみろ。お前あいつの動きを目で完全に追えたんだろ?」
「ど、どうして……?」
そんな事、普通の人には……。
「お前の目があいつの動きの合わせて動いていた」
前言撤回、このピカチュウは普通じゃ無かったよ。御免なさい。
「ほら、攻撃がダメでも司令塔? みたいな……プッ」
「司令塔で笑ったよね今!? えーどうせ私はそんなのには向かないですよ!!」
「大丈夫だって、ミルの目は異常だし……体が着いていかなきゃ意味無しだけど」
「絶対的確に私の欠点をついてる! 陰謀だ、誰かの陰謀だ!!」
「俺のな」
ああ! もうラルドは……開き直っちゃって……やっぱり口論では勝てないや。
「ははっ……やっぱり楽しいな」
「へ?」
「ミルと話してたら面白いし、元気がでるし……俺はミルがいないと嫌だな」
「え? いやそんなことは……」
正直、どれだけ顔が赤いか解からない。それだけ必要と解かると嬉しい物だよ?
「俺はミルが側にいるだけで嬉しいよ」
「はう……///」
「あ、ミルゥ!?」
私が倒れ、フィリアが助けて、ラルドは笑う……こんなのが日常だった。
――勝利の女神は、私達に微笑んでくれたみたい。
この言葉は、三人が同時に思ったのであった。
〜☆〜
あの後は大変だった。あの騒ぎでフウが起きた事を確認すると、頭のベルを鳴らしてギルドの全員に報せて……俺達はどれだけ体が痛んだか。
アグノムは俺達と一緒に保護されているらしく、今は無事らしい。
何故かシルガの記憶は無く……リードだけにやられた記憶しか無いらしい。一体……。
「ふむ……リードが来てやられて……エンジェルも奮闘したが結局やられそうになった所をユーレさんが?」
「ああ、その後俺は意識をなくしたけどな……」
(言えない……実はリードのことをユーレさんは知っていて、さらに元から追いかけていたことも……)
普通は言わなければいけないのだが……何故だが恐怖の兆しがあの時見えた。
(普通はユーレさんが正義なんだけど……)
と、フィリアが考えてるのもよそ目に皆が報告をしたり纏めていたりしていると……
――突如見張り穴からビービー! と音が鳴る。
「な、なんでゲスか!?」
「これは……コイルの緊急サイレンだな。どうしたんだ?」
そして、間もなくしてコイルの電気的な声が聞こえる。
『ビビビ、至急トレジャータウンノ広場ニ集マッテ下サイ、ユーレサンガ非常ニ重要ナ話ガアルトノ事デス』
活字だったらカタカナだな……多分。そういえば小説とかこの世界にあるのか?
「どうしたんでしょうか……」
「とりあえず行ってみるに限るぜ」
「じゃあ、僕たちも広場に行こうか♪」
プリルの一言ともに、俺達はトレジャータウンの広場へ向かった――。
次回「嘘か真実か」