第四十話 歯車の鍵は水晶!?
あの砂煙の中で見事リーフブレードを急所に当てられた俺は、ほんの少しの間動けなくなっていたのだが――?
〜☆〜
「く……あれ……は……?」
俺がやっと動ける状態になると、そこには高速移動も顔負けの速さで走り、俺の横を軽く抜いたジュプトル――リードがいた。
「ちっ……とりあえず報告を……って、なんだ!?」
立ち上がって探検隊バッジを取り出したと同時に、俺は見た。
――電撃の線のようなものが通った瞬間、その空間が暗くなり……時間が止まっている事を。
「なっ……拙い!」
俺は急いで走り、エムリットとミルを抱える。その間にも時が止まるのは進行していたが、なんとか間に合いそうだ。
「ぐ……送還……」
探検隊バッジを掲げると共に、俺やミル達は黄色い光に包まれ――消えた。
〜☆〜
「ねぇ、シルガ」
「なんだ?」
「君……なんであの時霧の湖に時の歯車があるって解かったの?」
「……あれだけ秘密があったんだ。キザキの森は霧の湖より強いポケモンが多い代わりに時の歯車が特別隠されているわけでもない、だからもしやと思って鎌をかけた。他意はない」
「そうかい」
いつも通りの会話の中にも、近頃は変化が見られる。その中でもシルガはあの霧の湖でのあの発言で少なからず時の歯車の関連性について疑われている。
「……ん?」
「どうかしたのかい?」
「ミル達が帰ってくるぞ……」
「本当!? 良かった……あれから夜になるまで帰らなかったから心配してたんだよ」
実はあの時間の中、外はもう真っ暗になっていたのだ。がミル達は地底にいたのでそんな事を知るはずも無く。
「だが……もう一匹いるな」
「えぇッ!?」
「恐らくジュプトルか……ユクシーのような番人かもな」
「よく解かるね……あ、来た!」
黄色く光る輝球が舞い降りると、それは弾け飛び……中からラルドとミルと謎のピンクのポケモンが出てきた。
「ゆ、ユクシー!?」
「いや、感情の神、感情ポケモンエムリットだ。それにしてもこの切り傷……まさか」
「す、凄い怪我じゃないか! 早く手当てをしなきゃ!」
「エムリットやミルは軽症だが……衝撃は強く受けたな。問題はラルド……こいつは少しだが厄介になるぞ。衝撃受けた所を狙い撃ちされたな」
この声は……シルガとフィリアか。良かった、これで……少しは肩の荷が下りる。
そう心の中でつぶやくと同時に、ラルドは気を完全に失った。
〜☆〜
僕は今、弟子部屋の一つ……僕達エンジェルの部屋に来ていた。そこでミルやエムリットと呼ばれるポケモンを手当てし、今は二人とも順調に回復している……だが、ラルドは一向に目を覚まさない。
「ねぇフィリア……ラルド……大丈夫?」
「うん大丈夫だよ。こんな事は何度もあったし……それに」
フィリアはチラッと横目でシルガを見る。
(シルガのほうが、よっぽど危険だよ……)
あの時シルガが時の歯車が盗られたと聞いたときに笑みを浮かべたのを、フィリアも見ていたのだ。元々シルガが少し怪しいと思い少しずつ監視していたら解かったことがある。
――シルガとラルドやミルは、僕が知らない秘密を共有している。
他にもミルも知らないこともあった。確か……“レイン”。
(こんな人、あの二人に接点あったか? それとも……このミルやシルガだけが知っているラルドの秘密と関係が? ……考えれば考えるほど解からなくなってきた)
僕は世間一般では賢いの域に入ると自覚している。だがこんなミステリーは人生で一つも無い。
「ミル、とりあえず安静にして……教えてくれないか?」
「え? な、なにを……?」
思ったとおりだ、ミルは隠し事や嘘をつくときには必ず耳が震えている。小動物の様に。
つまり……僕が何を聞こうとしているかも知っているっていうことだ。
「ミル、隠しても無駄だよ。君は嘘をついたら耳が震えるんだ」
「え!? 本当に!?」
「その反応は……知っているんだね? 君とラルドとシルガだけの秘密」
「ッ!?」
ミルが予想以上に驚くのも無理は無い、なんと言ったって僕に言ったはずも無いから。
何故予想できたかは君達の会話の中から見えたけどね……。
「……海岸でユーレさんに相談したからユーレさんも知ってるけどね……」
赤の他人に教えてチームメイトの僕に教えない――僕は今激しい怒りを覚えた。
「ラルドは……元人間なの」
「え……?」
これは……予想外だ。なにかの特殊能力の器とか、時空の叫びや特殊能力を持っている一族とかを考えてたんだけど……元人間の発想は無かった。
「しかも……時空の叫びっていう特殊能力持ちの?」
「うん、私が最初にラルドとあったのは海岸でなの……そこでラルドが倒れてて、最初は変人かと思ったけど結構優しくて……ラルドがいなかったらエンジェルはこの世に無かっただろうね」
ふーん、ラルドはこのエンジェルの中で最も重要な役割……といっても居るだけなんだけど。けれどそれでミルに勇気を分け与えたり、皆をやる気にさせるのは……間違いじゃない。
「ねぇミル。もしラルドがこの世から消えてなくなったら……どうなる?」
「絶対に嫌だ! ラルドは優しいし、強いし、頼りになるし、それに……」
これは……本当にあのピカチュウは。
「このチームの柱、だね」
僕の思考はここで終わるけど……君達はどう思う?
――この真実に隠された真実を。
〜☆〜
あれから数時間たち、今は翌日となっている。そんな中、俺は得意の回復力……はないが安静にしていたおかげか切り傷は無くなり、体力も元に戻る。
そして、俺達は今エムリットを加えた緊急会議が始まっていた。
「なるほど……という事はエムリットさん。ジュプトルはそんなタイミングで出てきたと? それであなたはそれを怪しんでるんですね……」
「ああ、そうだよ」
「ユクシーさんからテレパシーで聞いたんですね?」
「うん、ユクシーは相当やられてたらしいけど……それでもユクシーからはきたよ」
「なるほど……ふむ」
あれからジュプトルに会った俺やミルやエムリットから事情聴取をし、ユーレはなにかを考えていた。
「ふむふむ……ラルドさん。実はあの事を言いたいのですが……いいですか?」
「別に……」
あの事とは恐らく“時空の叫び”の事だ。でも、どうやって活用する……待てよ? 俺の能力は何かに触れたらそれに関係する過去や未来を見れる……つまり。
「ビーグさん。少しの間あの時の水晶をお貸しいただけませんでしょうか?」
「へ? い、嫌でゲス!!」
「い、いや。別に盗るわけではありません。ラルドさんの能力で可能性に掛けてみるんです」
「「「ラルドの能力?」」」
ギルドの弟子が満場一致で同じことを思う。それは皆が不思議思うだろう。
――能力ってなに?
「俺は物に触れると、大概の確率でその物に関係のある過去未来を見る事が出来る、以上」
「「「えぇぇ!!??」」」
皆が皆驚く、周りから「本当かよ!?」「凄いでゲス!」「凄いですわ!」などの声が聞こえるのも幻聴ではないだろう。
そして、妙にビーグに視線が集まっているのも、幻覚ではないだろう。
「うう……解かったでゲスよ」
ビーグはユーレに水晶を渡すと、ユーレは俺に渡す。
それを俺は触れ、目を閉じ……集中した。それはとても短かったのか解からないが……目眩がした。
「ぐっ……来た」
「おぉ!」
「これは……本当でゲスよ!」
そして目の前に……閃光が走った。
俺が見たのは、あの声だけのではなく、映像……映像≪ビジョン≫だった。
それはどういうものだったか……蒼いユクシーやエムリットに似たポケモンが……リードに襲われているところだった。
『貰っていくぞ……五つ目の……時の歯車を!』
『ダメだ……あれを盗っては……』
そして、再び閃光が走ったかと思うと……元の景色に戻る。
「ど、どうでゲスか?」
「ヘイ! ちゃんと見えたのか?」
「ああ……蒼いユクシーかエムリットに似たポケモンが――ジュプトルに襲われていた」
「「「え、えぇ!!?」」」
この発言で、皆は俺の能力を……信じたと思う。だけど……あんな場所あったのか?
「恐らくそこは普通には行けないんでしょう」
「私は基本あの二人の所にはテレポートで行くから秘密は忘れたよ」
「二人って……もう一人は?」
「アグノムと呼ばれる……意思を司るポケモンです」
アグノムって……ユクシーやエムリットもそうだけど、なんか独特な形だよな。
「そうと決まれば、今夜は徹夜で作戦を練りましょう……私は明日少し用事がありますが、皆さんに追いつけるぐらいには急ぎます」
「これで決まりですね……親方様、解かりましたか?」
「……ぐぅ」
「「「!!!??」」」
も、もしやプリル……こんな状況下の中……寝てるッ!?
(ま、拙い! このままでは親方様が寝ていることが……)
ペルーはプリルをこっそり揺らすと、小声で喋りかける。
「親方様〜、あの親方様?」
「……はっ」
「ああ、全く親方様……」
「皆! ジュプトルを絶対に逮捕するよ! たぁぁぁ!!!!」
「「「おぉお!!!!」」」
皆がプリルの一言でやる気がでて、俺達は明日の最後のジュプトルから時の歯車の防衛戦へ備え……作戦会議を徹夜でしたのであった。
ちなみにあの叫び声の時、ペルーが気絶しかけたのはいうまでもない。
次回「裏切り者の正体は?」