第三十七話 吹き荒れる違和感
ジュプトル逮捕作戦が開始され、俺達エンジェルは北にある砂漠、“北の砂漠”に来て――?
〜☆〜
「おーい、ここが“北の砂漠”ですか〜?」
「うん、そうだよ」
「暑いね……熱水の洞窟ほどじゃないけど」
「砂嵐も起きている……選ばれた中では最難関かもな」
いつも探検では死に掛ける事も少なくは無いエンジェルだが、今回ばかりはかなりの気を引き締めている。
こんな場所だからこそ、こんな環境に適応したポケモンが砂嵐に巻き込まれている時に襲われたら、ひとたまりも無い。
「可笑しいな……今年はあまり砂嵐は起きない時期なのに……」
「時の歯車の影響が強くなってきるのかな?ただでさえ可笑しかったのに、三つの場所の時が止まったんだもん」
確かに、そう考えるのが妥当だろうけど……なんか、違う理由もありそうな気が……する?
「さて、行くか」
シルガが勝手に歩き始めると同時に、俺達も着いていく。
実際今回の探検では探知能力に優れた波導を持つシルガが主力だ。
「……ここら辺は砂嵐、起きてないんだな」
「その代わり足場が不安定すぎるけどね」
「だね……遠距離技のほうが威力が落ちないかな?」
「そうだろうな……それよりも」
シルガの合図と共に、俺達はそれぞれ“電撃波”“シャドーボール”“エナジーボール”“波動弾”を作り出す。
ソレと共に、サンド三匹とサンドパンが現れる。
――多分サンドパンが倒れると統率が乱れる。
全員がその思いで、サンドパンに攻撃する。
だが、内三つはサンドによち防がれる。
「ぎゃあ!」
そしてサンドパンも先頭――シルガに向かって“ブレイククロー”で切り裂こうと向かってくる。
だがそれをシルガは巴投げで“ブレイククロー”の衝撃ごと飛ばすと、“波動弾”で追撃する。
改めてシルガも成長してるんだなぁ、と思ったラルドであった。
「さて、雑魚は葬った事だし行くか」
正直、砂嵐しか厄介なのはないんじゃないのか?と終始油断して痛い目を見る事となるラルドであった。
〜☆〜
「おーい、聞こえてるー?」
「うーん……耳に砂がー!」
「しょうがない。耳が馬鹿でかい俺達の使命だ」
「違うだろ」
うぅ、本当に耳が大きいのが仇になってる……なんか防げる物無いかな……そういえばラルドにはあんまり砂が入ってないよね?
その時、ラルドの耳から起きた火花を見逃したのはやはりミルだからだろう。
「……ボソッ(耳栓すればいいのに)」
だがそんな声も今のミルには到底聞けるわけも無く、砂嵐が終わるまで耳の中には砂がたっぷりと入っていたミルだった。
〜☆〜
あれから時間は経ち、俺達は恐らく奥地へ近づいていた。
だが、砂嵐は酷くなっていき……?
「うぅ……“守る”でもあんまり防ぎきれないよー」
「これは異常だ! 誰かが“砂嵐”を上乗せしてる!」
「誰が……?」
「……! なにか来るぞ!!」
その言葉が終わった瞬間に、ミルの守るに無数の小さな針――“ミサイル針”が飛んでくる。
当然、防ぎきれてない“砂嵐”の上にそんな物を更に上乗せされたら余裕で崩れるわけで。
「きゃあ!」
「ミル!?」
無数の“ミサイル針”は全てミルに直撃し、ミルはダメージを受ける。
その後に“ミサイル針”が放たれた方向に波動弾を放つ。
すると見事にそれは当たり、蒼い小爆発が起きる。
「あそこか……探知開始」
シルガの房が上がると同時に、体が蒼い波導につつまれる。
それはもう探知を開始して、場所を特定しているという事で……。
「ラルド! 右上に“電撃連波”!!」
「おぉっ! “電撃連波”!!」
指示通りに右上に“電撃連波”を放つラルド。それは数も多いことから数発も当たる!
「ぎゃああ!?」
その威力は生半可な物じゃないらしく、襲撃者の断末魔が響き渡る。
「とりあえず、この砂嵐を退けなきゃ……ラルド、力を貸してね」
「りょーかい。行くぜ……」
フィリアがあの技の体制に入ると、ラルドも自身の最もな得意技“十万ボルト”を撃つ撃つ体制になる。
「「“ボルトミキサー”ッ!!」」
“グラスミキサー”に回転させた”十万ボルト”を上乗せしたおかげで、一部の砂嵐は吹き飛ばせた。だが、やはり砂嵐も上乗せされてるせいで完全には破れない。
「ちっ、ここは展開的に破られるだろ!」
「そんな事を言っても、現実は無情だよ」
「リアルだね……」
「ラルド、“サンダーリバース”は?」
「思い出したかのように……多分穴を掘った瞬間砂で穴が埋まるから無理。穴を掘るでの奇襲ならいけるだろうけど……」
「「それだ!!」」
満場一致の意見で、俺は少し五月蝿く感じた。
……そういえばこの声って聞こえてんのかな?
「じゃあ、行ってきまーす」
流石の俺もこれを断ったらどうなるか解かったものじゃないため、“穴を掘る”で奇襲する。
なんの技でって?そりゃあもちろん……。
「“気合パンチ”!!」
この前密かに覚えた“気合パンチ”。威力は凄く強いが、溜めの時間でやられてしまうケースが多い。だがこれを穴の中で溜めて、更に不意打ちともなれば一撃必殺に近い威力となりうる。
「ぐぎゃあ!?」
犯人の断末魔が再び上がると同時に、砂嵐が晴れる。
フィリア達がこの隙にやったのだ。
「それで? 犯人は?」
「ここで伸びてる……ノクタスっているポケモンだったけか?」
そこで気絶していたのは、緑の傘のようなものを被った様顔に、全身棘が生えており、体も黄緑がベースのポケモン――ノクタスだった。
「狂ったくせに頭がいいなんて……」
「気合パンチを覚えておいてよかった……実戦ではあまり使えないけど」
「そういえば……いつのまに?」
「エレキ平原で拾ったんだ。気付かなかったけどな」
つまり昨日の夜に覚えたわけだ。と軽く説明する。
「へぇ……あ、あそこからなんか広いよ!」
「もしかして……奥地? だったら急ごうよ!」
「うん!」
ミルとフィリアはさっさと終わらせたいのか、尋常じゃないスピードで走っていく。
二人とも一応は早い部類に入っているからなぁ……と思うラルド。
「じゃあ、俺も行くか“高速移動”」
「負けるか……未完成“神速”」
今だ未完成な神速だが、速さは未完成とは思えない程早い。
さすがは“神速”と言った所か。
「負けてたまるかぁ!」
「ふん、暑苦しい」
二人の一進一退の攻防の末、勝ったのは……?
「頑張ってるね、二人とも。でも途中で喧嘩してちゃ意味無いよ」
「そうだね、馬鹿だね」
ミルとフィリアの二人だった――。
〜☆〜
「くそっ! まさかのミル達に負けるとは!」
「切腹するか……」
「「ラルド(君)達の私(僕)への評価はどうなってるの(んだい)!?」」
非常に聞こえにくいのは黙っておくのが定石だ。
「まぁまぁ……それより、ここが奥地か……?」
「いや、更に奥がある……行くか?」
「ああ、さっさと行って終わらそうぜ。そんでもってジュプトルも逮捕!」
「ダイヤモンドランクにはなるかな?」
なるだろうなそりゃ……時の歯車奪った奴を捕まえてなんのお咎めもなしはさすがに……。
「着いたぞ」
「へー、ここが……最奥部……っ?」
あれ?今一瞬変な感じが……。
その間も、ラルドの心臓の鼓動が早くなる。
俺は……俺は……
――ここを知っている?
「へぇー、流砂なっかでなにもないね」
「うん……更に奥にも行けそうだけど、それは危険だし……」
あれ……この感じ……どこで……そうだ! 霧の湖だ!
ベースキャンプに入ると同時に、少ないが違和感を持って……それで、そこには“時の歯車”があった。じゃあ、もしかしたらここにも……“時の歯車”が?
と、色々考えてみる。もしかしたら……と可能性を持って。
そうだ、あの時はグラードンの石像と日照り石が鍵だった。その二つを組み合わせて霧の湖への道が開かれたんだ。でも、ここには……なにもない。あるとすれば流砂のみ。
――一体ここになにがあるんだ?
「ラルド!」
「うおっ!?」
が、いきなりミルが目の前で叫んだため、思考は中断される。
「もう、早く帰るよ。ここにあるのは流砂のみ! 色々不思議が残るかもだけど、早く帰らなきゃいけないんだから!」
「あ、ああ……」
そして、俺達は北の砂漠を後にする。
吹き荒れる違和感の謎を残して――。
その後ギルドに帰ると、皆なにも見つけられなかったが、唯一ビーグが水晶を取ってきたので皆に怒られたのはまた別のお話。
次回「潜む番人――VSエムリット」