プロローグ
妙な浮遊感を感じて、意識を取り戻す。
ゆらゆら、ゆらゆら。
流れていく。
自分は、流れている。
ここは川ではない。けれど、何かが動いていて、自分はその奔流に身を委ねている。
訳が分からない。でも、不思議と恐怖は感じない。
そっと目を開くが人間の目では光を拾えず、そこに広がるのは真っ黒な闇だけ。これじゃあ、目を開けようが閉じようが何も変わらない。
…息が苦しい。虚無の空間は、空気がやたらと重く感じる。
自分は、何をしているのだろう。
自分は、何処へ辿り着くのだろう。
自分は……
◆
我ながら、変な時間に目が覚めたものだ。
朝4時過ぎ。夜明けまでそこそこ時間があるけど、このまま二度寝したらキチンと起きられる自信がない。
長い耳を揺らしながら、モソモソと藁で出来たベッドから抜け出し、冷たい地面に短い足をつける。
さて。いっそのこと、今日は日の出でも見ようかな?せっかく見に行くなら、見晴らしの良い場所で見たいし…。ちょっと家から距離があるけど、『見晴らし丘』に行こう。
そう考えると、早速駆け出して、東へ向かう。
つん、と冷え切った空気が肌を刺す。春になったけど、やっぱり朝は冷え込むものだ。
私は、丘の麓に広がる小さな森を通り過ぎようとする。…と、誰かの気配を感じて立ち止まる。
「…誰?」
気配のする方へ近づいていく。何か、オレンジ色のものが目に飛び込んできた。
「あ、えっと…」
気配の正体は、橙の身体にクリーム色のお腹。青い大きな瞳と尻尾の先に灯る炎が特徴的なポケモン…ヒトカゲだった。
それが、これから始まる壮大な物語の幕開けになるとは、当時の私には想像も出来なかった。