第三夜 セカイイチの宴
リンゴのもり。それはその名の通り、リンゴの木だらけの森。だが木の数の割に、リンゴはあまり落ちていないという。恐らく、ダンジョン内で拾えるアイテムの体感三割が紅く熟れた瑞々しいリンゴである。疑わしく感じる者は、実際に探検しに来ると良い。意外と低いリンゴドロップ率に驚くことだろう。
さて、そんな個性派ダンジョン、リンゴのもり。此処を攻略せざるを得ない状況に陥ったトキ、スカイ、ミヤの三匹組。彼らは入り口にて一度だけ顔を見合わせると、覚悟を決めたように歩み出した。もとより帰ってどうにかなる訳でも無し。前進あるのみである。
地面に敷き詰められたリンゴの葉を押し潰しながら、進んでいく。先頭はスカイで、戦闘能力ほぼ皆無なミヤを真ん中に、殿をトキが務める形になった。トキは不満げな顔だったが、海岸の洞窟では先頭だったので仕方なく引き下がった。これからはリーダー枠は交代制になるかもしれない。…そもそもトキはロルロに『ダンジョンに行くな』と言われていたから、これからも探検出来るかは不明だが。
三匹は道中でスボミー、ナゾノクサ、キャタピー…などなど、いかにも森に住んでいそうなポケモンたちと遭遇する。くさタイプやむしタイプが中心なこのダンジョンでは、スカイは苦戦を強いられるのでは?と思ったミヤだったが。その考えは一瞬で否定されることとなった。
「『ドリルくちばし』!」
トー戦のときと同じく、ひこうタイプの『ドリルくちばし』を使って、出現するポケモンたちの弱点を的確に突いていく。
おまけに急所を突かれたらしく、一行とエンカウントしたスボミーは小さな顔を苦悶の表情に歪めた。
「えーと…まずは4Fで落とし物拾いだよな?」
「そうそう。だからそれまではズイズイ先に進んでOKだよ」
りょーかいと答えて、スカイは少し歩みを早める。陸上歩行に向いてない種族なのに、器用なことだ。
カサカサ擦れる木の葉の音がややくすぐったい。その軽やかな音色が何処か癒しのように聞こえて、トキは楽しげ。しかしこの後のことを思い出して、すぐ寂しげ。
「…っと、ナゾノクサだ」
「なー!」
スカイの言う通り、藍色のボールにちょこんとした足、頭兼身体のてっぺんからは大きな草が生えた、赤い粒みたいな目をしたポケモンが前方にいた。ダンジョンポケモンのナゾノクサは彼らを発見するなり、その貧相な足でテテテッと駆けて襲いくる。
初撃の『たいあたり』を避けて、スカイはすかさず『ドリルくちばし』を打ち込む。弱点を突かれ、たまらずナゾノクサは逃げ去っていった。
「んー…あんまり苦戦はしなさそうだな!」
軽くダンジョンポケモンを追い払ったスカイはそう言って、身体に少しついた木の葉の破片を払う。明るい黄緑が蒼から離れた後、トキが声をかける。
「此処は相手がそんな強くないからね。…でも、油断しないでよ?」
「する訳ないだろ。此処は不思議のダンジョンだからな!」
「………」
その光景に挟まれるように立つミヤは薄っすらと笑っていた。さも微笑ましいものを見るかのような空色の瞳に気づいて、スカイが言う。
「なんだよ、ミヤ。面白いものでも見えてんのか?」
「いや、仲が良いなと思っただけだ。…かつての俺にも、二匹のように親しい者がいたのだろうか」
ぽつ、何気なく発せられた言葉に、トキたちは顔を見合わせる。確かにミヤの過去は謎だが、それでも。かつての彼の仲間が何処かで、ミヤを待っていることだろう。改めて、早く解決しないとと思い直す二匹だった。
…まあ、当のミヤにはトキたちの考えなど分からないので。やっぱり、目と目で意思疎通するコンビを、仲が良いなと思うだけだった。
☆
さて、此処はリンゴの森の4F。落とし物拾いの依頼があるフロアだ。
トキは依頼内容の記された紙をもう一度読み、首を縦に振る。
「うん、このフロアだね。落とし物は刺繍の入ったモモンスカーフ。ほら、桃色の生地のやつ、アレに花柄の刺繍が施されてるらしいよ」
「ほーん。了解りょうかーい」
「了解は一度でいいでしょ」
そんなくだらないやり取りを終えて、三匹は探索を開始する。
4Fまで来たとは言え、ダンジョン内の光景は今までと大して変わらない。出現するダンジョンポケモンの種類も、木々の立ち並ぶ情景も、少々見飽きてきたくらいだ。さく、軽い音で迎える木の葉だけを供に歩き続ける。
「スカーフ、スカーフかぁ。そんなモン落ちてたら、派手だから一瞬で見つかりそうだよな」
「ダンジョンポケモンに持ってかれてないと良いけど、どうだろ?」
「…その可能性は、あまり考えたくないな」
スカイが呟く。この緑溢れる視界において、桃色なんて見つかればどれほど華やぐだろうか。
ただ、トキの言うようにダンジョンポケモンが拾ってしまった、なんて可能性も捨てきれないのが事実。彼らにどれくらい知性があるのかはよく分からないが、使うことは無くとも道具を所持していることは結構あるのだ。もしそうなら、だいぶ面倒だ。
だがトキの心配は杞憂に過ぎなかった。
しばらく狭い通路を歩いていると、一行は広めのスペースに出た。広めと言っても通路よりは広い程度で、そんなに大きな部屋ではないが。
そしてその空間にて、やたら明るい色が一色、彼らの目に飛び込んで来た。
「あ!モモンスカーフだ!」
モモンみたいな色のエネコが叫ぶ。確かにそこには、鮮明な石竹色の布が一枚、木の葉に埋もれるように落ちていた。
先頭のスカイがいそいそとスカーフに駆け寄る。そして手に取り、確かめるように頷く。続く二匹も今回のリーダーのその反応に、少し安心したような表情。
「これで落とし物拾いの依頼は完了だな!」
「後は10Fまでは普通に登っていってOKだね。まだまだ結構あるけど…頑張ろう!」
☆
そうして一行は、順調に探検を続けた。
非戦闘要員なミヤを含めたこのパーティでも意外と苦戦はしないようで、スカイの足取りはやや早まっていた。さっさと依頼を終わらせたいのが見え透いている。
やがていくつもの灰色の階段を登り、彼らは10F…迷子のいるフロアにたどり着いた。
「迷子のポケモンはピィの女の子なんだって」
「おっけー。じゃ、早く見つけてやろうぜ!」
トキの言葉に応じて、スカイは頷く。
一行は目を皿のようにして、注意深く探検していく。ピィというのは体格の小さい種族だ。用心して進む必要があるだろう。…まあ、モモンスカーフのように鮮やかな体色をしているので、そこはあまり気にしなくて良かったかもしれないが。
「ピィさん、ど…」
「おいおいまてまてトキ。大声で呼んだらダンジョンポケモンも引き寄せちゃうだろ!」
「あ、そっか」
何処にいるのー?と叫ぼうとしたトキを、大慌てで静かにさせるスカイ。ダンジョンポケモンの知性は薄いとはいえ、大声で叫べば彼らはワラワラと集まってくることだろう。そのことを失念していたエネコはバッと口を閉じる。
やれやれという表情をして、スカイはホッと胸を撫で下ろす。むう、とトキはその反応に不満そうな顔。
「この辺りはあらかた探索した気がするな」
「おう。ちょっとあっちの通路から先に行ってみるか」
ミヤが呟き。スカイは小部屋から伸びる細い道を空色のフリッパーで指す。少し覗いてみると、奥の方がよく見えなかった。どうやらこの通路はかなり長く、奥の方まで続いているらしい。
だが、立ち止まってる場合ではない。今も救助を待つか弱い依頼主がいるのだ、一刻も早く助けなくては。そう思いながら、スカイたちは通路を歩き出す。
どうやら、この判断は正しかったようだ。
見事ビンゴ、通路を抜けた先の大きめの部屋には、心細げにしきりに辺りを見回しまくる、桃色のポケモンの姿があるではないか。
桃色のポケモン、ピィは不安に満ちた小さな身体をプルプル震わせていたが、部屋に入ってきたポケモンを見るなりビクッと飛び上がった。しかしながら彼らに敵意が無いことに気づくと、恐る恐る声をかけてきた。
「ええと…探検隊さん、ですか?」
「ああっと、オイラたちは…探検隊の手伝いをしてるんだ。オマエを助けに来たから、もう安心してくれ」
不思議そうに首を傾げつつ、危険はないと知り、ピィの身体の震えが治る。ピィを安心させるようなスカイの声音に、トキが密かにすごい顔をしていたが、最後尾なので知る者はない。
そんな感じで、無事に探検隊(の真似事をしてるポケモンたち)と合流したピィ。これでこの恐ろしいダンジョンから脱出出来るのか、と嬉しそうな顔をする彼女に、スカイたちは困った顔をした。
どうする、正直に言うしかないか。そんなヒソヒソ話が聞こえてきそうなその様子に、また首を傾げる依頼主。…というか、自分はいつ帰還させてもらえるのだろう?と思いながらも、相手の言葉を待つ。
「…その、オイラたちは探検隊じゃないんだ。隊員から仕事の一部を任されてるだけで。だから、探検隊バッジを持ってなくて。ええと…まだこのダンジョンでの依頼も残ってるから、最奥部までオマエにも着いてきてもらうことに、なるんだよ」
「え…?私、まだ帰れないってことですか?」
驚きでつぶらな瞳を丸くして、ピィが聞き返す。それに苦々しい表情のまま、スカイはゆっくり頷く。後ろのミヤとトキも申し訳なさそうな顔。
そう、ですか…と弱々しく呟くピィ。その様子はやはり、露骨に元気が無い。すまねぇな、と謝るスカイに、いえいえ、助けに来てくれただけでありがたいですから!と、慌てて首を振る。
残念ながら、あなぬけのたまを道中で見つけることは叶わず。探検隊バッジを持ってない彼らには依頼主を帰還させる術は無いので、ピィには同行してもらうことになるのだ。
「ってことで、そうだな…オイラの後ろから着いてきてくれ。あと2フロアくらいしかないけど、少しの間よろしくな!」
「はい。よろしくおねがいします」
今回だけの臨時メンバー、ピィと加えて。スカイたちはリンゴの森の最奥部を目指すのだった。
☆
それからも、危機的状況に陥ることは一切無く。一行は早々に2フロアを駆け抜けると、ダンジョンの最奥部、少し開けた場所に到着した。
「ここではリンゴ集めをするんだけど、今回集めるのはただのリンゴじゃなくて、『セカイイチ』を持ち帰れるだけ持ち帰って、だって」
最後の依頼内容を、トキが読み上げて確認する。
セカイイチ…それは普通のリンゴより大きめで、とても糖度が高いことで有名なのだ。中々見つからない高級品であり、その美味しさから『セカイイチ』と呼ばれるほど見事な味なのだとか。
「セカイイチ…?ああ、あの超甘いリンゴね。オイラあれ、あんま好きじゃないんだよなぁ」
「たしかギルドの親方様の好物なんだよね。…ってスカイ、セカイイチ食べたことあるの!?」
過去に食べたセカイイチの味を思い出して、スカイはんー、と唸る。どうやらこのポッチャマの口…いやクチバシには合わなかったようで。そんな何気ない親友の言葉に、トキは驚かされる。
先述した通り、セカイイチは希少な果実だ。到底一般ポケモンの元には流通しないのに、食べたことがあるなんて。そんな顔で、トキはスカイを見た。
「え、むしろ食べたこと無いのか?まぁいいや。ちゃちゃっとセカイイチを採って帰ろうぜ」
「そうだね。ええと、セカイイチの生ってる木って、普通のリンゴより樹高が高いんだよね?」
トキは昔読んだ本由来の、うろ覚えの知識を引っ張り出して周囲を見渡す。ピィとミヤも釣られてキョロキョロ。萌黄の葉を誇らしげに翳す木々と睨めっこしていると、ピィが「あ」と声を零す。
「あれじゃないでしょうか?」
「どれどれ…おお、それっぽい!ナイス!」
ピィが小さな手を、広場の中央に立つ木へ向ける。その木はたしかに他のリンゴの木と比べて樹高が高く、何だか纏うオーラも違って見える。後者は多分目の錯覚だろえが、ともあれそれっぽい木を見つけたピィに、トキは嬉しそうに声をかける。
妙な存在感のある樹木へ、四匹はステテッと走り寄る。さわさわ揺れる葉の隙間から、新鮮な紅の果実が見え隠れしている。丸く大きく瑞々しいその実の名は。
「…セカイイチだな!」
実際に見たことのあるスカイがそう宣言する。言い切った瞬間、トキはその場で軽くジャンプする。エネコ特有の細い目が弓形になっている。
「やったー!じゃあコレを採れるだけ採って帰ろう!」
「…どうやって採るんだ?」
「え、そりゃ…どうしよう?」
ミヤがボソリと問う。その声に、トキのテンションはドタっと急転落。考慮の外に追いやられていた問題点がふらっとこんにちは。
そう。セカイイチの木は普通のリンゴの木より樹高が高い。此処にいるメンバーでは到底手が届きはしないし、とっかかりになる枝が少ないので、木登りして採るのは危険だ。つまり。
「ええ…ど、どうすんだ?」
スカイがクチバシから細く困惑の声を出す。
この件については、誰もが全くのノープランだった。対策は一切用意していないが、まさか「果実に手が届かなかったので依頼達成出来ませんでした」なんていうのはカッコ悪い。はて、どうしたものかと四匹は考え込む。
「あ、わざ!遠距離わざでいい感じにリンゴだけ落とせない?」
閃いた!という顔のトキ。そのアイデアに従って、試しにスカイが『あわ』を使ってみる。威力も低く、勢いの弱いこのわざなら実を傷つけず採れるだろう、という考えらしい。
ぽぽぽぽぽ、キラキラ輝く無数の泡たち。風に運ばれてふわふわと、それらはセカイイチと木の枝を結ぶ部分へ向かって行って、木の実を落とす。
…はず、だった。
「…うん?」
「あら?」
「ええっと、スカイさーん」
ミヤとピィは不思議そうな顔。やや困惑しつつ、トキは努めて冷静に親友へ問う。ふよふよと、虹色の泡が影を残して飛び去る。
「どこ狙ってんの?」
「そりゃセカイイチを」
「…このクソエイムー!泡が全然違う方向に向かってるから言ってるんだけど!?」
虹色の泡が飛び去る。リンゴと枝を繋ぐ茎の部分を避けて。
掠ったとか、少しズレたとか。そんなレベルの話ではない。まるっきり別方向へ、泡たちが突っ走って行くのだから、トキが突っ込んだのは当然の反応。
そんな桃色猫の言葉にそーっと目を逸らして、スカイは言いづらそうにボソボソ言う。
「し、仕方ないだろ。オイラこーゆーの、苦手なんだよ…」
「全く…じゃあ私がセカイイチを落とすから、三匹は落ちたやつを拾って。五…いや、七個くらい採っておこっか」
そう言って白い光線…『チャージビーム』を用いて、的確にセカイイチを撃ち落とすトキ。その攻撃の精密さに周りが目を丸くするのもお構いなしに、トキはサッサと作業を進めていく。
十分ほど経っただろうか。
持ち帰る分のリンゴ…セカイイチ収集を終えた四匹は、セカイイチの木の下で少し一休みしていた。とっととあなぬけのたまを使って帰れば良いと思うだろうが、探検しているうちに、彼らとしてもここを去るのは名残り惜しく思えてしまったようで。
リンゴの甘い香りの漂う空間で、大樹にもたれて小休止。ぼーっと木々の立てる音に聞き耳を立てていると、ふとトキが呟く。というか提案する。
「…せっかくだし、セカイイチを食べてみない?」
そう言って、寝そべっていた彼女は起き上がる。一斉に三匹分の視線を集めつつ、トキは頭上に生る一際大きなセカイイチを指す。
「真面目に依頼こなすだけじゃつまんないし。報酬として食べていこうよ!」
「…良いんじゃないか?」
「私も賛成、です」
「食べたいなら食べれば?」
三者三様な答え。ただ誰一人として否定こそしなかったので、トキはニッコリ笑って実行へ移した。
真っ赤な果実へ狙いを定めて。白い光を一筋刺して、被害に遭われたセカイイチは重力に従って地上へ。明るい黄緑色の落ち葉たちがクッションとなって、地上到達の衝撃を吸い取った。
「よーし!食べよ!」
そんな大声で言わなくても聞こえるぞ、というスカイの言葉を無視して、トキはセカイイチに齧り付く。普通のリンゴより大きなその果実には、甘ったるい果汁がたっぷり詰まっている。シャクシャクと砕くと、濃い蜜が沁みる。
トキが食べよう食べようと目で訴えるので、ミヤとピィもモソモソ食べ始める。スカイはパス、という顔でそれを眺めていた。
真紅のルビーみたいな表面を過ぎて、琥珀に似た果肉を黙々と食べる三匹組。この味は確かに世界一の名に相応しいなぁ、とトキは思う。
「おいしー!」
「ですね!」
「…ああ」
満面の笑みで甘味を堪能するピンク色コンビ。
それをチラッと見てから、ミヤはモヤモヤとした引っ掛かりに尋ねる。この違和感…罪悪感に似た感情は、何なのだろう?
そんな風にやや暗い顔のミヤを見ていたのは、スカイだけだった。
「んー…そう言えばギルドの親方様、夕食の時間にはセカイイチを頭の上で転がして踊るらしいよ」
「何だそれ」
「いや私もよく知らないよ。ただそんな話を聞いたなぁって」
話題転換。有名ポケモンの奇行に思わずツッコミを入れるスカイだが、トキも首を傾げる。傾げつつ、口はショリショリとリンゴの果肉を噛み砕く。食べながら喋るなとは誰も突っ込まなかった。
「ギルド…私も入りたいな。というか探検隊になりたいな」
「いや無理無理。お前の母親が許可しないって」
「むぅ。そうだけど。でも『遺跡のカケラ』の真実とか知りたいし」
「その『遺跡のカケラ』、もう失くしただろ」
そう言ってスカイは会話を終えようとする。しかしトキは突っかかるようにやや声を荒げて言う。
「でもケー&トーから取り戻せば良いでしょ!それにロルロも、説得したら…」
「…トキ。『遺跡のカケラ』とは?」
彼女の言葉を遮るようにミヤが割り込む。『遺跡のカケラ』…彼は何処か聞き覚えのあるその響きに、興味を引かれたらしい。
「いや、私が勝手に『遺跡のカケラ』って呼んでるだけの、ただの石ころだよ。でも不思議な模様があって…何か、その辺の石とは違う雰囲気があるんだよね」
「…そうか」
不思議な模様の入った石。それにトキが付けた名が『遺跡のカケラ』なら。ならどうして自分はその名前を、聞き馴染みあるものとして認識したのだろう…?
分からない。でもまだ分からないままで良いと、誰かが呟く。
「ところで、そろそろ帰ろうぜ。食い終わるだろー?」
「むぐ…うん、そうだね。帰る準備しよっか」
セカイイチを一欠片飲み込むと、トキは頷く。その声で、ミヤは思考を止めて顔を上げる。
かさり。スカイが立ち上がり、葉っぱが揺れる。トキは口元に付いた果汁を勿体なく思って、ペロリと自身の唇の辺りを舌で舐めた。
これにてセカイイチの宴はおしまい。さあ、トレジャータウンへ帰ろう。
蒼く輝くガラス玉、『あなぬけのたま』をフリッパーが器用に持ち上げる。地面に向かって叩きつけられたソレは、綺麗に砕け散ってしまう。ガラス片が日光を吸って…。
そしてそこには誰も居なくなった。