Chapter1
01 少年の裏の顔
20○○年2月12日ー。
世間では半年前までギンガ団とかいう悪の組織がある少年の活躍で解体されただの、伝説のポケモンが街に姿を現しただの、物騒なニュースが飛び交っていたが、今ではそんなものは忘れられつつあるほどに、いよいよ平和な状態を取り戻した。

ここは、シンオウ地方西部に位置する港街ミオシティ。その街の中心を通る大きな跳ね橋に、一人の少年が突っ立っていた。
見た目は高校生くらいだろうか。少し長めの黒髪に、青いマフラーと青いポケモンウォッチ、白いコートに身を包んだその少年は、海を見つめていた。
…少年は、名を「ツウ」といった。フロンティアブレーンを目指す16歳のトレーナーである。トレーナー歴はかなり長く、ブレーン修行のためにカントー地方やイッシュ地方を訪れたこともあった。しかし、現在はいろいろあって、故郷のあるシンオウ地方で修行を積んでいる。
ツウ少年は、何かを思い出したように、カバンからケータイを取り出し、橋から離れる。そして、木々の間に入り込み、ケータイを開くと、誰かに電話をかけた。

『もしもし…【リト】か。どうだ?仕事は順調か?』
『大丈夫です。…それより、今日は招集がかかっていますよね?』
『ああ、そうだ。まあ、任務が終わり次第、早めに来るんだぞ。では、また後で。』
『…はい。』

ツウ少年は、電話を切ると、ため息をついた。そして、バッグからモンスターボールを取り出す。モンスターボールから出てきたのは、毛艶の整ったクロバット、ニックネームは「キーマ」だ。
そのまま、キーマに跨り、ツウ少年はミオシティを後にした。

ツウ少年は、しばらく飛行を続け、トバリシティ上空まで来ると、一気に下降し、かつてギンガ団アジトであった建物の前に降り立った。キーマをボールに戻し、カバンから折り畳み式の簡易テントを取り出した。と同時に、黒い服を取り出して、テントの中に入る。
数分後、テントから出できたツウ少年は、先ほどと同一の人物だとは、初見ではわからないほどに変貌していた。髪は毛先が青になっており、髪型は後ろ髪を一つに束ね、耳には白いピアス、中心に「G」と大きく茶色で書かれた黒いTシャツに、黒い無地のコートを羽織った姿。どう見ても異質な姿で、ツウ少年は、何故かその建物に入っていく。
建物に入るやいなや、同じTシャツを着た紫髪のスポーツ刈りの男が、ツウ少年の元へ走ってきた。
「リト様、お戻りになられたのですね。みな、既に講義室に集合しておりますが…。リト様はすぐお行かれになるのですか?」
「すぐに行きます。…プラント様がお待ちでしょうから。」
男は、ツウ少年を『リト』と呼んだ。どうやら、プラントという人物が、ツウ少年を呼んでいるようだった。
ツウ少年は、男の横を通り抜け、小さな部屋の前まで行くと、その部屋の扉を開け、中に荷物を置いて扉を閉めた。その後すぐに、部屋から少し進んだところにあるエレベーターに乗り、一気に4階まで行き、エレベーターを降りたすぐ目の前にある大きな扉を開いて、講義室の中に入っていった。

扉を開けると、緑の刺青を頬に入れたスキンヘッドの大柄の男が立っている。
「ご苦労だった、リト。今から講義を始める。席につくがよい。」
「…はい、プラント様。」
声から、先ほどの電話の主は、このプラントという男のようだった。プラントは、ツウ少年が席につくのを見計らって、講義室の奥の椅子に座った。
「ガイア団のみな、よーく聞け!我々は、ギンガ団の失敗をこの目で見た!見たよな?…だが、我々はもう、ギンガ団とは全く以て違う!あのような失敗は、してはならん!そこでだ、我々は、計画というものをきちんと練ってから、行動に移そう!そして、今度こそは、シンオウ征服を成し遂げるのだ!」
プラントは、講義室の外にも聞こえそうなほどに、大きな声で言った。途端に、歓声が部屋のあちらこちらから飛び交う。
「静粛に!…計画を成功させるため、計画を練る者、実際現地に出向く者、そして、それらを監視する者の3つのグループに分けたいと考えている!詳しくは、後日連絡する!以上だ、解散!」
プラントの言葉が終わると、講義室に集まった者たちが、一気に講義室の外へ出て行った。ツウ少年も、それを見計らって出ようとしたが、扉の前まで来たところで何者かに呼び止められた。
「リトォ、また外へ出歩くの?ちょっと頑張りすぎじゃなーい?」
ツウ少年に声をかけたのは、ピンクの髪をツインテールにしている、小柄な少女だった。
「俺はまだ仕事があるので。…カルザは休憩時間でしょう?」
「そ、そうだけど。あんたはガイア団のサブリーダーなんだから、頑張りすぎて体調崩さないでよね。」
ツウ少年は、その少女ーカルザに対して、少し冷たい態度をとった。そのまま、彼女がブツブツ言うのを気にもせず、講義室を出る。
「全く…無茶ばかりして…。まあ、そこも含めてかっこいいのよね、リトって。」
カルザは、少しニヤッとして、その姿を見つめていた。

ツウ少年には、トレーナーの他にもう一つの肩書きがある。
プラント率いる、ギンガ団の残党と新規メンバーで結成された、新たなる悪の組織、「ガイア団」の幹部。しかも、その幹部の中でも一番の実力を誇る、ガイア団のサブリーダー。
彼は悪の団体のメンバーなのだ。ガイア団幹部としての名前が「リト」である。
しかし、彼がガイア団に入った真の目的は、「ガイア団を成功させ、手柄を得ること」などではなかった。
彼は、トバリシティのトレーナーであり、ギンガ団アジトにて「ガイア団」が結成されたことを、偶然にして知ってしまったのだった。そこから、あのギンガ団のようにトバリを含め、シンオウを占領されたくないと思い、「スパイ」としてガイア団に入団したのだった。
そう、彼の目的は…ガイア団を解体させること。そのために、フロンティアブレーンの資格を取るための修行に励みながらも、ガイア団幹部の仕事も…表向きには行っているのだ。変装をしてまで。
もちろん、彼が正義側のトレーナーだと勘付いている団員は、一人としていない。
そして、彼がガイア団の幹部であることに気づいている一般人も、一人としていないのである。



■筆者メッセージ
主人公、ツウ少年は、頭が切れるのが伺えます。彼がどのようにガイア団と関わり、ガイア団を解体するんでしょうね。
P.S. プロローグに続いて細かい設定の追加と文章の手直しを行いました。更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
ぴのかざね ( 2013/11/21(木) 07:37 )