初仕事
『こらあああああああっ!起きろおおおおおおおおおおおっ!朝だぞおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
『起きんかああああああああああああっ!寝坊だぞ新入りいいいいいいいいいいいいいいいいっ!』
「お前ら!寝坊だぞ!早く来ないと…親方様が…ああブルブルっ!と、とにかく、早く起きるんだあっ!」
朝からものすごい大きな声で目が覚めた。誰の声だろうか、見渡したが、誰もいない。
隣で、さくが目を覚ました。
「もええ…おはよ…。さっきから寝坊だとか親方様がどうだとか…ん?」
さくは、何かを思い出したのか、ハッと起き上がった。
「もえ、私たちギルドに入ったんだった!」
「という事は…遅刻だ、さく!急ごう!」
状況を理解した。しかし、理解するのが遅かった。これでは、間に合わない!!
私たちは、ベッドの片付けをも忘れ、部屋を飛び出し、一心不乱に廊下を駆け抜けて、広場に向かった。
広場に行くと、すでに他の弟子たちは整列しており、たけるが気に食わない顔つきでこちらを見ていた。
「遅いぞ新入り!」
弟子の中の一匹が、私たちが来たのを見て、即刻怒鳴り散らした。
「お黙り!けんじ、お前はいちいち声がデカい!うるさい!」
怒鳴り散らした弟子に、たけるも怒鳴り声で叱った。結局みんなうるさいんじゃない…。けんじと呼ばれた弟子のドゴームは、鼻息を荒げながらもおとなしく整列し直した。
「全員集まったようだな。」
たけるが人数確認をすると、親方の部屋の扉が勢いよく開いた。そして、ゆうたがゆっくりと出てきて、たけるの横まで来ると足を止めた。
「えー、今日は、仕事に掛かる前に、新しい仲間を紹介する!」
たけるはそう言うと、私たちの方を見た。そして、前に来い、と目で合図される。
私とさくは、そそくさと前に出た。
「チーム『みんちゅ』のさく、そして、もえだ。」
「よろしくお願いします。」
さくに合わせて、私も頭を下げた。弟子たちは、口々に「よろしく。」と私たちに言った。
「それじゃ、誓いの言葉、いっくよー!」
ゆうたとたけるが手(翼)を上げると、他の弟子たちも拳を振りかざした。
私たちも便乗して、拳を振りかざす。
「せーのっ!」
「ひとーつ、仕事は絶対サボらなーい!」
「ふたーつ、脱走したらお仕置きだ!」
「みーっつ、みんな笑顔で明るいギルド!」
看板に書いてある誓いの言葉を見ながら、精一杯の声で叫ぶ。
「それじゃ、仕事に掛かるよ!」
「おーっ!!」
こうして、私とさくの、ギルドでの修行の日々の幕が上がったのだった。
「お前たち、早速だが、初仕事だ。ついて来な。」
たけるに指示され、ギルドの地下1階の、大きな看板の前へ移動する。
その看板には、たくさんの紙が貼られていた。
「これはなあに?」
「この看板は、困ったポケモンたちからの依頼が貼られている看板だ。この中から、自分たちで受ける依頼を選んで、仕事をするんだよ。」
「へえー。」
さくは、興味深々に看板を見回した。
「お前たちは初心者だからな…これとかどうだ?」
たけるは、その中の一枚をとって、私に手渡した。
『探険隊のみなさんへ!私、バネブーのるんと申します。
ある日、頭に乗せた真珠を無くしてしまい、途方に暮れていたところ、それらしきものが湿った岩場で見つかったとの情報が入りました。
しかし、私は探険の経験は無く、そんな危険なところ、とてもじゃないけど行けません!
そこで、探険隊のみなさん、真珠を取ってきてもらえないでしょうか?お礼はたくさんします、どうか!
るんより』
その紙の文を読み上げた瞬間、さくが不機嫌そうに言った。
「これ…落とし物を取ってくるだけじゃん!!これくらいなら自分で…。」
「おだまり!」
たけるがさくを止める。
「お前たちは初心者なんだよ!?だいたい、この湿った岩場だって、不思議のダンジョンだ。その前に、お前たちは不思議のダンジョンについて知っているのかい?」
「知ってるよ。何でも時が狂った影響で現れた、入る度に地形が変わり、探険に失敗すると道具やお金が無くなるっていう本当に不思議な…。」
「何だ、よく知っているじゃないか。その通り、失敗したときのリスクが大きいんだ。」
さくは不機嫌そうな顔のままでそう言ったが、たけるは若干さくを感心した目で見ていた。
「まあ、とにかく、仕事に掛かるんだ。…分かったら、行けい!」
「はぁ…。」
大きな溜め息をつき、さくは階段を降りていくたけるを見つめていた。
不思議な地図を開いて、場所を確認する。行き先の「湿った岩場」は、このギルドのあるトレジャータウンからは少し離れているようだ。
「さく、行こう。」
私は、少しがっかりしているさくの鶏冠に、尻尾で触れながら言った。
トレジャータウンから歩いて20分、苔生した岩が聳える道の途中に、大きな空洞ができた場所を見つけた。
さくは、先ほどまでとは打って変わって、やる気に満ちた顔をしていた。
「もえ!さっきはたけるにあんなこと言っちゃったけど…やっぱり、修行は大事だと分かったよ。…初仕事、頑張って行こうね!」
「うん、うん。」
さくと誓いのポーズをしてから、私たちは湿った岩場に踏み込んだ。
湿った岩場だけに、このダンジョンは足場が悪い。入って間も無く、私はぬるぬるした苔に足をとられて転けてしまった。
「もえ、大丈夫、ってあちゃ!」
さくも私に手を伸ばそうとして転けてしまった。
「あはは、二人して転けちゃったね!」
「あははは…。」
思わず、顔を合わせて爆笑してしまう。
苔に気をつけて立ち上がると、奥へ奥へと進んで行く。とその時、カラナクシの集団に巻き込まれてしまった。
カラナクシたちは、住処を荒らされて怒っているようだった。