ギルド入門!
海岸を抜け、大きな交差点に出た。
「もえ。階段を登った先がプクリンのギルドだよ。ここで、探検隊修行ができるんだけど…。」
階段の上にギルドが…そう思うと、我ながらワクワクしてきた。いったい、どんな修行をするんだろう…。
「じゃあ、階段登ろっか。」
さくは、階段を軽やかに登り始めた。私も後に続いて登り始める。が、思ったよりこの階段は…つらい。登り切るだけで疲れてしまった。
「もえ、大丈夫?…といっても、私もこの階段は最初登り切るだけで息が切れちゃったんだけど。」
少しだけ休憩して、顔を上げると、プクリンを象った大きな建物が目に入った。
「これが…プクリンのギルド…。」
近くに寄って見てみると、その大きさがよく分かる。どうやら地下があるようだ。
見とれていると、さくが私のしっぽをツン、とついた。
「もえ、ギルドに入るには、この格子を踏まなきゃいけないみたいよ。」
さくが指した先には、規則的に穴のあいた格子が張ってあった。なんだか、あの上に乗ると、足がこそばゆく感じそうな…。
「私も、さっきここに乗った瞬間、声が聞こえてきてびっくりしちゃった。…それじゃ、私から乗るね。」
格子の上にさくが乗った。その瞬間、
『ポケモン発見!ポケモン発見!』
『誰の足型?誰の足型?』
『足型はアチャモ!足型はアチャモ!』
…本当に声がした。私もさくもびっくりした。
「うわああっ!く、くるとは分かっててもびっくりしちゃうよ!」
『ん…?そばにもう一匹いるな。もう一匹も乗れ!』
また声がした。もう一匹とは、私のことだろうか。
「多分、もえのことを言ってるんだと思うよ。」
『おい、どうした、早く乗らんか!』
怒鳴り声が聞こえた。私は慌てて格子の上に乗った。
『ポケモン発見!ポケモン発見!』
『誰の足型?誰の足型?』
『足型は…えー…えーっとぉ…。』
『おい、どうした!応答せよ!』
『足型は…えーっとぉ…多分エネコ!多分エネコ!』
『多分って何だ!つちお!』
『えーっ、だってえ…見たこともないポケモンの足型なんですよ…分かんないものは分かんないですぅ…。』
「何か…揉めてるね…。」
私の正体が分からないようだが、エネコはそんなに珍しいポケモンなのだろうか。仕方ないので、しばらくそのまま待つことにした。
『まあ…怪しいポケモンではなさそうだな、入れ!』
声が聞こえた。すると、ギルドの大きな扉が、豪快に音を立てて開いた。
「うわあああっ!緊張しているせいでいちいちびっくりだよ!」
さくに続いて、私もギルドの入口をくぐった。中に入ると、私の思い通り、そこには階段があった。いよいよか…。
階段を降りると、大きな広場に出た。そこでは、たくさんのポケモンたちが、楽しそうに話をしていた。その中の一匹、ペラップが、私たちに気づいて近寄ってきた。
「おや、さっき入ってきたのは君たちか?勧誘やアンケートならお断りだよ。さあ、帰った帰った。」
「違うよ!私たち探検隊になりたくて…。」
さくがそう言うと、そのペラップは後ろを向いた。
「今どき珍しいよ…ギルドで探検隊修行をしたいだなんて…。修行が厳しすぎて、脱走する者が後を絶たないというのに…。」
「探検隊の修行って、そんなに難しいの?」
さくが首を傾げる。ペラップは、急に何か過ちを犯したかのように前を向いて、
「いーやいやいやいや!探検隊修行はとーっても楽ちん!!何だぁ…探検隊になりたかったなら早く言ってくれないと!!さぁ、こっちだよ♪」
ペラップは、半ば千鳥足になりながら楽しそうに歩き出した。
「何か…急に態度が変わったね。まぁ、いいか。」
危なっかしいなぁ、そう思いながらも、ペラップについて、ギルドの更に下の階へ降りた。おそらくは、ギルドを仕切るプクリンとのご対面だろう。
「さあ、ここが親方様の部屋だよ。今から、お前たちのチームを登録す…。」
「わーっ、すごい!ここから海が見えるよ!」
ペラップが話す途中に、さくは窓の外を見てはしゃぎだした。
「いちいち騒ぐんじゃないよ!話が聞けないなら帰ってもらうからね!」
「ご、ごめん…。」
さくがペラップに謝ったタイミングで、ペラップは『親方様』の部屋の扉を開けた。」
「今から親方様の部屋へ案内する。…親方様、こちらが今回、探検隊修行を希望している者たちです。…さあ、お前たち、早く中に入るんだ。」
ペラップに案内されて、『親方様』の部屋に入ると、後ろを向いて動かないプクリンがいた。何か探しているのだろうか。
「…親方様?」
ペラップが声を掛けても、プクリンは動かない。と思った瞬間、不意にプクリンが振り向いた。
「やあ!初めまして!新しく探検隊登録しに来たんだよね?友達、友達〜♪」
これが…ギルドの親方様…とは到底信じられない。目の前のプクリンは、誰がどう見ても、頼れるような外見でもなく、喋り方もえげつないほどに幼い。
「それじゃ、探検隊登録をするよ。チーム名はどうする?友達、友達〜♪」
チーム名!?そんなもの…考えてなかったなぁ…。
「もえ、チーム名どうしようか?」
私は、考えに考えたが、唐突にチーム名を尋ねられたところでパッと思いつくわけがなかった。しかし、後になっては何故そんな変な名前にしてしまったのか考えられないほどにおかしい名前が、フッと頭を過ったのだった。
そして、それをいつの間にか口に出していた。
「みんちゅとか?」
「みんちゅ…いいね!かわいい名前じゃん!それにしよう!」
何故さくも納得したのか分からないが、とりあえずチーム名は「みんちゅ」に決定した。
「みんちゅで登録するよ。それじゃ、いくよー!」
私たちが頷くと、プクリンは
「たああーーーーーーーーーーーっ!」
と大声で叫んだ。その瞬間、私たちの周りにパッと明るい光が出現し、消えた。
「これで、みんちゅは探検隊登録されたよ!…まず、君たちに、この探検隊キットをプレゼントするよ!」
「探検隊キット?」
プクリンは、ごそごそと棚を探って、金色の大きな箱を取り出した。
「これが、探検隊キット!とりあえず開けてみて♪」
プクリンに言われたように、さくがキットを開けた。中からは、足型のついた丸いバッジと、しっかりとしたバッグが入っていた。
「そのバッジは、探検隊バッジといって、探検隊である証だよ♪そして、そのバッグは、トレジャーバッグといって、お宝や道具を入れるものだよ。そのバッグも開けてみて♪」
バッグにも何か入っているのか。今度は私がトレジャーバッグを開けた。すると、水色のリボンと、赤色のしっかりとしたスカーフが出てきた。何だか、着用すると特別な力がみなぎりそうな気がした。
「その二つは特別なもの♪君たちの力を最大限に引き出してくれる優れモノだよ♪そっちのポケットにもう一つ、地図が入ってるでしょ?それは、不思議な地図といって、君たちの冒険に役立つ、ダンジョンの位置を記した地図だよ♪」
プクリンが言ったように、裏にあるポケットを確認すると、古い地図が出てきた。雲で覆われた部分もだいぶ多いが、きっとそこにもダンジョンが隠されているのだろう。
さくは地図を見てワクワクしているのが見てとれた。
「僕はゆうた。このギルドを仕切る者だよ。そして、君たちを案内したのがたける。僕の一番弟子。」
プクリンは、自らの名をゆうたと名乗った。さらに、ペラップの名前はたけるというようだ。ペラップ…もとい、たけるは、私たちとゆうたの間を割って入ってきた。
「お前たちには、明日から住み込みで働いてもらう。ギルドの修行は大変だし、規則も厳しい。早起きしなければいけないからな。今日は早く寝るんだぞ。」
「たける♪もえたちを寝室に案内してあげて♪」
「は、はいっ!わかりました親方様!」
たけるに連れられて、私たちは親方の室を後にした。それにしても、緊張感の感じられない、のんきな親方だなぁ…。
そう思っているうちに、たけるの足が止まった。
「ここが、お前たちの部屋だ。ラクガキしたり、壁を壊したりしないんだぞ。じゃあな。」
たけるは、部屋の説明をさらっと済ませると、くるりと背中を後ろに向けて、足早に戻っていった。
部屋は、6畳くらいのスペースに、ベッドが二つあるだけの簡素なつくり。しかし、何とも言えない安心感に包まれている。
さくは、出入り口を閉めて、ベッドに横たわった。私も、勢いよくベッドにダイブした。
「あーっ、気持ちいー!やっと肩の荷が降りた気分だよ!」
さくは、足をじたばたした。きっとよほど疲れていたのだろう。そのまま、足で電灯のスイッチを消した。辺りは一瞬にして真っ暗になった。
「ねえ、もえ…何だかあっという間にギルドに入門しちゃったね。」
私の隣で、さくはボソッと呟いた。
「私、あんなにギルドに入るの怖がってたけど…ギルドに入れたのも、もえがいたおかげだと思うの。ありがとね♪」
安心感に満ちたさくを見て、私もホッとした。さくは続ける。
「たけるが、修行も規則も厳しいって言ってたけど、私もう怖くない。それより、これから待ち受ける冒険が楽しみでたまらないの。」
ふと、トレジャーバッグの横においてある、不思議な地図に目をやった。この地図に刻まれた未知のダンジョンを、明日から冒険するのだ。そう考えると、私もわくわくしてきた。
「何だか私眠たくなってきちゃった。明日から修行頑張ろうね、もえ!」
さくは、私のほうを向いてニコッと笑い、
「おやすみー。」
と言って、眠りについた。
私も、ベッドに横になり、眠りについた。
…ギルドに入門して、探検隊になるとは言ったけれども。そもそも自分は何者なんだろう。そして、どうして私は、エネコになって、あの海岸に倒れていたのだろう。
私の疑問も、ギルドで仕事しているうちに、解決できるだろうか。
そのうち、きっと…。