宝物を取り返せ!
「もえ…ダンジョンは初めてなんだよね?」
洞窟に入る前に、さくは、そう聞いてきた。そういえば…そもそも、ダンジョンって何なんだろうか。
「あのね、この世界には、『不思議のダンジョン』って呼ばれる場所がいくつかあるの。その名の通り、入る度に地形が変わって、探索を失敗しちゃうと道具やお金がなくなっちゃうっていう、不思議な場所なんだけど…。でも、訪れる度に新しい発見があって、探検にはもってこいなところなの!」
不思議のダンジョン…か。この「海岸の洞窟」も、ダンジョンなのだろう。不思議なオーラが感じられる。
「もえ、何が起こるかわからないから、気をつけて行こうね。」
さくに続いて、洞窟内へと入る。「海岸の洞窟」だけあって、内部は水路が多く、潮の香りがした。ドガースたちは、いったいどこまで行ってしまったのだろうか。
しばらく洞窟内を歩いていると、水路からシェルダーが現れた。
「野生のポケモンだ!…でも、何か変だね。」
さくは、野生のシェルダーを見て言った。すると、野生のシェルダーは、さくに攻撃を仕掛けてきた。どうやら何らかの原因で、自我を失っているようだ。
「もえ!野生ポケモンは攻撃を仕掛けてくるから、気をつけて!」
倒すしかないようだ。さくは、野生のシェルダーに攻撃を仕掛けた。私も、背後から現れたカブトに攻撃を仕掛けた。何発か攻撃をすると、野生ポケモンたちは倒れた。
「よし!もえ、この調子で奥まで行こう。」
ダンジョンの概要が掴めてきたような気がした。確かに、これはおもしろい。私たちは、ドガースたちを探して、ひたすら洞窟内を進んだ。途中、さくに、「技」を使うことや、ポケモンには「特性」があることを教わった。しかし、エネコの特性は「ノーマルスキン」。出す技全てがノーマルタイプになってしまうという、少々扱いにくい特性だ。さらに、ポケモンを倒すとレベルが上がることも学んだ。
「あれ?行き止まりかな?どうしよう。」
地下五階についたとき、さくの足が止まった。よく周りを見渡すと、確かに行き止まりとなっていた。しかし、ドガースたちとは、途中すれ違わなかったので、この地下五階のどこかにいるはずだ。私は、さくにそう言った。
「ケッ、なかなか賢いじゃないか、弱虫くんのお友達。」
どこかで声がした。この意地悪そうな声は…。
「ドガース!姿を現せ!どこにいる!!」
さくが叫ぶ。すると、怖がる様子もなく、人相の悪い顔つきのポケモンが二匹現れた。
「ケッ、てっきり泣いて逃げ出すと思っていたが…まさか追いかけてくるとは。」
「た、宝物を返せ!それは、私の大事な大事な宝物なの!」
さくは、ドガースに向かってそう言ったが、ドガースは、先ほどさくを罵ったときのように見下した目つきでさくを見た。
「ケッ、簡単に返すかよ。俺たちに勝ったら返してやる。お前に俺たちが倒せるのかな?弱虫くん。」
「うっ…。で、でも…宝物を取り返さなきゃ!ド、ドガース!必ずお前たちに勝つ!遺跡の欠片は渡すもんか!」
さくは、私の方を見た。私は、うん、とうなずいた。
ドガースたちの攻撃は、ダンジョンの野生ポケモンとは比べものにならないくらい強かった。気合いでやるしかないか…。
気合いでさくが放った体当たりは、ズバットの急所に当たり、ズバットはその場で倒れた。
「ぐおっ…こ、こいつ…へへっ…。」
「ケッ、ただの弱虫くんかと思えば、けっこうやるじゃねえか…。」
さくも、ドガースに精一杯の攻撃をぶつけた。私も、それに加勢したが、ドガースの攻撃が強くて思うように攻撃が当たらない。
「もえ!諦めちゃダメだよ!」
さくに言われて、私はあることに気がついた。攻撃を避けるためなのか、いつの間にか腰を後ろに引いていたことに。これではまともに攻撃が当たらないわけである。
いや、待って、この姿勢は…。
さらにあることに気がつく。
(…これは、行けるっ!)
「…もえ?」
私は、今の姿勢のまま、勢いよく前進して、ドガースに体当たりした。
「う、うおぉぉぉっ!」
ドガースが……倒れた。と同時に、遺跡の欠片が転がった。
やった…ついに、ドガースたちを倒して、宝物を取り返すことに成功したのだ。
「や…やったあ!もえすごいよ!咄嗟にあんな攻撃ができるなんて!」
私は、さくとハイタッチして、遺跡の欠片を拾いあげた。
「くそっ…覚えてろ!へへっ。」
「ケッ…弱虫くんのくせに生意気な…。」
ドガースたちは、素早く立ち上がると、一目散に逃げ出した。
「…私、宝物取り返せた…。取り返せたんだよ!もえのおかげだよ!ありがとう!」
さくは、私に笑顔をみせた。勢いで助けちゃったけど…感謝されて悪い気はしないよね。
私たちは、洞窟を後にした。洞窟を出ると、すっかり夜になっていた。