出会い
*さくside*
「うわあ…すごい嵐だったなあ…。おかげで寝不足だよ…。」
嵐が来た後とは思えないくらい、穏やかになった海が見える。ここはサメハダ岩。サメハダーっていうポケモンに似た岩の形の崖で、昔からそう呼ばれている…らしい。そして、私「さく」は、寝不足で半分いらいらしながら、住処であるこの岩の陰の、散らかっているものを片付けていた。
「うーん、いらいらする…でも、今日は…。」
私はあることを思い出して、いらいらの詰まった脳内のあれこれを、一気に空中へ解き放ち、岩陰から脱出した。
「今日こそは…ギルドに入門するんだ!!きっと…このお宝と一緒なら、私だって…。」
そう…私には夢がある。それは、このサメハダ岩のあるトレジャータウンの一角に佇む、探検隊養成ギルドに入門し、探検隊を組むことだ。そう思って、何度かギルドを訪れたが…私は天性の臆病かつ弱虫であり、ギルドに入ることすらできずに引き返す始末。その癖、友人もいないのだ。
ただ…喋ったり動いたりするわけではないが、私にもずっと一緒に暮らしてきた仲間(?)はいた。それが、私の宝物である「遺跡の欠片」だ。ある日、海岸で偶然拾った、見かけはガラクタのようなそれは、よく見ると、見たこともない不思議な模様が描かれているのだ。私は、この「遺跡の欠片」の謎を解き、いろいろな場所を探検し、お宝を見つけたいと日々思っていた。とどのつまりは探検隊になりたいわけである。
なら尚更立ち止まっているいとまなどない。
私は、「遺跡の欠片」をお供に、住処へ通じる穴を草の塊で塞ぎ、ギルドへ向かった。
ー ー ー ー ー
……
波の音が聞こえる…。
ここは、どこだろう。
何も見えない。ダメだ、意識が…。
ー ー ー ー ー
*さくside*
トレジャータウンを通り抜け、ギルドへの階段を登る。この階段も、初めは登り切るので精一杯だったが、何度か訪れる度にすっかり慣れてしまった。一番上まで登ると、プクリンの形をした大きな建物が現れた。これこそが、かの名高き「プクリンのギルド」である。
「…よし、今日こそは…!何としても、ギルドに入門するんだ!」
私は、翼に抱いた「遺跡の欠片」を一度見つめ、恐る恐る前進した。そして、規則的に穴のあいた格子の上に乗った瞬間…。
『ポケモン発見!ポケモン発見!』
『誰の足型?誰の足型?』
『足型は…アチャモ!アチャモ!』
突然、格子の下から声がした。
私はびっくりして、飛び上がり、格子から遠のいてしまった。瞬間、冷や汗が身体中を走り出す。
「び、びっくりした…。誰かいる?」
当たりを見回したが、誰もいない。私は怖くなって、またギルドを引き返してしまった。
階段を降りて、はぁ、とため息をついた。
「やっぱり…私には探検隊は向いていないのかなぁ…。これくらいでビビってるなんて…私ってほんと情けないな。」
後悔の気持ちと臆病さに、自分が嫌になる。どうして私は、肝心なところでいつも逃げ出してしまうんだろう。
途方に暮れた私は、住処に戻ろうとしたが、あまりに夕日が綺麗だったので、「遺跡の欠片」を拾った海岸へ足を運んだ。
海岸では今日も、夕日と青い海、そして、クラブたちが吹く泡の3つが織り成す美しい景色が広がっている。波打ち際に腰を降ろし、私は海を見つめた。
「今日も綺麗だなぁ…。ここは、いつも夕方になると、クラブたちが泡を吹きにやってくるんだけど、その泡に夕日の光が反射して…ほんと綺麗…。」
海を見ていると、自分の悩みが如何に小さくて儚いものであるかが分かる。
「そろそろ、日が暮れてきたな。帰るか…。」
太陽が西に沈んでいくのを見計らい、私は海岸を後にしようと立ち上がった。そのとき、私の目はあるものを捉えた。
「ん?あれは何だろう…。」
私は、気になって、目線の先のものに少し近づいてみた。
「…って…わわ!誰か倒れてるよ!!」
私が見たもの…それは、ポケモンだった。私は、慌ててそのポケモンの元へダッシュした。
「君、大丈夫!?」
ー ー ー ー ー
……。
誰かの声が聞こえる…。
『君、大丈夫!?』
はっ、と目が覚めた。
目の前には、夕焼けの空を映し出す、大きな海と…私を心配そうに見つめる…アチャモ。
「君、ここで倒れてたんだよ!?」
先程の声の主が、今目の前にいるアチャモであると知った私は、びっくりした。ポケモンが、人間の言葉を喋っている!というか、目の前にポケモンがいる!!
「君、どこから来たの?」
目の前のアチャモは、私を見てそう言った。しかし…何も思い出せない。本当に思い出せないのだ。
「…もしかして、君、私のことを騙そうかしてる?」
アチャモの目が、私を不審気に捉えていた。私は、咄嗟に首をふった。
「じゃあ、名前は?何ていうの?」
アチャモは、少し表情を緩めて言った。そうだ、名前は…。
「…もえ。名前はもえ。もえっていう名前の…ニンゲン。」
私がそう言うと、アチャモは飛び上がった。
「えっ、に、ニンゲンだってー!?…でも、君、どこから見てもエネコだよ!?」
私が…エネコ?私は、焦って自分の身体中を見回したが、案の定…エネコになっていた。何故だろうか。私は…人間だったはずだ。
自分でもわけのわからない事態に陥ってしまった。
「そっか…まぁいいや。怪しいポケモンじゃなさそうだね。私はさく。…最近、何でも時が狂い始めた影響か、悪いポケモンも増えててさ…。疑ってごめんね。」
さくと名乗ったアチャモは、そう語った。時が狂い始めた影響か…時が狂うって、一体どういう意味なんだろう…。そもそも、何故自分はポケモンになって、この海岸に倒れていたのだろう。考えても、何も思い出せない。
そのときだった。
ドンッ
さくに何者かがぶつかり、さくの翼から白いガラクタのような欠片が転がった。
「イテッ。」
さくは立ち上がると、ぶつかってきた者の方を向いた。
「いきなり何なの!?」
「ケッ、誰かと思えば、ギルドの前で突っ立っていた弱虫くんじゃねえか。」
「な、何だって!?」
さくにぶつかってきたのは、意地悪そうな顔つきのドガースとズバットだった。さくのことを弱虫くんと言ったこいつらは、さくのことを知っているのだろうか?
「さっき見ていたのさ。ギルドに入れなくて引き返したお前をな!へへっ。」
「ケッ、何か珍しそうなもん持ってんじゃねえか。これは貰っていくぞ。」
ドガースとズバットはそう言うと、さくが持っていたガラクタのような欠片を、躊躇いもなく拾い上げた。
「あーーーっ!」
「ホラ、取り返しに来いよ。」
「ケッ、怖気ついたか?さっきまでの威勢はどうした?所詮は弱虫くんだな。」
ドガースたちは、さくを罵って、そのまま近くにあった洞穴の中へ姿を消してしまった。
「さく…大丈夫?」
「ああ…私取り返せなかった。やっぱり…私は弱虫だなぁ…。あれがなかったら…私は…私は…。」
さくは今にも泣き出しそうだ。それほど、あの欠片は、さくにとって大切なものだったのだろう。ならば…やることは一つしかないじゃないか。
「こうしちゃいられない。何としてもあの遺跡の欠片を取り返さなくちゃ。…もえ協力してくれる?出会ったばかりで申し訳ないけど…あれは、私にとって大事な宝物なの。お願い、もえ。」
私は、うん、と頷いた。
「ホント!?ありがとう!!…あいつらは確か…あの洞穴の中に消えていったよね。それなら、今追いかければ間に合う!!急ごう、もえ!!」
日が暮れそうな海の見守る中、私たちは、さくの宝物を取り返すため、「海岸の洞窟」へ向かったのだった…。