蛇桜
ホウエンのある村には「蛇桜」と呼ばれる大変美しい桜の名木がある。
これには悲しい伝説があるという。
昔このあたりにもザングースやハブネークが住み着いていて、なわばり争いをしていた。
そして、ハブネークの群れの中にはひたすら長い身体を持つ雌のハブネークがいた。
名前をヤマカガシといった。
きっかけは分からないが、ヤマカガシはあるザングースの雄を好きになってしまったらしい。
ところがその雄には毛づやのよい番となる雌がすでにあった。
恋が実らないと知ったヤマカガシは「春の短い間だけはあなたの目を惹くようになりましょう」と言って、細い桜の樹に長い身体をぐるぐると巻きつけた。
それ以来、細く頼りなかった桜の木はヤマカガシの巻き付いた分だけ立派な太い幹となり、長い枝に大きな花をしだれるように咲かせるようになったという。
その桜にはハブネークもザングースも争いを忘れて見入ったと伝えられている。