PART 14 <対立>
ものすごく頭がぼんやりする……
えっと、何がどうなったんだっけ?
僕は……僕は確か……
★
「どうして、こうも命は儚いのかな……。生まれ変わったら、心のあるポケモンに生まれればいいのにね……」
「おーい!ソラ?そっちも終わったの?」
★
会話になっていない、言葉が頭に流れて、それからセピアの色をした映像が頭に映し出される。
そうだ、僕はアビスに突進されて……気絶したのか……
そんな考えをため息として吐き出して、僕は目を覚ました。
「今頃お目覚めですか?お前の特技は気絶だろ……?」
「ごめんなさい!勢いが付きすぎました……」
起きた瞬間、言葉が矢の如く僕に向かって飛んできた。
視界には、とっくに戦闘を終えていたスイングたちと、手を合わせて、ひたすら謝るアビスの姿が映る。
取り敢えず、周りを囲っていた敵の姿はもう感じられなく、とくに奇襲を仕掛けてくる雰囲気はほぼ皆無に等しい。
けど、少し棘が刺さったように感じた。
「はいはい。そうですよ!気絶ばっかですいませんでした!」
「あーあ。拗ねちゃったよ…… だから、弄るのは程ほどにしようって言ってるのに……」
「うぅ……私が体当たりをかましたばっかりに……」
「拗ねてなんかいないから!!それに、別にアビスのことを悪く言ったわけじゃないしさ」
「どちらにしろ、結局気絶したのは事実だし、本当のところを言っただけだ」
もう……この彼女の捻くれた性格は直らないの……?
とにかく苛苛したときは深呼吸だ……
まだまだ依頼の途中なんだから……、それにここは敵の巣窟みたいなものだし、もやもやしてる状態でいたらダメだから……
そう考えれば、少しは気が軽くなると思ってた……
でも、今回は違った。
「もう、どうだっていいよ!……僕はそのゲイルとかと言う奴を倒しに行く。からかうくらいなら帰ってよ……!!」
「ふーん。じゃぁ、そうさせてもらうよ。でも、私はこれ以上この件には首を突っ込まない。仇討ちならアサギがやればいいさ」
こうして、僕とアサギは逆の方向へ進んだ。
これでいいんだ……。これでいいはずなのに……
蟠りが取れないのは何故なの……
「これでよかったのかな……?」
「大丈夫、あいつならきっと……」
「……僕には分からないよ……」
「いいのさ。今すぐに全てを知ろうとしなくても良い、少しづつでいいんだ。あいつは少し気難しいからさ、大抵のポケモンは無愛想に感じるよ。まぁ、事実なんだけど……」
「どういうこと……?」
「直にわかるよ。さぁ、進もう!ゲイルをとっちめるのがボクらの役目だろ?こんな所で道草食ってる場合じゃないよね?」
アサギに宥められたけど、僕にはまだまだ分からなかった。
でも、ここで血迷ってたらダメなんだね……
とにかく今は、ゲイルを倒すことが最優先だ。何とかして、アビスの宝物を奪い返さなくちゃ……
☆
あれからどのくらい経ったのだろうか、辺りは相変わらず永遠と土の壁が続き、不気味なくらい物静かだった。
でも、奥のほうから、妙な威圧感を感じるのは、やはり奴がいるからなのだろうか?
「気をつけて…… 奴が、ゲイルがこの先にいるぞ……」
「どうして、分かるんですか?」
「長年の勘だ」
「結局、勘ですか……」
「そうだ、勘は素晴らしいぞ!!って、舞い上がってる場合でも無いけどな……」
苦笑いするしかなかった。
この人は、口から絶対零度を放てるんじゃないのかな……
でも、ゲイルがこの先にいることは確かで、いつ不意打ちが来ても可笑しくない状況なんだ……
「でもさ……ゲイルって、そんなに権力のあるポケモンなの……?」
「どういうこと?」
「だって、さっきみたいにたくさんのポケモンを従えていたり、こんなダンジョンに身を潜めているとかさ、普通のこそ泥とかとは違うような気がする……」
「さぁ、ボクにこれが正しいみたいなことは言えないけど、裏がありそうだな……」
「ふーん……」
「そろそろ、通路を抜けるぞ……。ちゃんと構えときなよ」
暗く静かな石畳の細道を抜けると、そこは、少し広めの部屋が存在していた。
そこからどこにも道が通じていないとすると、ここが奥底といった感じなのだろう。
そして、その部屋の中央に僕らに背を向けるように、黒い帽子のような頭をしたポケモンが座っていた。
「見つけたよ。ゲイル、もう観念しなよ」
「そうだよ!私の宝物を返してよ!!」
口々に言葉を投げかけるが、これと言った反応を示さない。
それよりも、動く気配が全くしない。
「そうか……。気をつけて、上にいる!」
「上……?!」
「"だましうち"」
「"りゅうのいぶき"」
突如襲い掛かってきた、黒い塊にアサギの攻撃があたり、あたりに煙が広がった。
「クックックックッ……」
晴れる煙の合間から、嗤い声が聞こえる。
それはアサギでもなければ、アビスでもない……
「クックックックッ……!!」
そう、その嗤う声の主は紛れも無く、ゲイルだった。
まるで勝ち誇ったかのように嗤うその声は極めて嫌らしく、耳障り。
「ようこそ……ワタシの元へ……、知ってると思いますが、ワタシの名はゲイルと申します」
「うるさい!さっさと降伏しろよ!!人の物を取って何を企んでいる?」
「まぁ、そうカッかせずに……、まずワタシの不意打ちを見抜いたことに関しては褒めて差し上げましょう……」
「結構だ……」
「ですが、ワタシの元にのこのことやって来たのは、決して良い判断ではありませんよ?」
無駄に礼儀正しく振舞う右目の潰れた烏。
でも、誰もそれを快くは思っていないだろう……
悠長な台詞、嘲笑うような声色と視線…… どれも僕にとって好ましくなかった。
こいつと比べたらスイングの弄りなんて、ちっぽけでちゃちである。
さっきまでのスイングに対しての怒りが急に馬鹿馬鹿しくなって、反対に彼に対する怒りが込み上げてきた。
「さぁ、挨拶はここまで、それではワタシが貴方方の墓場をここに立てて差し上げましょう」
「その言葉、そのままそっくり返してやるよ!"りゅうのいぶき"」
「人の物を取るなんて許さないんだから!"シャドーボール"」
彼らの攻撃を余裕の笑みを浮かべて回避するゲイル。
彼は今まで見た、敵よりも素早く、やっかいだった。
「そんな攻撃、当たりませんよ……!"くろいきり"」
「くそ……視界が奪われてく!!」
ゲイルは翼を羽ばたかせて、発生させた霧でフェードアウトしていく視界。
そんな中で怪しく輝く紅い瞳は、獲物を確実に捕らえていた。
「"だましうち"」
「きゃあっ!!」
暗む視界の中で、響く仲間の叫び……このままじゃ、圧倒的に不利だ……
やられてしまうのも時間の問題だろう……
「くそぅ……、これで晴れれば良いが……"ソニックビーム"」
「アサギッ!!」
「ほほう……。霧を掻き消しましたか……。でも、こっちが優勢なのは変わりありません」
「そんなの分からないだろ……?」
ソニックブームによって、晴れた視界にアサギの声が響く。それは、冷静で威圧のある言葉だった。
それと同時に、彼がそっと目配せをしているのに気づいた。
僕は回り込んで、挟み撃ちにするよう指図していると捉え、ゲイルの後ろへ回る。
「足掻きますね……。それでも、報われないとは、哀しいことです」
「うるさいな!!アビス立てるか?」
「まぁ、はい。大丈夫です」
「ならよし……!"りゅうのいぶき"」
「食らえ!!"シャドーボール"」
「だから、当たらないと言ってるじゃないですか!!」
「後ろががら空きですよ?馬鹿が……」
「……?!」
得意げに羽ばたいて回避するゲイルを背後から狙い撃ちにする……
それが、彼の作戦であった。
そして、今、放たれた矢が彼を後ろから貫く。
「ぐぁぁァァ……!何たる不注意でしょう……」
「もう観念しろよ?」
「クック……クハハハハハ!!まだまだですよ……。まだ終わっていません!!」
痛みに呻きながらも、勝ち誇ったかのように笑うゲイル。
でも、その理由を僕らは嫌でも知ることになった。