PART 13 <無駄>
気持ちを切り替えてからは、大分気分が良くなった。
……までは、良かったんだけど。
人生って良いこと続きではないみたいだね。だって……
「"かえんほうしゃ"」
「?!」
遠くの暗闇から、炎の弾丸が突然飛んできたのだから。
誰かのものなのかは定かじゃないけど、その"かえんほうしゃ"が辺りを照らしたので、暗闇に潜んでいた者の陰があらわになった。
どうやら奴らは僕らをここで仕留めるようだ。
「あぁ……もう、せっかちな野郎共だな!計画が狂ったじゃん!?」
「まぁ、そう怒らずに……ね?どうせ、結局は戦うわけなんだし……」
「うるさい!!こんな狭いところじゃ、圧倒的に不利に決まってるでしょ!」
キレだすスイングを宥めるけど、彼女の言い分も一理あるかもしれない。
確かに、こんなにも狭い通路で、大勢と争うのなら、あっちの方が優勢だもんね……。
どうしようか……?
考えている間にも、奴らは迫ってきている……
「狭くて不利なら、広くすれば良いんでしょ?」
「まぁ、そうだが……、その計画が根本的に狂ったのだ。苛々すんな……」
「まぁまぁ、それなら1つ、私に考えがあります!!」
その一言で、皆の注目が一匹のイーブイに集まる。
どうするって言うのかな……?そんなことは、僕には分からないけど……
とにかく、ここはアビスに委ねてみるべきじゃないかな……?
「じゃぁ、馬鹿なスイングにも分かるくらい、丁寧に説明お願いするよ」
「…………(睨)」
「えぇと、簡単なことだよ。ただこの"ふしぎだま"を使えばいいだけだよ。あと、後ろ……」
「なるほど〜。それは簡単だね。それより後ろに殺気が……」
「"めざめるパワー"」
「」
☆
ちょっとだけ、小さな爆発が起きて、未だに砂埃が巻き上がっている。
またもや、無駄にふっかつのタネが消費されたわけだ。
万一のために、無駄使いは良くないと思うんだけど……
「つまり、その"おおべやのたま"で、ここら1フロアを平地にすればいいわけだね。それより、まだ疼くんだけど……?」
「そういうことです。ついでにさっきの爆発で向こうは怯んだみたいだし、ナイス自爆ですよアサギさん!」
「うーん。褒めても何もでないよ……?」
「とにかく、向こうからの勢攻撃が来るまでは時間の問題だしな……。やるなら、さっさとするぞ」
向こう側も作戦を立て直したのか、鋭い視線が再び覗く。
今暗いダンジョンの狭い一室で戦火が交わろうとしている。
畳み掛けるなら今しかない。
「よーし!じゃぁ、"おおべやのたま"を発動させまーす!!皆、準備はOKですか?」
「いつでもいいさ。いざとなったら、この蜻蛉が盾になってくれる」
「それは、頼もしいですね!お願いですよ、トンボさん?」
「えっ……?いや、ちょっとまt……」
アサギの言葉を遮るように、青い色をした玉が光り輝いて、辺りが目を開けられないほどの閃光に包まれる。
そして、再び目を開けた僕らの目の前に広がっていたのは、さっきまでとは、打って変わり、別世界が広がっていた。
そこはかつての狭い通路の面影は無く、ただ広々とした土壁の大部屋が広がっていた。
あまりに一瞬の出来事に敵はうろたえていて、戦力も今は皆無に等しい。
「おぉ、これは凄いね。敵の姿が丸分かりだね」
「さぁて、あっちがうろたえている隙に、さっさとボコりますか?」
何とも、言い方が物騒だけど、いつものことだし、今はそんなこと考えてる暇なんてないや。
取り敢えず、見たところ、敵共はグループに分かれているようで、僕らが分かれて突っ込むには、都合の良い陣形だった。
おそらく、四方から攻め込むつもりだったけど、それが仇となったわけだね。
だって、誰も"おおべやのたま"なんて持ってるなんて思わないだろうし、僕だって何故に彼女がそれを所持していたのかは、分からずじまいである。
スイングとアサギは、既に敵陣に単独で攻め込みに行ってしまった。何というか、せっかちと言うか、無鉄砲……?
「あの2匹、もう行っちゃったね……。とりあえず、私たちも行こうか?早く、私の宝物を取り戻すんだから!」
「え……?あ、うん。分かった。僕はこっち側を攻め込みに行くからね」
「うん。くれぐれも気をつけてね」
そう言い残すと、彼女は敵陣に飛び込んでいく。あの勢いなら、誰も止められないな……。
えぇと、どうしたものか……。技の無い僕にとって、大勢は不利なんだけどな。
まぁ、この際どうだっていいか。とにかく何か投げちゃえ!
「あの時、ユーリに教わった通りに撃つだけ……。広範囲に撃てるもの……"サボネアの棘"!!」
サボネアの棘。それは、撃ったときに空気への抵抗で分裂して、敵に飛び散るもの。
内部には無数の鉄の棘が仕込まれていて、威力もまぁ無くはない。
"ビシュッッ"
放たれた矢は、弾けとび、敵兵の身体に深く突き刺さる。棘は小さいものの、敵をまとめて攻撃するには効率がいいし、小さいからこそ、避けにくいという利点もある。
続けざまに放たれる鋭利なものに奴らは成す術も無く、倒れていく。
でも、そんなに何時までも優勢なわけじゃなかった。どこぞやの白い悪魔のようにはならない。
「"かえんほうしゃ"」
向こうから放たれた火炎は、棘を飲み込みながら、迫ってくる。
やられっぱなしになるものか、そんな感じの足掻きか何かなのだろう。
当然、弱りきった火炎放射なんて、避けるのも容易い。
でも、それに怖気づくどころか、僕の方へ捨て身の勢いで歯向かってくる。
「そんなに死にたいの?」
向かってくる奴らに問いかける。
「…………」
返事は無かった。そりゃ、考えることのできないダンジョンポケモンに、命の重みなんて分からないのだろう。
主が居なければ、当ても無く彷徨い、何もせずに死ぬか、冒険者に無駄に立ち向かって、命火を絶つ。
仮に主が居ても同じだよ。感情を持たない彼らは、ただ力あるものに服従して、一生を無駄にしてしまう。
哀れだけど、僕にはどうすることもできない。たまに彼らに友情や感情が芽生えると言う話を、風の噂で聞いたけども。
「"ほのおのキバ"」
「残念、遅いよ……。」
牙に炎を宿らせて、飛び掛ってくるデルビルの腹部に一発の射撃。
またもう一匹と、飛び掛ってくる彼らに、矢を放つ。それだけ。
気づけば、敵数もかなり少なくなり、戦力も落ちていく。
でも、彼らの闘争心は失うことを知らない。仲間がどんどん息絶える中、戦意を失うことも無く、歯向かってくる。
これが、もしも戦友とかだったら、頼もしく思うだろうけど、眼の輝きを失った彼らが立ち向かってきてもね…………鬱陶しいだけ。
☆
どれほどの時が経ったのだろう……
再び正気に戻ったとき、息が完全に上がっていて、熱で体が熱かった。
矢で貫かれて死んでいったデルビルたちは、すぐさま跡形も無くダンジョンの中で塵となって消えていった。
「どうして、こうも命は儚いのかな……。生まれ変わったら、心のあるポケモンに生まれればいいのにね……」
「おーい!ソラ?そっちも終わったの?」
ため息混じりに愚痴を吐いていると、後ろから声を掛けられた。
振り返ると、疲れた表情を一切見せないイーブイがこっちに走ってきた。
で、走って、こっちに笑顔で突進………………?!
僕とアビスの間に一瞬星が輝いて、そこで意識が途切れた。
最後に彼女の慌てた声が遠のく意識の中で聞こえたのでした。