PART 12 <気分>
酷く嫌な夢を見た。まだ、頭がクラクラする。と言うか、それに加えて吐き気まで……。
最悪だ……。ただでさえ気の乗らなかったダンジョンなのに、あれを見てからは酷い思いだ。
あの夢に対しては分からないことだらけ、でも追求する気はないな……。
却って暗い気分になるだけだから……。
「しかしいつになったら、奥地と呼べそうな奥地に着くんだ……?終わりが全く見えないんだけど。」
「うーん……。大分進んだし、もうすぐだと思うんだよね……。」
「でも、変だね……。同じ道を永遠と歩いてるみたい……。もとから、石畳の路地と壊れたレンガの壁が続いていたけど……。」
「まるで、罠に掛かったみたいだね。あぁ怖い……。」
終わりの見えないダンジョンの道に違和感を感じて、さっきまでは、余裕そうだった彼らの顔も少し焦りが見える。
前も後ろも、永遠と石畳が続いて、それから先は光の通さない闇に覆われている。
本当にこの道をしっかり進んでいるのかな……。きちんとした答えは全く出そうに無いけど……。今は信じるしかないよね……。
「ホント、誰かの策略だったりして……。」
「だとしても、誰の策だよ……。ヤミカラスなんぞにそんな事が出来るのか……?」
「否、ヤミカラスでは無いのかもよ。例えば取り巻きとか……?」
「でも……アビスは取り巻きは見られなかったって言ってたけど……?」
「まぁ、でも、いつでも数匹でうろついているわけでも無いと思うけど……?」
「そういえば……、さっきから口数が少ないけど、ソラ存在してる?」
「ぇ……?!」
不意に誰かから名前を出されて、声が裏返った。暗くて、視界が悪くて、お互いの顔も見づらいけど、何日も一緒にいるから分かる。
それと共に、裏返った声が可笑しかったのか、アビスの笑いを堪える音が聞こえる。
それは小さくて、日常では鈍感な僕には気づかないくらいだけど、辺りが静まり返ってるから、こう言う些細な音ですら目立ってしまうんだな。
「あ、居たんだ、居るなら良いけど。何その声……、驚きすぎでしょ……?」
「だって急に声掛けられたら、少しは驚くでしょ……?まぁ、アサギは無いかも……。」
「どういう意味だよ……。後で、話をじっくり聞いてからな。」
「あー、そう言えばソラってクチートでしょ……?ドラゴン技は効かないと思うけど……?」
『マジですか……?』
「知らなかったんですか……。」
「まぁ、こいつらは馬鹿だから仕方ないね……。」
反論し難い……。悔しいけど。間違ってないし。
僕と言う種族はドラゴンタイプの技は効かないのか……。頭の片隅にでも突っ込んでおこうかな……。思えば、訓練所でドラゴンの間を選んでくれたのはそういう意味なのか。
でも、アサギが知らないって意外かも……。まぁ、あまり人の揚げ足を取るのは好きじゃないからこれ以上の事は言わないでおくけど……。
「否、ちょっと待ってよ……。スイングも人の事言えないくらい馬鹿だと思うけど……?」
「どういう意味だ……?敵を倒す前にそんなに、復活のタネが食いたいのか?」
「ちょ、止め。ボクが悪かった……。」
「もう遅いね……。"めざめるパワー"」
少し小さな爆風が起きて、一瞬照らされた大地にアサギが伸びていた。
何ていう威力なんだろう……。この方は手加減と言うものを知らないらしい。
喰らったらひとたまりもないよねコレ……
「防音相手に音系の技を使う、アンタが言えることかよ……?」
「はい。すんませんでしたぁ……。後、出来れば、昔の失態を持ってくるのはやめてください。」
「昔ではなく、昨日あたりじゃない?」
「どっちでもいいです……。失態なら。」
暗がりの中でこんな言い合いが聞こえるのは、普通は可笑しいのであろう。尚且つ、討伐依頼なのに。
うーん。やっぱりこう言うのが、"油断"なんじゃないかな……?
「あのぅ。これじゃ、何時まで経っても一向に進まないと思うんですが……?」
「わりぃな……。すべての元凶はこの蜻蛉もどきにある。攻撃するならやつを狙え。死にたがってる。」
「蜻蛉じゃなくて、蜉蝣なんだけど……。て、言うか、責任は押し付けないでよ。」
「どうだっていいし、どっちでも同じだわ……。」
「酷い扱いだ……。これでも、長年の付き合いですか……?」
「否、長い付き合いだからこそのやり取りだと思うんですけど。」
「ま、それもそうかもしれないね。」
「開き直んなよ、蜻蛉もどき。」
他愛もない、下らない雑談は止む気配を見せない。
でも、それは暗い気分に陥っていた僕を元気付けてくれるようにも感じた。
あんなのただの夢だ。沈んでてもダメだし、まずはアビスの宝物を取り返すのが最優先だ……救助隊としてね。
そう前向きになったら、心なしか辺りの暗闇が少し薄まったような気がした。
でも、それと同時に何者かの気配を感じた。
「あの二人とも……お取り込み中のところ申し訳ないけど、なんか変な気配を感じるんだけど、気のせいかな?」
「あ、それ私も思ってました。囲まれてますかね……?」
「う……言われてみれば。眼光が……」
アサギの顔に冷や汗が見える。
それもそのはず……、数え切れないほどの2対の瞳が全てこちらを睨んでるんだから。
「あー、今まで敵が少なかったのは、じっとこっちの様子を探ってたんだね。実に関心するわ」
「取り敢えず、いつ袋叩きに襲われるか分からないし、用心して進もうか……」
「え……?進むの?」
うろたえた言葉が口からこぼれた。敵に囲まれている以上、駄弁るのは論外だけど、普通進むのかな……。だって僕的には様子見たいんだけど。
まぁ、僕の個人的な考えなど伝わるはずもなく、「もちろん」と言いたげな足取りで進んでるんだけどさ。
一言言わせて貰おうか……無鉄砲だ。この人たち、後先考えてるのかな?
「もう少しで奥地だと思うし、こんな狭いとこで戦うのはきついと思うしさ。もっと広いところに出たら、火蓋を切っていんじゃない?それに、相手の居場所を完全に突き止めたわけじゃない。アタシらはこのダンジョンに関しては無知だ。相手のほうが有利だろうしね」
「意外だぁ……」
「ん……なんか言った?もしかしてだけど。アンタなんか失礼なこと考えてなかった?」
「えぇと……いや……、別に考えてなんかないよ?」
「なんか、眼が泳いでますね。大丈夫ですか?」
不味いな……。このままじゃ後で絞られる。
でも、スイングがちゃんと作戦を立ててたことに関してはビックリするね。声に出したら、電撃が飛んでくるけど。爆発が起こるくらいの。
でも、奴らは、そう簡単には物事をうまく進ませてはくれないみたいだった。