PART 11 <悪夢> 観覧多少注意
僕は耳を疑った。
元々3匹のポケモンで構成されたメンバーだった……?
それはいったい誰なんだ?で、今までそんなこと聞いたこと無かったよ。
否、実際それが正しいのかもしれない……。
そりゃ、まだ入って3日目……。そこそこ馴染んだとは言えども、僕は彼らにとっては、まだよく知らない存在なのかもしれない……。
そんなポケモンに自分たちの秘密をペチャクチャと喋るものでは無いよね。
でも、聞いてしまった以上、謎のままではあまり良い気持ちはしない。
本人たちに聞いてみる……?でも、ダンジョンの中で余裕かまして、はしゃいでる彼らに聞くべきなのかな……?
「でも、今はやめておこうか?」
「え……、どうして……?」
はしゃいでるアサギたちを見ていたアビスが振り向いて、訊いてきた。
「だって、憶測だけど、そういうのって何か私たちが勝手に触れていいものじゃないような気がするんだ。」
「どういうこと……?」
「うーん……。詳しくは私だって本人たちじゃないから分からないよ。でも、過去を抱えているとか……、明かさないのには理由がありそうだけど……。」
理由か……。それは、僕を仲間に加えたことと関係はあるのかな?
3匹目の仲間を見つけないと、救助活動を再開しないって言うスイングの考え。
2匹だと何か不味いことがあるのだろうか……?
やっぱり何かを抱えてるのかな……?隠しているのには理由があるんだろう。
でも、忘れているだけという可能性も無くは無いよね?だってスイングやアサギのことだから。
「それにさ、今こういうことを考え込んでいたら、ダンジョンの攻略にも集中できないでしょ?今はお尋ね者のゲイルを倒すことに集中したほうが良いと思うよ。」
「まぁ、それもそうだね。でも、あいつらは大丈夫なの……?大分ふざけてるけど。」
「うーん。少し敵に懲らしめられれば良いんだけどな。そうすればふざけなくなるんじゃない?」
観光気分なのか、はじけている彼らを横目で見ながら笑うアビス。
油断しないって言ったのはどこの誰なんだろうか……。今の彼らからは、そんな雰囲気がまったくしない。これが事故の原因じゃないのかな……。
もっと緊張感を持って挑んでほしいのにな……。無理か?
それにしてもカビ臭いダンジョンだな。
周りを見渡す限り、古代に何かの都市であったのだろうか、古い建造物の残骸が無造作に散らばっている。あるものは跡形も無く崩壊し、またあるものは皹が生えてあるもののまだ綺麗に残っている。
でも、それもこれも、このダンジョンの暗い雰囲気と、吹き抜ける冷たいような風、瓦礫に密集した深緑の苔のせいで、スイングらの言うように本当の心霊スポットかなんかに来てしまったような雰囲気に襲われる。
風が僕を冷たく撫でるたびに、何かに触れられたような感じがして、背筋が凍りつく。
今は、馬鹿2匹や、依頼主のアビスがいるから、恐怖心も少しは抑えられるけど、一人だったり、逸れたりなんかしたら多分自分の精神は崩壊してしまうのかな。
永遠と続く廃墟の壁に挟まれた道なき道を僕らは歩く。本当に終わりが無いんじゃないの……。ついにこんなことまで考えてしまうようになってしまった。
本当にこのままの精神を終わりまで維持できるのかな……?
気づくとアビスが僕のほうを向いて、何かを示している。
「後ろ!」
僕が何かの気配を感じたときには、僕の体の自由は利かなくなっていた。
同時に後ろにいた、濃い紫の生命体はニヤリと裂けた口を思いっきり曲げて嗤うのが気絶際に見えた。
☆
「うぅ……。ここはどこなんだろう……?」
気づけば僕は、知らない所にいた。
見渡してみても、考えてみても、ここはどこなのかは全く分からない。でも、僕がいたはずの"あんやいせき"では無いことは一目で分かった。
じゃあ、ここはどこなんだろう。心当たりが無い。もしくは、記憶を失ったから思い出せないのかもしれない。
どちらにしても、良い気分のする場所ではなかった。
空に浮かぶ三日月。仄暗い周囲の背景。月明かりに妖しく照らされた湖の水面。
暗さに目が慣れてきたとき、僕は異変に気づいた。
「何これ……。村……?村があったのか……?」
崩れた家々の残骸。焼け果てた建物。
さらに、僕は一番見たくないものを見てしまった。
"血"。それらは、あたり一面の地面に瓦礫にべっとりと付いている。辺りはもう真っ暗で物の形をなぞるのがやっとのはずなのに、夥しい血痕は暗がりの中でもはっきりと鮮明に映っていた。
「……………….....……」
散らばる血痕に唖然としていたとき、何か蚊の啼くような啜り泣きの声と、気配を感じて我に返った。
「…………誰?」
恐る恐る尋ねてみても返ってくるのは、静寂。
見渡しても、瓦礫の山と、崩壊した建物ばかりで、人の影なんて何も見えない。
気のせいか……。そう自分に言い聞かせて落ち着こうとしたとき、また聞こえる謎の声。
声の元を辿るようにして、目をやると、もぞもぞと力なく動く黒い塊が佇んでいた。
また、影は何かを抱いている。ぐったりと力なく伸びているもうひとつの影。
いつもの僕なら、恐怖で竦み上がるか、逃げ出してしまうのだろう。
だけど、今回は違った。
その2つの影の正体を確かめたくなった。
でも、いつもの疑問なんかじゃない。反射的に……、体が頼んでもいないのに勝手に動くよう……。
正体を探ろうと、動く足。その足が何かに当たった。
これもまた黒い影。誰かが倒れている……?
でも、起こそうと触れる手が何か生暖かい、どろっとした物に触れた。
「血……?もしかして、もう彼は死んでいるの……?」
血を噴出して転がる死体に気づいたときに、僕は周りにも幾つかの黒い塊が転がってることに気づく。
これも死体。あれも死体。不吉な事実が頭を過ぎり、目を伏せた。
もう何も見たくない。もう何も聞きたくない。もうここに居たくない。
もうこれ以上知りたくない。誰か助けて……。
気づけば、死体も何も消え失せていて、残ったのは崩れてしまっている瓦礫の山。
さっき見えたような血痕は夜の闇に紛れて、視界から消え失せてしまった。
また、さっきの啜り泣きとそれを発しているのであろう黒い影もどこかに消えていた。
残ったのは、自分だけ。さっき見たものに慄いている自分だけだった。
さっき見えたものは一体なんだったのだろうか……。そんなことは僕に知る由も無い。
そのとき、視界に映るものが突然、夜の闇の中へ消えていった。
瓦礫の山も、月明かりを反射している湖も、月も……。全部どこかへ吸い込まれていった。
そしてそのまま、僕も倒れた。
☆
「………………?」
誰かが問いかけてくる。
「……ラ…………ブ?」
こんなこと前にも経験したと思うけど、ちっとも心地よくない。
冷たい感触の硬いものの上に僕は転がっているのかな……?そんな肌触り。
また、掛けてくれる声も遠く。掠れていて、聞こえない。
それは、ここまでだった。
「いつまで寝てるんだ……!!"エレキボール"」
鮮明に苛立ちの篭った、声が鳴り響き、次の瞬間に何かが僕に打ち付けられた。
その勢いというか、威力というかのせいで、僕は目覚めた。
「やっと起きたし……。だれがアンタをここまで連れてきたと思う?」
「まぁまぁ、でも眠気覚ましに"エレキボール"を打ち込むのは、どうかと思うよ?」
「えぇと、僕は一体どうしていたの?」
懐かしい皆の視線が僕に向けられる中で、事情の全く分からない僕は尋ねた。
「あのね、ソラの背後に敵がいるって私が言ったの覚えてる?」
背後に敵がいる……。そう言われると、どんどん記憶が戻ってくる。
そうか……僕はあのままゴーストに攻撃をされたのか……。
取り敢えず、質問に答えるため、軽く頷く。
「でね、そしてそのゴーストに"あくむ"を食らったの。そのあと、そのゴーストは倒したんだけど、一向にソラが目覚めなくてさ……。心配したんだよ……?」
「そうなんだ……。」
僕は見た悪夢を忘れられずにいた。
夢とは言えど、夢らしくない、鮮明とした悲惨な現状。
二度と思い出したくないよ……。でも、あの夢は僕と関わりがあるのかな?
ただの夢だったら良いけど。もしも…………だったら、嫌だよ。
「はいはい。夢の内容はもうどうだっていいから、先へ進もうか。もうすぐ奥地だと思うしね……?」
僕の顔色で何かを察したのかな?いきなり話を変えるアサギ。
その通りなんだけど。やっぱりこびり付いて剥がれない、あの夢の記憶。
早く消えてよ……。