PART 10 <暗夜>
僕が基地へと戻ると、そこには言葉に表せないくらいの不穏な空気が漂っていた……。
でもその不穏さは、依頼の内容が原因だったらしい。
実際に僕もその事実には驚かされてしまった。
何故って……?それは、依頼主の言うお尋ね者が過去にスイングを欺き、傷付けたポケモンだったからだ……。
そして僕らは、依頼主であるイーブイ、アビスと共にお尋ね者討伐の冒険へ出ることになった。
でも、それにしてもさっきから悪い予感が的中してしまうのは何故なんだろう……。
もしかしたら、この先もっと悪い事が起きることの前触れなんじゃないか……。そんな考えが僕の頭の中に過る。
でも、こんな事ばかり考えていても、何も起きないよね……。だとしたら悪い予感なんて考えないで、行動した方が断然良いんじゃないかな……。だと決めたら実行するべき。
時刻はもう既に太陽がてっぺんまで昇り詰めている頃だった。
だからとにかく早くしないと、日が暮れて依頼を熟すのも難しくなってしまう……。何故って、お尋ね者はヤミカラス……。奴は真っ黒い身体だから夜になってしまうと完全有利になってしまうからだ。それに過去の出来事からしても、油断は出来ない……。
何故って僕らの救助隊は、一瞬の油断が命取りになってしまうから。
「ソラ?早くしないと置いてくよ……?それにあの人たち、もう出発"している"し。」
「うわ……やっぱり……?アサギたちって待つって言うことを知らないから……。でも"あんやいせき"って、そんなに遠いの……?あまりにも遠すぎても、日が暮れてしまうし……。」
「そうだね……。でも遠すぎはしないかな。日が暮れる前には到着出来ると思うよ。でもソラが遅かったら、その分遅れちゃうよ……?」
そう言うと、彼女も一足先へと駆け出していく……。
まぁ言う通り、僕が急がなかったら、その分到着する時間が遅くなってしまう。
だから僕だってモタモタしていられないよ。でも、気に掛けてくれる誰かが居るって良いことだね……。アサギたちならさっさと前に進んで行っちゃうから……。
さぁ、見失わない内に早く行かなくちゃね……"あんやいせき"に……!
☆
「ふぅ……。なんとか着いたね……。」
「もう息切れ……?アンタ体力付けなよ。アタシがスパルタしてやるから……。」
「否々!そんなんじゃないし、そうだとしても体力は自分で付けるよ!」
危なかった……。このままじゃ、本当にトレーニングさせられちゃうよ……。
ただでさえ、まだ慣れきっていない体なのに……。やっぱり、短足は疲れる……。それに頭上の置物は重いし……。もっと、ましな体が欲しかったよ……。
それにしても、アビスの言う通りそこまでは遠く無かったよ。まぁ、近くも無かったけど……。でも、"でんじはのどうくつ"何かよりは、全然遠くは無かった。疲れた事には変わりないけど……。
「うーん。それにしても、ここ暗いね……。まだお昼過ぎだなんて信じられないくらい……。」
「まぁ、"暗夜"って名前だし想像は着いたけどさ。奴にとっては都合の良いダンジョンだな……。」
言われてみれば、そうだよね……。このエリアは、夜じゃないのに薄暗い。
立ち尽くしている廃墟たちが、日光を遮っているみたいだよ……。単なる風の音が廃墟の空洞を吹き抜ける音が、低く叫び声の様に聞こえてくる……。これじゃぁ、もうホラーダンジョンじゃないか……。今にも何かが出そうな雰囲気がその考えを煽る……。
「でも、私たちは独りじゃ無いし、皆で力を合わせればきっと攻略できるって……!油断しなければね。」
「一々、それを言わんで宜しい。でも、とにかく目的を達成せねばならないよ……!救助隊としてね。」
「まぁ、そうだね。せっかく再結成したんだし……。ボクらの本当の実力を見せ付けてやろうか。例え、奴に裏があったとしてもだ。」
「裏とか一々言わないでよ……。本当に有ったらどうするの……?」
『ボコる。』
「マジなの……。」
「はいはい……雑談終了。今度は本当に日が暮れるよ。さっさと行くよ。」
「絶対取り戻して見せるから……!」
どっからそんなやる気やら、勇気やらが出てくるんだよ……。
臆病な僕には、ホラースポットか何かに行ってる様にしか思えないし、でも置き去りは絶対嫌だし……。着いていくしか、選択肢は無いのか……。
溜め息しか出ない……。序でに武者震いと……。悪いコンディションだ。
遺跡の入り口へと近付く度に、何者かが僕らを手招いている様な気がする……。
信じたく無いけど、悪い事が絶対この先起きるよ……これ……。
☆
「お邪魔しまーす。」
「それ言ったら、本当に心霊スポットでも行った感じになるね。感情全く籠って無いけど。」
ダンジョンに入り、スイングがありがちな台詞を言う。
よくこんな場所で平気で言えるよね……。僕だったら、本当に何か正体不明の何かが答えてきそうだから、絶対無理……。まず、独りじゃ入れない。
「でも、ゲイルはこのダンジョンの奥に身を隠してるんだろうね。さっさと用たして帰ろ。」
「でもさぁ、こんな面白い場所来ること滅多に無いし、ゆっくり行こうよ、焦っちゃダメだよ。」
「それはそうだけど。スイング楽しんでるよね……?」
「まぁね。希少価値ある何かとかあるんじゃねぇの……?まぁ、急がず焦らずゆっくり観光。」
「観光しに来たんじゃ無いよ……。ボクらは、飽くまでお尋ね者の討伐に来たんだからね……?」
アサギが全うな事を言っているけど、彼も実際楽しんでんじゃないのかなぁ……。
僕はさっさとここから退場したいね……。こんな恐ろしい所なんて長居したくないし……。
「まぁ、つべこべ言わず、どちらにしろ最終目的は一緒なんだしさ、しかもこんな面白い場所滅多に来られないじゃん……?」
「仮にだとしても……、道中遊んだらダメでしょ……。それに僕はもう二度と来たくない……。」
「二度となんて言うけど、まだ一回目すら突破してないよ……?」
「そうだよソラ。今から萎えてどうするの……?ボクみたいに楽しまないと……!」
「最後の言葉訂正。楽しんじゃダメだよ……。」
「えー、どうしてぇ……?人生楽しまなくちゃ……!」
はぁ……。溜め息が漏れるよ……。
彼らの言葉は少しは全うな事柄が入ってるのに、それが楽しむだとかで掻き消されてる……。
こんなんだから、単なる敵に大苦戦を強いられたり、スイングも怪我負ったりしたんじゃないの……。
まともなのは、アビスだけだよ……。アサギたちには着いていけない……。
「そう言えば、ずっとこんな性格の方と救助隊活動していたんですか……?」
途方に暮れてると、急にアビスに耳打ちされて我に返る。
「ううん……。僕は入ったばかりだからね……。ずっとでは無いよ。」
「へぇ……。そうなんだ。だとしたら、彼らに他のメンバーが居たの知ってます……?」
「え……?」
僕はいきなりの衝撃の事実に耳を疑った……。
「彼らって元々3匹で担っていた救助隊らしいんだ。で、そのもう1匹がソラだと思ったんだけど……。その事何か聞いてない……?」
「否、何も……。辛うじて知っていたのは、スイングの怪我の事だけで……。その他は何も聞いてないんだ……。」
「そっか……。じゃぁ、本人たちに聞いてみる他、術は無いね……。」