PART 6 <救出>
「思ったんだけど……。アンタのそれ技じゃ無くね……?」
彼女の告げたその言葉に僕は言葉を失った。
じゃぁ、今まで繰り出していた"かみつく"は、一体何なのだろうか……。
フルスイングは技では無いなら、僕にだって分かる。でも何故"かみつく"までもが技では無いんだろう……。
考えれば考える程、謎は深まる。だけど答えは見えてこない……。
「じゃぁ、僕の"かみつく"は、技の"かみつく"では無くて、ただの単なる顎の動き……?」
「まぁ、そう言う事になるね……。だから弱りきったポケモンや元から弱いポケモンじゃないと倒せない。傷すら付けられないって言う事。」
「まさか……。」
傷すら付けられない……?!それじゃ僕には敵が倒せない……?
"足手まとい"。その言葉が頭の中を渦巻いて、広がって、支配する。
何で僕には技が使え無い……?人間だったから……?今はもう人間じゃ無いのに……?
理不尽だ……。
せっかく技が使えると思ったのに……。それが取り柄だと思ったのに……。
僕はこの世界で生き残れるの……?
「まぁ、そう落ち込まなくても……。攻撃手段は技だけでは無いんだからさ。」
「じゃぁ、何があるの……?体の硬いポケモンには、フルスイングすら痛くも無いんじゃ無いの……?」
「まぁまぁ、そう焦るなって……。これを使えば良いと思うよ……?」
心の折れかかった僕に手渡したのは、長くて鋭い金属の針の束と赤黒い種だった。
何だろう……これは?針の方は並みの敵なら貫ける程、硬く、先が鋭い……。
一方、種の方は赤黒い皮に包まれている……。
「それは、"てつのトゲ"と"もうげきのタネ"。技が使え無くても、人生全てが終わったわけじゃ無いんだから、元気出しなよ。」
「あ……ありがとう……。でも、これどう使うの……??」
「アンタ見りゃ分からない……?"てつのトゲ"は敵に投げる、攻撃飛び道具。"もうげきのタネ"は食べると腕力や、筋力とかが活性化されるの……。どう使うかは、自分で試行錯誤しな。」
「あ、はい……。何かすみません……。」
成る程……、何とか効果は分かったかな。試行錯誤か……後でどうにかしよう……。
敵を倒す方法は、技だけじゃ無いんだね……。それを聞いたら、希望が見えてきたよ……。
それにこのまま知らずに"かみつく"を使い続けていたら、どこかで躓いていたのかもしれない……。だから、今気付けて良かったと言えるかな……。
とにかく今はコイルたちの救出が最優先……悩んでいる暇なんて無かった。
そう悩んでいる暇なんて……
「"ソニックブーム"」
突如高速で飛んで来た刃が空気を切り裂きながら、こっちに向かって来る。
アサギの物では無いのは確か……。でも、今は相手を確認する隙も無かった……。
ギリギリで回避……。ソニックブームは回避されても尚、消えることも無く後方の壁に直撃。
ソニックブームを放った相手……、それは球体で中心で色が2つに分けられている……。上半分は赤く、下半分は白い……。
その紅白の球体は、高速で飛び回り、休む間も無くソニックブームを連射する。
「避けてばかりじゃキリが無いな……。撃ち落とせれば楽なんだけど……。」
「撃ち落とす位なら……何とかなるかもね。取り敢えず耳を塞いでいてよ。」
「分かった……。でも、何をするの……?」
「見てれば良いさ……!"いやなおと"」
アサギが翅を高速で羽ばたかせて出した音は、名の通り耳をつんざく位の高音で、耳を塞いでいなければ鼓膜を一瞬で撃ち破りそうだ……。
だけど本来の狙い目は、ビリリダマは……無傷だった。
「しまった……。奴は"ぼうおん"だ……!」
特性によって音を使った特技を全てシャットアウトしてしまうビリリダマは、嘲る様に飛び回る。
遠距離技は全て避けられてしまうのだろう……。
近距離は届かない……。何とか奴に届かないかな……?
「仕方無いな……。一か八かだ……アタシが行く……!倒せなくても、撃ち落とすだけなら……何とかなるかもしれん……!」
ビリリダマの方へと滑空するスイング。エモンガと言う種族は、飛行ができない……。
飽くまでも滑空と言う形。故にスイングの飛行時間には限りがあるのだろう。
だからなるべく早く……畳み掛ける事が必要なんだろう。
「"めざめるパワー"」
繰り出した緑色のエネルギー弾はビリリダマには当たらず、洞窟の天井に飛んで行く。
大きく軌道を外しためざめるパワーに敵も疑問を抱いた様だが、直ぐに余裕そうに笑い、ソニックブームを放つ。
「どうしたの……?全く当たっていないよ……?」
「まぁ、スイングにも考えがあるんだと思うよ……。」
スイングは再び壁を蹴って、滑空し、打ち出された刃を交わす。
ビリリダマも懲りずソニックブームを打ち続け、それをスイングが交わし続けると言う動作が長く続いた。
でも、その時……複数のソニックブームの1つが天井に当たった。
そして、その天井はいきなり崩れ、岩石がビリリダマに直撃し、落下して行く。
その天井は、さっき"めざめるパワー"を当てた場所だった。故に誤射では無かった。
「今だ……さっさと殺って!」
「了解……!"りゅうのいぶき"」
アサギの放った炎の弾は、真っ直ぐにビリリダマに向かって行く。
地に落ち、自由を失ったビリリダマは、迫り来る炎をまともに食らい倒れた。
「何とかなったね……。まぁ、一件落着って事で良いよね……?」
「まぁ、良いんだろうけどさ……。依頼は……アタシらの本当の目的は達成してないんだけど……?」
「それもそうだけど……。とにかく相手に撃ち逃げをさせるチャンスを与えてしまったから……めんどくさくなったんだよね……。それに良い策だったと思うよ……?」
「否、あれ本当に外したし。運だね……運が良かった。」
「分かった分かった。とにかく話し込んでいても仕方無いし……、とにかく進もうか。」
あれが本当に運だったのか……、それとも狙っていたのかは僕には分からない。
でも、敵に隙を作らせたら、厄介だと言う事を僕は学んだ。
とにかく先へ……先へ進まなきゃ……。
☆
進み続けて、敵を薙ぎ倒し続けて、僕らは最奥部らしき場所まで着いた。
そこには、話通りコイルが2匹居て、互いにくっついている。
また、電磁波が強くなっている所為か、頭痛が再びしてくる……。更に最初の頃よりも酷い……。
でも、電磁波を止める事は不可能だろう……。こればかりは、無理かな……。
とにかく前方に見えるコイルを助けなきゃいけないよね……。
コイルは、電磁波の所為で自由が効かなくなっている為、自分たちの意思では解放できない。
だから、僕らが助けてあげないと彼らは一生動けない……。電磁波が治まるまでは……。
「そこのコイルたち……?助けに来ましたよ。」
「ビビビ……。ソウカ ソレハ ヨカッタ……。タノム ハヤク ヒキハガシテクレ……。」
双方から僕らが引っ張ると、思ったよりも簡単に離れた。
だって、電気の磁石は堅いって言うらしいし……。だからキツイかと思ったんだけども……。
やっぱりポケモンはどこか違うのかな……?
とにかく救出も出来たし……まぁ、良いのかな……?
☆
行きとは違って、比較的楽に僕らはダンジョンから脱出した。
何か、救助隊のアイテムでワープが出来るらしい……。行きは良い良い帰りは恐いって言葉は何だったんだろう……?全く持って逆だ……。
コイルたちは、電磁波の流れるダンジョン内では、離しても直ぐに引っ付いてしまう……。
でも、ダンジョンの外では電磁波も弱くなっているようで、引っ付く心配も無いみたいだった……。
僕には、頭痛を起こす害悪電波に変わりは無いのだが……。
「カラダガ ハナレタ ビビビ!ジユウダ ビビビ!ヨカッタ ヨカッタ!」
「ワーイ ビビビ!」
「ヨカッタナ オマエタチ。トニカク オマエタチノ オカゲダ アリガトウ。」
「否、別に大した事じゃ無いよ。救助隊として当然の事だし……。」
喜びあっている4匹のコイル。見てるとこっちまで嬉しくなるような……。
ここまでの道のりは過酷だったけど……、この瞬間は救助隊をやって良かったなって思える。
こうして依頼を終えて、僕の1日は終わった。
今日も疲れたな……。