PART 5 <苦痛>
コイルたちの依頼を受諾した僕らは"でんじはのどうくつ"へと踏み入れた。
内部も同じように岩肌が淡く発光していて、電気が迸っている。
また、頭を痛ませるその電磁波も健在していた。最悪だ……。
「こういう所ってアタシの技があまり通用しないんだよね……。」
「そう言えば、そうか……。見るからに電気タイプ巣窟だしね。それにしてもソラは、元気無いね……?頭でも痛い……?」
「まぁ……。電磁波の所為じゃないかな……?それよりもキミたちは痛まないの……?」
「全然。」
「まぁ、ボクは地面タイプ。スイングは電気タイプだしね……。大変そうだね……。電磁波を直接受け続けるのは……。」
大変ってもんじゃ無い……。この2匹には、この電磁波が伝わらないのか……、ホント羨ましいよ。
まぁ、仕方無いよね……。嘆いても、種族上の問題は改善されない……。
「"どくばり"」
そう羨んでいると、前方から複数の紫色の棘が飛んで来た。
僕はすっかり油断していた……。ダンジョンには、敵も出現する……。
どこから湧き出てくるのかは不明だけど、無限に出現してくるんだ。
飛んできた複数の棘は僕を含めたパーティ全体にと飛来する。
「"ソニックブーム"」
「"めざめるパワー"」
彼らは咄嗟の対応で無数の棘を撃ち落としたが、対応の遅れた僕には、容赦なく飛んできた……。
でも、何も感じなかった。
確かに棘は僕に突き刺さった様だった……。けれど僕に当たっても直ぐさま弾かれて地面へと力無く落下する。
だが、棘を飛ばして来たニドラン♀は、それに怯える事も無く飛び掛かって来る。
「全く……しつこいな。もう逃げ出せば、死なずに済むのに……。"りゅうのいぶき"」
飛び掛かる事にしか脳の無いニドランは、向かい打たれた炎の弾と正面衝突して落下する。
アサギの放った炎はニドランの体を焼き尽くして、命を絶たせた。
でも、その瞬間ダンジョン内の空気が一変した事に、僕は気付いた……。
「あぁあ……。可哀想にね……。でも、仕方無いのか、ダンジョンポケモンの宿命だし……。それより……ソラ?自分が鋼タイプで命拾いしたな……。」
「どういう意味……?」
「だって、あのどくばりを鋼タイプじゃない奴があんなまともに食らっていたら、一生毒に呻き苦しむ羽目になっていたんだぜ……?」
マジですか……。でも、その説明だと親切なのか、虐めてるのか分からないよ……。
毒で苦しむ……。まず毒って何だ……?
でも、油断は大敵……。遊び半分でなんて、自ら死にに来ている物だからね。
「でもさ、その言い方だと揶揄っている様にしか聞こえないよ……?ソラ、臆病なんだから。」
「それ全く、慰めになってないよ……。寧ろまた揶揄われてる……。」
「アンタたち遊ぶなよ……。何なら冥土に行ってから遊べ。油断大敵だぞ……?」
元凶が何を言っているんだろう……。
でも、こんな事を口にしたらの結果が目に見えているので絶対に言わないけど。
とにかくニドランを倒した時から、ダンジョン内の空気が変わった。いつ死んでも可笑しく無いのかもしれない……。
このままの自分で果たしてこの依頼を熟せるのかな……?敵に隙を見せたら間違えなく終わる……。
頭痛もいつしか消え、緊張感が支配する……。
覚悟を持たなければ、何も達成できないのだろう……。
「前方にエレキッドが来るよ。何かそれらしいポケモンがようやく出てきたな……。でも、アタシの技はそこまで通らないんだろうから、アンタたちに任せる。」
「はいはーい!まぁ、任せてって。殺られる前に殺る……、それがこの世界の法則……。」
このポケ、何恐ろしい事を言っているんだ……。
だとしたら、相当物騒だよ……この世界……。
目の前から向かってくるのは、黄色い体色のポケモン……。頭にはプラグの様な角が二本ある。
スイングの言う通り、ようやくこのダンジョンに相応しい敵が出てきたのだろうか……。だとしたら、電気タイプかな……?色的にもそれっぽいし……。
「さっさと片付けるよ!ボクらには、やらないといけない事があるからね……!"ソニックブーム"」
アサギの繰り出したのは、ソニックブーム。1枚の三日月型の刃が高速で飛んで行く。
だけどエレキッドは、それを上回るスピードで回避し、猛突進してくる。
とにかく、僕も攻撃を迎え撃つ体勢を取る。
「でんこうせっかか……。面倒だね。取り敢えず、狙いはキミだろうね……。」
「そうなの……?」
「奴は電気タイプだろう……?ボクには苦手なタイプだ。よって……キミを狙う。」
アサギの言う通り、エレキッドは真っ直ぐ僕に向かって来る。
腕には、電気が溜まっていて、白い閃光が迸っていた。
どうしようか……。どう迎え撃つ……?とにかくやれる事はやろう。
「"かみなりパンチ"」
殴り掛かってくる腕を顎で受け止め、素早く地面へ逃がす。
少しは軽減できると思った。
敵は一発が上手くいかなくても、堪えずもう一方の腕を振り上げる。
その瞬間……相手の懐が空いた……。
その瞬間を逃さず、顎を敵の隙へフルスイング。
その一撃を避ける事が出来ずに、まともに直撃してしまったエレキッドは、凄い勢いで壁へ吹っ飛んだ。
「おぉ……。じゃあ、このまま止めを刺しちゃえ!」
「うん。じゃあ、遠慮無く……。"かみつく"」
大きく開いた僕の顎は、動けないでいるエレキッドを挟み込む。
こうして、また命が1つ朽ち果てた。
殺られる前に殺るか……。残酷な鉄則だな……。
もしかして僕もその対象になる日が来るのかな……?それを考えると恐ろしい。
「よし、まぁ良いでしょ。ご苦労だね!」
「でも、残酷な物だね……。」
「まぁ、それもそうだけど、死体を見れないだけマシでしょ……?それに、これがこの世界で生き残る方法だからね……。」
「死なない方が辛いぞ……?アタシの場合はこれだからな……?」
死なない方が辛いか……。まぁ、それもそうかな……。
スイングの大きな傷痕を見ると、納得できる。
死ななかったら、いつまでも傷口の痛みに呻き続ける事になる……。それはそれで嫌だね……。
「それと思ったんだけど……。アンタのそれ技じゃ無くね……?」
「フルスイング……?」
「違う……。かみつくの攻撃……。」
「え……。まさかの……。」
僕は彼女の指摘に言葉を失った……。まさかでしょ……?