PART 3 <手紙>
今日は朝から色々あったな……。だってスイングと駄弁ったでしょ……、ポケモン広場では昨日助けたキャピーに施設とやらを説明して貰った。
お陰で、朝っぱらから足が棒になる位疲れた。
まぁ、親切にして貰ったのだから、ここは感謝する所だけど……。
そして、いざ基地に戻ろうかと思った時……、1羽のペリッパーが飛んできて、僕らの基地の上空を旋回して、ポストの上に降り立った。
「スコンッ」と軽い音がポストの内部から響くと直ぐ、ペリッパーは飛び立って行ってしまった。
でも、僕の視線はペリッパー何かでは無く、ポストに向けられていた。
散歩に出掛ける前は、視界の隅で影になって佇んでいた、その置物……。
ポストは今、自分の好奇心を煽る、謎に満ちた存在に変わり果てていた。
まぁ、最初から謎だったんだけど……。
とにかく何が入っているのだろうか、簡素なポストの中に腕を突っ込み、中にあった薄っぺらな物を手繰り寄せる。
僕が取り出した物……、それは案の定紙切れの様な物だったんだけど、その紙には得たいの知れない文字が記されていた。
暫くその文字らしき列を眺めてみる……。だがその行いは、僕に文章を読む上で一番大切な事に気づかせることとなった。
「読めない……。」
思わず、溜め息を一つ吐いた……。それも、仕方の無い事なのだろう。
何せ、その得たいの知れない、文字らしき記号の集まりは、僕には全く持って理解不能だった。
この世界の文字は全て、この不思議な形の記号なのか……。そう思うと、項垂れざるを得なかった。
こんな調子で、この世界に溶け込む事ができるのだろうか……。
再び、黒くどよんだ思考が脳を埋め尽くす。せめて、人間だった頃の文字ならば、読めたのだろうか……。
とにかく、このまま独りで悩んでいても何も変わらないのだろう……。
こう言う時こそ、彼らが居るのかもね……。
そう思うと直ぐ、僕は基地の中へ駆け込んだ。
理不尽だ……。
☆
僕はドア無き出入り口を勢いよく突っ込み、中へと入った。
この基地、ドアが無いけど大丈夫なのかな……?と、思ったけど、頭上に上下スライド式の格子らしき物が吊るされていたので、その考えは直ぐに消え失せた。
「そんなに勢い付けて転がり込むな……。基地が崩れる……。」
「否、それは絶対無いと思うけどね……。どこか行ってたの……?」
相変わらず無愛想なスイングと、呑気な感じのアサギのやり取りを聞いていたら、先程まで頭を埋め尽くしていた、不安や焦りはどこかへ消え去っていった。
僕は、良い仲間に巡り会えたのかもしれないな……。スイングの言動は勘弁だけど……。
落ち着いて彼らを改めて見ると、何か昨日のきのみの様な物を食べていた。
あれが、この世界の食料なのかな……。色が鮮やか過ぎて、毒が含まれていないか心配になるよ……。
アサギが食べているのは、青くて丸いきのみで、スイングは、血の様に赤く、幾つもの小さな棘の生えた、細長いきのみを食べていた。食べれるの……あれ……?見るからに美味しくなさそうなんだけど……。
「あれ……?ソラが手に持っているのって……、救助依頼じゃないかな……?」
「あっ……。そう言えば、救助隊に加入すれば、毎日の様に届くんだっけ……?ずっとやっていなかったからな……忘れてた。」
アサギの僕の考えを遮る様な言葉に、僕は今気づいた。
この紙切れが何なのかを聞くために転がり込んだんだった。
まず、この紙切れが救助依頼と言うのかな……。だとすれば、僕には救助活動を行う上で最も重要な事が欠けている事となる……。
救助依頼を読むことができないんだとしたら、救助活動を行う事も一切できないんだろう……。
やっぱり、こんな時に仲間が居て貰えると、助かるよね……。
まぁ、僕が文字を読めないと知ったら、再びスイングに怪しい奴と認識されるに違いないんだろうけど……。
「で、ソラ……その救助依頼、何て書いてあったの……?ソラが始めに取り出して来たのなら、もう読んでるかなと思うけどさ……。」
「それが……、僕……これ読めないんだよね……。」
その途端、部屋中が凍り付く……、文字が読めない事はそこまで変なのかな……?
それにここまで、皆に黙られると、何か辛いな……。
「文字読めないって……、頭どうかしてない……?アンタこの先どうやって生きてくのよ……。」
スイングの言葉が胸に突き刺さる……。まぁ、想定内の発言だけどさ……。
それに言う通りだし……。どうやって生きて行けばいいのか……。僕にも分からない。
スイングの刺々しい言葉は、やっぱり心が痛い。こうなってしまったのには、理由があるけど……。
慣れるか……、心を開いてくれるか……、どちらでも良いから、早く進んで欲しい……。
「まぁ、仕方無いよ……。記憶喪失だし……、元人間だって言うしさ……。言語が違うのは、仕方が無いんじゃないかな……。とにかく早めにマスターした方がこの先便利だと思うけど……。とにかく依頼書は、ボクが読むよ。それと、スイングの言葉は気にしないようにね……。」
アサギの言葉が救いの手だな……。真逆だ……。性格が真逆……。
まぁ、今までそれを調和して生活して来たんだろうけど……。大変そうだね……。
それとやっぱり、この世界の言葉は覚えた方が良いのかな……。必ずしも誰かが近くに居るわけでも無いしね……。アサギの言う通りかな……。
思えば、アサギもスイングも正論しか言っていないのに、どうしても伝わり方が違うんだよね……。
それは、スイングの言い方に問題があるんだけど……。でも、それはそれで、言い返せない……。そんな勇気も度胸もどこにも無い……。
とにかく救助依頼は、アサギが読んでくれるみたいだから……渡さないとね……。
「えぇと……、依頼主はマグネと言うコイル。で、依頼内容が……「ビビビ……。キミタチノ コトハ、キャピーチャン カラ キイタ。ソレニ、ムカシハ ナノシレタ キュウジョタイ ダッタラシイナ。ソコデ、キミタチニ タノミガ アル。ジツハ ドウクツニ ナゾノ デンジハガ ナガレテ ナカマノ コイルタチガ クッツイテ シマッタノダ……。レアコイルトシテ イキテイクニモ チュウトハンパダ。ソウイウコトデ ナゾノ デンジハノ ナガレタ ドウクツ……"でんじはのどうくつ"ニ イッテ ホシイ……。タノンダゾ……。」だとさ……。読みにくいよ……。」
アサギは、依頼内容を読み終えると、一息吐いて、手紙を置く。
読みにくい文字もあるのかな……。僕には、文字全てが読み辛いよ……。まず、読めない……。
「"でんじはのどうくつ"か……。聞いた事の無いダンジョンだね……。やっぱり度々起こる自然災害で、ダンジョンが増えてるのかな……。どうする……?」
「救助隊が依頼無視してどうすんの……?」
「そうだよね……。じゃぁ、"でんじはのどうくつ"へ行こうか……!」
アサギの掛け声で僕らは、"でんじはのどうくつ"と言う、ダンジョンへ向かう事になった。
まだまだ、目覚めて2日目なのに、色々な事が起こり過ぎている……。
それに、何も異変の無い場所がダンジョンと化しているんだよね……。この世界は一体どうなっているんだろう……。それは、誰にも分からない……。