PART 5 <救助>
僕はアサギに悩みを打ち明けた……。
そして、僕はアサギの本心を聞いた。
「アサギ、先へ行こう。まだ、僕らを必要としているポケモンが待っているだろうし、だからキャピーを助けに進もう!」
悩みも全て晴れ、すっきりした僕はできる限り明るく呼び掛けた。
すると、アサギは、小さく笑いながら頷いた。
心做しか、薄暗い森の中が少し明るくなった気がした。
キャピーの居る場所まで後どれくらいなのだろうか……。
☆
大分、奥まで来たかな……?もうずっと歩き続けて来たからか、もう脚が痛い。
ここまで辿り着くまでの間、やはり野生のポケモンは懲りず出てきたが、どういうわけか"かみつく"だけは、何故かできるようになっており、今までよりもずっと楽になった。
森の奥だけあって、日の光も差し込み辛くなっているのか、一層暗さが増していた。
「あれの事じゃないのかな……?」
彼が指差す方向……、そこは地震の影響か地面が沈んで崖の様になっていた。
背の高いポケモンにとっては、どうって事の無い高さかもしれないが、キャピーの様な小型のポケモンには、よじ登るには危険で難しい崖だった。
何故こんな所に落ちたのだろうか……、普通に考えればこんな所に落ちることは無いんじゃないかな……?
だって、こんな危険なダンジョンなんて普通行かないでしょ……?少なくとも僕は行かない。
僕がそんな下らない疑問を持ち続けている間にアサギは、もう崖の方まで行っていた。
何と言うかアサギって、僕よりも行動が一歩早いんだよね……。
まぁ、僕が考え事ばかりしているだけだけど……。
「おーい!誰かこの下に居る……?!」
アサギが崖の下に向かって呼び掛けたのを見て、僕も遅れまいと駆け寄る。
崖の下を覗くと、思った以上に高く、身震いする……。
地震でここまで崩れるのか……。自然災害って恐ろしいね……。
「はい。でも、この崖が高くて、よじ登るのは無理なんです……。」
崖の下の方からキャピーの声と思われる声が響く。
恐らくここに落ちた事によって、体力が疲弊しているのだろうか……、その声は少し元気が無い。
とにかく無事っぽいかな……。でも、もしかしたらこの下で怪我を負っているかもしれないもんね……。
油断は大敵だよ……。慎重に救出しないと……。
「ふぅ……。とにかく声はするから、居ることは確かだね……。じゃぁ、ボクはこの崖の下に飛んでいくから、このロープを崖の下に垂らしてくれない……?」
そう言うと、どこからともなく長くて細いロープを取り出して僕に手渡す。
持ってみると案外丈夫そうだった……。
まぁ、丈夫じゃ無かったら救助なんかに使用しないけど……。
そして彼はロープを手渡すなり、崖の下へまだ未熟そうな翅を羽ばたかせて飛び降りて行く。
「とにかく、このロープをどこかに括らないと……。」
ロープを固定する為の何かが無いか、辺りを見渡すと、近くに手頃な岩を見つけた。
ロープの端を岩に緩まないように確り括り付ける。
だけど、未だに馴れないこの体では、細かい作業を行うには不便で、思った以上に時間が掛かった。
そして、ロープを岩に括り付け終えると、括り付けた方とは反対側の方を崖の下に垂らして、僕の使命は一旦終わった。
アサギから次の命が来るまで、崖の端に腰掛ける。座ってみると、ここまで来るまでの脚の疲労が抜けていく。大分歩いて来たからね……それに馴れない体だし、ここまで挫けずに辿り着けた事が不思議だった……。これもアサギが居たからかな……?そう考えると、仲間って助かる存在だな……。
また、座っていると、森を駆け抜けていた時には、気付かなかった"木の葉と木の葉が互いに擦れ合う音"や"森を吹き抜ける風の音"が聞こえてくる……。そう考えれば、ダンジョンにも和やかな一面があるんだな……。
そう言えば、僕の体の種族って"クチート"だったっけ……?今まで"かみつく"しか使った事が無いから、他に何が使えるのかは知らないけど、やっぱりこの大顎を使うのかな……?
「ソラ……?聞こえてる……?」
唐突に下からアサギの声が聞こえ、僕は我に帰る。
そろそろ救助の準備が整ったのかな……?
「うん……まぁ、聞こえてるけど……?準備できたの……?」
「じゃぁ、キャピーをロープに固定したから、ゆっくり引き上げてくれない……?」
承知。でも、キャピーの種族ってキャタピーって聞いたから、そうとう小さいんだよね……。
だったら慎重に引き上げないと、無駄な傷を負わせてしまうよね……。
あぁ、また何でこんなマイナスな事を考えてしまったんだろう……。馬鹿なのかな……?まぁ、自覚があるなら間違いないんだろう……。
緊張感で震えて来ちゃった……。臆病なのは治らないか……。
とにかく慎重にロープを引いていく……。意外と軽かったから、慎重にやらないと勢いがついてしまいそうだ……。
こうしてロープを引き上げていくと、やがて崖の下から明るい緑色の体色の生物が姿を現した。
そして、キャピーを引き上げ終えると、緊張が一気に抜けて、その場に倒れ込む。
一言で言うと、「疲れた」……。
「あ、ありがとうございます……。それと大丈夫ですか……?」
倒れ込んだ僕を気にしたのか、キャピーが心配そうに声を掛ける。
「うん……。まぁ、とにかく無事なら良かった……。」
引き上げられたキャピーの姿を見ると、所々に砂やら、土やらが付いているものの、目立った外傷は無さそうだ……。
とにかく元気そうで、何よりかな……。
「お疲れ……ソラ。キャピーも大丈夫みたいだから、一安心かな……。」
崖から姿を現すなり、すぐにキャピーの体に結んでいたロープを解いていく。
アサギの手つきは、慣れたような感じだった。やっぱり元からこの世界で住んでいた者とは、違うのかな……。まぁ、仕方がないか。
「えぇと、ソラさんにアサギさん……。この度は助けてくれてありがとうございます。」
縄を解かれたキャピーが、改めて僕らに頭を下げる……。
何か照れくさかったかも……。だって、こういうの始めてだったし……。
でも、まだ1つ疑問があるんだよね……。
とにかく事態も解決したし……聞いてみても良いかな……。
「ねぇ、キャピー……?1つ聞いてみても良い……?気になった事があってさ……。」
「はい!何でしょうか……?!」
僕が尋ねてみると、恰も問題ないと言うような、明るい返事が帰ってくる。
「じゃぁ……、このダンジョンってもしかすると、昨日あったって言う地震の影響でできてしまったのかな……?だってキミみたいなポケモンじゃ、このダンジョンを進むのは危ないし……。」
「はい……そうなんです。昨日までは、ここは普通の森で、ワタシは友達のトルン君とここに来ていたんですよ……。そしたら、地震が起きて、この有り様です……。でも、トルン君は無事みたいだったので、良かったです!!」
予想通りなのかな……?でも、地震で普通の森がダンジョンになるのだろうか……?
この世界は、いったいどうなっているんだろ……?もしかすると、ボクは信じられない世界に目覚めてしまったのか……?
まぁ、今更後悔なんてできないけど。だって、そのお陰でアサギとも出会えたしね……。
そう考えていると、アサギが唐突に口を開いた。
「じゃぁ、事態も解決したし……。とにかくここから出ようか……。バタフリーさん__キミのお母さんも、きっと心待にしているだろうし……。」