CHAPTER 1
PART 4 <晴空>
僕は彼の足手まといになっていないのだろうか……。
そう考えていると、アサギの背後に複数の影が忍び寄っていた。

「アサギ……後ろ……!!」

僕は慌てて呼び掛ける。

「後ろ……?」

彼も慌てて振り替えるが、その影はすぐ後ろまで迫っていた。
アサギが、影に気づき攻撃の体勢をとるよりも早く、影は不思議な念波をアサギに浴びせた。
"さいみんじゅつ"……、それを受けたアサギはその場に力無く倒れる……。
アサギ無しでは、僕は何も出来ないと言うのに……。
ここまで優勢に辿り着いたけど、彼の戦力を失った今……いっきに不利な展開になってしまった。
その危機的な状況に怯え、冷や汗を掻いているのが自分でも分かった。
逃げたい……。逃げて、ここから出たい……。
そんな感情が僕の頭を支配する……。だけどその時だった……。
記憶を失って倒れていた自分を助けてくれたアサギ……。
必死に我が子を助けたいが為に僕らを頼ってくれたバタフリー……。

「僕は、ここで逃げてはいけない……。」

呪文のようにその言葉を口にする……。
危険な事、恐ろしい事から、ひたすら逃げたいと思っていた、さっきまでの考えが嘘のように晴れた。
心の底から、勇気が湧いてくる……。
気付けば僕は、自らその影__タマタマの元へ駆け出していた。
タマタマも思わぬ方向から、別の相手が迫ってくる事に対して焦っていた。
だが、迷わず向かってくるポケモンに別々に体当たりをする。
僕は、そんなタマタマの"たまなげ"攻撃を振り払い、弾き飛ばす……。

「"かみつく"……。」

弾き飛ばされ、動けないでいるタマタマへ、さっきまではどうしてもできなかった"ワザ"を繰り出す。
その瞬間、頭部の大顎が固まっている敵に対して、大きく口を開き、無抵抗のタマタマに食らいついた。
大顎と僕は神経か何かで繋がっているのか、相手を捕らえた感触が確かに伝わった。

「ふぅ……。やったのかな……?」

大きく深呼吸をして、攻撃をくらってすっかり伸びているタマタマを見つめる。
勝利。そう僕は勝った……。
一度はこの場から逃げ出そうなどと、卑怯な事を考えていたが……。
とにかく僕は自分の力で、襲い来る敵に打ち勝つ事ができたのだ……。
更には、どうしても出せなかったワザまで出せた……。ワザを出す原理は全く持って不明だが……、とにかくあれほど出せなかったワザを出せたのだ……。
僕がどんなワザを使えるのかは知らないけど、体が自然と動いて攻撃した……。

「うぅーん……。しまった!まともに"さいみんじゅつ"を受けてしまった……。ソラは大丈夫なのか……?」

眠りから目覚めたアサギが、目覚めて早々に焦ったような声を出す。
だけど、無傷で立っている僕と、傷を負って倒れているタマタマを見ると、焦った様なその表情は、驚いた様な顔に変わる。
何せ、あれほどまでにワザを出せずに悩んでいた僕が、眠っている間にタマタマを殺めていたのだから……。

「ソラ……?このタマタマ、キミが倒したの……?」

驚いた様な声色の言葉に僕が頷くと、彼の驚きはますます高まる。

「と言う事は……、ソラ、キミようやくワザを出せたんだね……!良かったじゃん!凄いよ!」

大袈裟なまでに歓声を上げるアサギに、少し照れくさかったのやら、嬉しいのやらの反面、ワザを出す為の原理が未だに掴めなくて不安が募った。
どうしてマイナスな事ばかり考えてしまうのだろう……、自分にそう問ったが答えは見つからなかった。
僕は記憶を失う前から、こんなにも臆病でマイナス思考だったのだろうか……。
どうしてプラス思考のまま進めないのかな……、そう考えると溜め息が出た。

「そう言えばさ、さっき言おうとしていた事って何だったの……?」

徐にアサギに訊かれ、ふと我に変える。

「え……?何の事……?」

「何の事って……、まさか最近の事まで忘れてるんじゃ無いよね……?僕がタマタマの攻撃を受ける前にキミが話そうとしていた事だよ……。」

タマタマの攻撃が来る前……?何だったけな……?
ホントに最近の事までも忘れてそうで、また不安が募る。

「キミが途中で言うのを止めた事だよ……?覚えて無い……?」

……思い出した。あれだね、途中で言うのを止めたっていうのは……。
でも、言って良いのかな……、もしかしたらまた更にアサギを心配させそう何だよね……。
話すべき事なのかな……。心配になってきたよ……。
僕って極度の心配性なのかもしれない……。ただ、マイナスなだけかもしれないけど……。

「でも、話しても良いのかな……。」

「え?別に話しても良いよ……。不安がる事も無いよ。だって僕らもう友達じゃない。」

友達……。アサギがそう言うなら話してみようかな……。
僕がこのダンジョンに踏み入れてから、ずっと感じていた事を……。

「アサギ……。僕って足手まといかな……?」

「え……?どうして?」

僕の思いがけない告白に困惑するアサギ。
何故かって……?

「だって……僕がさ……、このダンジョンに入ったものの、ずっとアサギに守られっぱなしだったじゃん……?だから、何もできない僕なんて……」

「要らないって言いたいの……?」

「え……?」

途中で呟いたアサギの言葉に次は、僕が言葉を失う。

「ボクはキミと進んでいる間、キミが邪魔だなんて思った事なんて一度も無いよ……。それにキミ、ボクに守られっぱなしって言ったよね……?」

「え……まぁ……。」

「そんな事なんて無いんだよ……。実際についさっきだって、あのタマタマからボクを守ってくれたじゃないか……。キミが居なかったら、ボクはあのまま終わっていたかもしれない……。それにダンジョンの中で一番助けられたのは、キミの存在なんだよ……?」

「僕の存在が……?」

「この薄暗くて、周りが全て敵……。独りだったら、ボクは心細さと、不安に落ち潰されていたかもしれない……。キミはボクが全てだと思っているよね……?でも、実際にはボクだって臆病なんだよ……。キミが思っている以上にね……。だからこそボクはキミと言う存在に支えられた……。独りでは挫けそうな時だって、挫けずに進めた。だからボクはキミの事を要らないなんて思ってなんかいない。寧ろ、キミが居てくれて助かったと思っている……。世の中、独りじゃ絶対に生きてなんかいけないんだよ……。互いに支えあってからこそ生きていける……。そんな風に世界は構成されているんだ。」

僕はその言葉を聞きながら泣いていた……。木の葉の影に隠されて、相手からは僕の顔は見辛かったようが、確かに僕は涙を流していた。
悲しみでも、苦しみでも無い……、喜びと言うか、心を埋め尽くして居たどす黒い何かが、一瞬にして消え去り、今までの悩みがどこかへ消え去った。
何よりも、僕が彼の足手まといなんかでは無かった事は、一番嬉しかった。
そして、僕がアサギの心の支えになっていた事は僕にとっては意外だった。
とにかく、僕が抱えていた悩みはもう消えた事には間違えは無い。
僕は、気付かれ無いように涙を拭い、できる限り明るく言った。

「アサギ、先へ行こう。まだ、僕らを必要としているポケモンが待っているだろうし、だからキャピーを助けに進もう!」

■筆者メッセージ
ソラに対するアサギの気持ちは支え。
やっぱり、人生独りだと駄目なんですよね……。
ピクス ( 2015/07/08(水) 18:31 )