CHAPTER 1
PART 3 <迷宮>
バタフリーの後を追って辿り着いたのは、異様な雰囲気を持つ森の入り口だった。
森の中に森って……。可笑しいような……。
これには、アサギさえも息を飲んでいるようだ……。

「間違いないよ……。不思議のダンジョンだ……。」

「えぇ……?!これが……?」

目の前に広がる不穏な空気が漂っている森……。
これが不思議のダンジョンなのか……。
ただの森とは異なる威圧感……。僕は、どれ程まで臆病なのだろうか……。
でも、キャピーを助ける為には、ここを抜けないといけない。
地震で地割れができてしまったのは分かるけど……、やっぱりどうしてキャピーは、こんな所に居るのだろう……?
もしかして、その自然災害の所為でただの森がダンジョンとなってしまったのだろうか……。
でも、どちらにしろ、これがダンジョンである事には変わりは無い……。
ここで逃げたら、救える命も救えないよね……。勇気を、勇気を持たなくちゃ……。

「この森の奥の溝にキャピーちゃんが居るんです!!私だけじゃ、野生のポケモンたちに敵わなくて……、お願いします。きっと、キャピーちゃんを救い出して来てください。」

「よし、行こうよソラ……。」

唐突にアサギに呼び掛けられて、慌てて頷く……。
森の中へ、アサギが先に入り、後に続くように僕も森へ入った。
後ろでは、バタフリーが心配そうな目で僕らを見送っている……。
その顔を見た時、必ず救いだそうと心に固く決意した。

 ☆

森の中は、木の葉によって日光が遮られ、少しだけだけど暗くなっていた。
足を動かす度に、枯れて地に落ちた木の葉が踏まれて、乾いた音を立てる。
それ以外は、不気味な位にシンと静まり返っていて、心細さを煽る。
アサギによると、この森は"ちいさなもり"と言う名のダンジョンだそうなのだが……、明らかに小さく無かった。
その時、突然翼をはためかす様な音が響いて、足を止める。それと同時に、♂とは思えない程の情けない声を上げた事は、聞かなかった事にして欲しい……。
その音の正体……、それは僕らの目の前に上空から急降下して来た。

「ポッポか……、でも油断はならないよ……。」

「分かっているよ……。」

突然、姿を現した小さな鳥の様なポケモン。
そいつは今にも僕らに襲い掛かって来そうな程の剣幕で睨んでくる……。

「キィィィイ!!」

威嚇するように甲高い声を張り上げると、真っ直ぐ突っ込んでくる。
狙いは…………僕だった……。
鋭く尖った鋭利な嘴が僕の胴体目掛けて迫ってくる。
恐怖心からか、体が固まって動かない……。
あと数秒も掛からない内に、嘴が僕に直撃する……。ダメージを負う恐怖に対して、僕は目を瞑った。
そのままポッポの嘴が僕の体に突き刺さ…………らなかった。

「え……?」

驚いて瞑っていた目を開くと、そこには横向きに倒れているポッポの姿があった。
そいつの体からは、青白い煙が延々と立ち上っている。
アサギの方を振り向くと、彼が息を荒くして倒れたポッポの事を睨み付けていた。
アサギの口元からは、ポッポの体から出ている物と同じ様な煙が立ち上っている。
その様子から、このポッポはアサギが殺めたのだと悟った。
借りを返す為にアサギに同行したのに、これじゃぁ、また借りを作ってしまった事になる……。

「大丈夫……ソラ……?」

彼は未だに息を荒げたまま、僕に向かって呼び掛ける……。
その声は、心配とか焦り……、安心感などが複雑に籠っており、彼の今の心情を表していた。
とにかく、僕は彼に向かって黙って頷く。

「とにかく……こう言うダンジョンには、ああいうポケモンたちが無数にいる……。だから、いつでも1匹で姿を現すとは限らない……。」

「無数に……?」

信じられない。あんなのが無数に居たら、いくつ命が有っても足りないよ……。
でも、それは紛れも無く事実だった。
耳を澄まして見れば、木々の影や遥か上空から多くの気配を感じれた。
彼らの狙いは全て僕らだろう……。物騒極まりない。

「そう言えばさ……ソラってワザ使えるの……?」

アサギが唐突に尋ねてきた。

「ワザ……?何なのそれ……。」

「えぇと、ワザと言うのは……ポケモンそれぞれが自然と持っている技能だよ……。ボクがさっきポッポ目掛けて放ったのは"りゅうのいぶき"……。で、ソラはそう言うの使えるの……?」

使えると言われてもなぁ……、ワザ自体の存在を知らなかった僕に、使えるのかな……?
でも、万が一使えたとしても、どうやって発動するのだろう……?
この世界は、分からない事だらけだ……。加えて凄く物騒……。

「あ、深く考え無くても良いんだよ……!!」

悩んでいる僕を察したのか、アサギが慌てて声を上げる。
心配させたのかな……だとしたら、ごめん。大した事じゃ無いからね……。

「うん……。でも、やっぱりワザの存在を知らなかったわけだし……。どうやって出すのかな……?」

「え……?出し方か……。普段何気無く使っていたからね……どうなんだろ……。改めて考えてみると難しいな……。」

ワザの出し方は、アサギでも分からないみたい……。
うーん……。でも、今ここで悩んでいても仕方無いしなぁ……、とにかく先へ行かなくちゃ。
キャピーって子も、待っているだろうし……。でも、何でこんな所に居るのだろう……?やっぱり気になる……。

 ☆

どれくらい進んでいったのだろう……?周りがずっと同じ景色で今どこに居るのかが分からなくなるな……。
まぁ、連れられて来たのだから、最初から分からなかったんだけどね……。
でも、相変わらず四方八方から僕らを監視するような視線を感じる。
今までに野生のポケモンは出ては来たけど、全てアサギが焼き払ったので、実質僕は何もしていない。
「独りだと危険だ」とか、言っていたのに、絶対に嘘だろう。逆に僕が彼に守られている気がする。
どうせ足手まといにしか、なっていないんだろうな……。

「どうしたの?暗い顔して……?」

そんな僕の様子に疑問を持ったのか、心配そうにアサギが尋ねてくる。

「ううん……。別に何でも無いよ……。でも……。」

「でも……?どうしたの?」

言って良いのか良く分からないな……。もしかしたら、却って心配させるかもしれないし……。
そんな僕を見て、「ホントに大丈夫……?」と声を掛けてくれるが、それに対しても曖昧な返事しかできなかった……。
そんな時……、影からアサギの後ろに回り込んで来る、複数の影を僕は発見した。

「アサギ……後ろ……!!」

慌てて声を掛けたが、事態はもう遅かった……。

■筆者メッセージ
まてよ……ソラの性格が少しどころじゃない……!ほぼ受け継いでしまっている……!!
しかもあの決断とやらを忘れているし、ワザの出し方も知らない……。大丈夫かこれ……?
ピクス ( 2015/07/08(水) 16:51 )