PART 2 <依頼>
僕が偶然出会ったビブラーバ__アサギと話していた時だった。
「すみませーん!!」
どこからか声が聞こえ、その方向へ目を遣ると、そこには1匹のバタフリーが駆けて来た。
表情から焦りの色が見える。何かあったのだろうか……?
アサギも頭に疑問符を浮かべているものの、事情を察したらしく駆け寄る。
「どうしたんですか……?」
おろおろとしているバタフリーを宥めようとアサギが声を掛ける。
まぁ、元々僕らに助けを求めようとしていたみたいだけど……。
「大変なのよ……!家のキャピーちゃんが……。」
事情を説明しているようなのだが、未だに興奮が治まらないのか、途切れ途切れに話す。
話している間もおろおろと動き回るので、至近距離に居た僕に舞った鱗粉が掛かる。
とにかく、僕としてはまず落ち着いて欲しかった。
「まぁまぁ、落ち着いてください。そうしないと良く分からないです……。」
アサギが宥めること数分、ようやく落ち着いたのかゆっくり事情を話始めた。
未だに息が上がっており、相当重大な事なんだろう。
でも、耳の悪い僕にとっては、興奮しながら話されても話の要点が伝わらない。
だから、まずは落ち着いて欲しかった。
「昨晩の地震で森の中で地割れが発生してしまったんです。そして家のキャピーちゃんがその溝に落ちてしまったんです。」
地震があったんだ……。でも、僕はさっき目覚めたばかりだから良く知らないな。
でも、地割れが起こるくらいだったのだから、相当大きかったんだろう……。
とにかく一大事なのは分かった。
でも、どこにあるんだろう?周りを見渡しても、木が生い茂っているだけで、分からないね。
「だから誰か家の子を助けて貰えないでしょうか……?」
「分かりましたよ。」
そう答えたのは、アサギだった。
さっきとは違って、大分真剣な表情をしている。
まぁ、一刻も争う事態だしね。今も地割れでできた溝の中で震えているんだろうか……。
だったら可哀想だな……。
「ソラはどうするの……?ボク独りだと心細いし、危険な気がするんだ……。一緒に来てよ。」
考え事をしていると、突然アサギが話し掛けて来た。
まぁ、行く宛もする事も無かったし、ポケ助けは悪いことじゃ無いしね……。
する事が妥当かな……?
それに、アサギ独りでは危険だとか言っていたし……、助けて貰った借りを返したいしね。
そう僕が独り考えている最中も、絶えずこちらを見ている。僕の決断を待っているのかな……?
「はいはい……分かったよ。でも、場所は……?場所はどこなの……?」
「は、はい!!ありがとうございます。案内しますよ。こっちです。」
僕が承諾すると、依頼主のバタフリーの顔は明るくなった。
まぁ、自分の子供はとても大切だからね……。
そういえば、僕にも親は居たのだろうか……?
うーん……。やっぱり記憶喪失だからな……。それもその内分かる事なのかな。
まずは、そのキャピーって言う子の救助が先だね。バタフリーは、もう先へ進んでしまっていて、アサギが「早く」とこちらを振り返っている。
見失わないように急がなくちゃね……。
でも、クチートって走り辛い……。何故、僕はこんな姿になってしまったのだろう……。
☆
「この先は、不思議のダンジョンになっているのかも……。」
バタフリーの後を追いながら、アサギは独り言のように呟く。
不思議のダンジョンって何だろう……。どういう場所なのかな……?
さっきアサギが言ったように危険な場所なのかな……。
そうじゃ無ければいいんだけど。悪い予感がする……。
「ねぇ、その不思議のダンジョンって何なの……?」
「んー……?あぁ、ソラは記憶が無いんだよね……。じゃぁ分からないか……。不思議のダンジョンって言うのは、入る度に地形が変わって、負けてしまうと持っている物をほとんど失ってしまうんだよ……。それに、そこに住み着くポケモンたちは何故か狂暴で、無差別にボクらを攻撃してくるんだ……。だから、普段は近づいたらいけないんだけど……。」
あぁ、聞かない方がマシだったな……。僕らは、そんな恐ろしい場所に向かっているのか……。
心做しか、恐怖で体温か何かが下がったような気がする……。
そのキャピーって子は、何故そんな所に居るのだろうか……。
僕だったら絶対に用が無かったら、近寄らないよ……。
「でもさ……最近自然災害が頻繁に起こっているんだよね……。昨夜の地震もそうだったし……。でね、ダンジョンの出現や野生のポケモンたちの狂暴化と、自然災害は何か関係しているんじゃないかって言われているんだよ……。」
アサギが付け足すように説明し終わった時、前を進んでいたバタフリーが静止した。
目的地に着いたのだろうか……。一見普通の森が茂っているようにしか見えないけど……。
でも、その森の中の森からは、異様な空気が漂っている。
それは、僕の不安や恐怖を一層煽らせる……。
その時アサギも息を飲んで呟いた。
「間違いないよ……。不思議のダンジョンだ……。」