PART 0 <序章>
僕らは今、激しい吹雪が吹き荒れる山の山頂にいる。
空は黒く曇り、遠くの方では雷鳴が轟いているのが、雪に紛れて見えた。
40年前の隕石衝突によって、この世界は滅びてしまった。まぁ、僕はその時代には存在していなくて、聞いた話だけど……。
それと時同じくして、宇宙からとあるポケモンが侵略して来た。
彼は、崩壊した世界に降り立つと、謎の物質をばら蒔いた。
それを浴びたポケモンは自我を失い、彼の忠実なる配下になってしまう。
僕らは、その現状を止める為に広い世界を彷徨っていた。
そんな時、あの方と出会った。
彼は、吹雪が絶え間無く吹き荒れる霊峰に住んでいて、僕らが出会えたのは、偶然なんだろう……。
彼は、隕石墜落する前から生きているらしかった。とある伝説にも出ているらしい。偉い長生きだ。
僕らは、彼に事情を話せる限り話した。
僕らが求めているものを……
僕らが遣り遂げたい事を……
「なら……お前たちには、消える覚悟はあるのか……?」
戸惑って、お互いに顔を見合わせた。"消える"の意味が分からなかった。
どうして消える必要があるのだろう……?
その答えは、直ぐに分かった。
「隕石衝突を無かった事にする……。それがお前たちが望む事だろう……?」
「まぁ、そうだけど……。その為に何故、僕らが消える必要があるの……?」
「隕石衝突を無かった事にする……。その為には、時間を遡り、降り注ぐ巨大な天体を破壊する事だ。だが、歴史を変えた時……時間には大きな矛盾が生じる。」
「矛盾……?そうなると、ワタシたちはどうなるの……?!」
「消えるさ……。その時以降に命を授かった者は皆、存在そのものが無かった事にされる……。つまりお前たちは、消滅する事となる……。」
「まさか……。」
言葉を失った。暫くの間、沈黙がその場を支配した。身を射抜くような疾風がその場を吹き抜ける。
隕石衝突を無かった事にする……。それが、僕らの目的なのは確かだ……。
でも、突然告げられた"消滅"の言葉……。戸惑った。この世界を救いたい……。でも、それにはこんなただならぬ覚悟が必要なのか……。
「どうなんだ……?お前たちに自らを犠牲にしてまで、世界を救う勇気はあるのか……?度胸は……?覚悟は……?どうなんだ……?」
「ワタシは……、それでも世界を変えたい……。あんな得たいの知れない奴に地上を滅ぼされて、支配されたくない。ワタシは、その為なら自分の命を犠牲にしても構わない!!」
先に声を上げたのは、紛れも無い……僕の隣にいたアブソルだった。
その言葉には、強い意思が籠っていた。
それに対して僕はどうだろう……。"消滅"の恐怖に未だに打震えている。
救いたいという気持ちと、消えたくないという気持ちの間で立ち尽くしている。
「どうなのだ……?お前は……?お前の意思は……?」
彼は、爛々と光る赤い瞳で、僕を見つめる。
僕の意思は……そんな生半可な物じゃ無かった筈だ。
だから今までも、こうして調査して来た。ここに辿り着いた。
だが、今はどうだろう……。恐怖に怯えている。
これだから、あの時も救えなかった。一番大切な人を……。
僕はいつもそうだった。何かへの恐怖に押し潰されて……何もできない。
悔しかった……。こんな自分が嫌だった……。
でも、そんな絶望の淵で踞っていた僕を救ってくれたのは……、支えてくれたのは……誰だったのだろう……。
いつも傍に居てくれたのは……。
紛れも無い、彼女だったんだ……。今も僕の傍に居る……。
そんな彼女は、今自分を犠牲にする覚悟を決めている。
ここで諦めたら、恐怖に打ち負けたら……、また逃げた事になってしまう……。
後で後悔するだけ……。
僕はもう後悔なんてしたくない……。
なら……答えは……1つに定まった……。
「僕だって……、僕だって世界を変えたいんだ!もう逃げたくない。この命を投げ捨ててでも……この世界を救うよ!!」
そう叫んだ瞬間……彼の顔は僅かに緩んだ。緊張が解けたような……。そんな雰囲気だった。
隣のアブソルも驚いた様子で見つめている。
今までの僕は、臆病者だった。今も猶、臆病なのには変わり無い。
でも、そんな僕が逃げ出さずに決意したんだ。
命を投げ捨ててでも……世界を……変えると……。
「良かろう……。お前たちの覚悟……確かに知った。」
そう言うと彼は、1つの大穴を作り出した。空間が歪んで黒々とした1つの穴ができている。
その巨大な穴は、今にも僕らを……全てを飲み込んでしまうようで、酷く不気味だった。
「これは何なの……?」
「これは……"時空ホール"……。ここに入れば、過去へ遡れる……。この先……辛い事も色々あるだろう……。だが、それを乗り越えて……乗り越えた先に必ず答えがある。良いな……?」
「うん……。」
そして、僕らは現代に別れを告げた。もう戻って来れないかもしれない……。
今もまだ、複雑な心情だった。でも、進むしか道は無い……。
全ては、世界を……変える為に……。
僕らはタイムスリップの途中に事故に遭った。
空間全体が揺れ動き、今にもどこかへ、弾き飛ばされそうな圧力だった。
……そして____