第二話 『硬い約束』
前回のあらすじ。
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アクアとキリアがキルフィールドのプレイヤーに選ばれた。
そしてキリアが選ばれた時のキリアの母の対応。
「早くそのクズを連れて行ってちょうだい」
これはキリアの心に大きな傷を付けた。
果して…これから一体二匹はどうなってしまうのか?
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ここは電車の中。この電車の中はまるで何処かの豪華な寝台列車の様な設備だ。いや、実際ここは寝台列車だった。そこでミジュマルことアクアは目を覚ました。
アクア「うっ………ここは……?」
アクアは自分の今いる部屋を見渡す。豪華な部屋に、電気でいい感じの雰囲気が出ている。だが窓の外は真っ暗だ。それとテーブルの上を見ると、スラム街では見られないようなごうかな食事が用意されている。
【ぐぅ〜……】
アクア「あ…………」
その食事を見た途端アクアのお腹が鳴り始めた。そう言えば自分はここに来るまでまともな物を食べていない。パン一つと目玉焼き、時にはパンだけというときもある。一体どうしてみんなそれだけで生きていけるのか、正直スラム街に住んでいたアクアでさえ不思議に思ってしまう。そういうことを考えながらテーブルの上のご飯を見ていると…。
ディーナ「食べたいなら食べなさい?毒が入ってる訳でもないし、それに今からキルフィールドに参加する身で死ぬかも知れないんだから今の内にたくさん食べといたほうが良いわよ」
と、言いながらディーナが部屋に入ってきた。
アクア「お前…」
アクアはディーナを睨みつけ、思いっきり警戒する。
まぁスラム街の司会の途中、ボコボコにされているポケモンを見てどうも思わない残忍なやつを警戒しないわけがない。もしかしたら今言っている毒が入っていないというのも実は嘘かもしれないのだから…。色々思考をめぐらせていると、もう一匹のキリアと言う子の事を思い出し、何処にいるか聞いてみた。
ディーナ「あぁ、あの子?隣の部屋でうずくまってるわよ、きっと母親にクズ呼ばわりされたのがよっぽどショックだったのね…」
アクア「そうか……そうだ、あんたどうして僕をあの時止めなかったの?」
あの時、それはアクアがキリアの母に殴りかかろうとした時のことだ。あの時一体何故止めなかったのか、それがアクアには気になって仕方がなかった。
ディーナ「あぁ、あれはね、流石に私も同乗したわよ。自分の娘をクズ呼ばわりして更にこのクソみたいな殺し合いをするゲームに自分の娘が連れて行かれそうになってるって言うのに連れて行けだなんて、私もあんな最低な母親は初めて見たわよ」
アクア「そう…って、え?」
聞き間違いだろうか?今確かにアクアの耳にはクソみたいな殺し合いのゲームと聞こえた。こいつ好きでこの司会をやっているんじゃないのか?アクアの中にまた新しい疑問が生まれた。もちろんそれも聞いてみる。
アクア「クソみたいなって…お前好きで司会やってるんじゃないのかよ?」
ディーナ「はい?あんた勘違いしないでよ。私が好きでこんなことするわけないでしょ?」
これは驚いた、ディーナは司会をしていた時とはまるで別人のようだ。ゲームを嫌っていて更にはクソと言った。では一体どうして司会をしているのか?それを聞こうとした時、ドアが開いた。
???「よぉ、お前が今回あのスラム街から選ばれたプレイヤーの一人か。もう一匹は?」
ディーナ「もう一匹のこなら来る前に精神的ダメージを受けて部屋でうずくまってるわよ」
その入ってきたポケモンは、ゴウカザルと言う種族のポケモンだ。
なんだか見た目だけ見ると怖そうで、アクアは少し怯えている。
その様子を見たディーナはアクアにそのゴウカザルが一体どういうポケモンなのか説明した。
ディーナ「こいつはね、あーっと…今は何回め?もう70回目入ってるわよね?うん、20年前。今年と同じ大規模キルフィールドでたった一人で生き残った優勝者よ、名前はガジラ」
アクア「はっ!?」
アクアはびっくりすると同時にこれはチャンスだと思った。
この大規模キルフィールドでの優勝者を味方に付ければ、何か良い案やヒントやら何やら聞き出せるかもしれないと思ったからだ。
そして、アクアは行動に出る。
アクア「あ、あの…どうも…」
まず最初は少し怯えている感じで挨拶をする。このポケモンは外見を見ると何だか怖そうだからd
ガジラ「誰が怖いって!?俺はこれでもフレンドリーな方だぞ!!」
……ポケは見た目によらずってか。ってか人がナレーションしてる時に割りこんでこないでy
ガジラ「知るか!!お前が悪い!!」
アクア「………………」
流石にこれはアクアもどう反応すればいいのか分からなかったようだ。ポケは見た目によらずと言うが。想像と全く逆で、しかもこの小説のナレーションなど関係なく話しかけるところが凄い。アクアは心の中で切実にそう思っていた。
ガジラ「そうか、お前俺が怖かったのか!大丈夫だぜ?俺はこう見えてもフレンドリーな方だからな!!かっかっか!!」
ディーナ「あんたねえ、すんごい良いとこだったのに雰囲気ぶち壊しじゃないのよ」
ガジラ「知らん」
ディーナ「一方的!?!?」
アクア「もう色々と嫌だ……」
アクアはもう心の中でいっそ死にたいと何度も思っていた。一方その頃。キリアの部屋では……。
キリア「うっ………うっぐ…………………」
キリアはこの部屋に連れ込まれてからずっと泣いていた。無理もないだろう。自分の実の母親にクズ呼ばわりされた上に連れて行けと言ったのだから。ショックを隠そうとしても流石にこれ程大きなショックは隠しきれない。
キリア「ミリアお姉ちゃん………私……どうすればいいの…………?」
ミリア。それはキリアの実の姉であり、キリアの事を一番に考え、時にはいじめっ子から助けてくれたりなどとにかくキリアを心の底から可愛がっていてくれていた姉である。だが数年前にキルフィールドに連れて行かれ。それから一度も見ていない。消息も不明である。一体どこに行ってしまったのか…。キリアが考えても考えても出てくる答えはひとつ。キルフィールドで死んでしまったと言う事だ。そもそもキルフィールドに参加されられ帰ってこないのだからそれ以外考えられない。だがキリアは信じたくない。信じたくなかった。
キリア「お姉ちゃん……………うっ………うぅっ………」
もう二度と会えない…。自分を愛してくれるものなんていない…生きている意味なんてない……。徐々にネガティブ思考になっていくキリアの頭に浮かんだ二つの文字……。【自殺】。どうせ死ぬのなら、いっそここで死んでしまえば、怖い思いも苦しい思いもせずにミリアの所に行けると考えたのだ。そうと決まると早速テーブルの上にあった包丁をもち、首に近づける。
キリア「お姉ちゃん……今会いに行くからね……」
キリアは一粒の涙を流し。包丁を首に刺そうとした瞬間。横から声が聞こえてきた。
アクア「そんな事して…お姉さんが喜ぶと思うの?」
キリア「っ!?」
キリアが横を向くと、そこにはアクアが立っていた。あの時ディーナ達との会話の後すぐにディーナはアクアにパートナーの部屋へ行き挨拶をするように提案していたのだ。
キリア「い、何時からいたの!?!?」
もちろん、自分が気づかないうちに、いつの間にか真横にいたのだからそこから聞くのは当たり前だろう。一体いつから?
アクア「君がお姉さんの名前を呼んだ時だよ。悪いけど、全部聞いちゃった。辛かったんだね…」
アクアは優しい表情でそう言った。が、キリアは…。
キリア「貴方に何がわかるのよ!!貴方にはちゃんと家族がいるじゃない!!今のこの私が!!!貴方にはわかるわけ!?!?」
確かにそうだ。自分の事を一番よく知るのは自分。だが、アクアから帰ってきたのは意味深な言葉だった。
アクア「本当に僕に家族がいると思う?」
キリア「はっ!?な、何を言ってるの?」
一体どういう意味なのか?キリアには理解ができなかった。どう考えても出てくる答えはわからないの一言。その様子を見たアクアは更にヒントを出した。
アクア「君は、僕と最初にあった時に僕が誰と一緒にいるか見た??」
キリア「いや…見てない……」
アクア「じゃあキルフィールドのプレイヤーに選ばれた時、僕は誰かと一緒にいた?」
キリア「い、いなかった…」
アクア「じゃあ最後。キルフィールドのプレイヤーに選ばれた時に僕を引き止めたり、僕の名前を呼んだ人は?」
キリア「………………」
そこまで行くとキリアは何も言えなくなってしまった。今のアクアのヒントから考えると出てくる答えは二つ。一つはアクアが養子だと言うことだ。あのスラム街では養子の子はまともに面倒を見てもらえないから。もう一つは……そもそも両親がいなくてたった一人だと言うことだ。母親も父親もいない、姉や兄、弟や妹もいない。おじさんもおばさんも祖父母も…本当に独り身だと言うことだ。
キリア「よ、養子なの?」
キリアは最初に出てきた一つ目の答えが合っているかどうか聞いてみた。もしこれであっていなければ…アクアは本当に独り身だと言うことだ。そして、アクアは…………首を横に振った。
これはマズい。アクアにとんでもなく酷いことを言ってしまった。自分以上に辛いはずなのに他ポケの心配を心配をしてくれていたのだ。
キリア「あ、あの…ごめんなさい……」
キリアには罪悪感しかなかった。アクアの事を一切何も知らずに大口を叩いていたから。自分のことしか考えていなかった。そんな自分を憎くも思える。するとアクアは。
アクア「そんな気にしなくて良いよ。僕の母さんと父さんが死んだのはもう5年前だし」
そう言ってアクアはキリアに笑顔を向けた。だがキリアにはすぐに分かった。その笑顔の後ろには悲しい表情があったのを。それを感じ取ったキリアは更に罪悪感を感じた。
キリア「ごめんなさい……私……怖かったの……これからこのゲームで沢山の人達が生死をかけて戦い合うのが……それに参加するのが……怖かったの……」
そう言い終えるとキリアは泣き崩れてしまう。それは怖いのは無理もないだろう。見た目だけでの判断だがキリアは15歳未満。そんなまだ子供のキリアがこのキルフィールドに参加するだなんて……本当に、キルフィールド協会の奴らはどうにかしている。アクアは心の中でそう思いながらアクアはキリアと一つの約束をした。
アクア「泣かないで…ほら、顔を上げて僕の目を見て」
キリア「うっ………うっぐ………」
キリアは顔を上げてアクアの目を見る。その目は綺麗なアクアブルーだ。
アクア「キリア…だったよね?」
キリア「うん…」
アクア「おっけ、じゃあキリア」
アクアはキリアの目をまっすぐ見て、よそ見もせずにまっすぐな目で。真剣な眼差しで言った。
アクア「約束する。このゲームが終わるまで…君だけは絶対に死なせない。このゲームが終わるまで君を僕が全身全霊で守り通すから…だから安心して…ね?」
そう優しい笑顔で言ってキリアの前に小指を差し出す。
キリア「………う、うん!」
キリアもそれに答え、涙を拭いて小指を差し出す。それと同時に窓の外が明るくなり、夜の綺麗な星空が見え、満月の月明かりの下、二匹は小指を絡めていた。
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続く。