ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊next〜想いを奏でるメロディ〜
一楽章 結成!探検隊
02  サメハダ岩
「こ、ここは」
 波の音ではない。今度はたき火のパチパチと燃える音に起こされた。
 あれからどれほどの時間が経ったのだろう。周りはすっかり暗く。燃える炎のほのかな光だけが、暖かさと共に僕のいる周りを照らしている。かなり冷え込んでいるのか、凍えるような冷気が僕を襲いおもわずクシャミをしてしまった。炎の熱が直接感じられる正面はいいが、無防備な背後は打ち付けられる冷気のせいで凍ってしまいそうだ。

―そうだ。こんなことをしている暇ではない。

 まだ目を半分開けただけの状態だった僕の脳を覚醒させる。辺りを見回すと、中央にあるたき火の他にも、いくつかの家具や散乱している道具などが見られた。ところどころに木の実も落ちている。いったいなにに使ったのだろうか。僕から向かって正面には扉が開けっ放しにされている入口らしき物が有り、奥には階段が続いていた。
 ヒヤリとした感覚信号が僕の額から送られ、ソレと同時に自分の目の上から下に向けてなにかが落下していくのがみえた。どうやらそれは自分の足下に落ちたようで、僕はそれを拾い上げた。拾い上げた手からヒヤリとした感覚を感覚神経をとうして僕の脳に送り続けるそれの正体は湿ったタオルだった。だれかが看病してくれたのだろうか。
 そういえば誰が僕をここまで運んでくれたのだろうか。一旦記憶を整理しよう。
 僕が最初に目を覚ましたのはこれまで来たことも見たこともない海岸だった。そこでたしか自分が記憶を失っていることを知って・・・・・・そうだ!僕はポケモンに―ピカチュウになっていたんだ。
「で、でももしかしたら今までのは全部夢だったり・・・・・・」
 そんな僕の淡い期待(願望とも言う)は炎に照らされる自分の体を見てしまったことによって打ち砕かれる。黄色一色に染められた自分の体は確かに僕がピカチュウになったことを示していた。
「夢じゃなかったか・・・・・・ハァ・・・・・」
 できるなら夢であってほしかった。朝ベッドの上で目を覚まして何気ない一日を送っていたかった。もっとも、その何気ない一日を僕は覚えていないのだけれども。試しに僕はほっぺたに力を入れてみた。するとほっぺたからビリビリと下感覚が伝わった。電気が流れた証拠だ。
 まあこれ以上考えてもきりがないので、なんで僕が記憶を失ってポケモンになってしまったのかはいったんおいておいて、今僕がいるここはどこなのかを考えよう。見渡した感じ、周りに別のニンゲンやポケモンの気配はない。いまは完全に僕一人なのである。恐らく海岸で倒れた僕を誰かがここまで運んでくれたのだと思うけど・・・・・・。きっとこの部屋の持ち主だろう。・・・・・・あれ?そういえばあの時誰かもう一人いたような――。
「あ!目をさましたんだ!」
 急に背後から声が聞こえた。僕が後ろを振り向くと、階段からポケモン―イーブイが降りてきた。フワフワとした茶色の毛並み。おもわず抱きつきたい衝動に駆られる尻尾・・・・・・あれ、なにかデジャヴを感じるな。
 おもいだした!あの時海岸で会ったポケモンだ。僕が倒れる前にこの子がやってきたんだ。
「もう。びっくりしたよ。私が話しかけたとたんキミが倒れたんだから」
 声から察するにおそらく女の子なのだろう。少し大人びているけどまだ子供っぽさが残る声だった。
「ぽ、ポケモンが喋ってる」
「やっぱりおかしな事をいうなあ。キミだってピカチュウじゃない」
 そうだった。
 はいオレンの実。それとリンゴ。そういって彼女は僕に青色の木の実を差し出した。
「キミが寝ている間にと思っていそいでカクレオンのお店にいって買ってきたんだ。体力回復に最適だから食べて」
「あ、ありがとうございます。」
 そういって僕は受け取ったオレンの実をまじまじと見た。そして意を決したようにひとかじりした。
 少し酸っぱいような。でも心地いい味が口の中に広がり、幾らかからだが軽くなった気がした。なるほど。たしかに治癒効果が高いみたいだ。
 次はリンゴを一かじり。内部の蜜が染み出てきて甘いという感覚が僕の舌を伝う。
「あの、そのう。ありがとうございました」
「そんなの気にしなくていいよ。私、困っている人がいたらたすけたくなっちゃうから」
「それで・・・・・・ここはどこですか?」
 恐る恐る僕は聞いた。
「ここはサメハダ岩のなかよ」
「サメハダ岩?」
「そう。外から見るとサメハダ―そっくりなかたちをしているからサメハダ岩って呼ばれているわ。そして私の家でもあるよ!」
 サメハダ―。ああ、あのいかにも凶暴そうな顔をしたポケモンか。ああ、そういえば海岸からいびつな形をした崖が見えたな。じゃあここはサメハダ―の口の中か。
「ところでキミ、どうしてあそこで倒れていたの?それにキミここではあまり見かけない顔よね」
「え、ええっと・・・・・・」
 すこしの間。サメハダ岩の中に沈黙が流れた。
「・・・・・・すみません。何も覚えていないんです」
「ええ!それって記憶喪失ってこと?」
「はい。そうみたいです」
「うーん。じゃあ自分の名前はわかる?」
「名前ですか・・・・・・えっと」
 そういえばいままでは経緯ばかりで名前を思い出そうとしたことはなかったな。僕の名前かあ。僕の名前。僕の名前。僕の名前・・・・・。
「えっとライト。です」
 そうだ。僕の名前はライトだ。よかった。名前だけはしっかりと思い出せた。
「へえ。ライトって言うんだ。キミにそっくりな名前だね」
「あ、ありがとうございます」
「あ。私の名前はミオ。よろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします。ミオさん」
 突如僕のおでこでにデコピンがとんできた。もちろん犯人は目の前の彼女しかいないわけで・・・・・・あの前足でデコピンができるんだ。
「もう。敬語は禁止。普通に話してくれていいわよ」
「わ、わかりました」
「もう。また敬語使ってる」
 まったくといった風にミオはいった。そんなこと言われても助けてくれた人にいきなりため口でなんか話せない。
「ねえ。ライト、他になにかわかることない?」
「他に・・・・・」
 そうだった。大切なことを言うのを忘れてた。
「あるけど・・・・・・ミオ。一つ教えて。この近くにニンゲンっている?」
「ニンゲン?この近くでは聞かないけど、もっと東の方の土地にニンゲンが住んでいる噂は聞いたことがあるよ」
 よかった。一応ニンゲンはいるんだ。
「そうなんだ・・・・・。じゃあここの近くに住んでいるのはみんなポケモンたちだけ?」
「そうだよ」
「じゃ、じゃあみんなキミみたいに喋っているの?」
「そうだよ」
「あともうひとつ。キミたちってみんなこんな感じで暮らしてるの?」
「そうだよ。どうしたの?おかしなポケモンだな〜」
 そういってミオは笑う。まずい。頭が混乱してきた。いやいやいや、元ニンゲンの僕からしたらポケモンが喋っていることが信じられないんだけど。僕自身がポケモンになってしまったからいままでただの鳴き声としか認識していなかったものが会話としてわかるようになったのか?そもそもポケモンが集団で生活しているってどういうことなんだ。それほど高度な水準ではないとは思うけど、かぎりなくニンゲンに近い生活を送っているはずだ。現に目の前のイーブイが普段生活しているこの空間には家具が設置されているし、ところどころに落ちている道具は彼女が使っているのだろう。
「どうしたのライト?それでなにか分かったの?」
「うん。驚かないで聞いてね。実は僕・・・・・・」
 そこで僕は一度話をつづけることをためらった。仮にこんな突飛な話をしてミオは信じてくれるのか。迷ったものの、僕は話すことにした。いま頼れるのはミオ以外にいないし、多分ミオは信じてくれると思う。
「実は僕、本当はニンゲンなんだ。」
「ええ?でもどこからどうみてもキミ、ピカチュウだよ?」
「僕もなにがあったかは覚えていないし、どうしてピカチュウになってしまったかわからないけど確かに僕はニンゲンだった。これだけははっきりと覚えている」
「元ニンゲン・・・・・か・・・。」
「?ミオ、どうしたの?」
 こころなしか、ミオの表情に影が差したようにみえた。
「ううん。なんでもない」
 今のは何だったんだろう。いや、僕の思い過ごしかもしれない。
「で、どう?信じてくれる」
 信じてくれなかったら僕完全に詰んだな。
「うーん。まあ、あまりよくは分からなかったけどキミが本当はニンゲンだったって事だけは分かったよ」
「し、信じてくれるの?」
「うん。それにさっきも言ったけど私、困っているひとがいたら助けたくなっちゃうから」
 よかった。信じてくれた。


――ぐう

 大きな音がどこからか聞こえた。
「あ!ライトのお腹の音だ!」
 どうやらそれは僕のお腹で鳴ったらしい。そうと知った途端、僕の顔は羞恥でほぺたの電気袋のように赤くなった。
「あはは。ライトってばさっきオレンの実を食べたばっかりなのに」

――ぐう、ぐう

 またなった。しかも今度は2連続で。
「あはは。また鳴った」
「うう・・・・・・」
 嗚呼、穴があったら入りたい。というか今すぐそこから身を乗り出して海に飛び込みたい。そしてもう一度記憶を失いたい。
「まあしょうが無いよね。いままで何も食べていなかったんでしょ。ってそうか、ライトはわからないかあはは。まってて、ご飯つくるから。私も朝からあまり食べてないからお腹減っちゃった」
 ちょっと待っててねと言ってミオは僕と反対側にある戸棚へと向かった












    ♪〜♪〜♪










「はい。ほんとはしっかりと料理したらもっと美味しいんだけど私あまり料理得意じゃないし、今あまり材料ないから生のままでごめんね」
 ミオが持ってきてくれたリンゴを受けとった。さっきのリンゴよりひとまわりほど大きくて、艶もいい気がする。
「でもそのままでも絶対に美味しいから」
 そういってミオはリンゴを一かじりした。うん!やっぱり美味しい!とミオが頬張りながら喋る。そんなに美味しいのか。僕も続いてかじる。――さっきのリンゴよりも甘い!さっきのリンゴも美味しかったけどこのリンゴは更に上をいく。言葉では言い表せないような、最上級の甘さだ。確かに料理しなくても十分イける。むしろ何も手を加えない方が美味しいんじゃないかと思う。
「おいしいでしょ?セカイイチって言うの。結構貴重なリンゴだからもったいなくて食べなかったんだけどせっかくだから」
 そんなに高級な食材なのか。なんかタダで貰ってしまって申し訳ない気にもなるんだけど。
 他の木の実もごちそうになり、僕とミオのお腹もしっかり満たされたころ、ミオが切り出した。
「ねえ。ライトはこのあとどうする?」
「うーん。どうするって言ってもなあ」
 残念ながら宛てになる人はいないし(いるほうがおかしいが)、正直現状詰んでいるとしかいいようがない。そもそもミオに会わなかったらあのままあの海岸に倒れたまま死んでいたことも十分ありえた。
「もしかしたらだけど、ギルドにいけばなにか分かるかもしれない」
「ギルド?」
「そう。『プクリンのギルド』って言うんだけどいろいろな探検隊が集まるし、そこの一番弟子のペラップがかなりの情報通だからなにかわかるかもしれないと思うの」
 ギルドや探検隊と知らない単語がでてきたがこの際は置いておこう。いやでもニンゲンの数自体かなりすくないみたいだし、情報なんてあるのかな?
「でもそんなところにいきなり入っても大丈夫なの?」
「大丈夫よ。まあ最初は足形チェックにビックリするかもしれないけど基本自由に出入りできるから。それに私、ギルドのポケモンたちと知り合いなの」
「え!そうなの?」
 ミオって結構顔が広そうだな。
「それじゃあミオもその探検隊なの?」
「ううん。私は違うよ。父さんと母さんが探検隊だからその繋がりで」
 なるほど。そういえばさっきから見えていないから忘れていたけどミオにも親はいるよね。その探検隊のお仕事で出払っているのかな?
「で、どうするライト?」
「うーん」
 ギルドに行ってもなにかがわかる可能性はかなり低い。しかし、今僕にとって圧倒的に足りないのは情報だ。自分のこと、世界のこと、今後ここで暮らして行くにしても情報がなければ何も出来ないし、なにか些細な情報でも掴めたらそれが大きな手がかりになるかもしれない。例え可能性が限りなくゼロに近くても行ってみる必要はあるだろう。
「とりあえず行ってみるよ。可能性は低いけどなにかわかるかもしれない」
「じゃあ決まりね。場所は私案内してあげるから大丈夫。
 ありがたい。目が覚めてからミオに頼りっぱなしだけど本当にこれでいいのだろうかと思うほどだ。見た目が見た目なだけに少し幼く見えるけど口調も大人っぽいしやっぱり僕よりも年上なのかなあ。
「でもその前に・・・・・・」
「そのまえに?」
「まずは町を案内しないとね」
「え!?」
「だって町のなかが分からなかったら生活していけないじゃない」
 え?僕、ここで生活する前提で話が進んでいたの?
「でもミオ、僕が寝泊まりする家がないよ」
「もう。何言ってるの?ここで生活すればいいじゃない」
「ええ!?」
 驚きが二倍だよ!いきなり大丈夫なの!?
「ここからならギルドも近いし結構便利よ」
「い、いいの?」
「もちろん」
「食費とか大丈夫なの?」
 いや、僕も自力で稼ぐつもりですけどね。
「ええ」
「でも、なんか申し訳ないよ。ただでさえお世話になってるのに」
「言ったでしょ。私困っている人がいたら放っておけないの」
 そう言ってミオは笑みを浮かべた。その笑みが少し綺麗に思えた。
「あ、ありがとう。迷惑かもしれないけどその・・・・・よろしく?」
「うん。じゃあ行きましょうか。ついてきて、ライト」
 正直かなり不安だったけどどうにかなりそうかな?すこし申し訳ない気がするけど一緒に住まわせて貰って安心する僕もいる。とりあえず今はミオに町を案内して貰って、ギルドに行かなくちゃ。
BACK | INDEX | NEXT

銀河の星 ( 2015/11/07(土) 20:02 )