ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊next〜想いを奏でるメロディ〜
序章
00 プロローグ
 少年は戦慄した。今まで戦ってきた相手とは次元が違いすぎる。
 目の前に広がる光景は凄まじかった。バトルの衝撃でできたと思われる周りの木々の傷、一部めくれ上がった地面、かなりの激闘だったことが見てわかる。そしてそのなかで横たわる自分のポケモン。傷一つ負った素振りを見せず、鋭い目つきでこちらを見ている相手のポケモン。そしてそのポケモンの主人である。謎のコートの男。オーラのようなものが見えるとすればそれは黒と断言できるだろう。
 少年はバトル天才と言われていた。
 彼にポケモンバトルで勝てる者はこの辺りにはもういなかったし彼もそれを自負していた。少年にバトルを挑んだものは皆口をそろえてまるでポケモンと心をかよわせているようだと言った。
 事実少年にはポケモンの心がわかっていた。だから少年はポケモンが好きだったし、彼のポケモンたちも、彼のことを慕っていた。少年とポケモンは文字通り一心同体だったのだ。

 始まりは突然だった。少年が暮らしていた村にどこからきたのかその男は現れた。旅に使うものが詰まっているであろうリュックサックと服の上から羽織っているぼろぼろのコート以外は何も身につけていない不思議な男だった。不思議そうに男を見る村の人々には目もくれず、男は少年のところへと向かい、バトルを申し込んだ。
 そのバトルに受けて立ったのがいけなかった。話は冒頭へと戻り、少年のポケモンは既に皆瀕死の状態だった。
 少年の胸には初めての敗北への絶望と新しい期待がふくれあがった。降参し、ポケモンをモンスターボールにしまおうとした矢先、男のポケモンは動き出した。そして横たわる少年のポケモンに攻撃を加え始めた。

――やめろ!

 少年は叫んだが相手は止まらなかった。攻撃は勢いを増すばかりだった。男は黙ったままそれを見ている。
 少年はキッと男を睨んだ。コートを羽織った男の目は冷徹で、こちらを見下しているように見えた。
 だが少年はなにもすることができない。ただ見ているだけだった。やめろと手を伸ばしてもその手は届かない。少年は自分の無力を嘆いた。
 呆然とするしかなかった。このままでは自分のポケモンが死んでしまう。
「・・・・・・」
 少年がつぶやいた。なにを言ったかは聞き取れないがつぶやいた。空がだんだんと怪しくなる。
「・・・め・・」
 しとしとと雨が降り出した。雨の勢いは増していく。
「・・・めろ」
 その声はどんどん大きくなる。攻撃も雨もまだ止まらない。雨はさらにつよくなる。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 少年は叫んだ。雨が降る天に向かって吠えた。その声は辺り一帯に響き渡る。木に止まっていた野生の鳥ポケモンは飛び去り、バサバサと音を立て、その後はザーザーと雨の降りしきる音だけが残った。依然男は微動だしない。

――ゴロゴロ

 雷が鳴る。男は来たかという風に天を見上げた。

――ピシャッ!

 雷が落ちた。少年に落ちた。広場がとても眩しい光に包まれた。男はそんななかでも平然と立っている。まるで計画道理と言うように。
 光が収まり、再び雨の音だけが世界を支配した。少年はもうそこにはいなかった。いや、消えた。忽然と姿を消したのだ。彼のポケモンもそこにはいない。まるで彼の存在そのものが消えたかのように全てが消えた。
「もうようはない」
 男はそう言って森のなかにその姿を消した。









        ♪
 少女は走る。暗い森の中をひたすら走る。後ろを振り向く余裕はない。ただ森の中を闇雲に進む。

 少女は後悔した。掟を守っていればこんなことにはならなかったのだと。
 それは本当に偶然だった。たまたま村の掟を破り、この森に入り込んだのだ。村の掟としてこの森に入ることは禁じられており、この森に立ち入った者は一人もいなかった。
 余談だがその村の掟によると、森には各地で伝説として語り告がれているポケモンがすんでいると言われている。
 だが、まだ10と少しばかりの少女はそんなものに恐れず、森のなかへ入った。入ってしまった。
 森は暗く不気味だった。しかしそれがいっそう少女の好奇心をかき立て、奥へ奥へと進んでいく。
 突如悪寒が走った。少女は立ち止まる。恐る恐る後ろを向く。後ろにはボロボロのコートを羽織った男がいた。男の顔は暗くて見えない。
 突然男が背負っていたリュックサックからモンスターボールを取り出し、ポケモンを繰り出した。
 少女は昔家の本でそのポケモンを見たことを思い出した。名前はたしか――ブーバーンと呼ばれていたはずだ。
 ブーバーンはニヤリと不敵な笑みを浮かべている。するとブーバーンは腕のをこちらに向け炎をだした。かえんほうしゃだ。
 飛んできた炎は少女のすぐ近くの木にあたり木は音を立てて燃え出す。炎は燃え広がる。暗かった森がいっきに明るくなった。しかし、明るくなればなるほど、少女の恐怖心は増し、少女はその場を蹴って逃げ出した。
「・・・追え」
 男はブーバーンにそう指示をだした。ブーバーンは少女を追う。周りの木を燃やしながら、追うことで、少女の恐怖心をさらに煽ぐ。


 そろそろいいかなと少女が立ち止まりふり返る。火はまだ見えるが、距離はかなりとった。ブーバーンは足が遅い。それのおかげで少女は捕まること無く逃げることができた。
 近くの木にもたれかかる。あの男は誰なのか。少女は自分の記憶をさぐってみるが、男の正体も追われる理由もわからなかった。
 上着のポケットが震えている。少女はそれを取り出した。震えていた正体――モンスターボールがカタカタと揺れていた。
 ごめんねとなかに胸で押さえた。ボールの中のポケモンはおとなしくなる。

――なにかがやってきた!

「・・・くぅ」
 なにかに巻き付かれた、一部しか見えないが紫色だ。
 その正体はアーボックだった。締め付ける力はかなり強く、少女の細い体は簡単に折れてしまいそうだった。
 男がやってきた。締め付けられている少女を見上げるように見る。その目はやはり冷徹な目だった。少女はまた得体の知れない恐怖に襲われた。――もうおわりだ。


「――!!」

 辺りが光に包まれた。強烈な光に目が眩む。



 どこからか声が聞こえる。聞いたことのない声だが、なぜか安心できる声――。


 影が現れた。どうやらポケモンのようだ。でもブーバーンでもアーボックでもない。あれは――

「――――」

 なにか語りかけられたが少女にはあまり聞こえなかった。
 そこで少女の意識は途切れた。








        ♪
 少女が消えたその場に男が一人。顔を上げ、天を見上げる。火はもう消えていた。

「準備は整った」

 そう言って不敵な笑みを浮かべる。

 男は再び森の奥へ消えていった。

■筆者メッセージ
構成なども考え直していちからやり直すことにしました。
これからもよろしくお願いします。
銀河の星 ( 2015/01/18(日) 14:49 )