第1章
プロローグ
 自由など、最初からなかった。
 生まれた頃から、ずっと洞窟に幽閉されていた。私はみんなとは違う――そう言っても、信じてもらえるわけがない。
 それもそのはずだ。彼らは、今までずっと、私に押し付けることしかしていない。洞窟に籠もってるだけの姫であれと。あるいは、同族と同じように生きよ、と。
 それから、ずっと息苦しい生活を続けてきた。毎日毎日、命令だらけ。私が嫌がっているのにもかかわらず、勝手に「姫」と呼んでいるくせに、実際のところ、わがままを聞いてもらったことは1回もない。
 けれど、鍛錬の時間だけは、唯一快感を得られる時だった。文句を言われずに、彼らをこてんぱんにできるから。そして、珍しく褒めてもらえるから。
 それに、この洞窟を脱け出して、外の世界で生きていく力になるから。

 だから、私は外の世界に飛び出した。
 そして、今度は「人間」という者達に追われることになった。
 それ事態は別に苦ではない。どちらかといえば、楽しかった。その過程で外の世界を駆け回り、追いつかれたら鍛錬の成果を見せてやれる。しかも、鍛錬の時とは違って、相手は最初から全力だ。立場に縛られない、全力のぶつかり合い。これが楽しくないわけがない。

 ――そう思っていた。

 人間の実力を侮っていた。人間に使われるポケモンなんて、温室育ちで大したことないと。
 けれど、今回私を追ってきた人間とポケモンは違った。指示を受けて、アクションを起こすまでのタイムラグが少ない。敏捷性もあちらが勝っていた。力比べでも負けてしまった。
 なんとか逃げ切ったはいいものの、体が重い。「助けて」と叫んだところで、助けてくれるほど仲が良い者はいない。自分から、すべての関係を断ったのだ。当然のことだった。
 くらり、と目眩がした。
 ふらり、と体が俯いた。
 目の前が真っ暗になった。






 田舎町の夜は黒く、数多の星が輝く。それらの放つ優しい光に包まれ、人は、街は眠っていた。

 そこに、光の大粒が落ちてきた。

 石竹色のそれは、ゆっくりと地へ向かう。ふんわりと、眩い光芒をまき散らしながら。降る雪のような、舞う桜のような儚さを含んだそれは、草花に出迎えられ、何の外連味もなく、

 すとん、

 と地に着いた。
 石竹色の光芒が、不意に消える。
 そして、初めて、光の大粒が正体を表した。
 ポケモンである。
 全身が宝石のよう。ただのポケモンではないことは、一目見てわかる。
 それは、世界で最も美しいと称えられる、幻のポケモン――

 宝石ポケモン、ディアンシーであった。

■筆者メッセージ
 2018年2月2日、大幅加筆しました。
つるみ ( 2015/08/06(木) 16:33 )