6.結成
「僕と、救助隊を組んでくれませんかっ!!!」
聞きなれない言葉。私はハテナマークを頭でいっぱいにしながらも、ユウの次の言葉を待つ。
「あ、そうか、そうだよね知らないよな」
「救助隊……聞いたことも無いなあ」
ということは、人間だった頃の私にも救助隊という知識はないということで。ユウは説明の仕方を少し悩んだ後、なんとか話し始めてくれる。
「救助隊っていうのはね、今この世界で一番活躍してると言われてる職業?みたいなものなんだけど。名前の通り、ポケモンたちの救助を主にするんだ。
今、自然災害が多発してるって話はしたよね。災害はどうしても避けられない。だから、建物が崩れて閉じ込められたりさっきみたいに地割れに落ちたりするポケモンが増えて、彼らを助けてるために救助隊が出来たんだ」
確かに、災害でどんどん亡くなるポケモンが増えていく一向なんて考えたくもない。こういう時に救助できるポケモンたちがいるのはとても頼り強い。
ということは、先程私たちがしたことも救助の一環、ということなるのだろう。何だかいいことをした。悪い気分ではない。
「それと……ダンジョンに迷い込んだポケモンの救助もあるかな。ダンジョンは増え続けていて区別するために名前がついてるんだけど、つい最近出来たばっかり、とかだとそこにダンジョンがあるっていうのもわからず奥まで入り込んで出られなくなって……って言うことが結構あるんだ。ダンジョンの中は危険だし、下手に身動きが取れないから、彼らは救助を待つしかない。
だから、そこそこ力のあるポケモンじゃなきゃ務まらない……んだけど、まあ最初はみんなほどほどのレベルからスタートって感じだけどね」
ユウの話によると、長い間救助隊として活躍してきたベテランポケモンたちは本当に強くて、伝説のポケモンとも渡り合えるとの噂もあるらしい。そういう救助隊は皆からの憧れで。というか、救助隊という職業自体が子供たちからの憧れの的らしい。もしかしてさっきコリンちゃんが私たちのことを妙にキラキラした目で見てきていたのは、私たちのことを救助隊だと思っていたからなのかな。
そうだとしたらちょっと、期待しすぎかも。
「それで……さっき一緒にコリンちゃんの救助して、君にかなり強さの素質?というか、そういうものがある気がして……君となら、救助隊が組めると思えたんだ。どうかな………?」
「んー……」
今決めろ、と言われているようで。どうにもこうにも答えが出ず、私はただ黙り込むしかなかった。
私のことが私でもわからない、記憶もない、素性もしれない、技も使えなくて役立たずでしかない、ただの不審者のようでしかないのに。ユウは、どうしてこんな私を誘ったのだろうか。
自分で自分が怖いのに、こんな状態でユウに心を開けるのだろうか。
だが、これ以外今後打つ手がないのも確かで。
「……そんなに、私と救助隊組みたいって思ってるの?」
「うん。今まで一緒にやってくれるような誰かもいなかったし。僕は、カレンがいいんだ」
「………」
そんな事言われても。拗ねるように考え込む素振りをするが、私の中ではもう答えは出ていた。
邪魔と思われるかもしれない。迷惑だって思われるかもしれない。その時私の心が耐えられるかはわからない。でも今は、もうこの目の前の糸に縋るしかないんだと何となくわかっていた。
「…………うん、いいよ」
「え!ほんと!?ほんとに!!よっしゃあ!!!」
ぱあっと花のように、ユウの笑顔が私の目の前で咲いた。それがなんだかきらきらしていて眩しくて、私も自然と口角が上がる。あったかいものが心を満たす感じがして、それがどこかむず痒かった。
「………それでさ」
「うん?」
「カレン、行くとことか無いでしょ?」
「うん」
だって今日ここに倒れていたんだから。そうだ。ユウに言われてはっきり理解したけど、記憶も何も無い私はこの先身よりもなくどうやって生きていくつもりだったのだろう。
「それだったらね、紹介したい所があるんだ」
そう言ってユウは森の外へ目を向けた。なんだろう、という純粋な疑問を胸に、私はユウについてこの小さな森の外に足を踏み出す。
*
「ここなんだけど……」
そう言って見上げた先には、かなり立派な家があった。丸太や木の板で作られた壁、木の葉など自然な素材で作られた家は、遠目から見るだけでもしっかりしていてそれなりに贅沢な暮らしが出来そうだと感じる。
ここに来るまでにも、舗装された道や家などを見かけたので文明的にも発展しているみたいだ。そしてやっぱり目にする生き物はポケモンばかりで、人間らしい生き物なんて一人も見ない。
草木で作られた家は風に吹かれてその自然な匂いをこちらに向けてくる。その匂いはとても香りが良くて、それだけで居心地の良さを感じた。この家を見たのは初めてだけど、なぜだかずっと暮らしていたような。そんな雰囲気がしたのだ。
「とってもいい家だね〜……これ、ユウのものなの?」
「んー、まあそんなものかな。僕が今住んでる家は別にあるんだけど、この家は大家さんがもう使わないからって半分無理矢理渡されたものなんだけどね……」
「へえ……とにかくすごく良い雰囲気だと思う」
「うん、だと思った。やっぱチコリータの本能的なものがあるんだね。ポケモンって、そのタイプに合った場所にいると安心するらしいから」
姿がポケモンになれば、ポケモンの本能も一緒に得られるのか。確かに言われてみればわかる気がする。
この家には、これまた木や葉で作られたポストが備わっていて、毎朝新聞だったりが送られてくると言う。
「元々この家は救助隊の基地にしようかなって思ってたんだけど、カレンの家としてプレゼントしたいんだ」
「……それなら、私の家兼救助隊基地って事でどう?」
「ああ!それいいね!」
ここが救助隊基地、となると、置いてあるポストに救助依頼が届くこともあるという。それは有名になったら、らしいが。
「よし……じゃあ、カレンはここで暮らすってことで……それで、救助隊を結成したから、今からその事を登録しに行かないといけないんだけど………」
「登録?そんな手続きみたいなことするんだ」
「そ。救助隊も職業だから、連盟みたいな、組織的なもので統制されてるんだ。フリーでやってるポケモンもいるけど、救助隊として登録すると色んな必要物資を貰えたりするからね。
それで今から『ぺリッパー連絡所』ってとこに行って、連盟に登録手続きの手紙を送らなくちゃなんだ」
「へえ、なんだか楽しそう」
「楽しいかどうかはわかんないけど……一緒に来てくれる?」
「もちろん!」
緊張と不安がとけると、好奇心が湧き上がってくる。見知らぬ土地、見知らぬポケモン達。さっきまで怯えていたほど、怖くもなくなってきた。
行き場なんてなかった私は、この世界できちんと居場所を見つけられたみたい。