ポケモン不思議のダンジョン〜ボクたちだけの救助隊“メモリーズ”」 - 第1章:「“ちいさなもり”」編
メモリー5:「最初の試練〜ちいさなもりC〜」の巻
 ………ボクはなんて無茶苦茶なんだろう。ボクはなんて後先の事を考えないんだろう……。


 見ず知らずの世界なのに……何も知らないくせに……せっかくピカチュウが危険を知らせてくれたというのに…………。なんて無茶なんだろう……。



 「ううう…………ううう……」




 一瞬の出来事だった……。姿が見えぬ敵の襲撃は、ヒトカゲという幼く小さく弱々しさがまだ残るポケモンにとって、耐えた方が不思議なくらいのダメージを残していた……。


 「ユウキ!!ユウキ……!ねえ……ユウキってば!!起きて!!お願いだから……!」


 うつ伏せになって倒れこんでからどれほどの時間が流れたのだろうか。


 目の前で起きた突然の事態をまだ受け入れず、パニック状態になってしまったピカチュウが、何度も何度もボクへ声をかけていた。


 「ケッ……なんだよ。あんだけの攻撃だけでもう終わりかよ……面白くないヤツだな」
 「まぁ、オレの“ドリルくちばし”とピジョンの“はがねのつばさ”をまともに受けたらそうなるわな……ハッハッハッハ!」


 ピカチュウの必死になっている姿をよそに、いかにも凶暴そうなピジョンとオニドリルが高笑いを見せている。


 ……実は彼らがボクを襲撃した“姿が見えぬ敵”だったのだ。



 (ちっくしょう……せっかくピカチュウと一緒に頑張ろうと約束したばかりなのに……なんてこった……)


 この二匹は相当なバトルの実力者なのだろう。受けたダメージの大きさや、技を繰り出すタイミングの完璧さからそれを感じる。


 そんな相手なのに、状況を把握せず勢いにまかせて突撃してしまった自分の危機管理の甘さに対して、苛立ちを覚えた。


 「だけど、あまりにも弱すぎだなコイツ。ちょっとは強いヤツが来たかなと楽しみにしてたのによ」
 「ホントそうだな。下手したらこの虫より弱いんじゃねえか?」
 『……………ッ!!!?』



 ボクたちは信じられない光景に一瞬目を疑ってしまった。しかし決して虚像なんかじゃない……そこに……ガッチリとピジョンの脚につかまれて、地面に押し付けられていたのは………



 「ぐずっ……おかあさん……助けて……。こわいよ……いたいよ……苦しいよ……」





 …………そう、地上でボクたちにお願いをしてきたバタフリーの子ども……キャタピーだったのだ………。



 「キャタピーちゃん!?ちょっと……お願いだからその子を離してあげて……!その子を探してるお母さんがいるの!!お願いだから……離して!!」
 (ピ……ピカチュウ……)


 ピカチュウが必死になってピジョンに説得を試みてみる。凶悪そうなその表情に怯えてガタガタと小さい体を震わせながら……必死になって。


 「そうだな。こんなヤツ痛め付けても面白くも何ともないし。返してやっても良いぜ?ただし……」


 ピジョンはピカチュウの必死な言葉に、一瞬耳を貸すそぶりを見せたと思われたが次の瞬間……!


 ……………バサッバサッバサッバサッ!!


 「このオレを捕まえられるというならな……カッカッカッカッ!!」
 「いやだ………こわいよ!!離してよ!!おかあさん……助けて〜!!」


 何と幼いキャタピーの怯える姿をよそに、上空へと飛び上がったのだ!!


 「やめて!!キャタピーちゃんを離して!!お願い……ピジョン!」


 ピカチュウの懇願する声はむなしく響くだけだった。例えどんなに彼女が必死になっても、凶悪な相手に届くはすが無かった。


 ……………更に追い打ちをかけるように、事態は悪化した。


 「おっと先には行かせないぜお嬢ちゃん。オレも遊んでやるからよ……ククク……覚悟しな」
 「オニドリル……イヤ……やめて……こわい……」


 “遊んでやる”……もはやこのオニドリルの言葉の意味する事が何なのか、想像するのは簡単だった……。このままだとピカチュウの身も危ない……。



 (ピカチュウ……くっ。本当だったらピカチュウの電気技は、“ひこう”タイプのオニドリルに対して威力は絶大だけど……あんなに怯んでるんじゃ……バトルどころじゃないや……なんとか……なんとかしなくちゃ……)


 ボクは未だ激痛が鳴り止まぬ小さな体をムリヤリ起こし何とか立ち上がった……。



 ……この世界で初めて出会った“パートナー”の危機を救うべく……そしてキャタピーちゃんを救うべく……気力を振り絞って。 


 「楽しみな!!オレのこの“みだれづき”を!」
 「キャアアアアアアアアアア!!」


 しかしその間に、オニドリルは鋭くとがったくちばしを怯えるピカチュウにむけて、そのまま襲いかかったのだった!!


 「や……やめろオオオオオ!!!!」


 ズガガガガガガガガガガガガガ!!
 「痛い……痛い!!やめて……やめて!!お願い!!」


 目にも止まらぬスピードで、強烈な攻撃の嵐がピカチュウを襲いかかる!



 彼女はその嵐から必死に逃げまどっていたが、その逃げる速さよりオニドリルの攻撃の方が上回っていたので、ダメージは確実に彼女の小さな体に蓄積されていった。


 「ハァ……ハァ……やめろ……くっ……ちっくしょう……ピカチュウ……ピカチュウ……!!」


 ボクはピカチュウを攻撃しているオニドリルへ反撃を試みようとしていたが、狙いを定めようにも傷ついて、立っているのがやっとという今の状態。


 オニドリルのスピードについていける訳が無かった。



 (ハァ……ハァ……ダメだ……体が……全身が……痛い。目の前が……ぼやけてきた……。でもこのままじゃ……このままじゃ……ピカチュウが……やられてしまう……)


 ボクは自分の無力さがふがいなかった。あれだけピカチュウに……偉そうに「言葉だけで何もしないのは弱虫だ」って言ってたくせに、何もできてない自分が。


 (頼む……一度で良い……ヒトカゲなら……炎よ……技よ……出てくれ!!ピカチュウを助ける力を……ボクに……貸してくれ!!)


 気づけば心の中でそうやって強く念じていた。何度もその場に倒れそうになりながらも……ピカチュウを……キャタピーちゃんを助けたい……その一心で。


 …………すると…………、


 ………ボッ……ボボッ………ゴオッ……!


 (何だろう……。体の傷みが……無くなった……。しかも………凄い力が……体の中から沸いてくる………)


 体の傷が決して癒えた訳では無かった……しかし、不思議とあんなにボクの体を支配していた激痛がピタリと止んだのだ。しかも……、


 ゴオオオオオオオオオオオオ………!


 (物凄く熱いや……まるで……まるで体全体が炎に包まれているように……)


 まるで火山のマグマのようにみなぎる力……目の前の凶悪から初めて出会ったパートナーと、キャタピーを“助けたい”という気持ちが、神様に伝わったかのように感じた。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 気づけばゆっくりとオニドリルの方へ歩んでいた………。


 もう……ボクに恐れるものなどない……負けたらどうするというような迷いなどもない……。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


 ただ今は……力無き無抵抗な者を無差別に傷つける目の前の凶悪が許せないでいた……。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 瞳に炎が燃え盛る。命の象徴であるしっぽの炎も体の何倍もの大きさに膨れ上がり激しく燃え上がる……心も激しく……より激しく燃え上がる。





 ズガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
 (もう……ダメ。やっぱり私なんか……“役立たず”なんだよ……。ゴメンね……ユウキ……せっかく信用してくれたのに……)


 その頃、ピカチュウは既に限界を向かえていた。逃げる体力も尽き、その場に倒れこむ。体全体の至るところに、くちばしでつつかれた傷が痛々しく刻まれていた。
 ただでさえ強烈なオニドリルの攻撃。それをここまで耐えたのが不思議なくらいだった。



 ピカチュウのその様子をオニドリルは確認すると、バサッと上空へと飛び立った。



 「ククク……十分楽しんでくれたかお嬢ちゃん。それじゃ最後はコイツでフィナーレだ!」


 黒い笑みを浮かべるオニドリル。そのまま鋭いくちばしを軸に体を回転させ始めた……。


  シュイイイイイイイイイイイン!!


 “ドリルくちばし”………今こんな一撃をピカチュウが受けてしまったらひとたまりもないだろう……。


 (でもこれで良かったのかも……ずっと私なんて……“役立たず”だったし……天国のママやパパにも会えるもの………)


 しかしピカチュウは不思議にもここで仮に命が絶えても。怖いという感覚は無かった。


 振り返れば“おくびょう”なせいで、みんなから“役立たず”と言われ続けてきた。


 幸せだった毎日を……家族を奪われることになったあの“出来事”を境に、生きるのが辛かった……毎日毎日悲しいことしか無かった……。


 シュイイイイイイイイイイイイイン!!
 「あばよお嬢ちゃん!!」


 オニドリルが猛烈な勢いでピカチュウに突っ込んだ……!!


   しかし………!!



 ゴオオオオオオオオオオオオ!!!!
 「!?」
「何だ!?アチチチチチチ!!何だこの炎は……!!」


 突然オニドリルを猛烈な炎が包んだ。オニドリルは避けることはできず、まともに炎を浴びた。


 「誰だ!?せっかく楽しんでいたのに……!出てきやがれ!!」
 「オニドリル!ヒトカゲだ!あのヒトカゲだ!オレらが仕留めたはずなのに……なんでだ!!」


 突然の出来事にパニックになるオニドリル。上空にいたピジョンもその“奇襲してきた敵”の姿に、翼をバサバサさせるほど度肝を抜かされていた。



 (ヒトカゲ……って……ユ……ユウキ?でも……どうして……?)


 ピカチュウは遠ざかる意識のもとに飛び込む凶悪の言葉に疑問を抱いていた。






 「負けるもんか……お前らなんかに……ボクは……キャタピーちゃんを……助けて……ピカチュウと一緒に……帰るんだ…………。何があっても……諦めない……」
          










              ………メモリー6へ続く。

オレンジ色のエース ( 2014/05/14(水) 17:26 )