第1章:「“ちいさなもり”」編
メモリー4:「“いっしょにいこう”〜ちいさなもりB〜」の巻
 「ふう〜……あれから結構歩いたね」
「そうね。だいぶ奥深い場所になってきているはずなんだけど……キャタピーちゃんの姿……全然見えないね」



 本当にあれからどれほどの間歩き続けたのだろうか。


 幸いにもあのポッポ以外に攻撃してくるポケモンはいないが、ボクは疲れがだいぶたまってきたせいで、最初の勢いを失っているのを感じていた。 
しかしそれよりも、このほらあなで迷っているはずのキャタピーちゃんの姿が、どこにも見当たらないことに対しての不安が徐々に募っていた。


 (まさかとは思うけど……キャタピーちゃん……もう他のポケモンに襲われているんじゃ……イヤ、ダメだ。そんなことまだわからないじゃないか!!)


 あまりそうしたことは考えたくないものだが、なにも進展が見られないと自然に最悪なパターンを思い浮かべてしまう。


 …………と、そんなときだった。


 「ユウキ……。もう……キャタピーちゃんは見つからないよ。これだけ探しても見つからないってことは……もうダメなんだよきっと……」
 「なん……だって!?ダメってどういう意味さ!」


 またしてもピカチュウの弱気な姿に怒りがこみ上げるボク。
 いくら女の子とはいえ、彼女は一体何度そんな姿を見せれば良いんだろう。


 「だって……わたしもユウキもここまで探してるんだよ?ずっと奥の方まで来てるのに……全然手掛かりが無いんだよ?それに私もユウキもだいぶ疲れてきてるし……これ以上先に進むのは私たちも危険になるだけだよ!」
 「それは………そうだけど……」



 ピカチュウが体全体を使って訴える姿に反論できなくなるボク。


 (それでも………キャタピーちゃんのお母さんである、あのバタフリーの姿を思い出したら………こんなところで諦めるわけにはいかない。絶対に諦めたくない……)



 改めて弱気な自分を奮起させて前に進み出すボク。けれど“パートナー”であるピカチュウの方は、もうそんなボクのあとをついてくる様子を見せようともしない。


 そればかりか、こんなことを言い始めた。


 「どうして……ユウキは………そこまで頑張ろうとするの?……危険と隣り合わせなのに……どうして……自分のことじゃないことを頑張ろうとするの?私……わからないよ……」
 「それは……………」


 思わず言葉を詰まらせるボク。確かに自分の身を危険にさらしながら、困っている他人を助けようなんてする行為はかなり勇気のいることだ。


 それでも自分のなかでは、あんなに困っているポケモンの姿を見て見ぬふりする行為の方が相当な勇気が必要だった。
 そして何よりも…………、


 「自分のことじゃないから頑張れるんだよ。キャタピーちゃんをバタフリーのもとに帰らせてあげたら、バタフリーもキャタピーちゃんも安心して帰るだろうし、きっと“笑顔”になる。そうなってくれた方がボクは嬉しいんだよ」
 「ユウキ……………」


 …………そう。先ほどのピカチュウの話が………“自然災害”の多発で、本来ならお互い仲の良かったポケモンたちが、我を忘れて攻撃的になってしまったという話が本当ならば、この世界は“笑顔”を失いつつあるんじゃないか……。


 ここまでそのようなことがずっと……頭の中から離れなかったのだ。


 「………だからボクは諦めない。例え困難だとしても、例え自分の力が無力だとしても……少しでも可能性があるならね」


 そこまで言い切ると、不思議と失いかけていた元気がよみがえってきた。


 しかし、ピカチュウの方は相変わらず弱気なままだ。


 「それじゃあ……どうしてこんな私まで連れてこようって考えたの?私は……さっきも言ったようにバトルも弱いし、あなたみたいな“勇気”なんてこれっぽっちもない。私なんて……みんなから“役立たず”って思われているのよ?」
 「それでも“誰かを助けたい”って気持ちはあったでしょ?」


 ピカチュウの質問に対して、逆に聞き返すように答えたボク。彼女は長い耳をピンと立てて「えっ?」といわん表情を見せていた。


 ボクはそんな彼女に話を続ける。


 「ホントに“役立たず”なんて自分で思ってたら、途中で帰ってたはずだよ。まぁ……確かにほとんどボクが強引に引っ張って来たけどさ。………それでも今日だけでボクを二度も助けてくれたじゃん。朝倒れていたところと、このほらあなで倒れていたところをさ……ホントに弱い人だったら……見てみぬふりだったよ」


 半分苦笑いをしつつ、ピカチュウが見せてくれた優しさを彼女に伝えた。何度も言うように、彼女には見ず知らずのボクを助けてくれた実績があるのだ。


 「ボク……良かったと思ってるよ。確かに人間のときの記憶も失ったし、大きな地震にも遭ってしまった。だけどピカチュウは、そんな見ず知らずのボクの命を、一度だけでなく……二度も助けてくれたんだよ?そんなポケモンと一緒に歩けているなんて幸せだよ?それなのに………誰が……“役立たず”だなんて言うの?」
 「ユウキ……………」


 ピカチュウが黒い瞳をうるうるさせている。ここまで自己嫌悪になっていたということは、相当周りが彼女の“存在”を否定していたのだろう。ただバトルに弱いだけで……ただ勇気が無かっただけで……。


 「だからボクは……ピカチュウを信じるよ。バトルの実力なんてボクには関係無い。最初は誰もそんなの持ってなかったんだから。お互いに力を合わせて頑張ろうよ♪」


 ボクはにっこり笑顔を浮かべると、そっとピカチュウの黄色い右手に自分のオレンジ色の右手を差し出した……………。


 「うん……そうだね……。がんばっていこうね………ユウキ♪」


 ピカチュウもそれに応えてくれたように、笑顔でボクの右手をしっかりと掴んで……再びキャタピーちゃんの救出目指して歩き始めた。





 ……………今振り返ってみれば、あれがボクとピカチュウにとっての初めてで最高の作戦………“いっしょにいこう”が生まれた瞬間だったのかもしれない…………。





 ……………それからどれほどの時間が経ったのだろう。


 すっかり元気を取り戻したボクとピカチュウは、やたらと広い部屋のような場所にたどり着いた。



 「もう………この先は進めそうな道が無いようだね。一番奥に来たんじゃないのかな?」
 「そうね………?」



 ボクと話している最中に、突然ピカチュウが目をつぶり長い耳をピンと立てた。おまけにギザギザなしっぽもまっすぐ立てている……。まるで何かを探っているようだ……。


 「どうしたの……?」
 「聞こえる……“お母さん助けて!!”って……」
 「なんだって!?も………もしやキャタピーちゃんじゃ!?」


 しかしどこにもキャタピーちゃんの姿は見当たらない。しかも助けを求める声もボクには聞こえることは無かった。


 更にピカチュウが気になることを口にした。


 「おかしい……。私にはキャタピーちゃん一匹だけじゃないように感じる……。キャタピーちゃん以上に強くて……しかも凶暴なポケモンがあとニ匹いるように感じる……」
 「ニ匹………?」


 ボクは思わず眉間にシワを寄せる。一体誰が……何の目的で……?


 「とにかくキャタピーちゃんを呼ばなきゃ!!キャタピーちゃん……「ユウキ!!ダメッ!!危なぁぁぁぁい!!!」


 静止を指示するピカチュウの声に後ろを振り向いた……正にその瞬間だった…………。


 シュイイイイイイイイイイイイン!!
 グワアアアアアアアアアアアアア!!



 「ユウキイイイイイイイイーーーーーー!!」








         ………メモリー5に続く。

オレンジ色のエース ( 2014/05/14(水) 17:20 )