メモリー1:「“おくびょう”だけど“がんばりや”なピカチュウ」の巻
その日もいつもと変わらなかった。
どこまでも続く青空と白い雲。ポカポカと暖かい陽射しに、気持ちのいい風……。
最近他の地方が自然災害に脅かされているとは思えないほど、このポケモンたちの小さな町……“ポケットタウン”には笑顔と活気……そして何より、いつしかこの星が忘れかけていた平和な風景が溢れていた。
そんな“ポケットタウン”の郊外にある小さな建物の前で、とあるポケモンたちが話をしていた……。
「えっ?オレたちと“救助隊”をやりたいって……本気で言ってるのかよピカチュウ」
全体的に濃い緑色の体と、背中の花のつぼみが特徴的なたねポケモンと呼ばれる種族……フシギソウが不機嫌そうに目の前のポケモンの言葉に聞き返す。
そのポケモンとは、全体的に黄色い体、赤いほっぺと小さな瞳に長い耳、ギザギザな稲妻のような形をしたしっぽが特徴的な、ねずみポケモンと呼ばれる種族……ピカチュウだった。
「もちろん本気です!!だって……平和な土地を巡ってたくさんのポケモンたちが争っているらしいし、“救助隊”を名乗って弱いものいじめをするポケモンも多いって言うじゃないですか。私……そういった傷ついたポケモンたちを助けたり、守ってあげたりできる人に凄く憧れてるから……だから……お願いします!!」
どうやらこのピカチュウ、災害に困っているポケモンや傷ついたポケモンを救う組織……“救助隊”に憧れているようだ。
先ほどフシギソウが不機嫌そうになったのは、どうやらこのピカチュウの言葉で頭を悩ましてしまったためのようである。
……………さらに、
「ピカチュウ。女の子でありながらその“弱き者を助けたい”気持ちは素晴らしく思う。……けれど、他人を助けるというのは想像以上に大変だぞ。災害に苦しんでいるポケモンを助ける途中には、足の踏み場を間違えたら、大ケガに繋がるような大きな崖や、土砂が崩れた道がたくさんある。……それに弱いものを苦しめるポケモンの“救助隊”の多くは、救助隊の中でもかなりの実力者たちだ」
「つまり……、“助ける”というのは一歩間違えたら、自分を大きく傷つける危険性を秘めてるのよ。つい最近だって、山火事の被害に遭ったポケモンを助けに向かったチームが命からがら帰ってきた……なんてこともあったし……。悪いけれど……今のピカチュウの実力じゃ……命を落としかねないわ」
長い寿命の持ち主ほど、フサフサするという二枚のしっぽが特徴的なかめポケモンと呼ばれる種族……カメールと、全体的に薄い紫色の体をしたたいようポケモンと呼ばれる種族……エーフィがピカチュウに警告する。
というのもこの女の子のピカチュウ……大きな夢を持っているのも関わらず、非常に“おくびょう”な性格だった。そのせいか昔から周りのポケモンから、いやがらせを受け続けてきた。
フシギソウたち3匹はその様子を誰よりも知っていた。そのため彼女の願いをすんなり受け入れることは出来なかったのである。
ピカチュウは彼らの言葉にひどくガッカリしたのか、その場に力なく座り込んでしまった。
うつむいて、地面を見つめるピカチュウの頭をカメールが優しく撫でる。
「もう少し成長してからだね。そのときまで今のような気持ちを忘れなければ、必ず立派な“救助隊”となれるはずだよ」
「…………………」
ピカチュウは力不足にいつも泣かされてきた。……苦しい現実を乗り越えられる気持ちを持つ自分がいるはずなのに……。
(一体何度断れればいいんだろう……。自分には何も出来ないってことなのかな)
……それからどれほどの時間が経っただろう。気がついたらフシギソウたちの姿は無かった。
(フシギソウさんたち……救助の“いらい”に行ったんだ……。いいなぁ……私も誰かの助けになりたいよ……)
いつにも増して、力なくとぼとぼ歩くピカチュウ。
そこは“ちいさなもり”と呼ばれる場所だった。
木の実が多く実り、色とりどりの花が一本道を挟んでどこまでも続く。
(気持ちいい……。何かイヤなこと忘れそう……)
優しく心地よい風に乗って花の香りが漂う。ピカチュウは思わずショックを忘れ、仰向けに寝転がった。
(諦めない……。絶対に自分の夢……叶えてみせるんだから……。弱くてもみんなが平和に暮らせるような世界に……なれるためにも……がんばらなきゃ……)
ピカチュウは“おくびょう”な一面、“がんばりや”でもあった。その“がんばりや”な性格のおかげでバトルに必要な知識、きのみや花のタネのことも覚えてきた。
……だからこそ、“救助隊”になって知識で貢献したい……。
あまりの気持ちのよさにうっすらと目を閉じようとした…………そのときだった!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ドドドドド!!
「じ……地震!?」
突然大地が揺れた!!縦に横に激しく……何秒間も……大きく……激しく!!
大地が裂け……木が倒れる!!先ほどの幸せな時間を奪い尽くす……!!
(こ……怖い!!早くおさまって……お願い!)
ピカチュウは小さい体を丸め、頭を守りながら震えながら、祈っていた。
しばらくすると恐怖の揺れはおさまった。何本か木は倒れ、所々地割れが生じていた。
(なんとも……無かったのかな……?……あれっ?誰か倒れている……!!)
ピカチュウは駆け足で、倒れているそのポケモンのもとに近づいた。
(このポケモンは……ヒトカゲ……。炎が小さい……早く起こさなきゃ!)
オレンジ色の小さい体、白いお腹。そしてそのポケモンの感情や、命の象徴と言われる小さい炎がしっぽの先に灯っている……とかげポケモンと呼ばれる種族のヒトカゲだった。
「ねぇ起きて……起きてよ!!起きてってば!!」
このとき、数々の記憶のうち、最初の一つが動き始めようとしていた。
……メモリー2に続く。